テキスト全文
不随意運動の理解とアプローチ方法
#1. 不随意運動で思考停止しないために まずは“コレだけ”
#3. こんな経験ありませんか?① 目の前の患者が「不随意運動の中の“何”なのか」,表現できますか? 2 あわあわ,左上下肢が勝手に動くだと?
……けいれん??とりあえずセルシン®を準備しよう. 片側上肢,ランダムでやや速い動きか.
これは舞踏運動(chorea)だな! ヤバレジ デキレジ !?
#4. こんな経験ありませんか?② 不随意運動を呈する患者に対して,どうアプローチすれば良いか分かりますか? 3 なるほど,これが舞踏運動というやつか.
………で,どうすればいいの? 急性発症のhemi chorea.
まずは薬剤・血糖・脳血管障害等を調べよう! --- 各 種 検 査 後 --- なんと,高血糖・HHSだった…. ヤバレジ デキレジ
#5. デキレジになるには? 非専門医であっても,基本的なアプローチは理解しておきましょう. 4 ①不随意運動を正しく表現(評価)できる
②不随意運動に対してのアプローチ方法を知っている
不随意運動の定義と分類
#6. CONTENTS 5 不随意運動とは おもな不随意運動 代表的な疾患 診療の流れ 01 02 03 04
#8. 不随意運動とは とっつきにくい不随意運動を理解する上で,まず重要なことは用語の整理です. 参考:臨床神経生理学 43 (4) 122-141 , 2015. 7 運動異常症
-movement disorder-
脱力や痙性がないにも関わらず,運動が過剰(過小)になる病態 運動過多症
-hyperkinesia- 運動過少症
-hypokinesia-
#9. 用語の整理 一般に「不随意運動」と呼ばれているのは,運動異常症(過多症)の一部のことです. 参考:臨床神経生理学 43 (4) 122-141 , 2015. 8 不随意運動 (involuntary movement) =主に錐体外路が原因の運動過多症
#10. 不随意運動の分類 いくつかのポイントをもとに,不随意運動をさらに分類することができます. 参考:岩田 誠 (1994). 神経症候学を学ぶ人のために 9 目の前の不随意運動が“何”なのかを診断
おもな不随意運動の特徴と分類
#12. おもな不随意運動:律動的 まずは,律動的な動きをする不随意からみていきましょう. 11
#13. おもな不随意運動① 振戦(tremor) 振戦は不随意運動のなかで最も頻度が高く,発症状況をもとに細かく分類されます. 12 ※1 pill rolling tremor(母指・示指をすり合わせる動き)
※1 パーキンソン病に特徴的
※2 β刺激薬・甲状腺製剤の内服歴も注意
#14. おもな不随意運動:非律動的・遅い 次に,非律動的(遅い)な動きをする不随意運動をみていきましょう. 13
#15. おもな不随意運動 ②ジストニア(dystonia) ジストニアは不随意運動の1つであると同時に,診断名でもあります. 参考:ジストニア診療ガイドライン2018 14 ジストニア:持続性の筋収縮➜動作や姿勢の異常
【特徴】
①患者ごとに一定のパターン:痙性斜頚はいつも同じ向き
②特定の動作で出現 :職業性ジストニア(美容師・ピアニストなど)
③特定の感覚刺激で軽快 :頬に手を触れるなど
【病因】
二次性:遺伝性,後天性(周産期脳外傷,感染症,血管障害など)
一次性:大半のジストニア
【分布】
大多数が局所性
例)頸部ジストニア(=痙性斜頸)/眼瞼痙攣/書痙
アテトーゼと舞踏運動の詳細
#16. おもな不随意運動 ③アテトーゼ(athetosis) アテトーゼは,“静止できない(安定した肢位を保てない)”という意味です. 15 三脚型の手 アテトーゼ:絶えずゆっくり,よじるような動き
真似ができない複雑な肢位
【特徴】
四肢末梢部(通常は手)で観察される
「三脚型の手」「凹み手」など
舞踏運動と同時に出現することも(choreathetosis)
【原因】
低酸素脳症,脳性麻痺など
#17. おもな不随意運動 ④ジスキネジア(dyskinesia) 運動の動きを説明する名前ではありませんが,たまに遭遇する不随意運動です. 参考:BRAIN and NERVE 69 (12) : 1409-1416, 2017. 16 ジスキネジア:不随意運動の総称(舞踏運動,ジストニア,アテトーゼなど)
※厳密には不随意運動の性状そのものに関する用語ではない
【特徴】
口周囲に起こることが多い(唇をすぼめる,舌を出す,歯を食いしばるなど)
多くは薬剤性(抗精神病薬,抗パーキンソン病薬)
・遅発性ジスキネジア:慢性的な抗精神病薬曝露により発症
(Tardive dyskinesia)
・レボドパ誘発性ジスキネジア:抗パーキンソン病薬の副作用
(Levodopa-induced dyskinesia)
#18. おもな不随意運動:非律動的・速い 最後に,非律動的(速い)な動きをする不随意運動をみていきましょう. 17
#19. おもな不随意運動 ⑤ミオクローヌス(myoclonus) 「ぴくつき(筋収縮)だけがミオクローヌスではない」ところがポイントです. 参考:BRAIN and NERVE 75 (1) : 45-58, 2023. 18 ミオクローヌス:突然・瞬間的な筋収縮 or 筋収縮停止
【分類】
筋収縮 :陽性ミオクローヌス
筋収縮停止:陰性ミオクローヌス
【特徴】
静止時に起こることが多い
【疾患】
てんかん,クロイツフェルト・ヤコブ病,代謝性・薬剤性
低酸素脳症後(Lance-Adams症候群) など
※末梢神経・脊髄・脳幹・皮質のどこでも生じる可能性がある
※健康な人でも入眠時に出現(ジャーキング)
#20. おもな不随意運動 ⑥舞踏運動(chorea) 二次性ヒョレア(コレア)は,救急外来でも遭遇することのある不随意運動です. 参考:BRAIN and NERVE 75 (1) : 45-58, 2023. 19 舞踏運動:不規則,やや速い,ランダムだが真似できる動き
【特徴】
患者ごとに運動のレパートリーが限定的 ⇔ バリズム
ランダムだが真似できる動き ⇔ アテトーゼ
筋緊張は低下している ⇔ アテトーゼ
【分類】
一次性:ハンチントン病,その他の遺伝的病因
二次性:感染症,薬物,代謝性疾患,血管障害など
※脳血管障害,高血糖多い
【疾患】
ハンチントン病
Sydenham舞踏病,妊娠舞踏病など
バリズムとアカシジアの理解
#21. おもな不随意運動 ⑦バリズム(ballism) バリズムを見た時は,まず脳血管障害を検索しましょう. 参考:BRAIN and NERVE 75 (1) : 45-58, 2023. 20 バリズム:体肢を投げ出すような激しい動き
【特徴】
数秒に1回
choreaよりも激しい
四肢近位部も巻き込む
多くは片側性(ヘミバリズム)
【原因】
ほとんどが血管障害(とくに小出血)
#23. +α:アカシジア(akathisia) 厳密には不随意運動ではありませんが,アカシジアにも軽く触れておきましょう. 参考:BRAIN and NERVE 69 (12) : 1409-1416, 2017. 22 アカシジア:じっとしていられない
身の置きどころがない
【特徴】
不随意な運動が起きているわけではない
傍から見ると「ウロウロ・足組み換え・足踏み」
【原因】
薬剤性(抗精神病薬,抗うつ薬,消化器薬,抗がん剤等)
開始・増量・中止どれでも起きうる
むずむず脚症候群
代表的な疾患とその特徴
#25. 代表的な疾患 ここでは,臨床的によく遭遇する不随意運動について説明します. 24
#26. 代表的な疾患:脳血管障害×不随意運動 高齢者に急性発症する不随意運動では,血管障害の可能性を考えましょう. 参考:Lancet Neurol 2013; 12: 597–608 25 【疫学】
発症平均年齢は60-70歳代
大脳基底核を含む脳深部の梗塞で多い
【特徴】
ヘミヒョレア/ヘミバリズムが最多
不随意運動発症までの期間はさまざま
傾向)若年で損傷➜慢性期にdystonia
高齢脳卒中➜急性期にchorea
【治療】
通常は自然軽快
重症例では対症療法
#27. 【疫学・特徴】
高齢2型糖尿病患者における
非ケトーシス性高血糖の急性期に発症
【特徴】
多くがヘミヒョレア/ヘミバリズム
MRI-T1WIで対側基底核にHIA
※画像は正常のことも
【治療】
血糖降下のみで数日以内に軽快
重症例・持続例では対症療法
(ほとんどは最終的に中止可能,再発なし) 代表的な疾患:糖尿病性/高血糖性舞踏病 – Diabetic Chorea – 糖尿病患者に発症した場合,高血糖による不随意運動の可能性があります. 参考:P.Jagota et al. Journal of the Neurological Sciences 314 (2012) 5–11. 26
#28. 代表的な疾患:本態性振戦 – Essential Tremor:ET – 本態性振戦は,世界人口の約1%が罹患しているcommon diseaseです. 参考:N Engl J Med 2018;378:1802-10. 27 【疫学】
発症年齢は二峰性ピーク(20歳代,60歳代)
家族歴があることが多い
【特徴】
姿勢時振戦/左右対称/上肢遠位部に多い
増悪因子:ストレス・運動・カフェイン
軽快因子:アルコール
【診断】
病歴・診察で診断可能
※電解質・甲状腺機能異常の除外は有用
【治療】
プロプラノロール,プリミドン
#29. 【特徴】
筋収縮が突発性・不随意に休止
➜抗重力肢位(手関節背屈)を保持できない
断続的に力が抜ける
【原因】
代謝性:肝性脳症,腎不全,血糖・電解質異常
薬剤性:抗てんかん薬,抗精神病薬
ベンゾジアゼピン系薬剤など
その他:脳血管障害,脳腫瘍など
【治療】
原疾患治療,被疑薬中止 代表的な疾患:羽ばたき振戦(asterixis) 羽ばたき振戦(=陰性ミオクローヌス)は,肝性脳症以外でも起こります. 参考:P.Jagota et al. Journal of the Neurological Sciences 314 (2012) 5–11. 28
#30. 遅発性ジスキネジア – Tardive Dyskinesia;TD – 既往歴/併存症に精神疾患がある場合,遅発性ジスキネジアの可能性があります. 参考:A Review and Update. Ochsner J. 2017 Summer;17(2):162-174. 29 【疫学】
抗精神病薬を長期内服している患者の20-50%に発症
定型抗精神病薬>非定型抗精神病薬
【特徴】
口周囲に多い(唇をすぼめる,舌を出す,歯を食いしばるなど)
【治療】
薬剤中止 or 他剤変更(定型➜非定型)
※突然の中止は離脱誘発性ジスキネジアのリスク
症状が強い場合は対症療法
※多くの場合は不可逆的
診療の流れと治療方針
#32. 診療の流れ①問診・診察 不随意運動の性状を確認し,どのタイプかを判断します. 31 【診察】不随意運動の確認
【問診】
薬剤歴:抗てんかん薬,抗精神病薬など
家族歴:本態性振戦,ジストニアなど
#33. 診療の流れ②検査 検査では,おもに二次性不随意運動をスクリーニングします. 32
#34. 診療の流れ④治療 基本は原疾患治療ですが,対症療法としての大まかな薬剤は知っておくと良いです. 33