テキスト全文
脳梗塞ファーストタッチの重要性と導入
#1. 脳梗塞ファーストタッチを極める デキレジは“こう動く”
#3. こんな経験ありませんか?① 2 どれどれ,左手のしびれか.
…よく分からないけど緊急性はなさそう!(常套句) いや,よく聞くと唇も痺れているね.
手口症候群かもしれないから,MRIも撮ろう! --- M R I 撮 像 後 --- ヤバレジ 上級医 脳梗塞(右視床)だった…すみません(泣).
脳梗塞診断の難しさとMRIの落とし穴
#4. こんな経験ありませんか?② 3 いいいしきしょうがい(焦)
手足の動きもすこし悪い?脳梗塞に違いない!
CT! MRI!! 上級医コンサルト!!! ヤバレジ !? ちょっと待って,まず血糖を測っておこう.
むむ,低血糖だ!ブドウ糖とビタミンB1を! デキレジ
#5. 脳梗塞診断は簡単? 脳梗塞をみつけることは難しくありませんが,どうしてもMRI検査に頼りがちです. 4 撮れば脳梗塞か分かる.
っぽい人が来たら,
とりあえずMRIオーダー♪ MRI頼みになりがち
#6. MRI頼みのpitfall 「どのくらい脳梗塞らしいか?」を考えず,とりあえずMRIを撮るスタンスは危険です. 5 ✗ 非典型的脳梗塞の見逃し
✗ MRIで時間ロス➜(他疾患の)治療遅れ 「とりあえずMRI」のスタンスだと…
脳梗塞診断における判断材料と神経症状
#7. デキレジになるには? 検査前確率を適切に見積もり,MRI検査の是非を判断する力を身に着けましょう. 6 ①らしさ・らしくなさを把握している
②Stroke mimicsを鑑別できる
#8. CONTENTS 7 Introduction らしさ×らしくなさ ピットフォール ケーススタディ 01 02 03 04
#10. MRIにたどり着くまで 残念ながら,「コレがあれば(なければ),脳梗塞(じゃない)」という万能マーカーはありません. 9 CT/MRI 患者 診断に有効な
血液マーカー
(D-dimerなど)
#11. MRIにたどり着くまで 10 脳梗塞 脳梗塞診療では,数ある臨床情報から「らしさ×らしくなさ」を集め,MRIの是非を総合判断します. らしい らしくない 情報D 情報E 情報B 情報C 情報A
脳梗塞の神経症状とその確認方法
#12. 判断材料 主な判断材料として,以下の要素は確実に押さえておきましょう. 11 脳梗塞らしさ×らしくなさを
見極める判断材料
#13. メイン要素:神経症状 当然ですが,脳梗塞らしさを決める一番の要素は神経症状です. 12
麻痺
しびれ
構音障害
めまい 脳梗塞の典型的な主訴
#14. メイン要素:神経症状 典型的症状であっても,その分布・性状・随伴症状まで確認するようにしましょう. 13
脳梗塞患者の背景と発症様式の重要性
#15. メイン要素:神経症状 すぐに疑われがちだけど,実は「そこまでらしくない」症状にも注意しましょう. 14 出典:脳卒中データバンク2021 来院時意識レベル(JCS) Ⅰ 0 Ⅱ Ⅲ
#16. サブ要素:患者背景 脳梗塞患者は,何かしらリスク因子を抱えていることが多いです. 出典:脳卒中データバンク2021 15
#17. サブ要素:発症様式 VINDICATEを念頭に病歴聴取し,脳梗塞(血管障害)らしさを確かめましょう. 出典:脳卒中データバンク2021 16 発症〜来院
の時間 救急車:外来=6:4 ≦4.5h 4.5-24h
#18. サブ要素:バイタル 脳梗塞患者の入院時収縮期血圧は平均158mmHg(脳卒中データバンク2021),血圧は重要なヒントです. 出典:BMJ.2002 Oct 12 ; 325(7368) : 800–802. 17 意識障害患者(15293人)における収縮期血圧の分布 血圧高い:頭蓋内らしい 血圧低い:頭蓋外らしい
脳梗塞診断のピットフォールと注意点
#19. まとめ 18 脳梗塞 それぞれの要素を天秤にかけて,脳梗塞らしさ(MRIの是非)を総合判断します. らしい らしくない
脳梗塞のmimicsとその対策
#21. 脳梗塞診断のピットフォール 診断のピットフォールとして,有名なmimics / chameleonsは押さえておきましょう. 20 : :
#22. Stroke mimics 出典:Acute Med Surg. 2018 Apr 10 ; 5(3) : 241-248. 21 脳梗塞疑いの約8.8%
#23. mimics① 低血糖 低血糖はStroke mimicsとして必ず覚えておくべき疾患です. 出典:Ups J Med Sci. 2012 Aug ; 117(3) : 347–351. 22
中枢神経系のグルコース不足
➜Stroke likeな症状
症状:脱力,混乱,痙攣,意識障害
画像:内包後脚にDWI-HIA
↑脳梗塞の画像変化とほぼ同じ!
対策:①糖尿病歴,投薬歴,
類似エピソード(同じ時間帯?)
②ルーチンで血糖測定 低血糖の4.2%で片麻痺
#24.
全身性炎症の結果生じる
びまん性脳障害
症状:興奮,せん妄,痙攣,意識障害
※MICROS:感染症など➜後遺症が増悪してみえる
➜新規と見間違い
対策:①脳卒中既往(後遺症)を確認
②巣症状として矛盾しないか mimics② 敗血症 感染症(とくに敗血症)の一症状としても,神経症状を伴うことがあります. 23 MICROS;metabolic insult causing re-expression of old stroke 敗血症性脳症
-Sepsis Associated Encephalopathy-
#25. mimics③ 脊髄硬膜外血腫 頻度は低いですが,抗血栓療法が禁忌となるため注意しないといけません. 出典:Clin Neurol 2014 ; 54 : 395-402. 24 C6で最多
頚髄〜上部胸髄に多い
およそ半数が外傷歴なし
特発性脊髄硬膜外血腫
症状:頚部・肩痛➜片麻痺
症状は変動することが多い
画像:頸髄MRIで血腫確認
頭部MRIで所見なし➜TIA?と誤診
対策:①頚部・肩痛の存在は?
②顔面を含まない片麻痺
#26. mimics④ 大動脈解離 脳梗塞自体は起こしているものの,背景疾患を見逃すと致命的となります. 出典:Cerebrovasc Dis. 2016 ; 42(1-2) : 110-6. 25 脳梗塞全体の約1%
Stanford A型解離では
頸部血管閉塞➜脳梗塞
症状:意識障害,麻痺,痙攣
特に左麻痺注意(腕頭-右総頸A解離)
検査:縦隔拡大,D-dimer高値
頸動脈エコーで総頸動脈閉塞
対策:普段の脳梗塞との違和感に気付く
血圧低値,麻痺の割に意識不良
違和感があれば造影CT
脳梗塞のchameleonsとその特徴
#27. 出典:medichina vol.53 No.2 2016-2. 26 Stroke chameleons 脳梗塞の約4-5%
#28. chameleons① 手口症候群 とても有名ですが,ここではchameleonsとして扱います. 27 Cheiro-Oral Syndrome
視床では手・口領域が近接
離れた部位が同時に障害
症状:手・口のしびれ
(多い表現)「歯医者の麻酔がかかった感じ」
画像:視床,橋,中心後回などに梗塞巣
対策:複数箇所のしびれがないか
(一箇所しか気づいていない場合も多い)
#29. chameleons② 意識変容 視床梗塞では,しびれだけでなく意識変容をきたすこともあります. 28
視床は意識の中継所でもある
意識変容のみの脳梗塞
症状:活気低下,健忘,認知機能障害
画像:視床梗塞
top of basilar syndromeなど
対策:症状以外での脳梗塞らしさは?
(発症様式,リスク因子など)
キーパーソンの違和感を尊重 Treatable dementiaの1つ
#30. Q2.脳梗塞に季節変動はある? A2. 全体としては夏に多い.病型別では夏にラクナ,冬に心原性が多い. Q&A:脳梗塞のトリビア 〜現場での感覚通り?〜 出典:脳卒中データバンク2021 29 Q1.低血糖によるmimic症状は,左右差がある? A1.左片麻痺と比較して右片麻痺が多い(右66%,左34%).Ups J Med Sci. 2012 Aug ; 117(3) : 347–351. ➜低血糖に影響を受けやすい脆弱な部位があるとされている(あきらかではない). 脳梗塞の季節別発症数 夏:高温・脱水➜ラクナ/アテローム
冬:寒冷➜血圧上昇/新規Af➜心原性
が関与している?
脳梗塞のケーススタディと実際の考え方
#32. 実際の考え方 31 脳梗塞 典型例・pitfallを把握したうえで,目の前の患者さんの「らしさ」を速やかに判断します. らしい らしくない んー,MRI撮ろう!
#33. case① 32 78歳男性,昼食後に発症した左上下肢の脱力.
高血圧,糖尿病があるcurrent smoker.
体温36.0℃,血圧180/100mmHg,脈拍70bpm.
Barre test左回内・下垂.Mingazzini test陽性. リスクのある高齢者に急性発症した左不全麻痺か.
血圧高値以外のバイタルは安定で,診察所見も陽性.
脳血管障害として典型的な臨床像だ,MRIを撮ろう! 患者 デキレジ 診断:ラクナ梗塞(右内包後脚)
#34. case② 33 基礎疾患のない54歳女性,昨日朝からの右上肢脱力感.
症状は一度改善したが,今朝もまた同様の感覚が出現.
体温36.0℃,血圧120/80mmHg,脈拍100bpm.
Barre test回内せず軽度下垂,Mingazzini test陰性. リスクの少ない患者の右上肢脱力感.
血圧・診察所見はあまりらしくない,ほんとに麻痺?
ER運営上,一応MRIは撮って脳梗塞を確認しておくか. 患者 デキレジ 診断:MRI陰性(外来でも陰性➜心因性疑い)
#35. case③ 34 83歳男性,突然発症の左手しびれ.糖尿病がある喫煙者.
麻痺や構音障害はなく.血圧150/90mmHg.
神経診察上はあきらかな異常を認めない. 結構脳梗塞らしい臨床像だ.口元に違和感はありますか? 患者 デキレジ 診断:ラクナ梗塞(右視床) そういえば,唇もすこし痺れているような気がします. 手口症候群に典型的な分布!MRIを撮ろう!
#36. case④ 35 60歳男性,朝起きた時から右半身に力が入らない.
糖尿病あり,SU薬内服+持効型インスリンを使用中.
最近具合が悪くて食事があまり食べられない.
血圧100/60mmHg,脈拍110bpm,JCSⅡ-10. リスク持ち患者の急性発症の右麻痺.
脳梗塞らしさもあるけど,インスリンユーザーで血圧低値.
いろいろ検査する前に,まず血糖測定は必須だな! 患者 デキレジ 診断:低血糖発作(血糖値38mg/dL)
脳梗塞に関連する緊急症例の分析
#37. case⑤ 36 79歳男性,部屋で倒れているところを家族が発見.
併存症は高血圧,脂質異常症,狭心症.
JCSⅢ100,左上下肢麻痺(MMT3),血糖110mg/dL.
血圧90/60mmHg,脈拍70bpm,末梢冷感あり. 発症後≦数時間の意識障害+左麻痺,脳梗塞らしさは高い!
t-PA適応かもしれないけど,やたら全身状態が悪いな.
一応四肢の血圧と胸部レントゲンはしておこう……むむ!? 患者 デキレジ 診断:大動脈解離(Stanford A型)
#38. case⑥ 37 67歳女性,今朝から様子がおかしいと家族が心配して受診.
併存症は高血圧,認知症.血圧175/100mmHg,JCSⅠ-2.
あきらかな麻痺や構音障害,他の神経症状を認めない.
血液検査では軽度の脱水のみ,頭部CTでも異常なし. 急性の意識変容?反応がイマイチだけど,認知症だしな…
特に感染症はなさそうで,慢硬もなかったか.…せん妄?
でも家族が絶対普段と違うって言うし,なにかあるのかも. 患者 デキレジ 診断:視床内側梗塞