テキスト全文
外傷初期診療の参考文献と概要
#2. 当スライドの参考文献 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第6版編集委員会(編著), JATEC第6版 へるす出版 2021
三谷雄己(著), 志馬伸朗(監), みんなの救命救急科 中外医学社 2022
日本外傷学会外傷専門診療ガイドライン改訂第2版編集委員会 (編集),日本外傷学会 (監修), 外傷専門診療ガイドライン JETEC へるす出版 2018
日本救急医学会, 日本救急医学会専門医認定委員会(編著),救急診療指針 改訂第5版 へるす出版 2018
箕輪良行 他(編集), Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケアPTLS シービーアール 2012
救急医学 2020年9月号 第44巻第10号 症例から考える重症外傷診療 あなたならどうする! へるす出版 2020
藤谷茂樹他, Intensivist Vol.2 No.3 外傷 MEDSi社 2010
意識障害のある外傷患者のバイタルサイン
#3. こちら●●救急です!
20代男性 意識障害 【救急隊からの情報】
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された
頭部からの出血 胸部打撲あり
呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定
酸素10 L/min投与 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#4. 【バイタルサイン】
気道開通 口腔内出血あり
RR:24 回/min
酸素マスク(O2流量10 L/min) SpO2:96 %
HR:101 bpm BP:104/46 mmHg
JCS:Ⅲ-200 体温:36.5 度 スライド画像)広島大学病院 演者作成 バイタルサインの続報です!
20代男性 意識障害
#5. 外傷初期診療の目的 スライド画像)広島大学病院 演者作成 防ぎ得た外傷死(PTD)の回避
PTD: Preventable Trauma Death
適切な蘇生処置が実施されず生じる外傷死 受傷1時間以内
蘇生処置が予後を左右
外傷初期診療の目的とアプローチ
#6. 外傷死の3徴を防ぐ スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●重症外傷において予後不良の原因となる3つの因子 凝固異常 低体温 代謝性
アシドーシス 引用)吉野篤人「damage control surgery(DCS),およびplanned reoperation 外傷処置」医学書院、2011年
#7. JCS Ⅲ-300です! 収縮期血圧
60 mmHgです! SpO2 80%です! 外傷診療では
迅速な判断が重要 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#8. どこで診ますか? 検査は
どうしますか? 輸血は
どうしますか? 意思決定すべき
ことがたくさん… 何から手をつけよう…? スライド画像)広島大学病院 演者作成
#9. 処置室で診ます! エコー検査とX線検査
の準備をしましょう! RBC4単位
オーダーします! 両者の違いは…? スライド画像)広島大学病院 演者作成
#10. 外傷初期診療は
酸素の取り込みを
念頭に進める! Primary survey ABCDアプローチ スライド画像)広島大学病院 演者作成
救急隊からの情報収集と初期評価
#11. 救急隊からの連絡 打ち合わせ
(ブリーフィング) 第一印象の評価 Primary survey
ABCDアプローチ Secondary survey 根本治療 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#12. Primary survey
酸素の取り込みの順に評価 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#13. ABCDアプローチ
酸素の取り込みの順に評価+介入 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#14. 本日の目標 ●生命に異常をきたしうる生理学的な異常を見抜く
●評価に基づいた後手に回らない介入を目指す
●初期評価で治療介入の優先順位を決める スライド画像)広島大学病院 演者作成
#15. 目次 ①病院到着前
②第一印象の評価
③ABCDアプローチ
④secondary survey スライド画像)広島大学病院 演者作成
MISTに基づく外傷情報の整理
#16. 目次 ①病院到着前
②第一印象の評価
③ABCDアプローチ
④secondary survey スライド画像)広島大学病院 演者作成
#17. 来院前から
戦いは始まっている…! スライド画像)広島大学病院 演者作成
#18. 救急隊からの情報収集はMISTに沿って M:mechanism 受傷機転
I:injury site 損傷部位
S:signs 気道・呼吸・循環・意識の状態
T:treatment 行った処置 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#19. 例)ある症例をMISTで確認してみると… スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
高エネルギー外傷 Load and Go症例
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された患者
右肩の変形と開放創あり
その他顔面の変形や胸部打撲あり
早く浅い呼吸 呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定・酸素10L/分投与
#20. スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
高エネルギー外傷 Load and Go症例
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された患者
右肩の変形と開放創あり
その他顔面の変形や胸部打撲あり
早く浅い呼吸 呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定・酸素10L/分投与 M:mechanism 受傷機転
高エネルギー外傷の特徴と対応
#21. I:injury site 損傷部位 スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
高エネルギー外傷 Load and Go症例
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された患者
右肩の変形と開放創あり
その他顔面の変形や胸部打撲あり
早く浅い呼吸 呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定・酸素10L/分投与
#22. S:signs 気道・呼吸・循環・意識の状態 スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
高エネルギー外傷 Load and Go症例
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された患者
右肩の変形と開放創あり
その他顔面の変形や胸部打撲あり
早く浅い呼吸 呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定・酸素10L/分投与
#23. T:treatment 行った処置 スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
高エネルギー外傷 Load and Go症例
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された患者
右肩の変形と開放創あり
その他顔面の変形や胸部打撲あり
早く浅い呼吸 呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定・酸素10L/分投与
#24. Load and Go 症例
救急隊が緊急度が高いと判断した症例 生命維持に関係のない損傷部位の観察や処置を省略
最低限の処置のみを行い医療機関への搬送を優先 ①初期評価における生理学的な異常
②全身観察における解剖学的異常
③状況評価における危険な受傷機転 スライド画像)広島大学病院 演者作成 上記いずれかに該当すればLoad and Goと判断
#25. 来院前の確認事項・すべきこと ●高エネルギー外傷の有無
●必要な人員(診療科)の招集を検討
●大量輸血が必要か
●エコー・X-p・CTの準備及び連絡
●チーム内のブリーフィング・役割分担
●標準予防策の実施 スライド画像)広島大学病院 演者作成
外傷初期診療における輸血と検査
#26. 高エネルギー外傷≠交通事故 ・車外放出あり
・同乗者の死亡
・車内の変形(>45cm以上)
・横転や急激な速度変化あり
・時速30km以上で人が跳ねられた・轢かれた
・時速30km以上のバイク事故
・6m(3階の高さ)以上の墜落(成人)
・3m(2階の高さ)以上の墜落(小児)
※身長×2-3倍
etc… スライド画像)広島大学病院 演者作成
#27. 大量輸血(MT)を検討する症例
MT: Massive Transfusion ・高エネルギー外傷の受傷機転
・ Cの異常がある四肢体幹部外傷
・ FAST陽性の外傷
・ 状態の把握がされている転院症例 スライド画像)広島大学病院 演者作成 RBCに加えて早期からFFPを投与することが重要
#28. 目次 ①病院到着前
②第一印象の評価
③ABCDアプローチ
④secondary survey スライド画像)広島大学病院 演者作成
#29. 救急車内から
処置室まで 第一印象の評価 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#30. 第一印象の評価 救急車から初療室に移動するまでの
短時間(15秒程度)で生理学的な異常の有無を評価
ABCDアプローチの重要性と実施方法
#31. 第一印象の実際の評価の流れ スライド画像)広島大学病院 演者作成
#32. 重症と判断したら…OMI O O2 (酸素投与)
M Monitor (モニター装着)
I Infusion (点滴) スライド画像)広島大学病院 演者作成 18Gで末梢静脈路2本確保・血液型・クロスマッチも提出
#33. 全身固定の解除(アンパッケージ)は頭部から スライド画像)広島大学病院 演者作成 体幹部から固定を解除すると頚髄損傷を引き起こす可能性あり
#34. 目次 ①病院到着前
②第一印象の評価
③ABCDアプローチ スライド画像)広島大学病院 演者作成
#35. 外傷初期診療は
酸素の取り込みを
念頭に進める! Primary survey ABCDアプローチ スライド画像)広島大学病院 演者作成
気道確保と呼吸の評価方法
#36. なぜ酸素の取り込みが重要? スライド画像)広島大学病院 演者作成
#37. 用語の整理
参考)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第6版 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#38. ABCDアプローチの原則は評価と介入 気道確保の必要性 気道確保 人工呼吸の必要性 人工呼吸 ショックの有無 原因検索
治療介入 切迫するDの有無 ABC安定化
CT画像評価
の準備
#39. ABCDアプローチのポイント ●バイタルサインのみを当てにしない!
●五感をフルに使って評価!
●第一印象でBCDに
異常を認めても必ずAから診察
➡Aから順に問題を解決していく スライド画像)広島大学病院 演者作成
#40. 目次~ABCDアプローチ ①気道(Airway)
②呼吸(Breathing)
③循環(Circulation)
④中枢神経(Dysfunction of CNS) スライド画像)広島大学病院 演者作成
ショックの認知と原因検索の手法
#41. 目次~ABCDアプローチ ①気道(Airway)
②呼吸(Breathing)
③循環(Circulation)
④中枢神経(Dysfunction of CNS) スライド画像)広島大学病院 演者作成
#42. 気道の異常はエマージェンシー
数分で心停止することも… スライド画像)広島大学病院 演者作成
#43. 気道確保の必要性➡気道確保 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#44. SpO2は低下してないので
気道は開通していますね… スライド画像)広島大学病院 演者作成 本当に正しい…?
#45. 気道の評価項目 【具体的な手順】
①声掛け➡②聴診➡③視診
FASTによる外傷診療の評価と手法
#46. ①声掛け 発語があればOK 発声なし
曇り声は
緊急!! スライド画像)広島大学病院 演者作成
#47. ②聴診 ストライダー(吸気時喘鳴)がないか
➡あれば挿管が必要な可能性↑ 完全閉塞時
呼吸音は
聞こえない!
#48. ③視診 ●吸気時にどのように呼吸筋を使っているかを確認
●胸とお腹が交互に動くシーソー様の呼吸が特徴 気管牽引 陥没呼吸 喉頭隆起 下顎骨折・変形・出血
#49. 胸が上がっていれば気道はOK…? ●気道閉塞があっても肋骨は相対的に挙上して見える… 胸の上がりだけで評価してはならない! 引用) 自発呼吸アセスメント指針作成ワーキンググループ,編.自発呼吸アセスメント指針.日本呼吸療法医学会2019 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#50. 気道確保
フローチャート例 出血・嘔吐・窒息の疑い 脊髄損傷の疑い 気道が保てるか 気道が保てない場合 口腔内吸引 下顎挙上 トリプルエアウェイマニューバー 頭蓋底骨折の疑い 仰臥位など体位調整 マスク換気しつつ
気管挿管を準備 経鼻
エアウェイ(※) ※嘔吐反射の誘発なく、深昏睡なら経口エアウェイ考慮 あり なし なし あり はい いいえ あり なし スライド画像)広島大学病院 演者作成
外傷後の出血管理とトラネキサム酸
#51. まとめ 確実な気道確保のアルゴリズム
引用)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版
#52. 目次~ABCDアプローチ ①気道(Airway)
②呼吸(Breathing)
③循環(Circulation)
④中枢神経(Dysfunction of CNS) スライド画像)広島大学病院 演者作成
#53. 人工呼吸の必要性➡人工呼吸 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#54. 呼吸の評価項目 酸素化・換気・呼吸仕事量の評価 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#55. 呼吸仕事量は
身体所見で見抜く! スライド画像)広島大学病院 演者作成
骨盤骨折の評価と治療方針
#56. TAF3X 生理学的異常をきたす致死的胸部外傷
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版
#57. 緊張性気胸は身体所見で見抜く! 引用) Pich H, et al. Anaesthesist. 2015;64(5):403-19. ●閉塞性ショックを呈する気胸
●迅速な診断と胸腔穿刺・ドレナージが必要
●画像検査を待っていると心停止の可能性あり…
#58. フレイルチェスト➡人工呼吸を考慮 ●2カ所以上の肋骨・肋軟骨骨折が上下連続して複数存在
●吸気時:陥没 呼気時:膨隆 ➡奇異性胸郭運動
●正常な胸郭との連続性を失った胸郭部分
➡フレイルセグメント スライド画像) Eric Legome, et al. Up To Date® Initial evaluation and management of chest wall trauma in adults
を参考に作成
#59. Primary surveyでの胸部X-p
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版
●大量血胸
●(呼吸不全や気道出血の原因となる)広範な肺挫傷
●フレイルチェストの原因となる多発肋骨骨折
●陽圧換気を要する場合の気胸の存在
●挿入されたチューブカテーテル類の位置確認 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#60. Secondary survey の胸部X-p読影
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 き きょう きょう たて よこ よこ こつ こつ なん なん ちゅ き:気管
きょう:胸腔・肺実質
たて:縦隔
よこ:横隔膜
こつ:骨性胸郭
なん:軟部組織
ちゅ:チューブ・ライン
(すべての管の位置のチェックを) スライド画像)広島大学病院 演者作成
CT検査の重要性と注意点
#61. 横隔膜が切れ込んでいる…?(臥位時)
Mekeirele M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2021 ;204(3):357-8. スライド画像)広島大学病院 演者作成
#62. 気胸!
Deep sulcus sign 横隔膜が切れ込んでいる…?(臥位時)
Mekeirele M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2021 ;204(3):357-8. スライド画像)広島大学病院 演者作成
#63. まとめ 確実な気道確保のアルゴリズム
引用)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版
#64. 肺エコーを活用 スライド画像)広島大学病院 演者作成 皮下気腫が存在する場合や著しい肥満患者では診断能⇩ ●エコーによる外傷性気胸の診断精度
感度>80% 特異度>98%
※胸部X-p:感度40-50% 特異度99%
引用)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版
正常所見のポイント
A line / Lung sliding
異常所見のポイント
B line / Lung slidingの消失 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#65. 正常所見 肋骨が両端に見える
箇所で観察
スライド)『みんなの救命救急科』書籍内コラム(p142-5)を参考に作成
エコー画像はスライド作成者が撮影 ●Lung sliding
・肺実質の表面の高エコー領域
=臓側胸膜
・呼吸に合わせて胸膜がぬるぬると
滑るのが正常
●A line
・肺実質中の水平で高エコーなライン
・胸膜によるアーチファクト
・肺の含気を示唆
破傷風予防の必要性と対応策
#66.
スライド)『みんなの救命救急科』書籍内コラム(p142-5)を参考に作成 ●胸膜のすべりが観察できなくなる➡気胸
●MモードではBarcode sign(正常像はSeashore sign)
異常所見
Lung slidingの消失 肺
#67. 異常所見
B lineの出現
スライド)『みんなの救命救急科』書籍内コラム(p142-5)を参考に作成
エコー画像はスライド作成者が撮影 ●オーロラ様の線・帯状の高エコー
・1肋間あたり3条で陽性
・外傷➡肺挫傷を疑う
●液体成分増加・血管透過性亢進
●肋間で見ると精度↑
前胸部・側胸部・後側胸部など
#68. 目次~ABCDアプローチ ①気道(Airway)
②呼吸(Breathing)
③循環(Circulation)
④中枢神経(Dysfunction of CNS)
#69. ショックの認知➡原因検索・治療介入
スライド画像)広島大学病院 演者作成
#70. スライド画像)広島大学病院 演者作成 血圧は低下してないので
ショックには至っていないようですね… 本当に正しい…?
外傷初期診療のまとめと今後の展望
#71. ショックとは…
循環不全に起因した酸素需給バランスの破綻 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#72. ショック≠血圧低値 バイタルサインのみでショックを判断しない スライド画像)広島大学病院 演者作成
#73. 循環の評価 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#74. ショックは3つの窓で見抜く! スライド画像)広島大学病院 演者作成
#75. ショックの原因検索 非出血性ショック 出血性ショック 外傷によるショック患者は90%が出血性ショック
出血源を確認し、早期に止血 スライド画像)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版を参考・引用し演者一部改変
#76. 出血源はMAPで検索
参考)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集
外傷によるショック患者は90%が出血性ショック
MAPで出血源を確認し、早期に止血 この3か所からの出血の検索目的にX-p エコーを実施 Massive hemothorax(大量血胸)
Abdominal hemorrage(腹腔内出血)
Pelvic fracture(骨盤骨折)
#77. FAST
(Focused Assessment with Sonography for Trauma) ●外傷診療で心嚢・腹腔・胸腔の液体貯留
を評価する超音波検査方法
●ショックの原因検索に有用
➡心タンポナーデ・腹腔内出血・大量血胸
●液体貯留があれば陽性 なければ陰性と判定
引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集
#78. FASTのメリット
参考)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 ①どのような場所でも
②素早く
③循環動態に関わらず
④移動せずに
⑤非侵襲的に何度でも繰り返し
⑥比較的低コストで
⑦妊婦・小児にも実施可能
#79. FASTの注意点
参考)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 ●腹腔内液体貯留の検出率 感度74% 特異度98%
➡除外診断のツール× 繰り返し何度も実施!
Netherton S, et al. CJEM. 2019 Nov;21(6):727-38.
●胸腹部に外力が加わっている可能性を否定できない場合
ショックでなくても実施
#80. FASTの評価部位
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4
#81. FAST 心嚢
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●心窩部アプローチで観察
心尖部や胸骨左縁アプローチでもOK
●最初に心嚢を観察することで緊急処置を要する
心タンポナーデの診断が可能
#82. FAST 肝臓周囲
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●肝臓と腎臓の境界であるモリソン窩の観察
●プローブを扇状に振り くまなく観察
●横隔膜下や肝臓の端を見逃しやすいので注意
#83. FAST 右胸腔
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●モリソン窩を観察した部位から頭側にプローブを動かす
●大量血胸の有無を確認
#84. FAST 脾臓周囲
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●やや背側から観察すると見やすい
●プローブを扇状に振り くまなく観察
●脾臓と腎臓の間だけでなく脾臓の腹側背側も観察
#85. FAST 左胸腔
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●脾臓は横隔膜に接しているため
プローブをほとんど動かすことなく観察可能
●大量血胸の有無を確認
#86. FAST 膀胱周囲
引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●前後左右にしっかりプローブを振る
●縦操作・横操作の両方で観察
#87. 骨盤骨折による大量出血
参考)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集
骨盤骨折に伴う出血は後腹膜 ➡ エコーでは評価できない! 不安定型の骨盤骨折があれば大量出血の可能性あり スライド画像)広島大学病院 演者作成
#88. Primary surveyでの骨盤X-p
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 ●不安定型骨盤骨折の有無を評価
骨盤輪の前方部分と後方部分に転位を伴う骨折
靭帯損傷があり輪状構造に破綻を来している骨折
※出血性ショックに至る危険がある骨折と認識 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#89. 外力方向で骨盤骨折を分類(Young-Burgess分類)
参考) 日本外傷学会外傷専門診療ガイドライン JETEC第2版 側方圧迫外力 LC 前後圧迫外力 APC 垂直剪断外力 VS スライド画像)広島大学病院 演者作成
#90. 骨盤X-p読影方法
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 【全体】
1)正面性: 腰椎棘突起の位置 ①
2)対称性: 腸骨翼の大きさ ② 高さ ③
【前方】
1)恥骨・坐骨骨折の有無 ④
2)閉鎖孔の左右差 ⑤
3)恥骨結合の幅
⑥ ≧2.5cm離開→後方靭帯損傷
【後方】
1)腸骨骨折の有無 ⑦
2)仙腸関節の幅、左右差 ⑧
3)仙骨骨折の有無 ⑨
4)L5横突起骨折の有無 ⑩
【寛骨臼】
寛骨臼 ⑪ 1 8 5 3 2 10 9 7 6 4 11
#91. 参考 外傷における出血量の推定
参考)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#92. 出血性ショックの治療フローチャート
引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 ショックの認知 スライド画像)広島大学病院 演者作成 入れて(輸血)-入れて(挿管)-止める(止血) 初期輸液 成人1L 小児20mL/kg 循環破綻
大腿動脈触知不可
徐脈・無気力 安定 不安定 responder Non
responder Transient
responder Secondary
Surveyへ 大量輸液による希釈性凝固障害を避ける!!
#93. 外傷死の3徴を防ぐ スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●重症外傷において予後不良の原因となる3つの因子 凝固異常 低体温 代謝性
アシドーシス 引用)吉野篤人「damage control surgery(DCS),およびplanned reoperation 外傷処置」医学書院、2011年
#94. 大量輸血(MT)を検討する症例
MT: Massive Transfusion ・高エネルギー外傷の受傷機転
・ Cの異常がある四肢体幹部外傷
・ FAST陽性の外傷
・ 状態の把握がされている転院症例 スライド画像)広島大学病院 演者作成 RBCに加えて早期からFFPを投与することが重要
#95. 外傷後出血に対するトラネキサム酸 ●受傷後3時間以内の投与により死亡率が低下
①1g NSに混注し10分で投与
②1g NSに混注し8時間で投与
CRASH-2 collaborators, Roberts I, et al.Lancet. 26;377(9771):1096-101, 2011 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#96. Eの評価と介入も非常に大切 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#97. 目次~ABCDアプローチ ①気道(Airway)
②呼吸(Breathing)
③循環(Circulation)
④中枢神経(Dysfunction of CNS) スライド画像)広島大学病院 演者作成
#98. 切迫するD➡ABCの安定化・頭蓋内評価 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#99. 切迫するDに注意!
外傷初期診療ガイドラインJATEC改訂第6版 スライド画像)広島大学病院 演者作成
#100. 意識の評価項目 スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●ABCの安定化が最優先!
・ABCに異常をきたしている場合Dの正確な評価は困難
・低酸素によって二次的な異常をきたす
●ABCを安定化させた後に改めてDの再評価 『まいど』で評価
ま:麻痺
い:意識レベル
ど:瞳孔所見
#101. JCSとGCSの使い分け スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●その場の緊急性の判断
…より短時間で評価しやすいJCS●来院後からの経時的な変化を評価
…連続数値であるGCS(ばらつきも少ない)
#102. 頭部外傷に対するトラネキサム酸 ●中程度の頭部外傷(GCS 8-13)で
受傷後3時間以内の投与は死亡率を低下
①1g NSに混注し10分で投与
②1g NSに混注し8時間で投与
※3点および両側瞳孔反応なし症例は除外
CRASH-3 trial collaborators. Lancet. 9;394(10210):1713-1723. 2019.
Guidelines for the Management of Severe Traumatic Brain Injury, Fourth Edition スライド画像)広島大学病院 演者作成
#103. ABCDアプローチがだいぶわかるようになった
診察してみよう… スライド画像)広島大学病院 演者作成 【救急隊からの情報】
乗用車走行中の単独事故
助手席から車外放出された
頭部からの出血 胸部打撲あり
呼びかけで開眼なし
全身バックボード固定
酸素10 L/min投与
#104. A:口腔内出血 吸引後気道開通
B:RR:24/min SpO2:99%(O210L/min)
右呼吸音減弱 奇異性呼吸なし
C:HR:96/min BP100/61mmHg
頸静脈怒張なし 末梢冷感あり 活動性出血なし
D: GCS(E1V2M4) 四肢麻痺・瞳孔不同あり
E:体温:36.8度
胸部X-p:右血胸 骨盤X-p:不安定型骨盤骨折なし
E-FAST:右胸腔に液体貯留 lung sliding両側あり スライド画像)広島大学病院 演者作成 ABCDアプローチ
#105. 次の一手は…? スライド画像)広島大学病院 演者作成 ①頭部CT
②気管挿管
③胸腔ドレナージ
#106. 次の一手は…? スライド画像)広島大学病院 演者作成 ①頭部CT
②気管挿管
③胸腔ドレナージ
#107. CTを(C:死) の (T:トンネル) にしない! ●Dの評価よりもABCの安定化が最優先!
●ABCが不安定なままのCT撮影は危険
➡最悪の場合心停止も… スライド画像)広島大学病院 演者作成
#108. ABCDアプローチの原則 気道確保の必要性 気道確保 人工呼吸の必要性 人工呼吸 ショックの有無 原因検索
治療介入 切迫するDの有無 ABC安定化
CT画像評価
の準備
#109. A:口腔内出血 吸引後気道開通
B:RR:24/min SpO2:99%(O210L/min)
右呼吸音減弱 奇異性呼吸なし
C:HR:96/min BP100/61mmHg
頸静脈怒張なし 末梢冷感あり 活動性出血なし
D: GCS(E1V2M4) 四肢麻痺・瞳孔不同あり
E:体温:36.8度
胸部X-p:右血胸 骨盤X-p:不安定型骨盤骨折なし
E-FAST:右胸腔に液体貯留 lung sliding両側あり スライド画像)広島大学病院 演者作成 ABCDアプローチ
#110. A:(現時点では)気道は開通していそう
B:血胸はあるがCT検査には行けそうか?
C:輸血検査・準備を急ぐ
ショックはありそうだがCT検査にはいけそうか?
D: 切迫するD 気管挿管(ABC安定化)
脳外科コンサルト
secondary surveyの前に頭部CT スライド画像)広島大学病院 演者作成 現時点での評価と必要な介入を考慮
#111. 目次 ①病院到着前
②第一印象の評価
③ABCDアプローチ
④secondary survey スライド画像)広島大学病院 演者作成
#112. Secondary surveyの評価項目 スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●全身の身体検査と諸検査による解剖学的評価
頭部・顔面
頸部
胸部
腹部
骨盤・会陰
四肢
背面
#113. 参考:評価項目のチェックリスト スライド画像)広島大学病院 演者作成
#114. 受傷機転や病歴聴取(AMPLE) スライド画像)広島大学病院 演者作成 A:アレルギー(Allergy)
M:薬剤(Medication)
P:既往歴(Past history )妊娠(Pregnancy)
L:最終経口摂取(Last meal)
E:発生状況(Event)
#115. レントゲン撮影条件のポイント スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●2方向の撮影が原則(正面・側面)
【例外】
・関節周囲の骨折を疑った場合は
両斜位を加えた4方向
・膝蓋骨➡skyline,肩関節➡scapular Y
・中手骨:正面・斜位
●小児は必ず健側も撮影(骨端線があるため) ※X-pで骨折を否定しない
※関節所見を見逃さない
※明らかに骨折がある場合は、撮影前にシーネ固定検討
#116. 骨折 緊急コンサルトの原則 スライド画像)広島大学病院 演者作成 ①開放骨折
②脱臼骨折
③骨折+神経障害
④骨折+循環障害
⑤骨折+コンパートメント症候群
※細かいコンサルトは部位によって様々
●PMSの評価が大切!
P:pulse(脈の触知)
M:motor(運動障害の有無)
S:sensory(感覚障害の有無)
#117. 開放骨折のGustilo分類と抗菌薬 【予防的抗菌薬(1-3日)】
CEZ1-2g
GastilloⅢ以上はアミノグリコシド追加 or CTRX1-2g スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●生理食塩水での洗浄・デブリが非常に重要
●場合によっては手術室での洗浄を
#118. 外傷の頭部+全身CT(Trauma Pan Scan) ●SSにおける解剖学的評価の一つ
切迫するDがあればSSの最初でもOK
●まずは緊急処置を要する損傷の評価を優先
➡FACT(Focused Assessment with CT for Trauma)
頭部・顔面:頭蓋内出血・脳挫傷・頭蓋骨骨折
大血管・胸部:大動脈損傷・縦隔血腫
肺挫傷・血気胸・心嚢血腫
腹部・骨盤腔:腹腔内出血・実質臓器損傷
腸間膜血種
骨盤・脊椎:骨盤骨折・後腹膜血腫
椎体周囲血腫
四肢:血流の有無・骨折
#119. 忘れものはFIXESで思い出す! スライド画像)広島大学病院 演者作成 F:すべての穴に指と管を
I:輸液・輸血・抗生剤・破傷風予防
X:X-p 必要に応じてCT施行
E:12誘導心電図
S:シーネ固定
#120. 破傷風予防がいる創傷とは…? スライド画像)広島大学病院 演者作成 発症リスクが高い創(Tetanus prone wound)
①受傷後6時間以上
②深さ1cm以上
③傷の性状:挫滅創
④受傷機転:銃創・挫滅・熱傷・凍傷・刺傷
動物咬傷・使用済みの釘による傷
⑤すでに感染兆候がある
⑥土・砂・糞便・唾液などの汚染がある
⑦神経損傷・虚血がある ●汚染がひどくない創からの感染も報告あり
伊藤史英ら 明らかな外傷を認めなかった破傷風の2例, 日本耳鼻咽喉科学会会報 2014; 117(1): 41-5.
●あらゆる創傷においてリスクを考慮する必要がある
C Prevaldi, et al. World J Emerg Surg. 2016 Jun 18;11:30.
#121. 破傷風予防…必要でしょうか…? 創部の所見だけでは必要性を判断できない
➡参考にしつつ、ワクチン接種歴の確認を スライド画像)オンライングラフィックツール『Canva』より
#122. 破傷風予防のまとめ 破傷風トキソイド:沈降破傷風トキソイド 0.5mL 筋注
破傷風免疫グロブリン:テタダムP 250IU筋注
テタノブリンIH250IU静注(重症外傷では1,500IU) 参考) Liang JL, et alRecomm Rep 2018; 67:1.
Havers FP, et al.. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020; 69:77. ●破傷風トキソイド:能動免疫
●抗破傷風ヒト免疫グロブリン(HTIG):受動免疫
※生物製剤なので同意取得を忘れずに!
●受傷後速やかに投与する(診断が遅れても投与)
・潜伏期は3-21日(中央値8日)
#123. 引用) C Prevaldi, et al. World J Emerg Surg. 2016 Jun 18;11:30.
Prophylaxis Against Tetanus in Wound Management.
American College of Surgeons Committee on Trauma 1995 清潔な傷と汚染創の違い
#124. Take home message ●ABCDアプローチの原則は介入の必要性を評価
し, 遅延なく治療介入を進めること!
●外傷診療は時間との戦い!来院前から入念な
準備と情報共有を!
●身体所見・X-p・エコーを駆使して異常を認知!
●必ずABCを安定化させてからSS, 画像検査に!
スライド画像)広島大学病院 演者作成