テキスト全文
ベンゾジアゼピンの基本と副作用の理解
#1. Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital アンチベンゾ
#2. Introduction 臨床をやっていれば、
ベンゾジアゼピン(benzodiazepine: BZD)に関連する嫌な思いをしたことはあろう。
自分の臨床において、誰かのBZD処方の副作用(せん妄・離脱症候群など)の問題解決に対応せざるを得なかった経験もきっとあろう。
誰かの処方に対して、「BZDを処方するなら最後まで自分で責任持って処方してくれよ」といった陰性感情を持ったこともあろう。一方、きっと精神科の先生はきっと上手に使用しているはず。もちろんBZDは絶対悪ではないが、プロでないなら最小限に、 短期間使用にとどめることが好ましいのだろう。
ここでは【今一度アンチBZDの知識を整理して理解する】をテーマとしてみる。
#3. BZD総論と副作用 まずはベンゾジアゼピンの作用について学ぶ。
また、その副作用を知る。
BZDの使用目的と作用機序
#4. BZDの一般的な使用目的 ベンゾジアゼピンには、抗不安、催眠、抗けいれん、筋弛緩作用があり、主に不安症や不眠症の治療を意図して処方される。
#6. BZDの作用機序 GABAA受容体は5つのサブユニットからなる。
5つのサブユニットには多様な組み合わせがありうるが、中枢神経系ではα・β・γサブユニットが、2:2:1で構成されたものが多い。サブユニットごとに作用するともたらされる反応が異なる。ただし、いずれのBZDもそれぞれのサブユニットに作用するので、 GABAA受容体によってもたらされる多様な神経抑制症状がBZDによっておこる。その症状とは、睡眠、鎮静、抗不安、抗うつ、筋弛緩、健忘、依存性、耐性である。
BZD使用障害と依存症のリスク
#7.
ベンゾジアゼピン使用障害
(処方薬の乱用)リスク BDZ使用障害のリスクは以下が知られている。
●ベンゾジアゼピンの長期使用
●ベンゾジアゼピンの高用量使用
●教育レベルが低い
●不眠症の重症度が高い
●現在抗うつ薬を使用している
●アルコール依存症
また、ベンゾジアゼピン使用障害は、精神疾患の合併症と関連している。 Compr Psychiatry. 2004;45:88. Addiction. 2012;107:2173.
#8. BZDの問題
:BZD離脱症候群 BZD離脱症候群がBDZ使用における重要な問題として知られる。
慢性的なBZDへの暴露により、 GABAA受容体サブタイプの発現に変化を生じ、受容体の働きに変化を生じる(抑制反応が低下する)。
また、慢性BZD暴露後、BZD中断により、興奮性グルタミン酸受容体の発現が増加する(興奮性反応が増強される)。
結果、BZD中断により、多様な神経症状を認めうる。
#9. BZDの問題
:依存症 BDZ依存症の想定される機序
BZDは脳の報酬系である中脳辺縁系ドパミン系の、ドパミン濃度上昇を引き起こす。
BZDは報酬系に長期的な変化を起こす可能性がある。報酬系の変化により、 依存性がもたらされる。
まだ、BZDはα1サブユニットに作用することで依存性がもたらされる。
#10. まとめ BZDはGABAA受容体を介して神経機能に影響を与える。睡眠や抗不安などを意図して使用されるが、その他の反応も起こりこれが副作用になる。副作用として、筋弛緩や、健忘、依存性、耐性、またBZD離脱症候群のリスクをもたらす。
BZDが認知機能に与える影響とリスク
#11. BZDと
認知機能障害 神経機能抑制の結果、認知機能に影響がある。
#12. BZDは記憶障害や認知機能障害に影響する。 BZDが記憶や認知機能に与える急性の悪影響を及ぼすことは、 十分議論されている。
確かに、認知症診療の外来現場でBZDを中止のみで認知機能の改善を認めることもあり、 その悪影響は実感できる。となると、認知症をテーマにしている外来セッティングにおいては、BZD内服状態は問題視したくなる。もちろん、実際にはどれくらいBDZが悪さをしているのかは決めきれない。 Current Pharmaceutical Design 2002; 8: 45-58
#13. BZDが将来的な
アルツハイマー病発症の
リスクになるか? BZDの使用はアルツハイマー病の発症リスク増加と関連している可能性。認知症診断前にBZD使用すると、AD発症リスクが50%増加する。より多く投与された場合、また長時間作用型BZDを使用した場合にリスクはこの増加した。
こういう話題があれば、BZDへの陰性感情は強くなる。
急性経過でも慢性経過でも、認知機能障害への悪影響がある可能性が議論される。 BMJ. 2014;349:g5205.
#14. BZDが将来的な
アルツハイマー病発症の
リスクになるか??? BZDの使用と認知症発症リスクを関連付ける研究は多いが、実はその結果はまちまち。
そもそも、BZDが使用される理由が、認知症前駆段階における精神症状(不安・興奮・不眠など)による可能性もある。因果関係の証明は設定として難しい。
高齢者のBZD使用における副作用については、注視しながら対応せねばならないが、BZD使用自体が認知症発症リスクを高めるという十分な証拠は指摘できない。 Alzheimers Dement 2022;8:e12309.
#15. まとめ 短期的な使用において、BZDは認知機能を悪化させる。
長期的な使用がアルツハイマー病など変性疾患の発症リスクになることは証明されていない。 BMC Medicine volume 2024;22:266
BZDとせん妄の関連性とリスク
#16. BZDとせん妄 入院してきたときにBZDが入っていると身構えてしまう。
#17. BZDは入院せん妄発症リスクになる。 BZDの使用は、特に高齢者においてせん妄を引き起こすことが知られている。
ある病院で入院で使用する睡眠薬の推奨薬をBZDからスボレキサントに変更したところ、 せん妄発症が有意に減少した。
BZDは入院せん妄のリスクになるので、そもそも処方しないでおいてほしいという、
入院診療医の陰性感情はある。 Psychogeriatrics. 2021;21:324-332.
#18. BZDはせん妄発症に
絶対悪い??? BZDがせん妄発症の絶対的なリスクとはいいきれない。ICUにおけるBZD持続注入はリスクとはいえるが、それ以外の使用はBZDがせん妄リスクとは断定できない。
入院後使用されるBZDが、薬剤性せん妄のリスクになりうることは確か。
BZD常用者は入院後、BZDが継続できない場合のBZD離脱症候群のリスクにはなりうる。
あえて入院後、認知機能を下げるリスクがあるBZDを使うことはなかろう。
結局、離脱症候群を含めてせん妄としての表現型で悪さをしうるから入院前も入院後もBZDはない方がいい。 Intensive Care Med. 2015;41:2130-7. 2022年 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性せん妄
#19. まとめ BZDはせん妄発症リスクになりうるので、外来セッティングでも、入院後も使用しない方が好ましい。
高齢者におけるBZDと転倒リスク
#20. BZDと
転倒リスク 高齢者における転倒は大きな問題である。
#21. BZDは高齢者の転倒リスクである。 BZDが高齢者の転倒に影響があることはよく知られている。にもかかわらず、 高齢者にBZDは広く処方されている。
65歳以上で脳卒中で入院した患者で、入院3日以内にBZDを開始した場合、 30日間の転倒リスクが高まった。
BZDは処方直後に転倒イベントが多い。また、向精神薬やオピオイドとの同時処方も 転倒リスクを高める。 Arch Int Med. 2009;169:1952–60 Neurology April 9, 2024 BMC Geriatrics volume 2022;22:824
#22. 転倒は高齢者にとっては
大きな問題である。 高齢者の転倒は大きな健康問題であり、患者の生活の質を低下させることが多く、長期入院や死亡につながることもある。
65 歳以上の成人の少なくとも 30% が毎年転倒を経験しており、80 歳以上の成人では その割合が 50% に達する。転倒は高齢者の半数以上に長期的な後遺症を残しうる。
転倒は高齢者の主要な健康問題であることに異論はなかろう。 Maturitas 2017;101:17-22。
#23. まとめ BZDと転倒リスクとの関連には、問題があるといえる。
転倒イベントを避けるために、BZD処方は控える必要がある。
BZD離脱症候群の症状とリスク
#24. BZD離脱症候群 入院診療で悩まされるBZDの大きな問題。
#25. BZD離脱症候群の総論 BZD離脱症候群は、睡眠障害、いらだち、緊張と不安の増加、パニック発作、振戦、発汗、集中力の低下、悪心、体重減少、動悸、頭痛、筋肉痛とこわばり、および多数の知覚変化を特徴とする。より重症例では、けいれん発作や精神病反応などのより深刻な症状もある。
最も一般的な発症パターンは、中止後 1 ~ 4 日以内に発生する、短期間の「リバウンド」不安と不眠。
もう一つのパターンは、通常 10 ~ 14 日間続く完全な離脱症候群。 Addiction. 1994;89:1455-9.
#26. BZD離脱症候群の症状 軽度(2~3日)
•不安 •不眠症
中程度(2~14日)
•睡眠障害 •イライラ •不安、パニック発作
•震え •発汗 •集中力の低下
•吐き気、嘔吐
•体重減少 •動悸
•頭痛 •筋肉の痛みとこわばり
重度(2~14日)
•てんかん発作 •精神病
#27. BZD離脱症候群の
発症リスク・重症化リスク BZD離脱症候群の発症リスク
●脳損傷
●アルコール依存症
●脳波異常
ベンゾジアゼピン離脱症状の重症度悪化に関連する要因
●定期的に使用した後の突然の中止
●使用中止までの期間が長い
●高用量
●半減期が短い Clin Neuropharmacol 1987; 10:538. Am J Med 1988; 84:1041.
#28. まとめ BZD離脱症候群の懸念があり、BZD使用は控えたくなる。
発症リスク・重症化リスクは理解しておく。
BZD離脱症候群のリスクを鑑みて、常用患者でのBZD中断には注意が必要。
BZDの総括と適切な使用法
#30. BZDはGABAA受容体を介して
様々な効果をもたらす。
多様に影響するので副作用が問題になる。
転倒・認知機能低下・依存症・耐性・離脱
#32. BZDはせん妄のリスクになりうる。
BZD離脱症候群の懸念もある。
#33. BZDは高齢者の転倒に影響する。
高齢者の転倒は問題が多い。
#34. BZD使用は、
BZD離脱症候群のリスクになる。
#35. なんでもかんでも、悪者にしたくなるようなBZDです。しかしながら、上手な使い方を心掛ける、というところにつきるのでしょう。不必要にBZDを処方しないこと、減らせるBZDは減らすこと、またBZD離脱症候群やせん妄、転倒リスクなどを念頭において診療に臨むこと。これらが前向きな私たちができるアクションといえるでしょう。 THANK YOU!