#4.
Case 1
#5.
Case 1 60歳のアフリカ系アメリカ人女性。5年以上にわた る便秘を訴えて受診した。 便秘は重度で、過去5年間に何回か内科医を受診した ことがある。 便軟化薬と食物線維サプリメントを用いているが、し ばしば緩下薬も使用して、週1回排便する程度であ る。 「考える技術」スコット・スターン他、日経BP社
#6.
Case 1 検査でTSHだが、Ca値が10.8mg/dL(基準8.4〜 10.2)であった。 過去数年のCa値は11mg/dL前後で推移していた。
#7.
高Ca血症の症状 高Ca血症の症状は、神経精神系、胃腸系、腎尿路系、心 血管系、筋骨格系におよぶ。 血清Ca<12 mg/dLの場合は、無症状のことが多いが、便 秘、疲労感、抑うつなどが見られる。 血清Caが12〜14 mg/dLのときは、多尿、多飲、食欲不 振、嘔気などが見られる。 血清Ca>14 mg/dLの場合は、脱力感、注意力低下、混 乱、昏睡などが見られる。 多尿は、尿濃縮力低下による。慢性の高Ca血症では腎石 灰化や尿管結石も見られる。
#8.
Case 1 体調は良いが、高血圧があり、降圧薬としてアテノ ロール(テノーミン®、βブロッカー)、ヒドロクロ ロチアジド(サイアザイド利尿薬)を服用している。 喫煙している。家族歴として両親に高血圧がある。 健康診断(マンモグラフィ、大腸内視鏡、子宮頚部細 胞診)を最近受けて、問題はなかった。身体診察で特 記すべきものはない。
#9.
高Ca血症の原因は何か?
#10.
Case 1 サイアザイド利尿薬の服用を中止し、Ca値と血圧を 再検査するため1週間後に再診するように伝えた。
#11.
サイアザイド利尿薬→高Ca血症 ループ利尿薬→低Ca血症
#12.
高Ca血症の原因 1. 腸管からのCa吸収亢進 • • • • サルコイドーシス、結核などの肉芽腫性疾患 ミルク・アルカリ症候群 ビタミンD製剤の内服 Ca製剤の内服 2. 骨からのCa放出亢進 • • • • • 原発性副甲状腺機能亢進症 悪性腫瘍 甲状線機能亢進症 ビタミンA中毒 長期臥床 3. 腎からのCa排泄低下 • • サイアザイド利尿薬の長期投与 家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)
#13.
高Ca血症の三大原因 ・薬剤(ビタミンD、Ca製剤) ・原発性副甲状腺機能亢進症 ・悪性腫瘍
#14.
Ca、Pを制御する二大ホルモン ・ビタミンD ・PTH
#15.
ビタミンD 全身 Ca放出↑ Ca再吸収↑ Ca吸収↑ 血清Ca↑ P放出↑ P再吸収↑ P吸収↑ 血清P↑
#16.
PTH 全身 Ca放出↑ Ca再吸収↑ Ca吸収↑ 血清Ca↑ P放出↑ P再吸収↓ P吸収↑ 血清P↓
#17.
Case 1 サイアザイド利尿薬中止後に、血清Ca値を再検した が、変化はなかった。 検査結果 Ca 10.9mg/dL P 3.3mg/dL(基準2.5〜4.4) intact PTH 166pg/mL(基準<60) 尿中Ca排泄 245mg/日
#18.
高Ca血症の診断 高Ca血症 intact PTH正常値10-60pg/mL intact PTHを測定 上昇 ・原発性副甲状腺 機能亢進症 正常〜正常高値 または軽度上昇 正常低値または低下 intact PTH<20pg/mL PTHrP、1,25VitD、25-VitDを測定 ・原発性副甲状腺 機能亢進症 ・家族性低Ca尿性 高Ca血症も考慮 両者の鑑別には、尿中Ca 排泄が重要。FHHでは尿 中Ca排泄が低下する。 PTHrP上昇 ・液性因子による悪 性腫瘍性高Ca血症 1,25-VitD上昇 ・結核 ・サルコイドーシス ・リンパ腫 25-VitD上昇 ・ビタミンD製剤 血清蛋白電気泳動、尿蛋白電気泳動、 血清フリーライトチェーンを測定 異常あり ・多発性骨髄腫 異常なし 他の疾患(ビタミンA中毒、 甲状線機能亢進症)
#19.
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT) Caに対するPTH分泌制御異常が病態である(高Ca血 症にもかかわらず、PTH分泌が抑制されない)。PTH は骨に作用して骨吸収を促進し、高Ca血症をきた す。 男女比は1:2で、50-65歳で見つかることが多い。 原発性副甲状腺機能亢進症では、1腺腫(8085%)、複数腺の過形成(6-12% )、2腺腫(25%)、副甲状腺がん(1%)である。
#20.
家族性低Ca尿性高Ca血症とは 家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)は、優性遺伝の疾患 である。多くの場合、小児期に見つかるが、成人になっ て見つかることもある。 Ca感受性受容体(Calcium-sensing receptor; CaSR) を不活化するヘテロ変異が原因。 高Ca血症、低Ca尿症、PTH正常(20%で軽度高値)。
#21.
Ca感受性受容体(CaSR)の作用 Ca2+ Ca感受性受容体 抑制 PTH放出 副甲状腺主細胞 Ca2+がCa感受性受容体に結 合すると、PTHの分泌が抑え られる。
#22.
なぜFHHでは高Ca血症になるか 副甲状腺主細胞膜上の正常なCaSRが減少し、Caへの反 応性が悪くなる。副甲状腺の分泌を抑制する血清Ca濃度 が上昇し、高Ca血症となる。 健常者:Ca上昇→PTH分泌低下→Ca正常化 FHH:Ca上昇→PTH分泌変化なし→Ca上昇のまま 腎臓では、正常なCaSRが減少し、低Ca尿症となる。 高Ca血症のために髄質間質のCa2+が上昇すると、TALの基底側膜のCaSRへ のCa結合が増加する。これによりROMKの阻害が起こり、管腔正の電位が 減少する。管腔正の電位は傍細胞経路でのCa2+の再吸収を駆動しているの で、最終的に、Ca2+の再吸収が減少し、Ca排泄が増加する。 したがって、CaSRが減少すると、高Ca血症にもかかわらず、Caの排泄が 増加しない。
#23.
FHHと原発性副甲状腺機能亢進症 FHHは血清Ca値の上昇が軽度で、PTHは正常、原発性 副甲状腺機能亢進症はPTHが上昇しているので、鑑別 は比較的容易だが、時に、FHHでPTHが上昇して、鑑 別がしにくいことがある。しかし、以下の点で、鑑別 可能。 FHHは、通常、家族歴がある。 FHHでは、尿Ca排泄が低下する。 FHHでは、血清Mgはしばしば上昇する。
#24.
Case 1 高Ca血症とPTH上昇、尿中Ca排泄増加により、原発 性副甲状腺機能亢進と診断した。 ひどい便秘があるので、副甲状腺機能亢進を治療する ことになった。副甲状腺の核医学検査では正常であっ たが、頚部の外科的探索によって、3x3cmの副甲状 腺腫(4g)が見つかり外科的に切除された。
#25.
Case 1 その後の経過観察で、患者のCa値は迅速に正常化し たが、便秘は続いた。 最終的に、便秘は機能的なもので、高Ca血症とは無 関係と考えられた。
#26.
Case 2
#27.
Case 2 80歳女性。傾眠、腹痛のため受診した。1年前から心 窩部痛があった。痛みは軽度であったが、6週間前よ り、重度で持続的になってきた。娘が、週1回の会食 時に幾分錯乱していることに気付き、外来に連れてき た。 傾眠がちだが、人と場所に対する見当識は保たれてい た。体温36.9℃、脈拍94/分、血圧110/90mmHg、 呼吸数14/分であり、起立性低血圧があった。診察で は悪液質が目立ち、肝腫大を認めた。 「考える技術」スコット・スターン他、日経BP社
#28.
Case 2 外来での検査結果 Na 134mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 99mEq/L、 Ca 15.0mg/dL、P 1.4mg/dL、HCO3 26mEq/L BUN 24mg/dL、Cr 0.8mg/dL、血糖117mg/dL、 アルブミン3.9g/dL、総ビリルビン0.9g/dL、 直接ビリルビン0.6g/dL、ALP 800単位/L、 AST 124単位/L、ALT 86単位/L
#29.
高Ca血症の原因は何か?
#30.
高Ca血症の三大原因 ・薬剤(ビタミンD、Ca製剤) ・原発性副甲状腺機能亢進症 ・悪性腫瘍
#31.
原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍で90% 原発性副甲状腺機能亢進症は、外来患者、悪性腫瘍は 入院患者で見つかる。 原発性副甲状腺機能亢進症で見られる高Ca血症は、 血清Ca 11mg/dL以下がほとんど。血清Ca 13mg/ dLを越えていたら、悪性腫瘍と考えてよい。
#32.
Case 2 重大な既往歴はないが、5年以上受診していなかっ た。 腹痛に対して市販の炭酸カルシウムを服用することが あったが、時々服用するだけで、ここ数日は飲んでい なかった。他の服用薬はなかった。 システムレビューでは、以前から自覚していた疲労感 と腹痛の他に特記すべきものはなかった。 腹部超音波検査で、多発肝腫瘤像が認められた。
#33.
悪性腫瘍による高Ca血症 PTHrP産生を介した「液性因子による悪性腫瘍性高 Ca血症(humoral hypercalcemia of malignancy; HHM)」(悪性腫瘍による高Ca血症の80%) 悪性腫瘍の骨融解性の骨転移
#34.
液性因子による悪性腫瘍性高Ca血症 悪性腫瘍によるPTHrP産生によって高Ca血症 PTHrPは、多くの非腫瘍組織から産生される生理的 な蛋白質である。PTHrPは、PTHとN末端の相同性が 高く、同じ受容体に作用する。 PTHrP産生腫瘍として多いのは、扁平上皮がん (肺、頭頸部)と腎臓がん、膀胱がん、乳癌、卵巣が ん。
#35.
骨融解による悪性腫瘍性高Ca血症 最も多いのは乳癌と多発性骨髄腫。 局所的な骨融解作用によって、高Ca血症を生じる。
#36.
Case 2 生理食塩液の投与により、Ca値は3日かけて 11.2mg/dLまで低下した。 胸/腹/骨盤CTで、大きな肺腫瘤と多発肝腫瘤が認め られた。CTガイド下肝生検の結果は転移性扁平上皮 癌であり、肺が原発の可能性が高いと考えられた。
#37.
Case 2 検査結果は以下の通り。 PTHrP:3.3pmol/L(基準0〜1.9) PTH:13pg/mL(基準<60) 高Ca血症はPTHrP産生を伴う悪性腫瘍によるものと 推定された。 生理食塩液とともにゾレドロン酸(ビスホスホネート 製剤)が投与された。 患者と家族は緩和的化学療法による治療を選択した。 12週ほどで顕著に状態が悪化し、化学療法は中止さ れ、ホスピスに転院となり、4週後に亡くなった。
#38.
高Ca血症の治療 高Ca血症に対し緊急の治療をおこなうかは、原因疾患 と症状の有無、高Ca血症の程度によって判断する。 症状がないか、軽度の症状であり、12mg/dL以下→ 必要ない 症状がないか、軽度の症状であり、12-14mg/dL→ おそらく必要ない 意識障害を伴うか、14mg/dLを超える→必要 重症の高Ca血症の緊急治療では、生理食塩液、カルシ トニン、ビスホスホネートの投与をおこなう。
#39.
高Ca血症の治療-生理食塩液 生理食塩液は、浮腫がなければ、200-300ml/時で投 与を開始し、尿量が100-150ml/時を維持するように する。 高Ca血症は尿の濃縮障害を引き起こすので、尿中へ の水分喪失も合併している可能性が高い。このような 状態では腎でのCa再吸収も亢進して、ますます高Ca の方向に傾く。生理食塩液の投与は、脱水を改善する とともに、Caの尿中への排泄を促進する。
#40.
高Ca血症の治療-フロセミド ラシックス®(フロセミド) ループ利尿薬はHenleの太い上行脚のCa再吸収を抑制 し、高Ca血症を改善する。生理食塩液の大量投与と フロセミドによる利尿は、時に、電解質異常を誘発 し、厳格なモニターが必要なので、ビスホスホネート が使用可能になった現在は、その意義は少なくなって いる。
#41.
高Ca血症の治療-カルシトニン エルシトニン®(エルカトニン)40単位筋注、1日2 回。 カルシトニンは生理的に破骨細胞の作用を抑制する作 用を持つ。その効果は強力で迅速で、4-6時間で作用 するが、初期には有効でも、連日投与するうちに数日 で無効になる(エスケープ現象)。 ヒトのカルシトニンよりも、ウナギやサケなど魚類の カルシトニンの方が効果が強い。エルカトニンは合成 ウナギカルシトニンである。
#42.
高Ca血症の治療-ビスホスホネート ゾメタ注 ®(ゾレトロン酸)1回4mg 生理食塩液 100mLに溶解し15分以上かけて点滴静注 アレディア注®(パミドロ酸)1回30−45mg 生理食 塩液 500mLに溶解し4時間かけて点滴静注 ビスホスホネート製剤は持続的で強力なCa低下作用 を持つが、最大効果の発現には1-3日を要する。効果 は2-4週持続する。 ビスホスホネート製剤に不応の場合には、デノスマブ (抗RANKL抗体製剤)も一つのオプション。
#43.
ビスホスホネート製剤とは ビスホスホネートは、生体内物質であるピロリン酸のP-O-Pの構造を P-C-P構造に変えたものである。 ピロリン酸は生理的な石灰化抑制 物質であるが、生体内では速やかに分解される。 しかし、ビスホス ホネートは生体内では代謝されないため、 破骨細胞の活動を阻害し 強い骨吸収抑制作用をもっている。 ビスホスホネートは体内で骨まで到達した後、骨の構成成分のハイド ロキシアパタイトに結合する。破骨細胞(骨吸収を担う細胞)が骨を 削る際に、骨に結合しているビスホスホネートごと骨を食べると、破 骨細胞はアポトーシス(細胞が死ぬこと)を起こす。破骨細胞がいな くなるので、骨が削れなくなり、結果的に骨量が増加する。 骨粗鬆症で広く使われると共に、悪性腫瘍による高Ca血症にも使わ れる。
#44.
高Ca血症の治療-血液透析 高度の高Ca血症に対しては、血液透析は素早く確実 に血清Ca濃度を下げる。透析液のCa濃度を下げるこ とにより、Ca除去効率を上げることが出来る。
#45.
高Ca血症の緊急治療 生理食塩液の投与 脱水を改善するとともに、Caの尿中への排泄を促進する。 カルシトニン 破骨細胞の作用を抑制し、即効性のCa低下作用があるが、 エスケープ現象がある。 ビスホスホネート 持続的で強力なCa低下作用を持つが、最大効果の発現には 約2-4日を要する。 血液透析 高度の高Ca血症に対しては、血液透析は素早く確実に血清 Ca濃度を下げる。
#46.
Take Home Message
#47.
高Ca血症の原因疾患 まず、薬剤(ビタミンD、Ca製剤、サイアザイド利尿 薬)を除外する。 外来患者では、原発性副甲状腺機能亢進症を考える。 入院患者では、悪性腫瘍を考える。
#48.
高Ca血症の緊急治療 生理食塩液の投与 脱水を改善するとともに、Caの尿中への排泄を促進する。 カルシトニン 破骨細胞の作用を抑制し、即効性のCa低下作用があるが、 エスケープ現象がある。 ビスホスホネート 持続的で強力なCa低下作用を持つが、最大効果の発現には 約2-4日を要する。 血液透析 高度の高Ca血症に対しては、血液透析は素早く確実に血清 Ca濃度を下げる。