テキスト全文
CRPとは何か?基本的な理解
#2. この講義のお題 * CRPとは⼀体何か︖ * CRP測定の利点と⽋点 * CRPのよくある誤解
CRPの測定タイミングと解釈
#6. CRPとは何ぞや 解釈の差がでない部分から CRP = C-reactive protein - 肺炎球菌のC多糖体に結合することから命名 - IL-6などの刺激により肝臓で合成されるタンパク質 ・ 補体C1qを修飾するなどで単球・好中球を活性化︖(全容不明) ・ いずれにしても,何かしら免疫学的役割があるよう - 炎症や組織障害の⾮特異的バイオマーカー ・ ⽩⾎球数,⾚沈(ESR)も同じようなポジション
#7. CRPは上昇するまでに6時間,ピークを迎えるまでに12-48時間 ⽩⾎球数 CRP ⾚沈(ESR)
#8. CRPは上昇するまでに6時間,ピークを迎えるまでに12-48時間 単回の測定で 現状の評価は しにくい ⽩⾎球数 CRP ⾚沈(ESR)
#10. CRPとは何ぞや この辺の疑問に答えていきます CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
CRP上昇の原因とケーススタディ
#11. CRPとは何ぞや CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#12. CRPとは何ぞや CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖ △ どんなときにCRPは上昇しますか?(具体的に)
#19. Allergic reaction: アレルギー反応
#20. Malignancy: 悪性腫瘍 Inflammation: 炎症 Necrosis: 組織障害・壊死 Trauma: 外傷 Infection: 感染症 Allergic reaction: アレルギー反応
CRPの非特異的マーカーとしての役割
#22. Malignancy: 悪性腫瘍 Inflammation: 炎症 Necrosis: 組織障害・壊死 Trauma: 外傷 Infection: 感染症 Allergic reaction: アレルギー反応
#27. “MINTIA”に 沿いワークアップ バイタルサイン評価,病歴の再聴取, 身体診察,血液検査,画像検査
#29. Malignancy: 悪性腫瘍 予後予測因子としてCRPが推奨あり - 食道癌,大腸癌,肝細胞癌,膵癌,膀胱癌,腎癌,卵巣癌, 子宮頸癌,血液腫瘍 Inflammation: 炎症 (自己炎症性疾患・膠原病) - 高安病,各種血管炎,結晶性誘発性関節炎,多発性/皮膚筋炎 リウマチ性多発筋痛症,ベーチェット病,強直性脊椎炎など Necrosis: 組織障害・壊死 (転じて,解剖学的構造の破綻) - 膿瘍形成,臓器梗塞,急性膵炎,消化管穿孔,急性大動脈解離など Trauma: 外傷 ‒ 熱傷,骨折,手術侵襲 Infection: 感染症 - どちらかといえば細菌感染症 Allergic reaction: アレルギー反応 - 薬剤熱(Ⅲ型)など
CRPの臨床的意義と症例分析
#32. CRPとは何ぞや この辺の疑問に答えていきます CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#33. CRPとは何ぞや この辺の疑問に答えていきます CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#34. CRPは 高ければ重症? はいかいいえで
#35. CRPは 低ければ軽症? はいかいいえで
#39. 単回の測定で 判断するのは やめる ERとか
症例1の詳細とバイタルサイン
#41. 症例1 よくあるケース (202x年冬のERと仮定) 症例: 80代,⼥性 主訴: 発熱,全⾝倦怠感 現病歴: X⽇に別居の娘が患者宅を訪問した際に患者 がぐったりしていたため救急要請.いつから発熱し ていたかは不明. 基礎疾患: ⾼⾎圧症.⼿術歴なし. 常⽤薬: アムロジピン 5 mg/⽇. 次はバイタルサイン・⾝体所⾒
#42. 症例1 よくあるケース [バイタルサイン] 意識レベル JCS Ⅰ-1, 活気不良. ⾎圧95/56mmHg, 脈拍121bpm, 呼吸数 24/min, 体温 39.6℃, SpO2 99%(室内気). [⾝体所⾒] 右肋⾻脊柱⾓に強い叩打痛を認める. 頭頸部・胸部・四肢・⽪膚には異常所⾒なし. 次はシステムレビュー
#43. 症例1 よくあるケース [Review of Systems] 陽性所⾒: 排尿時痛,残尿感,腰痛(右優位) 陰性所⾒︓頭痛,咽頭痛,咳嗽,呼吸困難,下痢, ⾎尿,関節痛 「急性腎盂腎炎っぽいな・・・」 どんな検査を出しますか?
#44. 症例1 [⾎算] Hgb RBC Htc MCV PLT WBC Stab Seg Eos Bas Mon Lym よくあるケース 12.2 g/dL 482 x104/mcL 41.8 % 86.7 fl 17.4 x104/mcL 9,900 /mcL 4.5 % 90.5 % 0.0 % 0.0 % 3.0 % 2.0 % [⽣化学] TP 6.7 g/dL Alb 3.6 g/dL ALP 75 U/L AST 35 U/L ALT 31 U/L LD 555 U/L CK 218 U/L Na 141 mEq/L K 3.7 mEq/L Cl 99 mEq/L BUN 88 mg/dL CRE 1.22 mg/dL UA CRP ⾎糖 4.3 mg/dL 0.28 mg/dL 90 mg/dL [尿定性・沈渣] ⽐重 >1.030 pH 8.5 蛋⽩ (1+) 糖 (-) ケトン体 (1+) 潜⾎ (+-) 細菌 (2+) ⾚⾎球 1-4/HPF ⽩⾎球 >99/HPF 上級医にどうプレゼンテーションしますか?
#45. 症例2 よくあるケース (202x年冬のERと仮定) 症例: 80代,⼥性 主訴: 発熱,全⾝倦怠感 現病歴: X⽇に別居の娘が患者宅を訪問した際に患者 がぐったりしていたため救急要請.いつから発熱し ていたかは不明. 基礎疾患: ⾼⾎圧症.⼿術歴なし. 常⽤薬: アムロジピン 5 mg/⽇. 次はバイタルサイン・⾝体所⾒
#46. 症例2 よくあるケース [バイタルサイン] 意識レベル JCS Ⅰ-1, 活気不良. ⾎圧95/56mmHg, 脈拍121bpm, 呼吸数 24/min, 体温 39.6℃, SpO2 99%(室内気). [⾝体所⾒] 右肋⾻脊柱⾓に強い叩打痛を認める. 頭頸部・胸部・四肢・⽪膚には異常所⾒なし. 次はシステムレビュー
#47. 症例2 よくあるケース [Review of Systems] 陽性所⾒: 排尿時痛,残尿感,腰痛(右優位) 陰性所⾒︓頭痛,咽頭痛,咳嗽,呼吸困難,下痢, ⾎尿,関節痛 「急性腎盂腎炎っぽいな・・・」 どんな検査を出しますか?
#48. 症例1 [⾎算] Hgb RBC Htc MCV PLT WBC Stab Seg Eos Bas Mon Lym よくあるケース 12.2 g/dL 482 x104/mcL 41.8 % 86.7 fl 17.4 x104/mcL 9,900 /mcL 4.5 % 90.5 % 0.0 % 0.0 % 3.0 % 2.0 % [⽣化学] TP 6.7 g/dL Alb 3.6 g/dL ALP 75 U/L AST 35 U/L ALT 31 U/L LD 555 U/L CK 218 U/L Na 141 mEq/L K 3.7 mEq/L Cl 99 mEq/L BUN 88 mg/dL CRE 1.22 mg/dL UA CRP ⾎糖 4.3 mg/dL 18.11 mg/dL 90 mg/dL [尿定性・沈渣] ⽐重 >1.030 pH 8.5 蛋⽩ (1+) 糖 (-) ケトン体 (1+) 潜⾎ (+-) 細菌 (2+) ⾚⾎球 1-4/HPF ⽩⾎球 >99/HPF 上級医にどうプレゼンテーションしますか?
#49. 症例の比較 特段の既往のない高齢女性 発熱39℃台,qSOFAは3点 身体所見では右優位にCVA叩打痛あり 尿検査では尿中白血球 >99 /HPF 上部尿路感染症および敗血症性ショックを疑う かたやCRP 0.28mg/dL かたやCRP 18.11mg/dL 帰宅ですか?入院ですか?
CRPの高低と入院適応の判断
#51. CRPの高低を 入院適応の絶対的な 判断材料にしては ならない
#53. CRP測定の意義 デンマークで行われたコホート研究 ◎ 市中発症の菌⾎症患者2017名のうち193名(9.6%)がCRP<2.0mg/dL ◎ 30⽇死亡率はCRP <2.0mg/dLの群で13.5%, CRP >10.0mg/dLの群で20.6%と後者の群で⾼かった ◎ 市中発症の菌⾎症症例ではしばしばCRPは正常範囲に留まるため 重症感染症を否定したり抗菌薬投与を保留する理由にはならない (Fredrikke Christie Knudtzen, et al. J Infect. 2014 Feb;68(2))
#54. CRP測定の意義 ◎ 市中敗⾎症(旧基準)の診断 カットオフ値 (Crit Care(2006); 10: R53) 3.8mg/dLで感度79.7%, 特異度57.9%(LR+ 1.9, LR- 0.35) 5.0mg/dLで感度71.6%, 特異度63.2%(LR+ 1.9, LR- 0.45) 10.0mg/dLで感度63.5%, 特異度94.7%(LR+ 11.9, LR- 0.39) ◎ 市中肺炎の診断 カットオフ値 (Fam Pract(2009); 26: 10-21) 2.0mg/dLで感度79.6%, 特異度62.1%(LR+ 2.1, LR- 0.33) 続きます
#55. CRP測定の意義 ◎ ICU⼊室時のCRP >10mg/dLでは有意に臓器不全の割合が⾼い (呼吸器: 65% vs. 28%, 腎 16.6% vs. 3.6%) ◎ CRP >10mg/dLでは死亡率も⾼かった(36% vs. 21%) (Clin. Inv In Crit. Care Vol 123, Issue 6, P2043-2049, June 1, 2003)
#56. ざっくり CRP >10mg/dLは 警戒が必要,かも
#57. CRP >10mg/dLを みたら抗菌薬投与?
#58. NO CRP >10mg/dLを みたら抗菌薬投与?
#59. CRP >10mg/dLを みたら“高CRP血症” の原因を検索すべし ERでは内科診断学の腕の見せ所
#60. CRP上昇は かくれ重症患者への セーフティネットと 心得る
CRPの研究と感染症における役割
#63. CRPとは何ぞや CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#64. CRPとは何ぞや CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ △〜○ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#65. 実際の研究 アメリカで行われた小児(3ヶ月から7歳)の中耳炎での検討 ◎ 中⽿炎症例を細菌性(n=82),細菌+ウイルス(n=69), ウイルス性(n=12),不明(n=22)にグループ分け ◎ 4グループ間ではCRPの値に統計学的優位差なし (<0.6-22.8, <0.6-17.8, <0.6-2.0, <0.6-6.8mg/dL) ◎ ただし,細菌性と⾮細菌性だけで⽐較すると 細菌性でCRPは⾼値(1.58 ± 3.16 vs 0.64 ± 1.24mg/dL) (Nooruddin R. Tejani, et al. Pediatrics. May 1995, 95(5) 664-669)
#66. 実際の研究 成人の非定型細菌 vs. ウイルスでは ◎ 成⼈の感染症症例139名と健常⼈40名で⾎清CRP値を⽐較 病原体はLegionella, Mycoplasma, Coxiella, Denguevirus, hParvovirus-B19,CMV, HSV-1, 2, EBV, Influenza A/B virus) ◎ 健常⼈群に⽐して感染症群では有意にCRP⾼値, ただし病原体の判別には有⽤でない ( Med Virol. 2016 Feb;88(2):351-5. Epub 2015 Aug 19.)
#67. 感染症によりCRP 上昇が起こるのは 間違いないようだ
#70. ○mg/dL以上なら 細菌性という話は 現状できない
抗菌薬投与とCRPの関係
#73. CRP上昇を見た 時の動き方は 変わらない
#76. 原因を問わず 可能な限り 臓器診断をつける
#77. CRPとは何ぞや CRP = C-reactive protein - 「えんしょう」の数字︖ - ⾼ければ重症,低ければ軽症︖ - ウイルス感染と細菌感染を区別できる︖ - 抗菌薬投与はCRP正常化まで必要︖
#78. 感染症症例全例で CRP陰性化まで 抗菌薬が必要?
#79. 抗菌薬の投与期間を 規定するための ファクター
CRPの限界と適切な使用法
#84. 投与期間の設定は 患者・臓器・微生物 この3(+1)ファクター 必要
#86. 例えば,成書に 治療期間: ○週以上 と書いてあるもの
#87. 超長期の抗菌薬投与 を要する時 硬膜外膿瘍,急性/慢性骨髄炎, 黄色ブドウ球菌性脊椎膿瘍など (Johns Hopkins ABX Guideで「CRP-guided」と検索した項目のうち記載のあるもの)
#88. 標準治療期間以上に 漫然と抗菌薬を 使用しない
#91. わからなければ リファレンスを探す 感覚で治療しない
#96. CRPは どちらかというと 細菌感染症を示唆
#97. CRPは ただし完全な どちらかというと 判別は無理 細菌感染症を示唆
#98. 診断学でも 治療学でも CRPに依存 し過ぎない