テキスト全文
プライマリケア医のてんかん診療入門
#1. DAISUKE YAMAMOTO
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital プライマリケア医の
てんかん診療超入門
―自分の言葉で患者さんに説明できる
自力で最低限の診療ができる―
#3. 「てんかん」を、一言でどうやって説明できる? Q. てんかんを患者さんに
どう説明する?
てんかんの診断と定義について
#4. 2回発作があればてんかんと言える? 1回の発作でてんかんと言える? Q. てんかんの診断と定義?
#5. 2回発作があれば導入する?1回発作のみで導入してもいい? Q. 発作予防薬はいつから
導入する?
#6. そのセッティングで、どのようなポリシーで対応すればいいか? Q. てんかんの診断と治療は
専門医でやる?
アマでやる?
てんかん患者のフォローアップ外来
#7. 何を注意してみていく? 薬物の血中濃度測定はどうする? Q. てんかん患者さんの
フォローアップ外来は?
#8. 一過性に起こって、それが証拠を残さずに終わる。それが反復する。このような、てんかんでない、非てんかん性疾患は? Q. てんかんの鑑別疾患?
#9. 何を基準に、どの薬剤選択する? Q. 発作予防薬は何を選ぶ?
#10. 高齢者てんかんにおける、診断、治療、留意点? Q. 高齢者てんかんで
注意することは?
てんかんの鑑別疾患とその特徴
#12. 「てんかん」を、一言でどうやって説明できる? Q. てんかんを患者さんに
どう説明する?
#13. てんかんとは?:タームを覚える。 「てんかん発作(epileptic seizure) 」は症候名である。
「てんかん(epilepsy) 」は疾患名である。 「てんかん発作」とは大脳の神経細胞が過剰興奮あるいは過同期することによって 一過性に出現した“神経症候”を指す用語である。
「てんかん」は「てんかん発作」を引き起こす持続性病態を有する慢性脳“疾患”を指す。
#14. 「てんかんとは、突然、大脳の神経細胞が過剰に活動し、
繰り返し、てんかん発作を起こす病気です。」
「てんかん発作によって、
脳の一過性機能低下や、けいれん発作が起きます。」 ひとことで患者さんに説明するなら!
#15. 2回発作があればてんかんと言える? 1回の発作でてんかんと言える? Q. てんかんの診断と定義?
抗てんかん発作薬の導入とポリシー
#16. てんかんの定義 24 時間以上の間隔を置いて、少なくとも 2 回の非誘発性発作が発生する場合。
1 回の非誘発性発作と、今後 10 年間に 2 回の誘発性発作が発生した後の一般的な再発リスクと同程度のさらなる発作の可能性 (≥60%)がある場合。
(具体的には、脳卒中、中枢神経系感染症、または頭部外傷後などの場合)。 てんかん — てんかんとは、以下のいずれかが存在する場合と定義される。 ※ 非誘発性発作(特に原因がない発作、ないしは既存の脳病態に関連しておこる発作)
※ 誘発性発作 (てんかん発作の誘因になりうる病態とともにおこる発作)
#17. 2回発作があれば導入する?1回発作のみで導入してもいい? Q. 発作予防薬はいつから
導入する?
#18. 抗てんかん発作薬の導入について 治療を行う場合の抗てんかん発作薬導入について:基本的には通常初回発作では導入しない。2回目の発作をもって抗てんかん発作薬の導入を検討する。
その理由としては、1度の発作のみでは先述のてんかんの定義①を満たさないからである。
一方で、1度の発作のみでも反復性が高い病態(例えば脳卒中後状態など)と判断されるならてんかんとして評価(定義②)し、抗てんかん発作薬の開始を検討する。 てんかんの定義とあわせて、ASMの開始タイミングを理解しておく。
#19. そのセッティングで、どのようなポリシーで対応すればいいか? Q. てんかんの診断と治療は
専門医でやる?
アマでやる?
#20. てんかんの診断と治療開始は慎重に行う必要がある。可能であれば専門医療機関での検討が好ましい。
明らかに診断可能な場合(けいれん発作が確認された場合など)は、非専門医による診断と治療開始も問題はない。
いずれにせよ、治療方針に悩んだ場合は、専門医に相談する、というスタンスで。
また、「てんかん診断の過大評価はしない」というスタンスをとることも大切。 プロ対応の推奨、ただし。
てんかんの診断フローと注意点
#21. 何を注意してみていく? 薬物の血中濃度測定はどうする? Q. てんかん患者さんの
フォローアップ外来は?
#22. 専門医からの診療引継ぎについて 基本的には、専門医から調整された発作予防薬を継続する方針でよい。
てんかん治療における継続時のテーマは、
①発作が抑制されているか?(発作予防薬の有効性評価)、
②薬物の副作用はないか?(発作予防薬の忍容性評価)を意識する。
紹介された後、専門医と再度議論すべき状況は以下の如く。
A:発作再発の場合(有効性に問題がある)。
B:薬物副作用にが目立つ場合(忍容性に問題がある)。
C:薬物中止の議論をしたい場合。
忍容性の問題:特に、眠気、ふらつきについて確認できるようにする。
#23. 外来フォロー:有効性と忍容性の確認! 基本的には専門医(紹介元)からの同一処方継続でよい。継続外来では、抗てんかん発作薬の「有効性」と「忍容性」を継続して確認していく。
有効性:発作イベントがないかどうかフォローアップする。発作イベントを繰り返すなら、紹介元への再紹介の検討をする。
忍容性:眠気やふらつき、精神症状などの副作用の確認をする。忍容性に問題があるなら、紹介元への再紹介の検討をする。忍容性については患者が我慢している可能性もあるので、意識して聞き出す必要がある。
#24. 薬物血中濃度測定って必要??? 抗てんかん発作薬が従来薬でない場合(レベチラセタムなど)では、薬物血中濃度測定は基本的には必要ない。
薬物副作用が問題になりうる薬剤については血中濃度測定の検討
CBZ、FNT、VPA、PB てんかん診療ガイドライン2018
#25. 一過性に起こって、それが証拠を残さずに終わる。それが反復する。このような、てんかんではない、非てんかん性疾患は? Q. てんかんの鑑別疾患?
てんかん発作の特徴と症状
#27. てんかん発作らしさ? てんかん診療の導入として、まずはてんかん発作らしい、という特徴について考えてみます。てんかん発作らしい、とはその発作が、突発的に起こり、短時間の症状(2-3分以内)で、定型的(いつも同じ症状である)であるようなイベントといえます。発作により、突然の一時的な運動症状、感覚症状、または行動異常を引き起こします。その症状がてんかん発作によるのか?を吟味するときにはこれらの要素があるのかどうかを意識的に吟味してください。発作性におこらない、持続時間が長い、毎回違う症状を呈するようなら、てんかん発作らしくないと言えます。
#29. てんかん発作らしい症状!② このような神経症状が発作性に生じ、それが一時的に続き、その後回復し、消失する。このような発作を定型的に反復するようなら、てんかん発作らしい、
という議論になるわけです。
非てんかん性疾患の鑑別と注意点
#31. 非てんかん性疾患?
そのイベントはてんかん発作か?
もしくは非てんかん性のイベントか? まずは「てんかん発作らしさ」があるのかどうかを吟味してください。
てんかん発作とは、突発的で短時間の定型的な発作性イベントで、
突然の一時的な運動・感覚・または行動異常を引き起こすもの、でした。
非てんかん性発作性疾患としてはどのようなものが挙げられるでしょうか?鑑別すべき疾患を表にまとめてみました。
#32. 「一過性に起こって、証拠を残さずに消える病態」はそれほど多くはありません。現実的には、失神、一過性脳虚血発作、片頭痛あたりがてんかん発作の鑑別としてコモンなものです。構音障害や麻痺症状が前景にある場合には、一過性脳虚血発作を優先して考慮します。閃輝暗点などの視覚異常が前景にある場合には、片頭痛発作の前兆症状としての神経症状を優先して考慮します。 非てんかん性発作性疾患の鑑別!
#33. 特に失神について
(けいれん性失神) ここでは特に重要な鑑別である失神について解説します。成人診療、特に高齢者診療においててんかんの重要な鑑別診断は失神です。一過性に意識消失をする・これを反復しうる、という症候からは失神とてんかん発作は類似するため、度々鑑別として議論になります。また、失神にともなってけいれんする場合もあり、この場合はけいれん性失神と言います。この場合にはよりてんかんとの区別に悩むことになります。
#34. 特に失神について
(けいれん性失神) てんかんと失神との区別は重要ですので、その対比となる特徴を表に示します。注意点としては、四肢のけいれん運動は一般的にはてんかん発作を示唆すると考えていいですが、先述のごとく、けいれん性失神の可能性もあり得るので、その点は留意が必要です。けいれん性失神の場合はその持続時間の短さ(20秒未満)、また発作後の意識回復までの時間が早いことがヒントにはなります。一方で、てんかん発作では意識障害はより長く遷延します。
#35. 合計スコアが1点以上はてんかん発作の可能性、1点未満は失神の可能性が高い。 てんかん発作と失神の鑑別 J Am Coll Cardiol. 2002;40:142-8.
非誘発性発作の原因と背景疾患
#36. 心原性失神の考え方 心臓由来の失神は特に除外が必要な病態です。この場合は心原性失神といいます。心臓弁膜症による、ないしは洞不全症候群などの不整脈による原因が考慮されます。鑑別における一つの考え方としては、背景に心疾患が指摘される場合には、まずは心原性失神の可能性から検討してみる、というのは思考の仕方として有用かと筆者は考えます。やはり、事前確率の観点から鑑別診断は考えられる必要があると思われます。
#38. 誘発性発作 OR 非誘発性発作? その発作がてんかん発作である、と理解した次には、それが誘発性発作か非誘発性発作かを検討します。まずは誘発性発作の原因について網羅的に評価します。誘発性発作の重要な原因を表で示します。
#39. まずは使用薬剤から鑑別に入るといいでしょう。そしてアルコール歴の聴取の重要性も強調されます。アルコール中毒、アルコール離脱いずれも発作を引き起こします。採血検査では、血糖値、電解質、炎症性、感染性病態を評価します。脳卒中を評価するために頭部画像検査も検討されます。そして、誘発性発作について検討し、それが否定可能であるなら非誘発性発作として取り扱うことになります。 代表的な非誘発性発作
高齢者てんかんの特徴と診断の難しさ
#41. 非誘発性発作ならその原因は? 非誘発性発作の原因疾患として、その大きな枠組みは、遺伝性、構造的、代謝性、免疫性、感染性、および原因不明と大まかに分類されます。成人診療、特に高齢者診療におけるコモンな非誘発性発作の背景疾患としては、脳卒中後、アルツハイマー病を筆頭とした認知症性変性疾患、頭部外傷による脳挫傷などが挙げられます。これら疾患はてんかんの器質的背景疾患として理解しましょう。 Epilepsia 2017; 58:512.
#42. 非専門医の介入はどのように行われるべきでしょうか?例えば、明らかに「てんかん」として診断の悩みが少ないシチュエーションにおいては、非専門医によって治療が開始されることに、トラブルは少ないと考えます。例えば脳卒中の既往がある方の、他疾患が除外可能な全身性のけいれん発作(焦点起始両側強直間代発作)とその後のベースラインまでの回復エピソードがあり、このような発作を反復している、などといった状況ではてんかんの診断については異論ないと考えます。そして薬剤選択についても患者背景を考慮しての治療開始も可能と考えます。 プロに任せるか?
#43. 一方で基本的なポリシーとしては、専門医と相談可能であるなら治療開始については専門医へのコンサルテーションが好ましいとは考えます。もちろん、地域ごとのセッティングの違いがあります。いずれの地域・環境において、必ずしも専門医へのアクセスがよいわけではないです。しかしながら、やはりてんかん診断の難しさがあることと、先述のごとく診断の過大評価にならないように、というスタンスからは治療開始については専門医へ委ねる姿勢は必要と考えます。そしててんかん診療において何より重要なのは、診断や治療で不安が生じたなら、みだりにあいまいな治療を続けずに、そのタイミングでは必ず専門医への紹介を行うことだと考えます。 プロに任せるか?
#44. 患者説明に役立つ、
てんかん診療に関する数字
#45. 具体的な数字の効用! ここでは患者説明において重要かつ、てんかん診療で知っておくべきキーとなる数字を含んだフレーズを記載していきます。具体的な数字は患者さんへの説明の説得力を高めます。具体性を持った知識は自身としても疾患への理解を深めますので是非覚えて使ってみてください。
てんかんに関する重要な数字
#46. てんかんは100人に1人発症する
ありふれた病気である。 大槻泰介: てんかんの有病率等に関する疫学研究及び
診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究, 2013
#47. てんかんは100人に1人 てんかんを話題にするときに、患者さんとの会話で説明できるといい数字の一つです。このような、てんかんに関する話題を「一般化」できる情報は診断の導入で役に立ちます。診断の場面において、「自分が急にてんかんの診断を受けることはありうることなのか?」と考える患者さんに、てんかんは一般的な病気なんだ、とこの数字をもって説明することができます。ある程度一般的な病気であることから説明することで、自身の病気を受容してもらいつつ、治療を受けながら前に進めそうかな、という気持ちを促す一助になるかもしれません。てんかんは比較的ありふれた病気なんだ、と説明できることが大切です。
#48. 高齢者てんかん:
有病率は2-6%と高い。 Neurology 2012; 78:448.
#49. 高齢者てんかんはコモンかつ、
加齢はリスクを高める。 こと、高齢者においては若年者に比してよりてんかんを発症しうる、ということを説明ができる必要があります。高齢者におけるてんかんの有病率は約2~6%とされます。加齢とともにてんかん発症リスクは増えていきます。 Epilepsia 1992; 33 Suppl 4:S6.
#50. 脳卒中後てんかんは
5-10%程度おこりうる。 J Int Med Res 2023; 51:3000605231213231.
初回発作後の再発リスクと治療方針
#51. 脳卒中後てんかんは5-10% 脳卒中後状態が背景にあるとてんかんを合併しやすいです。脳卒中後の方がてんかん発作を起こした時には、「これは既往歴からはありうることなんですよ」と説明できるようになりましょう。数字としては、脳卒中後てんかんは5-10%程度の合併率とされています。脳卒中後てんかんに関しては、時間とともに発症リスクが増加しうるという事実も押さえておいてください。みなさん疑問に思われる方も多いので、脳卒中発症後から時間が経ってからも、てんかんを発症しうることの説明もできるといいでしょう。 Stroke 2013; 44:605.
#52. アルツハイマー病は10-20%程度
てんかんを合併する。 Epilepsia 2013; 54:700.
#53. アルツハイマー病は10-20%の合併率。 アルツハイマー病が背景にあるとてんかんを合併しやすいです。アルツハイマー病の方がてんかん発作を起こした時には、「これは既往歴からはありうることなんですよ」と説明できるようになりましょう。
アルツハイマー病は10-20%の合併率とされています。
#54. てんかん発作があったとき、
初回発作ののち反復するリスクは
40%である。 Lancet 2005; 365:2007.
#55. 初回発作後の再発リスク:40% てんかん発作は1回発作が起こっただけでは「てんかん」とは言えない、でした。患者さんに説明するときの知識として、仮に発作があったらそれは1回こっきりかもしれないし、その後反復するかもしれない、ということを説明する必要があります。また、初回発作後2年以内の発作反復リスクは40-50%程度であることを説明します。そして、初回発作のみでは治療開始しないことを説明します。慎重にその後の経過を確認しながら、仮に再発作があれば治療介入(抗てんかん発作薬の導入)を検討しましょう、と説明することになります。加えて、初回治療が遅くなった場合でも、長期的な発作コントロールに悪影響を及ぼすことはないことも言及します。
抗てんかん発作薬の選択と効果
#56. 発作が再発するとしたら、
その期間は2年以内が多い。 N Engl J Med 1998; 338:429.
#57. 2回目の発作があるなら、
2年以内。 2回目の発作があるとすれば、それはそれほど遠隔期ではないことも説明を加えておくといいでしょう。多くの患者さんが1年以内の再発を経験する、また発作があるなら80-90%は2年以内に起こりうる、という事実も伝えておくといいでしょう。
#58. 2回目のてんかん発作ののち、
反復するリスクは
(4年以内に)70%である。 N Engl J Med 1998; 338:429.
#59. 2回目の発作があるなら、
再発率は70%。 そして、初回発作を起こした患者さんには、2回目の発作があればどうするか、ということも併せて説明しておきます。2度あれば発作再発リスクは70%と高く、すなわちこれはてんかんの定義を満たし、診断に至ることを説明します。そしてその場合には、抗てんかん発作薬の内服治療は必要であることも言及しておきます。一方で先述の如く、初回発作の状態でもすでに発作反復リスクが高い病態が知られています。そのハイリスク病態とは、脳卒中後てんかん、中枢神経感染症、頭部外傷後などです。この場合には、初回発作の時点から抗てんかん発作薬の使用は検討されます。これらの病態では、初回発作においても反復リスクがすでに60-70%であることが知られているからです。
#60. 最初に選んだ抗てんかん発作薬で
発作抑制できる確率は
50%程度である。 Epilepsia 2001; 42:1255.
薬剤抵抗性てんかんの管理と対策
#61. 最初の薬で50%発作抑制できる。 これは治療を開始した際に伝えておく内容です。前向きな解釈としては、最初に選んだ薬でによって発作抑制が可能になり、一定の治療目標が達成できる可能性について説明することができます。一方で、最初の薬を飲んだらそれでおしまい、というわけではなく、しばらくは投薬調整が必要である、ということを理解してもらうためにも必要な説明になります。
#62. 内服治療で発作抑制可能な症例は
70%程度である。 Epilepsia 2010; 51:1069.
#63. 内服治療でなんとかなるのは70% 治療開始時点では患者さんに前向きになってもらいたいものです。おおむね、多くの患者さんが内服治療で緩解状態にできることを説明できます。これは治療を始める前の患者さんにとっては安心材料になると思われます。
#64. 内服治療でコントロール不良は30% 逆を言えば、その逆の30%では治療に難渋する症例もありえます。その場合は薬剤抵抗性てんかんといいます。薬剤抵抗性てんかんは、「忍容性のある2剤の抗てんかん発作薬を併用しても発作抑制ができない状態」と定義されます。
1剤目で発作抑制されるのは49%、2剤目を追加した場合は+13%発作抑制可能です。しかしながら、3剤目を追加しても+4%の抑制が達成されるのみと言われています。 Neurology 2012; 78:1548.
#65. 内服治療でコントロール不良は30% ここで重要な知識しては薬剤抵抗性てんかんとして理解される場合の診断と治療の再考の必要についてです。この場合いくらか検討事項はありますが、最も重要なアクションは、同じ治療方針に拘らず、速やかにてんかん専門医へのコンサルテーションを行うことです。地域にてんかんセンターを標榜する施設があるなら、そこに紹介することを選択肢に挙げることになります。治療抵抗性で難治性である、と判断していたが実は真の発作ではなかった、とか、そもそもてんかんではなかった、ということもあり得ます。また治療の追加オプションとして、薬剤抵抗性てんかんの場合には、てんかんの外科的治療も選択肢として検討されることになります。
高齢者てんかんの治療と留意点
#66. 高齢者てんかんにおける、診断、治療、留意点? Q. 高齢者てんかんで
注意することは?
#68. 高齢者てんかんは発作が特徴にかけ、目立たない可能性があることから診断の難しさがあります。高齢者てんかんでは、けいれん発作など運動症状が目立たないことも多いとされます。典型的な症状としてよくみられるのは、「①一点を見つめてボーっとしている、②問いかけに対する応答がない/要領を得ない回答になる、③口をもごもご、手をもぞもぞと動かして意識がはっきりしない、④動作が止まっている、⑤一定時間の記憶が飛ぶ(気づいたら別の場所にいた)」などです。症状の持続時間は,数十秒から数分のことが多く、発作後もうろう状態から徐々に意識が戻ります。高齢者てんかんの発作とは一言でいうと、「意識減損および自動症を呈する軽微な発作」といえます。 高齢者てんかん①
どうやって疑うか?
#69. 高齢者てんかんの診断の難しさの理由は、
前兆の欠如・運動症状の欠如・併存する認知症の存在・せん妄と誤診されやすい、などが挙げられます。てんかん発作を認める高齢患者は認知機能障害を併発していることが多く、正確な病歴を述べることが困難な場合があります。よって、周囲の家族やケアスタッフからの病歴聴取が重要です。言語による病歴聴取が難しい場合もありますが、この場合にはスマホでの動画で発作の様子を撮影してもらい、情報提供してもらうと診療に役立ちます。 高齢者てんかん②
診断の難しさ
#70. 高齢患者における抗てんかん発作薬の選択は、肝代謝の低下、腎機能低下など、薬物代謝の問題で複雑になります。さらに、高齢者では、併存症や多剤併用が問題となりえます。簡単に言えば、薬剤副作用による忍容性が悪化する可能性が高くなります。一般的には高齢者てんかんは治療反応性が比較的高いとされていますが、忍容性の面において悩むことが多々あります。高齢者診療で相性の悪い薬剤については心得ておくとよいでしょう。 高齢者てんかん③
薬物選択の難しさ
発作予防薬の分類と使用法
#71. 何を基準に、どの薬剤選択する? Q. 発作予防薬は何を選ぶ?
#73. 抗てんかん発作薬について てんかんで使用する薬剤は過去には抗てんかん薬(anti-epileptic drug: AED)という単語が使用されていました。現在はより薬剤の意図を明確化するために、抗てんかん発作薬(anti-seizure medicine: ASM)という単語の使用に変更となっています。抗てんかん発作薬は、広域スペクトラムと狭域スペクトラムの薬剤に分類されます(表)。広域スペクトル薬剤は焦点発作と全般発作の両方に有効で、狭域スペクトル薬剤は主に焦点発作に有効です。
#74. 広域 VS 狭域スペクトラム JAMA 2022; 327:1269.
抗てんかん発作薬の具体的な選択肢
#76. 発作予防薬の立ち位置と分類 LEV LCM LTG ZNS CBZ VPA CLB PRM TPM 第1選択薬 新規薬 従来薬 Add on 1 2 3 3つのグループに分けると考えやすい。グループ①は頻用する第一選択となりやすい薬剤。
グループ②は従来薬。グループ③はadd onで使用する薬剤。
#77. 広域スペクトラム薬剤。最もよく使用される薬剤の1つです。焦点発作でも全般発作でも、レベチラセタムはともにカバーしており、あらゆる年代の、多様なシチュエーションで使用可能な薬剤です。忍容性、有効性ともに優れているとされます。焦点発作での第一選択薬の一つです。一方で、精神症状や眠気が問題になりうるので、これらの副作用により高齢者診療においては忍容性が問題になることもありうることは知っておく必要があります。また、既知の精神症状がある患者さんでは使用を避けるべきでしょう。 レベチラセタム
#78. レベチラセタム同様、焦点発作でも全般発作でもともにカバーしており、使用しやすい薬剤といえます。焦点発作の第一選択薬です。弱点は、漸増対応が必要ですので、十分な投与量に至るまでには時間を要する点にあります。よって、すぐに効果を期待したい場合には不適です。また、薬疹のリスクが一定数ありうることも悩ましいところです。薬疹については、皮疹が出現するリスクの言及と、皮疹が出現したらすぐに中止することをしっかり説明しておく必要があります。 ラモトリギン
#79. 近年多く使われるようになっている薬剤です。焦点発作に使用します。高齢者においても比較的忍容性が高く、有効性も期待しやすい薬剤といえます。Na+チャンネル遮断薬であり、心伝導障害のリスクがあります。ラコサミドが徐脈の原因になることがあることは知っておく必要があります。 ラコサミド
#80. 過去には焦点発作の第一選択薬として活躍してきました。従来薬における中核的な役割を果たしてきた薬剤ですが、多様な副作用が問題になりうる薬剤です。副作用とは、皮疹、血球減少症、傾眠、SIADH、薬物相互作用(肝代謝酵素誘導により、他の薬剤の血中濃度を低下させる)などです。副作用の点から、新規薬剤が登場してからは使いにくさが目立っているとも言えます。全般発作のミオクロニー発作・欠神発作を増悪させるため、この場合は使用しません。また、情動安定化作用があることも知っておいてください。 カルバマゼピン
発作予防薬の立ち位置と治療戦略
#81. 過去には全般発作の第一選択薬として活躍してきました。忍容性は高いです。高NH3血症の原因になりうることには留意が必要です。成人診療において重要な知識としては、成人発症のてんかん(つまり、焦点発作)に対しては基本的には使用しない、という点です。プライマリケア医にとっては、成人発症のてんかんでバルプロ酸を使用するケースは乏しいものだ、と理解しておいてよいです。一方で、バルプロ酸が小児期・思春期発症の全般てんかんで使用され、その処方が成人になっても継続しているケースはありえます。 バルプロ酸
#82. そのほかには、ペランパネル、トピラマート、クロバザムが挙げられます。Overviewの表ではグループ③として分類しています。このグループは、発作抑制効果が高いが、忍容性は問題になりやすい薬剤として分類しています。よって、困ったら追加で使用する、という立ち位置として理解してよいでしょう。 その他のASMについて
PRM・TPM・CLB
#83. 発作予防薬の立ち位置と分類 LEV LCM LTG ZNS CBZ VPA CLB PRM TPM 第1選択薬 新規薬 従来薬 Add on 1 2 3 3つのグループに分けると考えやすい。グループ①は頻用する第一選択となりやすい薬剤。
グループ②は従来薬。グループ③はadd onで使用する薬剤。
#84. 最初に選びやすい薬:グループ①から、レベチラセタム、ラコサミド
A:イーケプラ🄬(レベチラセタム)500mg 1回1錠、1日2回、朝夕食後
B:ビムパット🄬(ラコサミド)100mg 1回1錠、1日2回、朝夕食後
例えば、Aで開始したとします。有効性・忍容性に問題がある場合はBへの変更を検討します。また、有効性が不十分だと考えた場合で併用療法を検討するとしたら、グループ①から2剤選ぶことは多いです(例:A+B)。 ASMの立ち位置について
#85. 発作予防薬の立ち位置と分類 LEV LCM LTG ZNS CBZ VPA CLB PRM TPM 第1選択薬 新規薬 従来薬 Add on 1 2 3 3つのグループに分けると考えやすい。グループ①は頻用する第一選択となりやすい薬剤。
グループ②は従来薬。グループ③はadd onで使用する薬剤。
てんかん診療のまとめと重要知識
#86. 従来薬で、2剤目以降の選択肢になる薬:グループ②から、カルバマゼピン、ゾニサミド
C:テグレトール🄬(カルバマゼピン)100mg 1回2錠、1日2回、朝夕食後
D:エクセグラン🄬(ゾニサミド)100mg 1回1錠、1日2回、朝夕食後
例えば、グループ①から1剤選んだ後、有効性が不十分だと考えた場合で併用療法を検討するとしたらグループ②から追加します(例:A+C、B+Dなど。)従来薬の利点として、そのコストの安さが挙げられます。 ASMの立ち位置について
#87. 発作予防薬の立ち位置と分類 LEV LCM LTG ZNS CBZ VPA CLB PRM TPM 第1選択薬 新規薬 従来薬 Add on 1 2 3 3つのグループに分けると考えやすい。グループ①は頻用する第一選択となりやすい薬剤。
グループ②は従来薬。グループ③はadd onで使用する薬剤。
#88. 有効性が高く、add onで使用する薬:グループ③から、ペランパネル、トピラマート
E:フィコンパ🄬(ペランパネル)2mg 1回2錠、1日1回、眠前
F:トピナ🄬(トピラマート)100mg 1回2錠、1日2回、朝夕食後
このグループは発作抑制で困った場合に追加で使用することが多いです。例えば、グループ①からA+Bの処方を選んだとします。2剤で発作抑制困難だった場合は、有効性を追求して、グループ③から追加します(例:A+B+E)。 ASMの立ち位置について
#89. まとめ 整理して押さえておく、最低限の知識・ルールはある。
治療開始のルールについて
てんかんの鑑別・診断におけるフローについて
診断・治療に役立つ数字について
治療薬の捉え方について
高齢者てんかんへの理解について
てんかん診療の基礎となる網羅的な知識を学びました。