#4.
梅毒の基礎知識 • 梅毒トレポネ−マ(Treponema pallidum)による細菌性の性感染症 • 病期に応じて多彩な臨床像を呈する • • • • • 早期顕症梅毒Ⅰ期 早期顕症梅毒Ⅱ期 晩期顕症梅毒 神経梅毒 先天梅毒 • 性的接触が主な感染経路 • 先天性梅毒は母子感染によって起こる Treponema pallidum 国立感染症研究所HP 梅毒とは より転載 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/465-syphilis-info.html
#5.
なぜ、いま梅毒を学ぶのか?ー 神経症状から • 「神経梅毒は末期の症状」というイメージとは異なり、 あらゆる病期で起こり得ることが分かっている • 早期神経梅毒:髄膜炎や髄膜血管梅毒 • 晩期神経梅毒:脊髄癆や進行麻痺 • 発見と治療が遅れれば生命予後・機能予後も悪くなる • 感染が蔓延している 梅毒の検査前確率上昇 • 正しく診断して、治療に繋げる必要がある!
#6.
梅毒の病期について • 早期からの中枢神経浸潤は少なくない • 早期神経梅毒では髄膜炎をはじめ、 様々な病態があり得る • 進行麻痺や脊髄癆などの後期神経梅毒も、 早ければ数年程度で生じることになる 日本性感染症学会 梅毒診療ガイド https://jssti.jp/pdf/syphilis-medical_guide_v2.pdf より転載
#7.
神経梅毒の位置づけ • 神経梅毒、眼梅毒、耳梅毒は、 どの病期でも起き得るため注意が必要! 日本感染症学会 梅毒診療の考え方 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/syphilis_240404.pdf より転載 梅毒と診断した時点で、 神経症候や目・耳の症状も 確認する必要があります。
#8.
梅毒って昔の病気じゃないの? • 第二次世界大戦以後、ペニシリンの普及により激減 • 日本では1948年以後、全数報告が開始 • 1960年代後半に10,000件を超える流行があった後は、減少 • 2000年代には500-900件に • しかし2011年以降、再度増加傾向・・・! Treponema pallidum 国立感染症研究所HP 梅毒とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/465-syphilis-info.html
#9.
今、梅毒が増えている • 梅毒の患者数は増加の一途 • 10年で男性は10倍、女性は20倍! • 女性の中では圧倒的に20代が多い! ※2021年は、第1~52週2022年10月8日時点集計値(暫定値)、2022年は第1~44週2022年11月9日時点集計値の報告を対象 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html より転載 性風俗業や、不特定パートナーとの性交渉の増加の影響が疑われます。 いわゆるパパ活、出会い系アプリ利用者の増加も後押ししてるかもしれません。
#10.
最新の動向(2024年7月現在) • 男性、女性ともに増加 • 2015年から、男性は異性間感染が 同性間感染を上回った 国立感染症研究所 日本の梅毒症例の動向について https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2024q2/syphilis2024q2.pdf より転載
#11.
陽性者の病期について • 男性異性間は、症状が顕在化してから 発見されるケースが多い 国立感染症研究所 日本の梅毒症例の動向について https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2024q2/syphilis2024q2.pdf より転載
#12.
早期顕症梅毒Ⅰ期 • 梅毒トレポネーマの侵入部位に、初期硬結、硬性下疳などの限局性の病変が出現 • 硬性下疳とは、初期硬結にできた潰瘍のこと • 所属リンパ節腫脹を伴うことも • 無痛性の場合が多く、約3~6週間で自然に軽快 • 自然軽快のため受診の遅れに繋がりやすい 国立感染症研究所HP 口腔・咽頭梅毒の臨床像と診断のピットフォール より転載 https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2617related-articles/related-articles-526/12414-526r03.html 宮野良隆, 口腔咽頭科 6: 61-70, 1994
#13.
早期顕症梅毒Ⅱ期 • 梅毒トレポネーマが全身に血行性に移行し、多彩な症状を呈する • バラ疹(手掌、手背、下腿、前腕、背部などの無痛性の紅斑) • 発熱、倦怠感、全身リンパ節腫脹 バラ疹 • 消化器系、泌尿器系、筋骨格系の症状 • Ⅰ期と同様、自然に軽快 Intern Med. Published online March 18, 2024. doi:10.2169/internalmedicine.3383-23 より転載
#14.
晩期顕症梅毒 • ゴム腫(どの臓器にもできる肉芽腫性病変で、周囲組織の破壊を伴う) • 大動脈瘤や大動脈弁逆流症などの心血管梅毒 • 脊髄癆や進行性麻痺などの晩期神経梅毒 • 現在では晩期顕症梅毒は稀とされる 「皇帝になった」「アフリカ全土をものにした」「尿と一緒にダイヤモンドが 流れ出るほど裕福になった」などの誇大妄想を伴う認知機能障害の報告も。 N Engl J Med. 2019;381(14):1358-1363.
#15.
早期神経梅毒 ※神経梅毒に関して早期・晩期はあくまで目安であり、 実際には様々な経過があり得ます
#16.
無症候性神経梅毒 • 数週間~数か月で神経系への移行が確認されることがある • 髄液異常で発覚 • 細胞数 > 100/μL の上昇 • 100 mg/dL を超えない程度の蛋白上昇 • HIV非感染例では、リンパ球数 > 5/μL か蛋白 > 45 mg/dLで診断 • ただし神経症候の無い例での髄液検査は、転帰改善の 明確なエビデンスがないため、米国CDCからは推奨されていない CDC Neurosyphilis, Ocular Syphilis, & Otosyphilis https://www.cdc.gov/syphilis/hcp/neurosyphilis-ocular-syphilis-otosyphilis/
#17.
髄膜炎 【症状】 頭痛、項部硬直、嘔気、脳神経障害(Ⅶ、Ⅷが有名) 初感染後2年以内の発症が多い 【検査所見】 髄液リンパ球数は一般に200~400 /μL 髄液蛋白濃度は一般に100~200 mg/dL MRIで髄膜の造影効果 脳神経の造影効果が見られることもある 顔面神経麻痺を来した例における、造影T1強調像での 顔面神経の造影効果 J Neuroradiol. 2023;50(2):241-252.
#18.
眼梅毒 • ほとんどすべての眼構造が障害される可能性がある • 後部ぶどう膜炎、汎ぶどう膜炎による視力低下が最も多い • 視神経障害、間質性角膜炎、前部・中間部ぶどう膜炎、網膜血管炎なども • 梅毒性髄膜炎を伴うことが多いが、全例ではない • 他疾患と間違えてステロイド投与をすることで悪化する可能性がある JAMA Ophthalmol. 2014;132(5):649-650.
#19.
耳梅毒 • 前述のとおり、どの病期でも起こる可能性がある • 蝸牛・前庭系への梅毒感染で引き起こされる • 症状は、感音性難聴・耳鳴り・回転性めまいなど • 眼振が確認できることがある • 他の病変を伴わない例では、診断が困難なことが多い Open Forum Infect Dis. 2022;10(2):ofac685.
#20.
晩期神経梅毒 ※神経梅毒に関して早期・晩期はあくまで目安であり、 実際には様々な経過があり得ます
#21.
髄膜血管梅毒 【症状】 発症前:頭痛、めまい、不眠 初感染から5-10年後の脳梗塞等の血管イベント 【検査所見】 脳または脊髄の梗塞 中大脳動脈が最も侵されやすい 血管の狭窄や、造影効果を伴う同心円状肥厚 梅毒に伴う中大脳動脈・前大脳動脈の狭窄と脳梗塞 梅毒に伴う基底核領域の脳梗塞と、髄膜の造影効果 J Neuroradiol. 2023;50(2):241-252.
#22.
ゴム腫 【症状】 占拠性病変に伴う各種症状 頭痛、頭蓋内圧亢進症状、巣症状、てんかん発作 【画像所見】 MRIで結節性腫瘤 隣接する大脳皮質を巻き込む 造影効果あり FDG-PETの取り込み亢進を示すことがある ゴム腫 FLAIR像のの高信号域、同部位は不均一な造影効果 この症例では髄膜炎による造影効果も伴っている J Neuroradiol. 2023;50(2):241-252.
#23.
髄膜脊髄炎 【症状】 進行性の痙性対麻痺 初感染から平均6年程度とされている 【検査所見】 MRI T2WIで中心性・長大な高信号域 脊髄のT2WI高信号域 J Neuroradiol. 2023;50(2):241-252.
#24.
脊髄癆 梅毒後期に発症する、脊髄後索の緩徐進行性の変性 【症状】 • 失調出現前 脚の痛み、Argyll Robertson瞳孔、反射や知覚の低下・消失 • 失調出現後 運動失調、疼痛の悪化、足の潰瘍、Charcot関節 • 麻痺期 重度の痙性対麻痺、自律神経機能障害 【画像所見】 脊髄後索の、T2WIで縦方向に広範な高輝度病変 脊髄後索のT2WI高信号域 Infect Drug Resist. 2024;17:2567-2577.
#25.
検査、診断 • 非トレポネーマ脂質抗原検査(STS)と、 梅毒トレポネーマ抗体の2種類を組み合わせて診断する • RPR法はSTSの代表的な方法で、 TPHA法は梅毒トレポネーマ抗体の代表的な方法 • 神経・眼・耳の症状が無いかチェック! (治療にかかわるので) 日本感染症学会 梅毒診療の考え方 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/syphilis_240404.pdf より転載
#26.
神経梅毒の治療 【第一選択】 • ペニシリンG 1日300万~400万単位を4時間ごとの静注 10-14日間 または1日1,800万~2,400万単位の持続静注 10-14日間 【アドヒアランスが確実な場合の代替療法】 • プロカインペニシリンG 240万単位を1日1回筋注 10-14日間 +プロベネシド500mg 1日4回 経口投与 10-14日間 眼梅毒・耳梅毒も、 これに準じます。 【追加治療の考慮】 • 上記レジメンの終了後に、ペニシリンベンザチン塩 (ステルイズ🄬🄬) 240万単位を週1回筋注射、1-3週間の追加を考慮 CDC Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/neurosyphilis.htm
#27.
参考:通常の梅毒治療 第1選択 • アモキシシリン水和物 1回500mg • ベンジルペニシリンベンザチン 1日3回経口投与 28日間 • 早期梅毒:1回240万単位 筋注 単回 • 後期梅毒:1回240万単位 筋注 1週間ごとに3回 第2選択 • ミノサイクリン塩酸塩 1回100mg 1日2回 経口投与 28日間 神経・眼・耳の病変を見逃して通常治療をすると、 効果不十分となる可能性があります。
#28.
治療効果判定 神経梅毒の治療効果判定 神経・眼・耳以外の梅毒の治療効果判定 • 血清RPR価の正常化は、 髄液検査値正常化を予測するとされる • このため、 血清学的・臨床的に治療効果があれば、 髄液検査は必須ではない CDC Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/neurosyphilis.htm 日本感染症学会 梅毒診療の考え方 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/syphilis_240404.pdf より転載
#29.
神経系からみた梅毒のまとめ • 脳神経、脳実質、脳血管、脊髄、末梢神経・・・ 梅毒は様々な病変を来し得るので、常に神経梅毒は頭の片隅に置く • 梅毒と診断した例では、神経系・眼・耳の症状が無いかしっかり確認する • 梅毒で視力・聴力障害が疑われれば、眼科・耳鼻科に紹介を! • 神経・眼・耳梅毒の場合は、神経梅毒の治療プロトコルで! うつ、認知機能低下、パーキンソン症状を来す 神経梅毒もあります。
#30.
参考文献等 • 国立感染症研究所HP 梅毒とは 梅毒診療ガイド https://jssti.jp/pdf/syphilis-medical_guide_v2.pdf • 日本性感染症学会 梅毒診療の考え方 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/syphilis_240404.pdf • 日本感染症学会 • 国立感染症研究所 • 厚生労働省 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/465-syphilis-info.html 日本の梅毒症例の動向について https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2024q2/syphilis2024q2.pdf 性感染症 梅毒 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html • 国立感染症研究所HP 口腔・咽頭梅毒の臨床像と診断のピットフォール https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2617-related-articles/related-articles-526/12414-526r03.html • 宮野良隆, 口腔咽頭科 6: 61-70, 1994 • Terada N, Sawafuji T. Syphilitic Hepatitis. Intern Med. Published online March 18, 2024. • Ropper AH. Neurosyphilis [published correction appears in N Engl J Med. 2019 Oct 31;381(18):1789. • CDC Neurosyphilis, Ocular Syphilis, & Otosyphilis https://www.cdc.gov/syphilis/hcp/neurosyphilis-ocular-syphilis-otosyphilis/ • Cor