テキスト全文
片頭痛診療の基本的な理解
#1. Department of Neurology, Shonan Kamakura Genral Hospital
Daisuke Yamamoto. 2024 今日の
片頭痛診療2025
(甘口+中辛)
#2. Introduction 診療における医学知識は多様にあり、それらはばらばらに配置されています。
むしろ、配置すらもされていないかもしれません。
これらの知識を取捨選択し、実際のアクションにつなげることが
私たちには求められています。しかしそれは煩雑な作業です。
しかしながら、ここではハイレベルな診療ではなく、
シンプルに始められる片頭痛診療のベーシックを学んでいきましょう。
「今日は甘口+中辛」です。
#3. 片頭痛の診断 何はなくとも、まずは診断からです。
細かい各論はさておき、大枠のルールを抑えるのがここでの目標です。
片頭痛の診断基準と特徴
#4. 片頭痛の診断概念
を理解する 片頭痛とは、吐き気を伴うことが多く、光や音に対する過敏症を伴う、 動けなくなり、日常生活に支障をきたすレベルの強い頭痛を特徴とする、コモンな頭痛です。
まずは、この要約をイメージして覚えましょう。
片側性でない、拍動性でない、こともあるのでそれは留意。 Arch Intern Med 2000; 160:2729.
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)
#5. 片頭痛はコモンな頭痛 「コモンな頭痛です」:片頭痛は頻度の高い頭痛(人口の12-15%が罹患)です。片頭痛は30~39歳の人に最も多く見られ、この年齢層では男性と女性の有病率はそれぞれ7%と24%に達します。いずれかの一次性頭痛か、を区別することは重要ですが、まずは片頭痛か否か?から頭痛診療を始めていくことはわかりやすいと思います。片頭痛として説明しにくいと考えるなら、別の頭痛の診断を考慮していく方針でよいと思います。 Headache 2001; 41:646. Neurology 2007; 68:343.
#6. 片頭痛は体動で増悪する 「動けなくなり、日常生活に支障をきたす」:シビアな頭痛発作をきたすのが片頭痛らしいです。頭痛がつらく、日常生活に支障をきたしているレベル(仕事や学校を休む、家事ができないなど)のシビアな頭痛では片頭痛を想起します。また、体動で増悪するのが片頭痛です。動けないような頭痛なので、生活に支障をきたすのです。 Arch Intern Med 2000; 160:2729.
#7. 片頭痛は悪心を伴う 「吐き気を伴う」:片頭痛では悪心があることは多いです。悪心の有無も確認します。この後の治療戦略においても、悪心の有無は重要です。悪心を伴う頭痛であるかどうか?を確認しましょう。 Arch Intern Med 2000; 160:2729.
#8. まぶしいのが嫌、うるさいのが嫌。 「光過敏・音過敏」:まぶしいのが嫌、うるさいのが嫌、が片頭痛発作中のさまです。 動けなくなって、カーテンを閉めてじっとしていたい、外からの視覚・聴覚刺激も煩わしい。この様子を想像してください。 Arch Intern Med 2000; 160:2729. Cephalalgia 2018; 38:1.
#9. “甘口”では、
これを聞き出せばいい: 片頭痛の診断ゲシュタルトを想像しながら、問診を始めてください。 片頭痛とは、吐き気を伴うことが多く、光や音に対する過敏症を伴う、
動けなくなり、日常生活に支障をきたすレベルの強い頭痛を特徴とする、コモンな頭痛です。
#10. 患者さんとの会話 頭痛がテーマですね。頭痛の程度はどれくらいですか?仕事休むレベルですか?
結構つらいです。たまに仕事やすんだりすることもあります。
頭痛発作が出た時には、動けなくなってしまいますか?
そうですね。じっとしたりしています。
吐き気はありますか?
あります。きついと吐いたりすることもあります。
頭痛発作のとき、まぶしいのが嫌とか、うるさいのが嫌とかありますか?
まぶしいのはつらいです。暗いところでじっとしています。
なるほど。片頭痛っぽい頭痛発作ではありますね。
診断を立体的に行うための問診
#11. 追加で聞き出すこと: 補足する内容を聞いて、診断を立体的に行えるようにする。
#12. 追加の問診 頭痛発作の頻度を聞く:連日頭痛では片頭痛らしくないです。(片頭痛は発作性)
頭痛発作の前兆を聞く:前兆があると、片頭痛らしいです(25%)。
月経との関連を聞く :月経に関連しているならまず片頭痛(女性の片頭痛の25%)。
頭痛のトリガーを聞く:約75%が急性片頭痛発作の少なくとも1つの誘因がある。
誘因について
精神的ストレス(80%), 月経関連(65%), 食べない(57%), 天気(53%), 睡眠障害(50%),
におい(44%), 首の痛み(38%), 光刺激(38%), アルコール(38%), 煙(36%),
遅くまで寝る(32%), 暑さ(30%), 食品<赤ワイン・チーズ>(27%), 運動(22%), 性行為(5%). Neurology 2012; 79:2044. Lancet Neurol. 2021;20(4):304. Cephalalgia 2007; 27:394. Pharmaceuticals 2021;14:455.
#13. 診断
まとめ 質問事項は整理しておく必要があります。
診断ゲシュタルトをイメージすること、そして追加で聞き出す情報でより診断の確からしさを強化しましょう。これから外れれば、別の頭痛診断を考慮してください。
また、片頭痛に別の頭痛が混在している可能性もありますので、それにも注意して患者さんの話を聞いてください。片頭痛が想定されるようなシビアな頭痛がありながらも、あまりにも頭痛頻度が多すぎる場合には、緊張型頭痛が混在していないかどうかも検討する必要があります。両者の合併が多いことは知られています(40-80%)。両者は機序や誘因を共有しています。 Archives of Neurology 1992;49:914-918.
片頭痛発作時の治療戦略
#14. 患者指導 ライフスタイルの変更の提案により、片頭痛発作の状態改善ができる。
睡眠衛生の改善:(就寝時間と起床時間を一定にする、休息が必要な時間だけ眠る、就寝前にカフェイン、アルコール、喫煙を避ける、就寝直前にスマホやその他のデバイスを見ない)
毎日同じ時間に健康的な食事を摂る。定期的に運動する。
片頭痛を引き起こす可能性のあるものを避ける。
薬の飲みすぎは逆に頭痛の問題を複雑化させることを伝える。 UPTODATE:Patient education: Migraine in adults
#15. 片頭痛の治療 頭痛発作時にどのようなアクションをとるか。
使えるカードは決まっている。
そしてカードは組み合わせもある。
カードの切り方のストラテジーを理解しておく。
#16. 発作時治療の
要約 使う薬は、アセトアミノフェン、NSAIDS、トリプタン、制吐薬。
これらの単独使用または組み合わせで頭痛発作に対応する。
薬の使用はなるべく早めに、反復使用よりは一度に多く内服する。 これが治療のひとまとまりです。各論を勉強していきましょう。 JAMA 2000; 284:2599.
#17. 発作時治療ゲシュタルトの解説 カード① 軽症では:アセトアミノフェン、NSAIDS を使用します。
カード② 重症では:トリプタン を使用します。
カード③ 悪心がある場合は:制吐薬 を使用します。
これらの薬剤のコンビネーションの有効性 も知られています。
カード3枚の切り方(コンビネーションも含めて)を整理しておきましょう。 Lancet 1995; 346:923. IHS 2024 Global Campaign Recommendations
AHS (American Headache Society) 2021 acute treatment guidelines
#18. 具体的な処方と組み合わせ カード① :アセトアミノフェン(カロナール500-1000mg)
カード① :NSAIDS(ロキソプロフェン60mg)
カード② :トリプタン(マクサルト、レルパックスなどいずれでも)
カード③ :プリンペラン10mg、ナウゼリン5mg
①+② :トリプタン+ NSAIDS(最強!)
①±②±③ :トリプタン+ NSAIDS + 制吐薬 カードの3枚単独使用もしくは、コンビネーションが選択肢です。
#19. 軽症:NSAIDS/アセトアミノフェンを使用する。 まずは、最初のステップ。カードの1枚目:NSAIDS/アセトアミノフェンでマネジメントできるならそれでよいでしょう。安価。このカードでどうにかならないなら、治療のステップアップ。他のカードとの合わせ技も有効です。 ①NSAIDS OR ①アセトアミノフェン
①NSAIDS ➡ ②トリプタン
①NSAIDS + ③制吐薬(悪心があるなら)
①NSAIDS + ①アセトアミノフェン Pain Ther 2024; 13:347.
#20. 重症:強い頭痛には、トリプタン。 NSAIDS/アセトアミノフェンでダメなら、トリプタンにステップアップ。トリプタンのブランドはいずれでもよいです。いずれかのトリプタンをまずは選択してください。1種類に馴染むことがいいでしょう。私はマクサルトから入ります。トリプタンは、ひとつが不応でも、別のブランドが有効な場合も知られています(50%はスイッチで改善)。
うまくいかなければ別のトリプタンに変更しましょう(トリプタンローテーションといいます)。
重症度に合わせてカード3つを組み合わせて使用します。
①NSAIDS ± ②トリプタン ± ③制吐薬 BMJ 2014; 348:g2285. Cephalalgia 2006; 26:98.
トリプタンと制吐薬の使用法
#21. トリプタンの留意事項 トリプタンは血管収縮作用のある薬剤で、血管障害のリスクの懸念はある。しかしながら、トリプタンの安全性と有効性はよく証明されている。トリプタンによる血管障害リスクは報告はあるものの小数例のみである。ただし、脳梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症、RCVSなどハイリスクと考えられる症例では使用を避けるのが無難である。また、薬物乱用頭痛を避けるために、トリプタンの使用は 1 か月あたり 10 日以内に制限する必要がある。(薬物乱用頭痛を防ぐために、いずれの急性期鎮痛薬使用も10-15日未満にするように指導が必要。) Headache 2004; 44 Suppl 1:S20. Cephalalgia 2015; 35:118.
#22. 制吐薬も重要オプションである。 3枚目のカード:制吐薬の片頭痛への有効性が知られています。メトクロプラミドのIV・内服とも(頭痛症状・悪心症状に)有効であることが知られています。制吐薬と鎮痛薬のコンビネーションの有効性もあります。片頭痛発作に悪心がある場合は使用を検討しましょう。
カード③:メトクロプラミド(プリンペラン🄬)10mg
カード③:ドンペリドン(ナウゼリン🄬) 10mg BMJ 2004; 329:1369. Lancet 1995; 346:923.
#23. 制吐薬(特にメトクロプラミド)の2つの薬効。 1. 消化器症状(悪心・嘔吐)の緩和
片頭痛発作時、悪心や嘔吐を伴う患者は多く、トリプタンやNSAIDsなどの内服薬が吸収されにくくなることがあります。制吐剤はこのような消化器症状を緩和し、薬の吸収を促進することで急性治療の効果を高めます。
2. 鎮痛効果の補助
一部の制吐薬は、単独でも軽度から中等度の片頭痛を軽減する作用があります。これは中枢性の鎮痛作用や片頭痛関連中枢(脳幹、視床下部)への作用によると考えられています。
#24. 条件による処方の使い分け 軽症頭痛なら、①NSAIDS/アセトアミノフェン を処方する。
重症頭痛なら、②トリプタン を使用する。
より重症なら、②トリプタン+①NSAIDS を試す。
悪心があるなら、③制吐薬 を追加する。
トリプタンの1剤が不応なら、②ほかのトリプタン にする。
重症なら、複数カード①②③ を合わせて使用する。 カードの3枚の使用条件をシンプルにまとめておく。
予防治療の選択肢とガイドライン
#25. カード④:アドバンストな処方
ラスミジタン(レイボー🄬) ラスミジタンがトリプタンよりも有効性に優れているというエビデンスはない。
ラスミジタン使い方の二通りを示す。
トリプタンが使いにくい症例で使用する。動脈硬化リスクや、血管障害リスクで トリプタンを避けたいと考える症例でのオプションになる。血管収縮作用なし!
もしくは、トリプタンが不応症例でのオプションとする。 J Pain Res 2018; 11:2221.
#26. カード④:アドバンストな処方
ラスミジタン(レイボー🄬) 米国頭痛学会:ラスミジタンの急性期治療開始基準
「トリプタンの禁忌または忍容性がないこと」 もしくは
「トリプタンが効果不十分であること」
➡トリプタンのノンレスポンダーは30%いるとされる。
➡トリプタンからのステップアップ治療としての位置づけとして理解する。 Headache 61:1021-1039,2021 The Journal of Headache and Pain 2023;24:135
#27. 発作に対する処方の会話 片頭痛で困っているんですね。まずはトリプタンという薬を使ってみましょう。
一応、NSAIDSも処方しておきます。
軽い頭痛だなと思うならNSAIDSで対応してみてください。
NSAIDSでだめだなと思ったら、トリプタンを追加使用してください。
また、トリプタンは内服タイミングも大切です。頭痛が完成すると効果が乏しいです。
トリプタン単剤が不応なら、NSAIDS+トリプタンで使用してみるのも一つの方法です。
悪心がある場合は、制吐薬を先行して(前兆期に)飲んでみるのも一つの方法です。
まずはこの3剤でうまくやりくりしてみましょう。
#28. 発作時治療のまとめ 3枚のカードの使い方を明確にしておきます。そして、そのカードの切り方を患者さんに説明しておきます。どの場合に・どのようにカードを切るのか?またどの組み合わせで切るのか?を説明しておきましょう。
#29. 頭痛の診療ガイドライン
2021 発作時に使用する薬剤の有効性
有効、ある程度有効のカテゴリーを確認しましょう。
トリプタンとラスミジタンは並列記載。
#30. 頭痛の診療ガイドライン
2021 コスト意識大切。
トリプタンは許せるか。
片頭痛の予防薬とその効果
#31. 頭痛の診療ガイドライン
2021 ドンペリドン内服は片頭痛の持続時間を短縮するかもしれない。
片頭痛の前兆期にドンペリドンを内服することで発作を予防できるかも。
メトクロプラミドは制吐剤の効果+片頭痛の痛みを軽減する。 Cephalalgia 1993;13:124-127 Br Med J(Clin Res Ed)1982;284: 944. BMJ 2004; 329:1369.
#32. 片頭痛の予防治療 発作時屯用治療でコントロール不良なら、治療のステップアップです。
この段階では、予防治療薬の選択肢があります。
ここでも切れるカードを明確にしておきましょう。
ここまでのカード①②③④に加えて、予防薬はカード⑤⑥になります。
#33. 予防治療の
要約 頭痛発作の屯用治療でのコントロールが悪い場合は、予防薬の使用で、
治療のステップアップをします。
使用する薬剤は、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗てんかん薬、漢方薬です。
そして、それ以上のステップとしてCGRP関連抗体薬があります。
#34. 予防治療を始める前に、患者さんとの議論について 予防治療介入の目安は、月に4回以上の発作がある場合に検討。
以下の予防治療の目的について説明し、治療のステップアップを相談する。 Neurology 2000; 55:754. ●発作の頻度、重症度、持続時間を減らすため。
●急性発作の治療に対する反応性を改善するため。
●片頭痛発作の慢性化を防ぐため。 予防薬により、50%発作頻度を軽減することができる。(ハードル下げる)
1剤がだめでも、別の薬剤へのスイッチの有効性の報告がある。 N Engl J Med 2002; 346:257. Can J Neurol Sci 2012; 39:S1.
#35. カード⑤:片頭痛予防薬
予防治療薬の選択肢。下線あるものがGLでの推奨薬。 β遮断薬 :プロプラノロール(インデラル🄬)のエビデンスがあります。
Ca拮抗薬 :ベラパミルがエビデンスある。
ロメリジンが使いやすいです。(エビデンス少だが有効)
抗うつ薬 :アミトリプチンのエビデンスあり。
抗てんかん薬:VPA、TPMのエビデンスがあります。
VPA・TPMは妊娠時に使用できません。
TPMは肥満の場合には副次的な選択条件になります。
漢方薬 :呉茱萸湯は有効です。 The American Headache Society Consensus Statement 2021
#36. 予防治療の選択肢のオススメ 選択肢の羅列も困るでしょう。ここは私見でおすすめを記載します。
第一選択:ロメリジン
第二選択:呉茱萸湯
第三選択:β遮断薬
第四選択:アミトリプチン
第五選択:VPA>TPM
また、CGRP関連抗体薬は早く効果を期待したいなら早期の提案になります(カード⑤)。
有効性は最も期待できるでしょう。一方で、コストは問題にはなります。コストが許すならいずれかの発作予防薬を試した後に、第2選択で提案するのはありです。
私なら、ロメリジン・呉茱萸湯でまずはやってみます。
CGRP関連抗体薬の使用と効果
#37. 予防薬の
使い方解説 無難にいきたい① :ロメリジン
無難にいきたい② :呉茱萸湯
妊娠で使えない :VPA・ロメリジン
肥満 :TPM
てんかん合併症例:VPA・TPM
うつ・不眠 :アミトリプチン
早く解決したい :CGRP関連抗体薬 予防薬の有効性は、少なくとも、2-3か月間で治療効果判定をおこなう。
内服薬の弱点は、即効性が得られない可能性があること。
#38. カード⑥
アドバンストな選択肢:CGRP関連抗体薬 厚生労働省の最適使用推進ガイドライン
十分な生活指導が行われている
急性期治療を実施していても、生活への支障がある
既存の予防薬では十分な効果が得られず、月4回以上片頭痛が起きている成人患者
処方:総合内科専門医、脳神経内科・脳神経外科専門医、日本頭痛学会専門医に限定。
#39. カード⑥
アドバンストな選択肢:CGRP関連抗体薬 CGRP関連抗体薬の適応は以下のごとく。
頻回の片頭痛により著しい障害があり、他の選択肢に反応しない。
他の予防薬の忍容性がない。
毎日の内服よりは、単回の注射を好む。
米国頭痛学会では第一選択薬。
CGRP関連抗体薬は、有効性は期待できるが、高いコストは選択の際の要件になるのだろう。 JAMA Neurol 2018; 75:1039.
#40. 予防治療の
まとめ① まずは屯用での頭痛発作治療薬で介入します。それでも発作回数が多い場合には、治療ステップアップで予防薬を提案します(カード⑤)。使いやすい予防薬から開始してみるのがいいでしょう。患者さんと成功体験を共有していくことです。予防薬も同様に、これがだめならこれでいく、というカードを準備しておいてください。そしてCGRP関連抗体薬の選択肢(カード⑥)も理解しておいてください。
#41. 予防治療の
まとめ② もし、自分の診療範囲を決めるのなら、ここまではTryして、これ以上でうまくいかないならプロに紹介する、という線引きを作っておくのもありでしょう。
時間をかけすぎて診療が混とんとするよりは、自分の診療範囲はここまで、と潔く決めておくことも重要なスタンスでしょう。
#42. 頭痛の診療ガイドライン
2021 予防薬のエビデンス
薬剤位置づけの確認。
片頭痛のER診療と対応策
#43. 片頭痛のER診療 外来セッティングは痛くなる前の治療です。
痛くなってしまった人に、どうアクション出来るかは
区別して準備しておく必要があります。
#44. 頭痛でつらくなっている人
にできること トリプタン内服などの通常の発作へのアプローチは、完成した頭痛には不応です。この場合、イミグラン皮下注が選択肢になります。また、悪心がある場合は、プリンペランIVの有効性があります。また、頭痛発作が重症でつらい場合には、再発予防でデキサメタゾンDIVも選択肢になります。この治療は症状緩和には影響しません。頭痛が完成してしまった人への、三つの選択肢について抑えましょう。
イミグラン皮下注
プリンペランIV
デキサメタゾン(4mg)DIV BMJ 2008; 336:1359.
#45. スマトリプタン皮下注射 皮下注射用スマトリプタンは作用発現が最も速い、有効性も内服より高い。一方、内服よりも有害事象は多い。
痛みが完成してしまった人への治療選択肢として押さえておく。 Cephalalgia 1998; 18:532.
#46. メトクロプラミド静注 メトクロプラミド(プリンペラン🄬)IVは、急性片頭痛に他の薬剤と併用または
単独療法として使用できます1。
基本的には、悪心症状に対する制吐剤として作用します。
さらに、片頭痛の痛みを軽減するのに効果的ともされます1。
片頭痛発作に対する、制吐薬の有効性も改めて理解しておいてください。 BMJ 2004; 329:1369.
#47. 演習問題 知識の定着を最後にしましょう。
#48. 35歳女性例 「頭痛がつらい」ので受診。
外来で議論するアプローチはどうするか?
#49. まずは、片頭痛かどうか?を確認していく! 片頭痛らしさを診断ゲシュタルトを思い出して検討しましょう。
診断ゲシュタルトは以下のごとくでした。 片頭痛とは、吐き気を伴うことが多く、光や音に対する過敏症を伴う、
動けなくなり、日常生活に支障をきたすレベルの強い頭痛を特徴とする、
コモンな頭痛です。
#50. 頭痛の特徴:
問診の要点 頻度 :一か月に6-8回。
程度 :シビアな頭痛、仕事を休むことも。
部位 :ひだり片側性。
性状 :ずきずきする頭痛。拍動性。
前兆 :時々きらきらしたものが見える。
悪心 :ある。時に嘔吐もある。
過敏 :まぶしいのが嫌。
体動で増悪:YES
月経 :関連はあることもある。
トリガー:天気が悪いと起こりやすい。
患者とのコミュニケーションと治療提案
#51. VISIT①
治療の提案:
3つのカードを説明 カード②:まずは、マクサルト(リザトリプタン)という薬を処方します。
カード③:吐き気もあるようなので、ナウゼリンも使ってみてください。 『片頭痛治療は3つのカードがあります。
このカードを1枚ずつ使うか、組み合わせて使うかが選択肢になります。
強い頭痛なので、トリプタンというカードを使っていきましょう。』
#52. VISIT②
効果の確認と次の一手 『効果はどうでしたか?』
悪心はとれてよかった。ナウゼリンはいい。
少し頭痛は軽減できたけど、まだ満足度は低い。
一回は寝込んだこともある。 『次の一手➡カード①+②:マクサルト+ロキソニン でやってみましょう。』
#53. VISIT③
発作時治療と次の一手 『カード①+②+③の効果はどうでしたか?』
満足度は高い。寝込んでしまうことはなくなった。
一週間に一回発作がある。屯用薬で対処はできているのだが。 『次の一手 ➡ 予防薬の提案 をしましょう。(カード⑤⑥)』
#54. 予防薬の導入時に説明することは? 『4回以上の頭痛発作があるので、予防薬を使用してみましょうか?
もちろんこのまま屯用薬で対処していくことも選択肢です。
予防薬導入のメリットもあります。』 ●発作の頻度、重症度、持続時間を減らすため。
●急性発作の治療に対する反応性を改善するため。
●片頭痛発作の慢性化を防ぐため。
#55. 予防薬のゲシュタルト カード⑤・⑥ 『使用する薬剤はいろいろあります。
1剤を2か月くらい使って、効果判定を行っていきます。』 頭痛発作の屯用治療でのコントロールが悪い場合は、予防薬の使用で、
治療のステップアップをします。
使用する薬剤は、カード⑤β遮断薬、Ca拮抗薬、抗てんかん薬、漢方薬です。
そして、それ以上のステップとしてカード⑥CGRP関連抗体薬があります。
#56. 予防薬の選択肢の議論 『まずは使いやすいロメリジンでいきましょうか。それでダメなら、
二通りの考え方になります。早く問題解決したいなら、注射製剤があります。
これが一番効果的です。一方でコストは問題で、
一か月1万円超となります。
これを継続することになります。
コストを気にするなら、
飲み薬で投薬調整をしていきます。
まずはロメリジンで
やってみましょう。』 無難にいきたい① :ロメリジン
無難にいきたい② :呉茱萸湯
妊娠で使えない :VPA・ロメリジン
肥満 :TPM
てんかん合併症例:VPA・TPM
うつ・不眠 :アミトリプチン
早く解決したい :CGRP関連抗体薬
#57. VISIT⑤
予防薬開始後 『効果はどうでしたか?』
満足度は高い。トリプタンも使っていない。
ロメリジンはしばらく継続したい。 処方は、ロメリジンを継続、マクサルトとNSAIDSを屯用で処方した。
#58. VISIT⑥ERセッティング
飲み忘れて強い頭痛 その後、外来は都合が合わずに通院中断されていた。
内服中止して経過をみていたが、頭痛発作のコントロール不良になっていた。
マクサルトも飲めずに様子をみていたら、シビアな頭痛になり、
つらくなりERを受診した経緯である。 最後は、完成した頭痛への対応がテーマ。
#59. 完成した頭痛にできること? イミグラン皮下注
プリンペランIV 今回のER受診を機に、再度外来治療再開を行う方針となった。
#60. 今日の片頭痛診療
甘口のまとめ 片頭痛診断の診断ゲシュタルトを覚える。まずは片頭痛らしいかどうかを考える。
急性期治療の3つのカード。カードを順次切る。切り方を患者さんと共有する。
トリプタンがだめならカード④:ラスミジタン。
次のステップアップは予防治療の追加。ここでのカード⑤⑥を準備しておく。
CGRP関連抗体薬という切り札(カード⑥)はある。このカードの条件も把握しておく。
痛くなった頭痛に対するアプローチを知っておく。
今後新薬の登場もある。基本的な理解は、甘口からのステップアップ治療。
演習問題とその解説
#62. 設問:この患者の診断に最も必要とされる特徴はどれか?
A. 前兆の存在
B. 発作が緊張型に類似する
C. 日常生活動作による増悪
D. 頭痛が両側性である 症例:32歳女性。反復する拍動性頭痛、嘔気、光過敏を訴える。発作は月に3回、1回あたり24時間持続する。
#63. 正答:C. 日常生活動作による増悪 解説:国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、
片頭痛は日常動作により悪化するという特徴が診断基準に
含まれている。必ずしも前兆を伴う必要はない。 テーマ:片頭痛診断のポイントは?
#64. 設問:この症例の前兆に該当する症状はどれか?
A. 霧視
B. 閃輝暗点
C. 頭部圧迫感
D. 首のこり 症例:24歳女性。視野にジグザグ模様が見えた後、
拍動性頭痛が生じる。頭痛は片側性で悪心を伴う。
#65. 正答:B. 閃輝暗点 解説:閃輝暗点は典型的な視覚性前兆のひとつ。
前兆の診断には可逆性で、5分以上60分以内に進行する必要がある。
#66. 設問:最優先で除外すべき疾患はどれか?
A. 緊張型頭痛
B. 脳腫瘍
C. くも膜下出血
D. 群発頭痛 症例:50歳男性。片頭痛既往あり。
数日前から頑固な後頭部痛。頸部硬直あり。
#67. 正答:C. くも膜下出血 解説:突発的で今までにない重度の頭痛は、二次性頭痛を示唆。
特に50歳以上では、くも膜下出血などを優先的に除外すべき。 SNOOPは有名。この場合、O(Older age of onset)50歳以降の発症で:側頭動脈炎、腫瘍、脳卒中を検討する。 テーマ:二次性頭痛の鑑別も重要。
#69. 設問:予防療法の適応として正しいのはどれか?
A. 月2回未満の発作
B. 発作が軽度で日常生活に支障なし
C. 発作回数が月4回以上で生活支障あり
D. トリプタンに反応良好な発作 症例:35歳女性。片頭痛の発作が月6回以上あり、
生活に支障。
#70. 正答:C. 発作回数が月4回以上で生活支障あり 解説:予防療法の適応は、発作回数、重症度、薬剤反応性により判断される。
月4回以上かつ生活支障ある症例は適応となる。 テーマ:片頭痛の予防療法のindication?
#71. 設問:推奨される生活指導として正しいのはどれか?
A. 睡眠時間を削る
B. カフェイン摂取を増やす
C. 規則正しい生活
D. 頻繁な断食 症例:40歳女性。片頭痛の生活指導を受けたい。
#72. 正答:C. 規則正しい生活 解説:生活リズムの乱れは片頭痛発作の誘因。
規則正しい生活習慣が予防に重要。 テーマ:片頭痛の生活指導
#73. 設問:薬物乱用頭痛(MOH)として正しいのはどれか?
A. NSAIDs 5日以上/月
B. トリプタン 5日以上/月
C. トリプタン 10日以上/月
D. 予防薬 10日以上/月 症例:40歳女性。片頭痛発作に対してトリプタンを
使用中。最近トリプタン使用頻度が増加している。
#74. 正答:C. トリプタン 10日以上/月 解説:MOHの診断基準では、トリプタンは10日以上/月、
NSAIDs・アセトアミノフェン は15日以上/月が目安とされる。 テーマ:MOHの定義は?
#75. 設問:この中で禁忌とされるトリプタンの副作用はどれか?
A. 起立性低血圧
B. 冠動脈攣縮
C. 徐脈
D. 体重増加 症例:45歳女性。片頭痛発作時にトリプタン使用で
不整脈が出現。
#76. 正答:B. 冠動脈攣縮 解説:トリプタンは血管収縮作用があるため、
冠動脈疾患患者では禁忌とされる。心血管リスクを評価すべき。
狭心症、閉塞性動脈硬化症、脳梗塞など。冠攣縮性狭心症も。 テーマ:トリプタンの禁忌?
#77. 設問:これらの副作用の原因機序として最も適切なのはどれか?
A. セロトニン再取り込み阻害
B. ドパミン遮断作用
C. 抗コリン作用
D. GABA促進作用 症例:35歳女性。片頭痛予防目的で
アミトリプチリンを開始。眠気と口渇を訴える。
#78. 正答:C. 抗コリン作用 解説:三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは抗コリン作用を有し、
口渇や眠気、便秘を引き起こす。
有効性は高いが忍容性に問題が多い。少量でも有効。 テーマ:トリプタノールの副作用
#79. 設問:最も適切な対応は?
A. トリプタンの増量
B. 他のトリプタンへの変更
C. NSAIDsの中止
D. 睡眠薬の追加 症例:20歳男性。片頭痛発作でトリプタンを
使用したが無効。
#80. 正答:B. 他のトリプタンへの変更 解説:トリプタン間で反応性に差があるため、
1剤で無効な場合は他剤へのスイッチを検討する。
トリプタン間で薬物動態(吸収速度、半減期)、脂溶性、受容体親和性などが異なるため効果が異なるため。変更で50%は有効。 テーマ:トリプタンローテーション
#81. 設問:予防薬として選択されないものはどれか?
A. プロプラノロール
B. バルプロ酸
C. トピラマート
D. プラミペキソール 症例:30歳男性。週2回片頭痛。片頭痛の予防療法を希望。
#82. 誤答:D. プラミペキソール 解説:プラミペキソール(ビ・シフロール🄬、ミラペックスLA🄬)は
パーキンソン病の薬剤であり、片頭痛予防薬としては使用されない。 テーマ:片頭痛の予防薬(内服)
#83. 設問:この薬剤の機序はどれか?
A. セロトニン放出促進
B. ドパミン受容体遮断
C. CGRP受容体拮抗
D. カルシウムチャネル遮断 症例:38歳女性。エレヌマブ(アイモビーグ🄬)導入後、
片頭痛発作が月10回→2回に減少。
#84. 正答:C. CGRP受容体拮抗 解説:抗CGRP受容体抗体(エレヌマブ)は片頭痛の病態に関与する
CGRPの作用を阻害する。 テーマ:片頭痛の予防薬(注射)
#85. CGRP関連抗体薬には、
① CGRP自体(リガンド)を中和する抗体 と、
② CGRP受容体に対する抗体 の2種類が存在する。
#88. 設問:抗CGRP受容体抗体の副作用として比較的よくみられるものはどれか?
A. 発熱
B. 便秘
C. 体重減少
D. 末梢浮腫 症例:32歳女性。片頭痛治療において、
抗CGRP受容体抗体(エレヌマブ)を開始予定。
#89. 正答:B. 便秘 解説:抗CGRP受容体抗体(アイモビーグ🄬)では、
便秘が比較的よくみられる副作用として報告されている。 テーマ:アイモビーグの便秘
#90. 設問:エレヌマブの薬理作用として正しいのはどれか?
A. CGRPの分解酵素阻害
B. CGRP受容体に対するモノクローナル抗体
C. 中枢セロトニン濃度の上昇
D. NMDA受容体阻害 症例:37歳女性。月6回以上の片頭痛発作。エレヌマブ(アイモビーグ🄬)を使用して3か月。発作は月2回に減少。
#91. CGRP関連抗体薬には、
CGRP自体(リガンド)を中和する抗体と、
CGRP受容体に対する抗体の2種類が存在する。
#92. 正答:B. CGRP受容体に対するモノクローナル抗体 解説:エレヌマブはCGRP受容体に対する完全ヒト型モノクローナル抗体で、
片頭痛予防に用いられる。
#93. 設問:ガルカネズマブの標的分子はどれか?
A. CGRP受容体
B. セロトニン受容体
C. CGRPリガンド
D. グルタミン酸受容体 症例:42歳男性。既存の予防薬が無効。
ガルカネズマブ(エムガルティ🄬)による予防治療開始。
#94. 正答:C. CGRPリガンド 解説:ガルカネズマブはCGRPリガンドに結合し、
その受容体への作用を阻害することで予防効果を発揮する。
#95. 設問:フレマネズマブの投与間隔として適切なのはどれか?
A. 毎日
B. 毎週
C. 月1回または3か月に1回
D. 年1回 症例:31歳女性。月経関連片頭痛。既存薬が無効で、
フレマネズマブ(アジョビ🄬)導入を検討。
#96. 正答:C. 月1回または3か月に1回 解説:フレマネズマブは長時間作用型抗CGRP抗体で、
1か月ごとの皮下注または3か月ごとの3倍量投与が選択可能。 テーマ:投与頻度の違い
#98. 設問:今後の対応として最も適切なのはどれか?
A. 同一機序の薬剤へ変更
B. 予防治療の全中止
C. トリプタンの漸増
D. 漢方薬に切り替え 症例:28歳女性。抗CGRP抗体を導入したが無効。
#99. 正答:A. 同一機序の薬剤へ変更 解説:CGRP抗体製剤間には個体差があり、1剤無効でも他剤に
変更することで効果が得られる場合がある。 テーマ:製剤変更の選択肢
#100. 設問:治療反応の評価期間として適切なのはどれか?
A. 1週間
B. 2週間
C. 1か月
D. 3か月 症例:29歳女性。予防目的でガルカネズマブ(エムガルティ🄬)導入後、発作頻度が月12回から3回に減少。
#101. 正答:D. 3か月 解説:抗CGRP抗体の効果判定には通常3か月程度の観察が必要とされる。
効果が不十分でも、4〜6か月継続することで効果が明確化する例もあり、明らかな副作用がなければ最低3か月、可能であれば6か月の評価期間を考慮。一方で、効果が全く認められない場合は3か月で中止判断を検討する。
#102. 設問:ラスミジタンの特徴として正しいのはどれか?
A. 5-HT1F受容体作動薬で、血管収縮作用が強い
B. オピオイド系薬剤である
C. 5-HT1F受容体選択的作動薬で、血管収縮作用を持たない
D. 中枢神経抑制薬である 症例:48歳女性。ラスミジタンを使用し副作用として
めまいを訴える。
#103. 5-HT₁B受容体:脳血管収縮作用(過剰な血管拡張を抑制)
5-HT₁D受容体:三叉神経終末からのCGRP放出抑制(神経性炎症抑制)
5-HT₁F受容体:主に中枢神経系(脳幹・三叉神経核・脊髄後角)に発現
侵害刺激伝達の抑制、神経性炎症の抑制(CGRP放出抑制) セロトニン受容体サブタイプと、その作用について
#107. 正答:C. 5-HT1F受容体選択的作動薬で
血管収縮作用を持たない 解説:ラスミジタンは血管収縮作用を持たず、
心血管疾患を有する患者にも使用可能な急性期治療薬。
#108. 設問:この患者に適した急性期治療薬はどれか?
A. スマトリプタン
B. ラスミジタン
C. エレヌマブ
D. プロプラノロール 症例:55歳女性。心疾患の既往があり、トリプタン禁忌。
#109. 正答:B. ラスミジタン 解説:ラスミジタンは5-HT1F作動薬であり、血管収縮作用がないため、
心疾患のある患者にも使用可能。
#110. 抗CGRP関連抗体薬まとめ 抗CGRP受容体抗体 VS 抗CGRP抗体
製剤間でのスイッチは選択肢。
アイモビーグ では便秘症の副作用あり。
アジョビ は3か月に1回、その他は1か月に1回。
高コストが弱点。
即効性が利点。
#111. ラスミジタンまとめ トリプタン VS ラスミジタン
トリプタン不応例で使用。
トリプタン禁忌症例で使用。
副作用は目立つ:眠気とめまい感。
使用後の自動車運転制限。