テキスト全文
病状説明の重要性と目的
#1. 入院中のAさんの家族が 病状説明希望しています 古賀総合病院 内科 松浦良樹
#2. このスライドの対象、目標 ■対象 初期研修医~専攻医 病状説明 未経験~数回程度 ■目標 病状説明の型を知ることが出来る 事前の準備を独力で行うことが出来る 指導医が見守る中、病状説明を実施出来る アドリブ病状説明で失敗して心に傷を負わない
#3. はじめに 病状説明と言っても、「ベッドサイドで今朝の検査結果を説明」から、 「がんの告知」や「急変時の治療方針決定」まで幅があります。 今回、比較的頻度が多く、しっかり準備をすることができる 「入院中患者の家族への病状説明」について学んでいただきます。 このスライドでは病状説明にチャレンジする初期研修医に向けて、 基本的な型を提案します。型に沿って準備してみてください。 もちろん、学ぶ機会が少なかったけど学びなおしたい専攻医以降の先生にも なにかお役に立てるかと思います。
病状説明前の準備と注意点
#4. 目次 病状説明 前 準備しよう! 失敗率を下げる! 病状説明 病状説明 後 実践しよう! 後片付けしよう! 成功率を上げる! 地雷を避ける!
#5. ① 説明前の準備 1.説明のゴールを明確にする 2.説明用紙を準備する 3.日程、同席者を決めておく 4.病状説明直前の準備をする 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
#6. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 事前準備1: この病状説明で「伝えたいこと」や「確認したいこと」、 「決めておきたいこと」があれば、明確にしておきましょう。 例: 腎機能が悪化していることを伝える 内視鏡検査の説明、同意書を貰う 呼吸状態悪化時の方針を確認しておく 病状説明後 ~片付け~
病状説明の実践方法と流れ
#7. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 事前準備2: この作業で半分くらい決まるくらいの、大事な作業です。 ・まず、自分の頭の整理になります ・初めての説明でありがちな「あたま真っ白」を避けられます ・説明用紙をお渡しすれば満足度もかなり上がります 説明用紙の型を次のスライドで提案します。 病状説明後 ~片付け~
#8. タイトル A田B子 氏(ID:001122)の病状について 病状説明者 C木D助 (内科医師、担当医) 同席者 E杉F美 (内科医師、主治医) 場所、日時 G病棟カンファレンス室、2030年1月6日 説明を受けた方 A田B子さん、A田H郎さん(夫)、I永J也さん(次男) 病状、治療方針 ※この部分がメインなので、次のスライドで解説します。 その他、備考 質問など 基本的な病状説明用紙は、 施設の規定のものなどを 使用したほうが良いです 上記、説明しました 年 月 日 K病院 内科 上記説明内容を十分に理解し、診療方針について同意します 年 月 日 患者氏名 ※代筆者(続柄)
#9. 「病状や方針」の記載の型 過去 現在 専門用語は避けるか、解説を 入院までの経過 12月25日に、熱があって動けなくなり救急搬送されました。 現在時点の診断 #1.結石性腎盂腎炎、#2.糖尿病、#3.ADL低下 現在までの病状 尿路感染症の疑い、敗血症の疑いで入院しました。 #1.結石性腎盂腎炎:CTで右の尿管(腎臓から膀胱へ… #2.糖尿病:今回新たに糖尿病があることが分かりま… #3.ADL低下:足腰の力が落ちてしまっており、現在… #1:あと5日間飲み薬を終えたら治療終了です。今後は… 未来 今後の治療方針 #2:現在インスリンを使用しておりますが、明日から… #3:リハビリを行い現在は平行棒内で歩行できるように… 転帰:まだ自宅退院は難しく、リハビリテーションの継続… マルチプロブレムなら、プロブレムリスト分けも◎ 図があっても良い
#10. 病状説明前 ~準備 ~ 事前準備3: ・どの家族に来てもらうか ・ソーシャルワーカーにも同席してもらうか ・ケアマネなども呼ぶべきか ・自分、指導医の拘束が無い時間帯に ・患者自身の検査などが無い時間帯に 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
病状説明中のやり取りと確認
#11. 病状説明前 ~準備 ~ 事前準備4: ・説明用紙の準備 ・説明場所の確保 ・身だしなみ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
#12. ② 病状説明の実践 1.開幕(オープニング) 2.本題 3.やり取り 4.閉幕(クロージング) 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
#13. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明1:開幕 病状説明 ~実践~ ~いきなり本題に入らない~ ・挨拶、自己紹介 ・参加者の確認(特に本人との関係など) のあとに、 言葉がけを行いましょう。 病状説明後 ~片付け~
#14. 「探り」の問い ① 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ (説明前に患者本人と家族が会ったなら) 本人さんにお会いになって、いかがですか? こちらは「経過は良好」と判断していても、 非医療従事者の家族から見たらそうでないかも。 この認識のズレを放置したまま病状説明を続けるのは危険。 病状説明後 ~片付け~
病状説明後のフォローアップと記録
#15. 認識にズレがないなら... 本人さんにお会いになって、いかがですか? いやあ、だいぶん元気になってきて、少しずつ食事も 食べられるようになってきたので、安心しましたよ。 (よし、これなら退院の話を出しても良さそうだ) だいぶん元気になってきましたね。あとから詳しく お話しますが、検査も随分良くなってきていますよ。
#16. 認識にズレがあっても... 本人さんにお会いになって、いかがですか? 前よりは元気になったけど、食事が普段の半分くらいしか 食べてないし、まだ歩きもふらついているようなので、 このままでは家に帰れるのかな、って心配しています。 (おっと、思ったより辛めの認識っぽいな。それなら…) たしかに、経過自体は良いのですが、まだ万全とは言えませんね。 いまの状態では、この先のことも不安になりますよね。 …舵を切りなおせる
#17. 「探り」の問い ② 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ (病状説明が初めての場合) これまでの病状は、どのように伺っていますか? 初療医(当直医や救急担当医など)から説明されたときから 状況が大きく変わっていることもある。 相手は、最初に説明された暫定診断などの情報を頼りに、 いろいろ調べたりして説明に望んでいることもある。
#18. 結石性腎盂腎炎、 DIC、菌血症の診断! 持ち直してきているし、 今日は尿管ステント術の 説明と同意書取得だ! エスエフなんとかって、 ダニでうつる感染症も あるかもって言われた。 ネットだと死ぬことも あるって書いてあったし、 アビガンが効くとか・・ いきなり始まる異種格闘技戦を避けよう
病状説明の成功に向けたポイント
#19. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ 病状説明2:本題 ・特に話すことが多い場合では、全体像を先に示す。 ・準備した説明用紙を示しながら、でも効果的。 今日は、お話ししたいことが全部で4つあります。 今日は、~~という流れでお話ししていきます。
#20. 病状説明前 ~準備 ~ ここでの注意点、Tips ■ 医学用語、難しい言い回しを徹底的に避ける ■ 一気に話してしまわず、小分けにして途中確認する。 「ここまでで気になることなどありませんでしたか?」 「分かりにくかったことはありませんか?」 ■ Para-languageな技は、追々、学ぶ(指導医から盗む) 相槌、間の取り方、手の仕草、沈黙、目配り… 相手の表情や雰囲気から理解の具合を察する 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
#21. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ 病状説明3:やりとり ・患者や家族の意見、気持ち、想いなど核心的な返事だけでなく、 簡単な「答えやすい質問」をきっかけに喋ってもらうのも良い 喘息って病気、聞いたことはありますか? 胃カメラ、息子さんは受けたことありますか?
#22. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ 病状説明4:閉幕 今日は、~、~~、についてお話ししました。 ・高齢の患者本人などには、「最も伝えたい核心」を 10秒程度で要約して付け加えるのも良いです。 たくさんお話ししたけど、要は~~ということですよ!
研修医のための病状説明の型
#23. ③ 病状説明後の後片付け 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ •いつ、どこで、だれが、だれに説明をしたか •話の内容 •患者、家族から出た質問とその回答 •患者、家族が理解できていたか ※理想は、説明用紙にお互い署名してコピーを渡して原本をスキャン
#24. カルテ記載の例 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ 【病状説明記録】 日時、場所:10月5日、2階病棟ナースステーションにて 参加者:患者本人、妻、長男へ病状説明を実施した。 〇より説明し、△医師、□看護師、◎SWが同席した。 以下を、別紙説明用紙に沿い説明した。 ・入院までの現病歴を振り返り確認した ・これまでの検査結果と■病という診断に至ったこと ・今後の治療法について、①②③があり、現在の全身状態からは②の治療が推奨されること 患者本人から「②の治療をぜひ受けたい」との希望あり、ご家族もその方針に同意された。 治療期間について長男より質問あり、「2-3週間程度が平均」と伝えた。 ・治療方針について本人、家族も十分に納得された様子だった。 詳細は、別途スキャンされた説明用紙を参照
#25. 病状説明の記録 病状説明前 ~準備 ~ ・説明しても、記録がなければ「言っていない」に近い ・説明した内容だけでなく、 相手がどのような反応を示したか どのような質問がありどう応えたか なども十分に記録しておく必要がある。 ・万が一の時には、十分な診療録の記載が助けになる。 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~
#26. 病状説明前 ~準備 ~ 病状説明 ~実践~ 病状説明後 ~片付け~ 研修医の説明後の振り返りで指摘しがちなこと □ 早口すぎる、加速していく、一方的に話し尽くしている □ 患者さんに分かりにくい医学用語が多かった □ ずっと説明用紙に目を落とし、患者や家族へのアイコンタクトが少ない □ キーパーソンばかり見て、患者本人などに顔が向かない □ ボールペンカチカチクルクルしない □ 話の切り替わりのときに一度止めて、理解の確認や質問をすると良い □ 「えー」や「まあ」、「あのー」などが頻繁に出てくる □ 認知症がある患者に対して、最大限の敬意を示した態度で接する →この辺りを指導医にチェックしてもらうと良い
#27. さいごに 今回お伝えした『型』は、教科書に書いてあるようなものではありませんが、 直接教わることが出来なくても実践しやすいような形にしています。 まずは『型』を身に着けていき、そこから発展させていってください。 そこから、様々なコミュニケーションスキルや意思決定支援などの技法などを 学び加えていき、難易度の高い病状説明に取り組んでみてください。 また、病状説明に慣れたけど伸び悩んでいる時期にこそ、説明上手な指導医の 病状説明に陪席して、技を盗んでいってください。