テキスト全文
スピリチュアルペインの定義と背景
#1. スピリチュアルペイン ~意味の喪失と伴走する覚悟~ 函館稜北病院/勤医協札幌病院 総合診療科 舛森 悠
#2. 生きる希望がない やり残した感じがある 先生に言ってもしょうがない これらの言葉は私が終末期在宅を行っている中で 患者さんから告げられた言葉たちです。 皆さんならなんて返しますか? スピリチュアルペインだと感じましたが、 そもそもスピリチュアルペインって何なんでしょう?
村田理論とスピリチュアルペインの理解
#4. 霊的苦痛=宗教的なもの? 直訳すると「霊的苦痛」 海外と異なり日本人の多くは 信心深い方はそこまでいません。
#6. 村田理論 スピリチュアルペイン= 自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛 日本におけるスピリチュアルペインの定義はこの村田理論が一般的です。 スピリチュアルペインとされる訴えにはどのようなものがあるでしょうか?
終末期における生きる意味の探求
#7. もう時間がない。 娘が傍にいても、たまらなく寂しい。 死ぬのを待っているだけ、何の希望もない。
#8. 全人的苦痛 身体的苦痛 精神的苦痛 社会的苦痛 スピリチュアルペイン 学生時代に全人的苦痛を 何となく学んだけど。 実感としてスピリチュアルペインが 理解できていない気がする… 私は患者に寄り添えているのだろうか
#9. スピリチュアルペイン ~意味の喪失と伴走する覚悟~ 改めて、医師でなく人間として、”死”と向き合ってみました。 意味の喪失と伴走する覚悟という2つのキーワードを通して、 スピリチュアルペインという言葉を実感として落とし込むのが目標です。
#10. あなたの生きる意味は? あなたが日常で行っているQOLを上げる行為は? 私は休日にペットショップへ行くことです。
QOLと終末期の価値観の変化
#11. あなたの生きる意味は? 家族や大切な人 美味しいものを食べる 健康 生を前提としたQOLは収束する 回復を前提とした、死を意識していないときの 人間のQOLはとてもわかりやすいものとして表現されます。
#12. あなたの生きる意味は? 胃癌 予後 2ヶ月を宣告された。 嘔気で食べられない。 1日中ベッドで横になっている。 この状況であなたが大切にしたい ことやQOLが上がることは 何でしょうか?
#13. とにかく痛みを無くしたい 弱った姿を、見せたくない できる限りの治療をしたい これは私が想像した大切にしたことやQOLを保つために重要なことです。
#14. 苦痛が緩和 苦痛が緩和 人生を完成させる 迷惑をかけない 他人に役立つ 尊厳を保つ 終末期に大切にしたいことを調査した結果、国や文化によっても QOLが保たれるために重要なことは異なってくるということがわかります。
時間存在の喪失とその影響
#15. とにかく痛みを無くしたい 弱った姿を、見せたくない できる限りの治療をしたい • 死を前提としたQOLは人それぞれ
#16. 「誰とも面会したくない」 →弱った姿を見せたくない 自分勝手に薬を使用する →自分のことは自分で決めたい 死を前提としたQOLは様々です。あなたの周りにいる一見頑固に見える 患者さんの行動は尊重すべき終末期のQOLを保つための行動かもしれません。
#18. 過去と未来があるから”今”が成り立つ 過 去 未 来
他者との関係性の喪失と孤独感
#19. 約束されない未来は 、 ”今” 生きる意味を見失わせます。 過 去 未 来
#20. • • • 今が生きていることが無意味になる 時間存在の喪失 過 去 未 来 時間存在の喪失はスピリチュアルペインを構成する3要素の1つです。
#21. • • • 死ぬ時は ひとり。 時間存在の喪失 以外にも死を意識した人には 更なる ”生きる意味の喪失” が重くのしかかります。
#22. 私がガンにかかっているとわかったとき、 すべてのものが急に自分から遠のいてしまいました。 夫も子どもも、世の中もすべて幕をへだててむこうの世界のことのようになり、 自分の幕はこちらで、たったひとり、間もなく死んで この世から去っていくという現実と向かい合っているのでした。
自律存在の喪失と生きる意味の喪失
#24. • • • 死ぬ時は ひとり。 いずれこの世を去ることを意識した人は 他者との関係の喪失を感じ始めます。 • • • • • そして他者との関係=自己の存在そのもの。 他者の存在に支えられて自分の アイデンティティーは成り立ちます。 他人との差分がアイデンティティであり、 関係性が断たれると感じた途端に、 • • • • • 自らのアイデンティティや生きる意味を 見出せなくなってしまいます。
#25. 関係存在の喪失 これを関係存在の喪失といい、 スピリチュアルペインの3要素の1つとされています。
#26. 自律存在の喪失 点滴をされて寝ているだけ、 自分には生きる意味がない。 • • • • 最後にあるのが自立存在の喪失です。 自律して生きるという生物としての根源的な欲求が否定され、 依存して生きることによる私秘性の崩壊などによって起こる 生きる意味の喪失を指します。
スピリチュアルペインの3要素の考察
#27. 死を実感した時に • • • • • 人は生きる意味を見出せなくなる
#28. 死を実感した時に • • • • • 人は生きる意味を見出せなくなる スピリチュアルペイン
#29. 死を実感した時に • • • • • 人は生きる意味を見出せなくなる スピリチュアルペイン 時間存在の喪失 関係存在の喪失 自律存在の喪失
#30. 死を実感した時に • • • • • 人は生きる意味を見出せなくなる スピリチュアルペイン 個人的には苦痛を3つに分類することは本質ではなく、 それぞれの生きる意味の喪失による辛さを医療者がいかに 想像することができるか、寄り添えるかが肝要と感じています。
全人的苦痛とスピリチュアルペインの関係
#31. あなたならどう生きる? 改めて、あなたが死に直面した際に 大切にしたいことは何でしょうか? もしくはあなたの目の前の患者は 何を大切にされていますか? 次頁からは哲学的な視点から 医療的な視点は切り替えて、 スピリチュアルペインを 掘り下げていきましょう。
#32. 全人的苦痛 身体的苦痛 精神的苦痛 社会的苦痛 スピリチュアルペイン 「全人的苦痛」は左記の4要素が 重なり合っているからトータルで ケアをしていきましょうと大雑把に 習った記憶があります。
#33. 全人的苦痛 全人的苦痛 身体的苦痛 身体的苦痛 精神的苦痛 精神的苦痛 社会的苦痛 社会的苦痛 トータルペイン スピリチュアルペイン 取り除けるもの
#34. 全人的苦痛 全人的苦痛 身体的苦痛 身体的苦痛 精神的苦痛 精神的苦痛 社会的苦痛 社会的苦痛 トータルペイン スピリチュアルペイン 取り除けるもの? そもそも精神的苦痛との違いって? そして苦痛・ペインっていうくらい だから取り除けるもの何でしょうか?
精神的苦痛とスピリチュアルペインの違い
#35. • • • ①眠れなくて つらいです。 • • • ②ソワソワして落ち着かないので つらいです。 • • • • • • ③国試に受かりたくて勉強してますが つらいです。 ④フルマラソン完走したいけど練習が つらいです。 • • • ⑤治らないなら、何のために生きているか つらいです。 • • • 5人のつらい人を連れてきました。 あなたならそれぞれになんと声かけしますか?
#36. • • • ①眠れなくて つらいです。 → 不眠 • • • ②ソワソワして落ち着かないので つらいです。→ 精神的苦痛 ”症状”→取り除く→問題解決思考 ①②は不眠や不安として医学的に症状として取り扱えます。 では、③④のつらさに関しては、どうでしょうか? 不安
#37. • • • • • • ③国試に受かりたくて勉強してますが、つらいです。 ④フルマラソン完走したいけど練習が、つらいです。 「お辛いなら診断書書きましょうか?」 相談者はそんなことを 言って欲しくて相談した訳では ありませんよね。
#38. ③国試に受かりたくて勉強してますが、つらいです ”症状”→取り除く→問題解決思考
スピリチュアルケアの重要性と実践
#39. 精神的苦痛 ”症状”→取り除く→問題解決思考 スピリチュアルペイン • • • • • ”意味の喪失” → ? ”ペイン”と言われて何とかしなきゃと思ってしまう心を抑えて… それではスピリチュアルペインを前に私たちは何ができるでしょう?
#40. スピリチュアルペイン ~意味の喪失と伴走する覚悟~
#41. スピリチュアルペイン ~意味の喪失と伴走する覚悟~
#42. • • 本人がつらさに 「意味」を見いだすまで その本人がつらさに「意味」を見いだすことが できれば、そのつらさを抱えることができます。 そのつらさを抱えることができるように 「意味」を見いだす支えになる関わりが 「スピリチュアルケア」です。そのつらさに どのような意味を見いだすかについては、 • • • • • • 正解はなく、あくまで主語は本人です。 本人に代わって答えを出すことができません。
伴走する覚悟と終末期ケアの展望
#43. 医療者にできることは… 未知の旅への伴走 終末期ケアでは、患者が振り返ると いつもすぐそばで見守っている、 だから未知の旅でも歩いて行ける、 そんな伴走する関係性を築くことを 忘れないでいたい。 • •
#44. 精神的苦痛 CURE ”症状”→取り除く→問題解決思考 スピリチュアルペイン CARE ”意味の喪失”→伴走する→関係性で支える • • • • •
#45. 解決でなく「覚悟」 「共にある」ことは何もできない自分と向き合うことでもあります。 そんな何もできない自分でも、一緒に苦しみを見つめ続けようとする 「覚悟」が必要です。 そして、スピリチュアルケアは何ら特別なことではなく、 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 医療者でなく人として、患者さんではなく人として接するという 人間同士の思いやりという当たり前のような営みの中にあるのでは ないかと信じています。 相手を大切に思う自然な気持ちで接し、悲しいときには涙を流せばいい。 患者が振り返るといつもすぐそばで見守っている、そんな関係性で支える • • ケアを行う「覚悟」が必要なんだと思います。
#46. 「答えにくい質問をいくつも抱えた患者と 家族のそばに、何も答えられないまま とどまっている人々は、そばにいること によって患者と家族が求めている スピリチュアルな救いを提供している 自分に気づくことになろう。」 シシリー・ソンダース
#47. TAKE HOME MESSAGE • • ①スピリチュアルペインは「生きる意味の喪失」 • • • • • • ②時間存在・関係存在・自律存在の喪失から成る • • ③「取り除く」でなく、「伴走する覚悟」
#48. スピリチュアルペイン ~意味の喪失と伴走する覚悟~ 今回は「意味の喪失」と「伴走する覚悟」というキーワードから 終末期ケアのスピリチュアルペインについて考えていきました。 ケアの方法論についてはまたいつか論じたいと思いますが、大事なことは つらさを実感として理解し、苦しい道のりを伴走する覚悟なのかなと感じています。
参考文献