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合理化する経口抗菌薬の必要性 #1.
e n i l m a e r t 合理化する経口抗菌薬 S 公立昭和病院 感染症科 高野 哲史 #2.
おしながき 総論 - なぜ抗菌薬を「合理化」するのか 各論 - 「合理化」するための薬剤選択 #3.
“Streamline” 1. 流線形にする. 2. 合理化・簡素化する.効率化する. #4.
streamline なぜ合理化が必要か? 例えば 広域抗菌薬と狭域抗菌薬の比較 #5.
streamline なぜ合理化 が必要か? 抗菌活性あり ⼀部活性あり 原因微生物 薬剤A(広域抗菌薬) 正常細菌叢(腸内フローラ等) 薬剤耐性傾向の細菌 #6.
streamline なぜ合理化 が必要か? 抗菌活性あり ⼀部活性あり 原因微生物 薬剤A(広域抗菌薬) 正常細菌叢(腸内フローラ等) 薬剤耐性傾向の細菌 #7.
streamline なぜ合理化 が必要か? 広域抗菌薬A: 薬剤A(広域抗菌薬) 治療は可能 正常細菌叢を不必要に撹乱 より高度の耐性菌を選択 原因微生物 腸内正常細菌叢(腸内フローラ) 薬剤耐性傾向の細菌 #8.
streamline なぜ合理化 が必要か? 抗菌活性あり ⼀部活性あり 原因微生物 薬剤B(狭域抗菌薬) 正常細菌叢(腸内フローラ等) 薬剤耐性傾向の細菌 #9.
streamline なぜ合理化 が必要か? 抗菌活性あり ⼀部活性あり 原因微生物 薬剤B(狭域抗菌薬) 正常細菌叢(腸内フローラ等) 薬剤耐性傾向の細菌 #10.
streamline なぜ合理化 が必要か? 狭域抗菌薬B: 薬剤B(狭域抗菌薬) 治療は可能 正常細菌叢への影響が小さい 原因微生物 耐性菌リスクが低い 腸内正常細菌叢(腸内フローラ) 薬剤耐性傾向の細菌 感染症診療における原則 #11.
streamline なぜ合理化 が必要か? 微生物Xに対し最適・最良の治療選択肢は薬剤Bである. 薬剤Aは不適切な選択肢とは言えない(治療は可能である)が, ベストな選択肢を差し置く理由があるかが重要 #12.
streamline なぜ合理化 が必要か? ・・・・ 感染症診療は「三⽅よし」 - 近江商⼈の⾔葉 売り手よし = 医療者が満足する - 治療効果が高い・末長く抗菌薬を使用できる 買い手よし = 患者が満足する - 感染症がよく治る・副作用で悩まない 世間良し = 病院・医療環境が満足する - のちの患者に耐性菌リスクを残さない 具体的な薬剤選択の基準 #13.
streamline なぜ合理化 が必要か? 感染症治療に求められる原則 患者の感染症を最大限治療可能であること= 最大の治療効果 患者に与える副作用が最小であること= 最小の有害事象 耐性菌の誘導を最小限に抑えること= 最小の耐性菌誘導(選択圧) + コスト,投与の簡便さ,薬剤へのアクセスの良さ など 「目の前の患者の治療」だけに囚われ過ぎてはならない #14.
では 具体的にどのような薬剤を揃えるか? (特に外来のセッティングにおいて) 妥当な薬剤選択の詳細 #15.
各論 ‒ 妥当な薬剤選択 1 アモキシシリン 2 アモキシシリン・クラブラン酸 3 セファレキシン 4 ドキシサイクリン / ミノサイクリン 5 レスピラトリーキノロン1剤(レボフロキサシンなど) 6 メトロニダゾール #16.
各論 ‒ 妥当な薬剤選択 β-ラクタム系 それ以外 1 アモキシシリン 4 ドキシサイクリン / ミノサイクリン 2 アモキシシリン・クラブラン酸 5 レスピラトリーキノロン1剤 3 セファレキシン 6 メトロニダゾール * ⽣体利⽤率(bioavailability; %F)が⾼い - ⾼い吸収性の担保 * 余計な抗菌スペクトラムを持たない - 他薬と組み合わせやすい * 効果と副作⽤につき⻑期に渡りかつ多数の研究で検討されている * 薬価が安い ・・ ・・・・ 経⼝抗菌薬に限ってはまず治療したい臓器に対し処⽅するイメージ #17.
1 アモキシシリン 主たる標的臓器: 顔周り(⼝腔,咽頭,中⽿,副⿐腔) * ペニシリン系抗菌薬 - ペニシリンアレルギーに注意 * ⽣体利⽤率: 85%程度 - 薬物⾎中(組織内)濃度を作りやすい *「ペニシリン耐性肺炎球菌」の解釈に注意 (penicillin resistant Streptococcus pneumoniae; PRSP) - 2008年にPRSPの判定基準が変更(右図) -「アモキシシリンで治療可能なPRSP」が殆ど <肺炎球菌の薬剤感受性 - CLSI M100-S17(-2008年)> 薬剤 ペニシリンG (経口・静注いずれも) 適応 疾患による 区別なし MIC(mcg/mL) 感性(S) 中等度耐性(I) 耐性(R) 0.125-1 2 0.06 <肺炎球菌の薬剤感受性 - CLSI M100-S19以降(現⾏基準)> 薬剤 ペニシリンG (経口) 適応 疾患による 区別なし MIC(mcg/mL) 感性(S) 中等度耐性(I) 耐性(R) 0.06 0.125-1 2 ペニシリンG 髄膜炎 0.06 - 0.12 (静注) 非髄膜炎 2 4 8 アモキシシリン 非髄膜炎 2 4 8 処⽅例(正常腎機能の成⼈において) 急性副⿐腔炎: 1回500mgを1⽇3回(各⾷後)内服を5-7⽇ 溶連菌による咽頭炎: 1回500mgを1⽇2回(朝⼣⾷後)内服を10⽇間 #18. 2 アモキシシリン・クラブラン酸 主たる標的臓器: 顔周り(副⿐腔),肺,腹腔内臓器,膿瘍,動物咬傷など * ペニシリン系薬剤 + β-ラクタマーゼ阻害薬 - ペニシリンアレルギーに留意 * ⽣体利⽤率: 85% / 60% * 副作⽤として下痢と肝障害が有名 * 外来診療においては極めて広域と捉えるべき薬剤 - 市中感染症の⼀般細菌をほぼ網羅する抗菌スペクトル - 嫌気性菌活性も⾼い = 腸内正常細菌叢への影響⼤ * 処⽅する際は“オグサワ” が無難か︖(保険査定の問題がある地域あり) - クラブラン酸の⽤量依存的に下痢の頻度が増加1) 1) グラクソ・スミスクライン株式会社.オーグメンチンES⼩児⽤ドライシロップ 申請資料 2.5 臨床に関する統括評価 pp1-2. https://www.pmda.go.jp/drugs/2005/P200500023/index.html.2022年3⽉23⽇閲覧. #19.
3 セファレキシン 主たる標的臓器: ⽪膚,尿路 * 第1世代セファロスポリン系薬剤 * ⽣体利⽤率: 90%以上 * ⻑時間作⽤型の剤形(複合顆粒)があるのが便利 - 1⽇2回投与が可能(カプセルは通常1⽇4回投与) 処⽅例(正常腎機能の成⼈において) 蜂窩織炎・丹毒: 顆粒1回2g(⼒価1g)を1⽇2回(朝⼣⾷後)内服を5-14⽇ 急性膀胱炎: 顆粒1回2g(⼒価1g)を1⽇2回(朝⼣⾷後)内服を7⽇ セファロスポリン系薬剤の特徴 #20.
tips:セファクロルについて * 第2世代セファロスポリン - 抗菌スペクトルが「帯に短し襷に⻑し」感 * ⼩児における投与量・剤型でセファレキシンに⾒劣り - 添付⽂書上の上限量: 100mg/kg/⽇ vs. 40mg/kg/⽇ * アレルギーの頻度に懸念あり アナフィラキシー: セファレキシン・アンピシリンの約10倍1) ⾎清病様反応(Ⅲ型アレルギー):セファレキシン・アンピシリンの約180倍1) 1) 岡⽥正⼈著, 『レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル 第2版』,pp. 245, 医学書院, 2014. #22.
4 ドキシサイクリン / ミノサイクリン 主たる標的臓器: β-ラクタムアレルギー患者の気道,⽪膚感染症など * テトラサイクリン系薬剤 * ⽣体利⽤率: 90%以上 *「ドキシ」か「ミノ」かどちらかあればOK - 臨床上の厳密な使い分けは不要だが適応疾患に若⼲の差あり - 「ドキシ」はめまいやふらつきの副作⽤が少ないとされる 筆者は 「ドキシ」を優先 * 妊婦への投与は禁忌,8歳未満の⼩児へも原則禁忌 - 胎児の催奇形性,⻭⽛⻩染,⾻形成不全の可能性あり * ⾦属イオンとキレート形成 → 吸収率低下 - Mg,Al,Fe,Zn併⽤時は投与時間を2時間以上ずらす 処⽅例(正常腎機能の成⼈において) マイコプラズマ肺炎: 1回100mgを1⽇2回(朝⼣⾷後)内服を7-10⽇ など レスピラトリーキノロンの使用法 #23.
5 レスピラトリーキノロン 主たる標的臓器: 全⾝臓器どこでも * 気道感染症にも使⽤できるニューキノロンの総称 * ⽣体利⽤率: 総じて⾼い(70%〜ほぼ100%),組織移⾏性も抜群 * 1剤採⽤すれば⼗分,使い分けの必要なし - 使い慣れた1剤の効果と副作⽤を理解し使いこなすことが重要 * 妊婦への投与は原則禁,⼩児も⼀部薬剤除き禁 * 尋常ならざる広域抗菌スペクトル - 薬剤により嫌気性菌,緑膿菌,結核菌を含む - ⼀⽅で耐性獲得が極めて進⾏していることが⼤きな懸念 → ⼤腸菌をはじめとした腸内細菌⽬細菌 #25.
5 レスピラトリーキノロン 主たる標的臓器: 全⾝臓器どこでも * このクラスの殆どが⼤なり⼩なり抗結核作⽤あり(トスフロキサシンにはなし 1), 2)) - ⽇常診療において本菌を敢えてカバーする必要は皆無 - 結核菌は最短1週間の投与でキノロン耐性を獲得し得る3), 4), 5), 6) - 投与により⼀時症状改善7),喀痰抗酸菌塗抹陽性率も73%低下する6) = 診断が遅れる → 結核診断前のキノロン投与により結核関連死亡リスクが増加(1.8-6.9倍) 3), 8) * ⼀般臨床において第⼀選択薬となるケースは極めて少ない - レジオネラ症,急性前⽴腺炎(,感受性があればサルモネラ症)へのfirst choice - 基本的にはβ-ラクタム系薬剤へアレルギーのある患者へのalternative choice 1) Alexandra A, et al., Mycobacterium tuberculosis DNA gyrase: interaction with quinolones and correlation with antimycobacterial drug activity, Antimicrob Agents Chemother. 2004 Apr;48(4):1281-8. 2) ⽇本呼吸器学会成⼈肺炎診療ガイドライン2017作成委員会著, 『成⼈肺炎診療ガイドライン2017』,pp. 123, 株式会社メディカルレビュー社, 2017 3) Wang JY, Hsueh PR, Jan IS, et al: Empirical treatment with a fluoroquinolone delays the treatment for tuberculosis and is associated with a poor prognosis in endemic areas. Thorax. 2006 Oct; 61(10): 903-8. 4) Dooley KE, Golub J, Goes FS, et al: Empiric treatment of community-acquired pneumonia with fluoroquinolones, and delays in the treatment of メトロニダゾールとその適応 #26.
6 メトロニダゾール 主たる標的臓器: 腹腔内臓器,膿瘍(肺化膿症,腹腔内膿瘍など), Clostridioides difficile infection(CDI, 軽症に限る) * * * * 偏性嫌気性菌治療で最も信頼できる薬剤 - 薬剤耐性の懸念が極めて⼩さい ⽣体利⽤率: 90%以上,組織移⾏性も抜群 嫌酒効果あり(ジスルフィラム様効果) → 投与中と投与後数⽇は禁酒指導 “メトロニダゾール脳症”に注意が必要 → 疑ったら投与中⽌ - 構⾳障害,歩⾏障害,四肢の協調運動障害が多い1) - 頭部単純MRI T2/FLAIRにおける⻭状核に両側対称性の⾼信号が特異的 処⽅例(正常腎機能の成⼈において) CDI(軽症): 1回500mgを1⽇3回(各⾷後)内服を10⽇間 例えば腹腔内膿瘍の維持期治療: セファレキシン + 本剤 β-ラクタムアレルギーがある場合:レボフロキサシン + 本剤 「おかず」的 1) Caspar GS, et al.; Metronidazole-induced encephalopathy: a systematic review, Journal of Neurology (2020) 267:1–13 #27.
Appx. ST合剤 -trimethoprim/sulfamethoxazole<SMX/TMP>主たる標的臓器: 全⾝臓器どこでも * 葉酸代謝阻害薬 * ⽣体利⽤率: 90%以上 * しばしばある副作⽤が忍容できれば優れた薬剤 悪⼼・嘔吐・下痢 – ⽤量依存性である.可能なら減量を検討 ⾼カリウム⾎症 – ACE阻害薬・ARBとの併⽤注意.カリウム交換樹脂の使⽤を検討 ⾎清クレアチニン上昇 – 必ずしも腎障害を意味しない.軽度なら容認 GFRは理論上変化しないので疑えば蓄尿GFRを確認 ⽪疹,肝障害,⾻髄抑制(特に⾎⼩板減少),⽇光過敏など * 薬剤耐性が進⾏していることには留意が必要 * β-ラクタム系薬剤へアレルギーのある患者へのalternative choice - 中⽿炎,肺炎,尿路感染症等で利⽤価値あり #28.
各論のまとめ アモキシシリン: 顔周り(口腔,咽頭,中耳,副鼻腔) ・溶連菌咽頭炎,急性副鼻腔炎など アモキシシリン・クラブラン酸: 顔周り(副鼻腔),肺,腹腔内臓器,膿瘍,動物咬傷 ・広域抗菌薬であることを認識して処方する セファレキシン: 皮膚,尿路 ・蜂窩織炎 / 丹毒,急性膀胱炎,軽症の急性腎盂腎炎 ・内服回数の少ない顆粒が便利 ドキシサイクリン / ミノサイクリン: ※β-ラクタムアレルギーのある患者 ・マイコプラズマ肺炎はじめ市中肺炎,蜂窩織炎 / 丹毒 ・めまい,ふらつき,消化器症状注意.妊婦と小児は禁 レスピラトリーキノロン1剤: ※β-ラクタムアレルギーのある患者 ・中枢神経・前立腺を含む全身. ・副作用・抗結核作用からとにかく濫用を避ける → 末長く使える様に メトロニダゾール: 腹腔内臓器,膿瘍,CDI ・中枢神経・前立腺を含む全身.脳症に注意.疑えばMRI撮影,投与中止. ・嫌気性菌の関与を疑う場合のbest choice 経口抗菌薬の適応と不適応 #29.
御清聴ありがとうございました. ご不明点・ご質問・ご相談等なんでもご連絡ください. ak.takano.39@showa-gh.jp #30.
事前質問: 演者の先生が経口抗菌薬で 治療できる/できないと考えている感染症及びその状況 A. 経⼝抗菌薬での治療が不向きと考えている感染症 - 複雑性/侵襲性感染症 ≒ ⾎流感染症を伴う (= 機能的・解剖学的・免疫学的異常を伴う) = ⼜は 致命率が⾼い感染症 感染性⼼内膜炎,髄膜炎,⾻・関節感染症(⾻髄炎を含む) ⻩⾊ブドウ球菌菌⾎症(Staphylococcus aureus Bacteremia; SAB) 腹腔内臓器感染症(胆管炎・胆嚢炎)が推定される場合の急性期 経⼝抗菌薬での治療が不向きと考えている状況 - 患者のバイタルサインに逸脱がある → 複雑性感染症を想定 - 腸管機能不全状態 = 下痢・嘔吐がある → 吸収されない可能性 - 臓器・微⽣物学的診断が不明瞭 → 診断を誤る・遅らせる #31.
事前質問: 演者の先生が経口抗菌薬で 治療できる/できないと考えている感染症及びその状況 参考: COMS criteria C O M Clinical improvement observed 臨床症状が改善している Oral route is not compromised 経口投与が嘔吐・吸収障害・絶食・嚥下障害・意識障害・下痢で妨げられることなく、適切な経口抗菌薬の選択肢がある Markers showing trend towards normal 下記のパラメータが正常値まで改善しつつある 24時間以上解熱(>36℃かつ<38℃) かつ下記 (1) - (4)を2つ以上満たさない 1) 脈拍数 >90bpm,2) 呼吸数 >20 /分,3) 血圧が不安定,4) 白血球数 <4,000 /mcLまたは>12,000 /mcL S Specific indication/deep seated infection requiring prolonged i.v. therapy 静注抗菌薬の長期間治療が必要な疾患(IE、髄膜炎、骨・関節の感染症)ではない