アナグマでもわかるフルオロキノロンの話
#初期研修医向け #抗菌薬 #感染症
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最終更新:2021年9月22日
感染症診療のマテリアル
#初期研修医向け #抗菌薬 #感染症
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ミニマム緑膿菌
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壊死性軟部組織感染症まとめ
#研修医 #感染症 #皮膚軟部組織感染症 #壊死性筋膜炎
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COVID-19の症状
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蕁麻疹診療のまとめ【分類・評価から治療・自然経過まで】
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COVID-19治療 アップデート 2023年3月版
#ステロイド #COVID-19 #レムデシビル #コロナ #ソトロビマブ #モルヌピラビル #ニルマトレルビル・リトナビル #デキサメタゾン
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5類感染症となるCOVID-19への対応 - 5類化への対応・院内感染対策・早期治療の重要性 -
#新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #感染対策 #5類感染症 #マスク
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サルでもわかる経口抗菌薬の話 v. 2.1 – 2021/7/13
この講義の目標 * 経口抗菌薬の使い方・使いどころを会得しよう * 頻用する経口抗菌薬だけを知っておこう * 実際の症例を交えて,使う感覚を養おう
この講義の目標 研修医1年目の皆様 - 使用経験のある抗菌薬があればうまく使えていたか見返してみよう - 紹介する薬剤全てを今すぐ使いこなせる必要はありません - 願わくは抗菌薬アレルギーの軽減に 研修医2年目(以降)の皆様 持ち患者で思い当たる人がいれば実際に使ってみよう - ERで悩む時間を減らそう - スマートに使いこなしてモテポイントを稼ごう
この講義の目標 すべての感染症診療は, 使い方と使い所の話から始めます * 患者背景 * 感染臓器の検索 * 原因微生物の推定 * 適切な抗菌薬の選択 * 適切な経過観察と最良の投与期間 これらの検討なしには始まりません お忘れなく
一般認識として * 臨床経過が順調である * 血行動態,体温や呼吸数などのバイタルサインが安定している * 血液検査上の感染に関連する指標が改善傾向である * 消化管機能が保たれ,経口抗菌薬の投与経路が確立している * 静注抗菌薬の長期間治療を考慮すべき複雑性感染症ではない (感染性心内膜炎,髄膜炎,骨・関節の感染症) 経口抗菌薬の使い方・使いどころ 当てはまる場合には経口抗菌薬への移行(スイッチ療法)を検討するとよい
噛み砕くと 経過が良くて, 飯が食えて,かつ下痢や嘔吐がなくて, スイッチするに妥当な経口抗菌薬があれば, 経口抗菌薬へスイッチでき得る(一部の感染症を除く) とどのつまり, 大雑把な基準では納得できない真面目なあなたへ 経口抗菌薬の使い方・使いどころ
より具体的には COMS criteria では具体的な経口抗菌薬の話をしていきましょう 経口抗菌薬の使い方・使いどころ
経口抗菌薬といっても ペニシリン系:ベンジルペニシリンベンザチン水和物<バイシリンG顆粒>,アンピシリン水和物<ビクシリン>,スルタミシリントシル酸塩水和物<ユナシン>,バカンピシリン塩酸塩<ペングッド>,アモキシシリン<サワシリン,パセトシン>,アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン,クラバモックス>,アンピシリン/クロキサシリン<ビクシリンS>セフェム系:セファレキシン<ケフレックス,ラリキシン>,セフロキサジン<オラスポア>,セファクロル <ケフラール>,セフロキシムアキセチル<オラセフ>,セフォチアムヘキセチル<パンスポリン>,セフィキシム<セフスパン>,セフカペンピボキシル<フロモックス>,セフジトレンピボキシル<メイアクト>,セフジニル<セフゾン>,セフチブテン<セフテム>,セフテラムピボキシル<トミロン>,セフポドキシムブロキセチル<バナン>ペネム系(≠カルバペネム系):ファロペネム<ファロム>,テビペネムピボキシル<オラペネム>マクロライド系:エリスロマイシン<エリスロシン>,クラリスロマイシン<クラリス>,アジスロマイシン<ジスロマック>,ジョサマイシン<ジョサマイシン>,アセチルスピロマイシン<スピラマイシン>,フィダキソマイシン<ダフクリア>ホスホマイシン系:ホスホマイシン<ホスミシン>ニトロイミダゾール系:メトロニダゾール<フラジール>リンコマイシン系:リンコマイシン<リンコシン>,クリンダマイシン<ダラシン>クロラムフェニコール系:クロラムフェニコール<クロロマイセチン>テトラサイクリン系:テトラサイクリン<アクロマイシン>,ビブラマイシン<ドキシサイクリン>,レダマイシン<デメチルクロルテトラサイクリン>,ミノマイシン<ミノサイクリン>アミノグリコシド系:パロモマイシン<アメパロモ>,カナマイシン硫酸塩<カナマイシン>オキサゾリジノン系:リネゾリド<ザイボックス>グリコペプチド系:バンコマイシン塩酸塩<塩酸バンコマイシン散>サルファ剤:スルファメトキサゾール/トリメトプリム<バクタ,ダイフェン>(フルオロ)キノロン系:ナリジクス酸<ウイントマイロン>,ピペミド酸<ドルコール>,ノルフロキサシン<バクシダール>,ロメフロキサシン塩酸塩<バレオン>,オフロキサシン<タリビッド>,シプロフロキサシン<シプロキサン>,プルリフロキサシン<ス
経口抗菌薬といっても ペニシリン系:ベンジルペニシリンベンザチン水和物<バイシリンG顆粒>,アンピシリン水和物<ビクシリン>,スルタミシリントシル酸塩水和物<ユナシン>,バカンピシリン塩酸塩<ペングッド>,アモキシシリン<サワシリン,パセトシン>,アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン,クラバモックス>,アンピシリン/クロキサシリン<ビクシリンS>セフェム系:セファレキシン<ケフレックス,ラリキシン>,セフロキサジン<オラスポア>,セファクロル <ケフラール>,セフロキシムアキセチル<オラセフ>,セフォチアムヘキセチル<パンスポリン>,セフィキシム<セフスパン>,セフカペンピボキシル<フロモックス>,セフジトレンピボキシル<メイアクト>,セフジニル<セフゾン>,セフチブテン<セフテム>,セフテラムピボキシル<トミロン>,セフポドキシムブロキセチル<バナン>ペネム系(≠カルバペネム系):ファロペネム<ファロム>,テビペネムピボキシル<オラペネム>マクロライド系:エリスロマイシン<エリスロシン>,クラリスロマイシン<クラリス>,アジスロマイシン<ジスロマック>,ジョサマイシン<ジョサマイシン>,アセチルスピロマイシン<スピラマイシン>,フィダキソマイシン<ダフクリア>ホスホマイシン系:ホスホマイシン<ホスミシン>ニトロイミダゾール系:メトロニダゾール<フラジール>リンコマイシン系:リンコマイシン<リンコシン>,クリンダマイシン<ダラシン>クロラムフェニコール系:クロラムフェニコール<クロロマイセチン>テトラサイクリン系:テトラサイクリン<アクロマイシン>,ビブラマイシン<ドキシサイクリン>,レダマイシン<デメチルクロルテトラサイクリン>,ミノマイシン<ミノサイクリン>アミノグリコシド系:パロモマイシン<アメパロモ>,カナマイシン硫酸塩<カナマイシン>オキサゾリジノン系:リネゾリド<ザイボックス>グリコペプチド系:バンコマイシン塩酸塩<塩酸バンコマイシン散>サルファ剤:スルファメトキサゾール/トリメトプリム<バクタ,ダイフェン>(フルオロ)キノロン系:ナリジクス酸<ウイントマイロン>,ピペミド酸<ドルコール>,ノルフロキサシン<バクシダール>,ロメフロキサシン塩酸塩<バレオン>,オフロキサシン<タリビッド>,シプロフロキサシン<シプロキサン>,プルリフロキサシン<ス
どれを押さえよう? アモキシシリン<アモキシシリン®︎> アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン®︎,クラバモックス®︎> セファレキシン<セファレキシン®︎> ドキシサイクリン<ビブラマイシン®︎> レボフロキサシン<レボフロキサシン®︎> スルファメトキサゾール/トリメトプリム – ST合剤<ダイフェン®︎> メトロニダゾール<フラジール®︎> バンコマイシン<塩酸バンコマイシン散®︎> 抜き出しました
大別すると アモキシシリン<アモキシシリン®︎> アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン®︎,クラバモックス®︎> セファレキシン<セファレキシン®︎> 整理しましょう ドキシサイクリン<ビブラマイシン®︎> レボフロキサシン<レボフロキサシン®︎> ST合剤<ダイフェン®︎> メトロニダゾール<フラジール®︎> バンコマイシン<塩酸バンコマイシン散®︎> β-ラクタム系薬剤 β-ラクタム系以外 その他
* (バンコマイシンを除き)生体利用率が高い * 余計な抗菌スペクトラムを持たない - 他薬と組み合わせやすい * 重篤な副作用がないか,少ない * 長期投与成績が良好である * 薬価が安い 何を根拠に? 「ぼくのかんがえたさいきょうのけいこうこうきんやく」じゃダメなんです 各論に移ります
いざ各論 アモキシシリン<アモキシシリン®︎> アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン®︎,クラバモックス®︎> セファレキシン<セファレキシン®︎> ざざっといきましょう ドキシサイクリン<ビブラマイシン®︎> レボフロキサシン<レボフロキサシン®︎> ST合剤<ダイフェン®︎> メトロニダゾール<フラジール®︎> バンコマイシン<塩酸バンコマイシン散®︎> β-ラクタム系薬剤 β-ラクタム系以外 その他
アモキシシリン(amoxicillin) <アモキシシリンカプセル250mg> * 本邦では1975年発売 * ペニシリン系薬剤 * 腸管吸収率: 約90% * 1Cp. 250mgで8.8円 * 腎排泄 * ペニシリンアレルギーに留意 * アンピシリンからのステップダウンに
アモキシシリン(amoxicillin) <アモキシシリンカプセル250mg> 【適応と考えられる疾患】 A群β溶連菌咽頭炎,中耳炎,副鼻腔炎,(軽症の)肺炎など Helicobacter pylori 除菌 – クラリスロマイシン・PPIと共に 【実際の処方例(腎機能正常な体重50kg以上の成人の場合)】 アモキシシリン水和物として, 500mg(2Cp.)を1日3-4回投与(朝昼夕食後+眠前) 750-1,000mgを1日2回(朝夕食後)も可
アモキシシリン・クラブラン酸(amoxicillin-clavulanate) <オーグメンチン配合錠250RS, クラバモックス小児用配合ドライシロップ> * ペニシリン系薬剤 + β-ラクタマーゼ阻害薬 * 腸管吸収率: 約90% * 主に腎排泄 * オーグメンチン1錠で45.7円,クラバモックス1包で214.7円 * ペニシリンアレルギーに留意 * 下痢の頻度が比較的高い – 消化管内の嫌気性菌にヒットするため? * 肝障害に留意 – クラブラン酸による * アンピシリン・スルバクタムからのステップダウンに
アモキシシリン・クラブラン酸(amoxicillin-clavulanate) <オーグメンチン配合錠250RS, クラバモックス小児用配合ドライシロップ> 【適応と考えられる疾患】 難治の中耳炎・副鼻腔炎,市中肺炎の外来治療 動物咬傷 – 覚える価値あり 軽症の腹腔内臓器感染症や急性期治療後の維持治療 (感受性があれば)ESBLs産生腸内細菌科細菌の維持治療 【実際の処方例(腎機能正常な体重50kg以上の成人の場合)】 アモキシシリン水和物として500mgを1日3-4回投与 (オーグメンチン1回1錠とアモキシシリンカプセル250mg1回1Cp.) 750-1,000mgを1日2回も可 (オーグメンチン1錠+アモキシシリンカプセル2-3Cpを1日2回)
セファレキシン(cephalexin) <セファレキシンカプセル250mg, セファレキシン顆粒500mg> * 本邦では1976年に発売 * セフェム系薬剤 * 腸管吸収率: 約90% * 腎排泄 * 1Cp250mgで30.9円,顆粒500mgで81.9円 * セファゾリンからのステップダウンに
セファレキシン(cephalexin) <セファレキシンカプセル250mg, セファレキシン顆粒500mg> 【適応と考えられる疾患】 皮膚・軟部組織感染症,軽症の尿路感染症など - 対 黄色ブドウ球菌・連鎖球菌・腸内細菌科(PEK) 【実際の処方例(腎機能正常な体重50kg以上の成人の場合)】 ・セファレキシンカプセルなら1回2Cp.を1日4回(朝昼夕食後+眠前) ・セファレキシン顆粒なら1回2包を1日2回(朝夕) – long actingなので
各論のつづき アモキシシリン<アモキシシリン®︎> アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン®︎,クラバモックス®︎> セファレキシン<セファレキシン®︎> OKですか? ドキシサイクリン<ビブラマイシン®︎> レボフロキサシン<レボフロキサシン®︎> スルファメトキサゾール/トリメトプリム<ダイフェン®︎> メトロニダゾール<フラジール®︎> バンコマイシン塩酸塩<塩酸バンコマイシン散®︎> β-ラクタム系薬剤 β-ラクタム系以外 その他
ドキシサイクリン(doxycycline)<ビブラマイシン錠100mg> * 本邦では1970年に発売 * テトラサイクリン系 * 腸管吸収率: 90%以上 * 肝・胆道排泄 * 1錠100mgで22円 * 消化管障害や肝障害に留意 * 歯牙黄染のリスクあり6歳未満では原則禁忌 * 金属イオンとの薬物相互作用に注意 * ドキシサイクリンの静注は本邦には無い - ミノサイクリンからのステップダウンが可能なことあり
ドキシサイクリン(doxycycline)<ビブラマイシン錠100mg> 【適応と考えられる疾患】 非定型肺炎(特にマイコプラズマ,クラミドフィラ) 渡航感染症の予防内服(マラリアなど) ペニシリンアレルギー患者の一般感染症に(感受性があれば) 妊婦には原則禁忌 【実際の処方例】 体重50kg以上の成人なら腎機能正常でなくても, 1回1錠100mgを1日2回(朝夕食後),大量の水で服用
ドキシサイクリン(doxycycline)<ビブラマイシン錠100mg> * 前庭障害(めまい・ふらつき)の副作用がミノサイクリンより少ない * 薬価が(1円だけ)安い * 一般に市中型MRSAの治療にはminocyclineが 好まれるので治療選択肢を温存する意味合いで ミノサイクリンに対する優位性というほどでもないですが 重篤な副作用も少なく薬物相互作用も多くはない 感受性さえあればよい治療選択肢となる,かも
レボフロキサシン(levofloxacin)<レボフロキサシン錠250mg> * 本邦では1993年発売,国内で開発(第一三共) * フルオロキノロン(ニューキノロン)系 * 腸管吸収率: ほぼ100% * 肝・腎排泄 * 1錠250mgで65.8円 * 大動脈解離・大動脈瘤のリスク * 高齢者では腱障害のリスク “Crave it” -> CRAVIT(クラビット) 渇望されてできた薬なんですね すごいね * 静注あり
レボフロキサシン(levofloxacin)<レボフロキサシン錠250mg> 【適応と考えられる疾患】 非定型肺炎(特にLegionella),腸チフス,細菌性赤痢 急性前立腺炎 ペニシリンアレルギー患者の一般感染症に(感受性があれば) 【実際の処方例(腎機能正常な体重50kg以上の成人の場合)】 1回500mg(250mg製剤を2錠)を1日1回
結構重大,副作用の欄 添付文書 いちいち「指導」が必要です 2019年1月改訂 2019年9月改訂 (第一三共エスファ株式会社より許諾の上掲載)
この他にも多様な副作用 ニューキノロン(フルオロキノロン) QTc延長,重症低血糖,光線過敏,etc. 安心・安全だと思っていると足を掬われます 相互作用も豊富
薬物相互作用 フルオロキノロンの経口薬は 多価金属イオンでキレートされる レボフロキサシンだと Al, Mg, Fe(一部のFQはCaも) [レボフロキサシンの添付文書] Al3+: AUC 44 %低下 Mg2+: AUC 22 %低下 Fe2+: AUC 19 %低下 同時投与で効果減弱 投与時間を2時間ずらして投与 (同じFQでも程度は異なる) (クラビット細粒10%のデータ,インタビューフォームをもとに作成) (FQが先) (第一三共エスファ株式会社より許諾の上掲載)
フルオロキノロンの経口薬は多価金属イオンでキレートされる 制酸薬・消化性潰瘍治療薬として処方されるアルミニウム製剤 便秘薬として処方されるマグネシウム製剤 貧血治療に処方される鉄剤 処方薬を患者ごとに判別し,その都度内服方法を指導できるか? 多くは高齢であろう患者が,内容を理解し実践できるか? 忙しい外来の中ではなかなか厳しいんじゃないかと思います (先生が処方したキノロン,うんちになっているかもしれません) 薬物相互作用
抗結核作用 レボフロキサシンは結核症のセカンドライン治療薬である 安易なレボフロキサシンの先行投与により ・結核の発見が約2週間遅れる ・結核患者の予後を悪化させる(早期に耐性を獲得されるため?) 可能性がある 公衆衛生上,治療選択上の大きな問題になります 処方するならば必ず結核症の除外を – どんな検査?
ST合剤(sulfamethoxazole/trimethoprim) <ダイフェン配合錠> * 本邦では1976年発売 * 葉酸代謝阻害薬 * 腸管吸収率: 80-90% * 腎排泄 * 1錠にSMX400mg, TMP80mg * 1錠で66.2円 sulfamethoxazole trimethoprim * 静注薬あり – 輸液負荷に注意 添付文書上静注薬はPJPにしか適応がないことも注意
ST合剤(sulfamethoxazole/trimethoprim) <ダイフェン配合錠> 【適応症】 軽症の下部尿路感染症 肺炎,中耳炎,副鼻腔炎 (Pneumocystis jirovecii 肺炎(PJP)の治療・予防) 【実際の処方例】 腎機能正常な体重50kg以上の成人であれば, 1回2錠(SMX800 mg/TMP160 mg)を1日2回 PJPに対しては本気の量(1回4錠1日3回)
ST合剤(sulfamethoxazole/trimethoprim) <ダイフェン配合錠> 押さえておくべきは,副作用 * 消化器症状 * 皮疹 * 高カリウム血症 * 高クレアチニン血症(必ずしも腎障害を意味しない) * 造血障害(多いのは血小板) 副作用は他より多い(優先はしにくい) 処方に際してはメリットとデメリットの吟味を 使える状況ではとっても便利な薬剤
メトロニダゾール(metronidazole)<フラジール錠250mg> * 本邦では1961年発売,だが適応症が極めて限られていた * 腸管吸収率: ほぼ100% * 腎排泄 * 1錠250mgで36.2円 * 短期投与でも脳症のリスク * ジスルフィラム様反応 – 嫌酒効果あり * 現状,偏性嫌気性菌に対する最も信頼できる抗菌薬といえる * 静注薬あり(アネメトロ)
メトロニダゾール(metronidazole)<フラジール錠250mg> 【適応症】 Helicobacter pylori 除菌 軽症のClostridioides Difficile Infection(CDI) 偏性嫌気性菌が関与する感染症全般 【実際の処方例(腎機能正常な体重50kg以上の成人の場合)】 1回500mg(250mg錠2錠)を1日3-4回(朝昼夕+眠前) - 本来pK/pD的には1日1回投与が理にかなっている(プチ情報)
各論 アモキシシリン<アモキシシリン®︎> アモキシシリン/クラブラン酸<オーグメンチン®︎,クラバモックス®︎> セファレキシン<セファレキシン®︎> さいごです ドキシサイクリン<ビブラマイシン®︎> レボフロキサシン<レボフロキサシン®︎> ST合剤<ダイフェン®︎> メトロニダゾール<フラジール®︎> バンコマイシン<塩酸バンコマイシン散®︎> β-ラクタム系薬剤 β-ラクタム系以外 その他
バンコマイシン塩酸塩(vancomycin)<塩酸バンコマイシン散> * ほぼ重症Clostridioides Difficile Infection(CDI)専用 * ほぼ腸管吸収率0% - 透析患者などでは蓄積する可能性あり 【適応症】 * CDI(多くは入院加療) 【実際の処方例】 腎機能正常な体重50kg以上の成人でなくても, 1回125mgを1日4回内服(単シロップに溶かす) 原則10日間投与
菌種別まとめ
OKですか? 実際の症例を考えてみましょう
X-2日からの湿性咳嗽と労作時呼吸困難のためX日にERを受診.pre-ADLは自立.初療時は意識清明,独歩可能.体重40kg. 血圧 148/71 mmHg,脈拍 88 bpm,呼吸数26 /min,体温 37.6 ℃,SpO2 93 %(室内気). 胸部レントゲン画像:左中肺野に濃い浸潤影,左片側の少量胸水 診断:市中肺炎(A-DROP 2点)の診断 食事が満足に取れず入院適応と判断し,血液培養(2set),喀痰塗抹・培養を提出の上一般病棟に入院した.喀痰Gram染色(Geckler class 5)では白血球増多と共にグラム陰性球菌が多数観察された. 症例1°61歳女性(既往・併存症なし) 初期治療抗菌薬は?
抗菌薬はアンピシリン・スルバクタム<スルバシリン>を1.5 g, 6時間毎(推算CCr: 47 mL/min, IBW 42 kg)で投与を開始した. X+2日後に喀痰培養でMoraxella catarrhalis(β-lactamase +)が分離・同定された.アンピシリン・スルバクタムは”S”だった.血液培養は陰性. 患者の治療経過は良好で,呼吸数・SpO2を含めたバイタルサインは安定し,食事も再開(常食1,600kcal)でき排便も有形便が2日に一度ある.趣味の園芸に早く戻りたいとのことで早期の退院を希望されている. 退院は可能?内服スイッチは? 症例1°61歳女性(既往・併存症なし)
経口薬へのスイッチ療法としてアモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン錠®️3錠分3)とアモキシシリン(アモキシシリンカプセル®️3Cp分3)の組み合わせで残りの治療期間3日間(合計5日間)を完遂する方針にした.静注抗菌薬使用中から続けていた生菌製剤(ミヤBM®️)は治療期間満期まで継続することにした.患者はX+3日に自宅退院となった. X+7日に外来でフォローアップを行ったが,患者の症候は既に消失しており自宅での生活にスムーズに戻れていた.胸部レントゲン画像上は多少陰影は残存しているものの,以降のフォローアップは希望されず,終診となった. 症例1°61歳女性(既往・併存症なし)
X-1日からの排尿時痛と頻尿,残尿感のためX日にERを受診.pre-ADLは自立.既往・併存症なし.今回が初発のよう.初療時は意識清明,活気はあり独歩可能.妊娠はしていない. 血圧 111/55mmHg,脈拍 70 bpm,呼吸数18 /min,体温 36.7 ℃,SpO2 99 %(室内気).CVA叩打痛は両側ともなし.尿沈渣で白血球50-99 /HPF,亜硝酸塩(2+). 尿Gram染色:太いグラム陰性桿菌が多数 症例2°25歳女性(既往・併存症なし) 診断と治療方針は?
診断:急性膀胱炎(恐らくEscherichia coli ) 治療薬:セファレキシン<セファレキシン顆粒>2g分2, 7日間 またはST合剤<ダイフェン配合錠>4錠分2, 3日間 生菌製剤も併用 有事再診と伝え帰宅させたが以降受診には至らず経過している. 症例2°25歳女性(既往・併存症なし)
X-40日からの湿性咳嗽と労作時呼吸困難.X-12に近医内科を受診し「肺炎かもしれない」と言われセフジニル<セフゾン®️>を2週間分処方された.内服しながら様子を見ていたが軽快せずX日に呼吸器内科外来を受診. pre-ADLはほぼ自立.既往にCOPDあり.体重48kg. 初療時は意識清明,独歩可能.血圧 166/89mmHg,脈拍 90 bpm,呼吸数24 /min,体温 37.9 ℃,SpO2 89 %(室内気). 次は身体所見・検査結果 症例3°75歳男性(COPD併存)
胸部レントゲン画像:右中肺野に内部に液面形成を伴う濃い浸潤影 診断:肺炎・肺膿瘍 血液培養(2set),喀痰塗抹・培養(抗酸菌塗抹・培養・PCR)を提出の上一般病棟の陰圧個室に入院した. 喀痰Gram染色(Geckler class 4)では口腔内常在菌と思しき雑多な細菌が観察された(抗酸菌塗抹蛍光法は3日間陰性,培養陰性,PCR陰性と仮定). 症例3°75歳男性(COPD併存) 初期治療抗菌薬は?
初期治療抗菌薬: セフトリアキソン<セフトリアキソン>1 g, 24時間毎 ± メトロニダゾール<アネメトロ>500 mg, 8時間毎 推算CCr: 71 mL/min, IBW 59 kg, 治療期間は6週間見込み 微生物学的検査:有意な結果は得られず 幸い患者の治療経過は良好で,バイタルサインは安定し,食事も安定している.しかし入院生活に馴染まずX+30日頃から「退院はいつ?」と看護師に迫ることも増え,相談の上外来診療に切り替えることになった. 内服スイッチは? 症例3°75歳男性(COPD併存)
スイッチ療法: セファレキシン(セファレキシンカプセル250mg®️6Cp分3) + メトロニダゾール(フラジール内服錠250mg6錠分3) 悪化した場合には受診するよう伝え,1週間に1度外来フォロー ひやひやはしたが無事に6週間の投与を完遂できた・・・と思われた X+40日頃から一日7-8行の水様下痢,GDH/CD-toxin陽性 症例3°75歳男性(COPD併存) 診断・治療は?
診断:CDI(Clostridioides difficile infection) 治療薬:バンコマイシン<塩酸バンコマイシン散>500mg分4 治療期間:10日間 再度入院し内服加療(肺膿瘍の治療薬はやむなく中断) 下痢の回数は徐々に減り,10日間でバンコマイシンの内服も終了 肺膿瘍は外来で画像フォローを継続し,悪化はしていない 症例3°75歳男性(COPD併存)
* 絶対覚えるべき経口抗菌薬は少ない ・アモキシシリン ・アモキシシリン/クラブラン酸 ・セファレキシン ・ドキシサイクリン ・レボフロキサシン ・ST合剤 ・メトロニダゾール ・バンコマイシン * 経口薬へのステップダウンは入院期間の短縮するのに良い方法 - 患者を無闇に病院に縛り付けることは良いことばかりではない * 実際に症例に出会った時,入院時点で 退院までの道筋を思い浮かべる様に! まとめ
サルでもわかる経口抗菌薬の話 ’20/7/2 @感染症ランチョンセミナー おしまい
よろしければハンドアウトをどうぞ