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慶應義塾大学医学部 医学教育統轄センター
学生、レジデント向けの電解質・酸塩基平衡異常、輸液に関するeラーニング教材「電解質輸液塾オンライン」で使用したスライドです。
今回は「酸塩基平衡異常」です。
電解質輸液塾オンライン【ベーシック】は、以下の5本で構成されています。
#1 輸液の基本
https://slide.antaa.jp/article/view/878f9201c2614f56
#2 低Na血症
https://slide.antaa.jp/article/view/71d19c53782c438e
#3 K代謝異常
https://slide.antaa.jp/article/view/597d4f6fe40a4b1b
#4 高Ca血症
https://slide.antaa.jp/article/view/815dfa09e8be4b2a
#5 酸塩基平衡異常
https://slide.antaa.jp/article/view/cd5ba5d338c8412c
本スライドの音声つきの解説は、以下のYouTubeで視聴できます。
さらに学びたい場合は、「電解質輸液塾 改訂2版」中外医学社で学んでください。
#3 K代謝異常 | 電解質輸液塾
#輸液 #医学生 #研修医 #K代謝異常 #低K血症 #高K血症 #電解質輸液塾 #低カリウム血症 #高カリウム血症
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#2 低Na血症 | 電解質輸液塾
#輸液 #医学生 #研修医 #低Na血症 #電解質輸液塾 #低ナトリウム血症 #ADH #ODS #浸透圧性脱髄症候群 #SIADH
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#4 高Ca血症 | 電解質輸液塾
#輸液 #医学生 #研修医 #高Ca血症 #電解質輸液塾 #サイアザイド #高カルシウム血症 #PTH #悪性腫瘍
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#3 K代謝異常 | 電解質輸液塾
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このスライドは クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。 電解質輸液塾第5回 酸塩基平衡異常 慶應義塾大学医学部 医学教育統轄センター 門川俊明
講義の内容 7つの症例を通して、血液ガス分析の方 法を学びます。
酸の体内産生と代謝 L-乳酸 炭水化物 CO2 水 ブドウ糖 ケト酸 呼気中へ排泄 脂肪 蛋白質 中性蛋白質 尿素、水、ブドウ糖、CO2 含硫アミノ酸 陽荷電アミノ酸 有機酸 H+ 240mmol 陰荷電アミノ酸 有機酸 HCO3- 170mmol 計 H+ 70mmol 「より理解を深める!体液電解質異常と輸液」柴垣有吾
揮発酸 CO2として肺から排出 酸 緩衝系で バッファー 腎臓から排出 不揮発酸
pHは肺と腎臓が決める [H+] (nEq/L)=24 x PaCO2 (mmHg) 肺 [HCO3-] (mEq/L) 腎臓 Hendersonの式
酸-塩基平衡の考え方 7.40 pH アシデミア 呼吸性 代謝性 アシドーシス アシドーシス アルカレミア 呼吸性 代謝性 アルカローシス アルカローシス
一次性の酸-塩基平衡異常がおこると 代謝性 アシドーシス
代償反応がおこる 代謝性 アシドーシス 代償不足な ら呼吸性ア シドーシス の合併 生理的な 呼吸性 代償 過代償なら 呼吸性アル カローシス の合併
代償性変化予測 代償性変化の予測範囲 代償範囲の限界値 代謝性アシドーシスの 呼吸性代償 ΔPaCO2=1〜1.3 Δ HCO3- PaCO2=15mmHg 代謝性アルカローシス の呼吸性代償 ΔPaCO2=0.5〜1.0 Δ HCO3- PaCO2=60mmHg 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.1 ΔPaCO2 HCO3-=30 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.35 ΔPaCO2 HCO3- =42 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.2 ΔPaCO2 HCO3- =18 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.4 ΔPaCO2 HCO3- =12 慢性の呼吸性アシドーシスとは24時間以上続くもの。 Δ計算をおこなうときは HCO3- は24、PaCO2は40、AGは12を正常値とする。
覚えるべき正常値 pH 7.40 PaCO2 40mmHg HCO3- 24mmHg AG 12mmol/L
血液ガスの読み方 Step1:アシデミアか、アルカレミアか。 pH 7.36ならアシデミア、pH 7.44ならアルカレミア。 中性でも、PaCO2、HCO3-、AGに異常がないか確認。 Step2:アシデミアまたはアルカレミアの主たる要因 は代謝性変化か、呼吸性変化によるものか判断する。 Step3:代償性変化が予測の範囲内かをチェックす る。 Step4:アニオンギャップを計算する。AGが増加して いる場合は、ΔAGとΔHCO3-を比較する。 AG=Na+-(Cl- + HCO3-) ΔAG>ΔHCO3- なら代謝性アルカローシスの合併 ΔAG<ΔHCO3- ならAG正常の代謝性アシドーシスの合併 Step5:病歴、現症、検査所見を総合的に判断する。
Case 1
Case 1 45歳、女性。 25歳時に妊娠中毒症と診断され、それ以降、蛋白尿 が持続していた。3年前に検診で高血圧を指摘された が放置していた。3ヶ月前から悪心、嘔吐、食欲不振 があり受診した。 血圧170/100 mmHg、両下腿に浮腫がある。
Case 1 血液検査: Na 127 mEq/L、K 6.7 mEq/L、Cl 95 mEq/L、 BUN 150 mg/dL、Cr 8.8 mg/dL、血糖120mg/ dL。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.24、 PaO2 95mmHg、 PaCO2 24mmHg、 HCO3- 9mEq/ L。
Case 1 pH 7.24 PaCO2 24mmHg HCO3- 9mEq/ L step 1: pH 7.24なのでアシデミア step 2: HCO3- 9mEq/ Lなので代謝性アシドーシス
代償性変化予測 代償性変化の予測範囲 代償範囲の限界値 代謝性アシドーシスの 呼吸性代償 ΔPaCO2=1〜1.3 Δ HCO3- PaCO2=15mmHg 代謝性アルカローシス の呼吸性代償 ΔPaCO2=0.5〜1.0 Δ HCO3- PaCO2=60mmHg 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.1 ΔPaCO2 HCO3-=30 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.35 ΔPaCO2 HCO3- =42 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.2 ΔPaCO2 HCO3- =18 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.4 ΔPaCO2 HCO3- =12 慢性の呼吸性アシドーシスとは24時間以上続くもの。 Δ計算をおこなうときは HCO3- は24、PaCO2は40、AGは12を正常値とする。
Case 1 pH 7.24 PaCO2 24mmHg HCO3- 9mEq/ L step 1: pH 7.24なのでアシデミア step 2: HCO3- 9mEq/ Lなので代謝性アシドーシス step 3: 予測ΔPaCO2=1〜1.3x15=15〜19.5、 実測ΔPaCO2=16であり、代償の範囲内。 step 4: AG?
Anion Gap 測定され ない 陽イオン AG=Na+-(Cl- + HCO3-) AGの正常値12 2 測定され ない 陰イオン AG HCO3Na+ 測定されない陽イオン; K+、Ca2+、Mg2+、Protein Cl- 測定されない陰イオン; 大部分はアルブミン 陽イオン 陰イオン 正常
Case 1 pH 7.24 PaCO2 24mmHg HCO3- 9mEq/ L step 1: pH 7.24なのでアシデミア step 2: HCO3- 9なので代謝性アシドーシス step 3: 予測ΔPaCO2=1〜1.3x15=15〜19.5、 実測ΔPaCO2=16であり、代償の範囲内。 step 4: AG=23で、AG増加。 step 5: AG増加型の代謝性アシドーシス
酸が増えると 測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン 測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン AG HCO3Na+ Cl- 陽イオン 陰イオン 正常 HCO3Na+ 陽イオン Cl- 陰イオン AG増加型 代謝性アシドーシス 乳酸 10mEq/L増えると H+ 10mEq/Lと AG 乳酸陰イオン 10mEq/L に分離し、 H+とHCO3-が反応し、 HCO3- 10mEq/L減少する 乳酸陰イオン 10 mEq/Lが 残るので、AGが10上昇する AGが増えるということは 酸が追加されたということ
アルカリが減ると 測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン 測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン AG AG HCO3- HCO3Na+ Cl- 陽イオン 陰イオン 正常 HCO3-が減ると、その分、 Cl-が増え、AGは変化ない。 Na+ 陽イオン Cl- 陰イオン AG正常の 代謝性アシドーシス AGが増えないアシドーシス ということは アルカリが減少したということ
AGは代謝性アシドーシスが ・酸が増えた ・アルカリを失った どちらか鑑別する便利な指標
AGが増えている 酸が増加している 増加した酸は何?
AGが増加する代謝性アシドーシス たまるもの 乳酸 乳酸アシドーシス ケトン ケトアシドーシス 有機酸 腎不全 薬物 中毒 糖尿病性、アルコール性 アスピリン、エチレングリコールなど
本症例の病態 慢性腎不全に伴うAG増加型代謝性アシドーシス
Case 2
Case 2 58歳、女性。 糖尿病があり、インスリン療法を受けている。3日前 から感冒のため、食欲低下し、インスリンの自己注射 を中止していた。部屋で倒れているのを家族に発見さ れて搬送された。 血圧120/62 mmHg、アセトン臭あり。
Case 2 血液検査: Na 140mEq/L、K 4.4mEq/L、Cl 105mEq/L、 BUN 40mg/dL、Cr 2.1mg/dL、血糖632mg/dL。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.21、 PaO2 70mmHg、 PaCO2 31mmHg、 HCO3- 12 mEq/ L。
Case 2 pH 7.21 PaCO2 31mmHg HCO3- 12mEq/ L step 1: pH 7.21なのでアシデミア step 2: HCO3-12なので代謝性アシドーシス step 3: 予測ΔPaCO2=1〜1.3x12=12〜15.6、 実測ΔPaCO2=9であり、呼吸性アシドーシスを合併
便利なマジックナンバー 正常代償時の予測PaCO2 = HCO3- + 15 代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスの呼吸 性代償をこの1式で判定可能。 ただし、pH 7.20〜7.50の狭い範囲しか使えな い。
Case 2 pH 7.21 PaCO2 31mmHg HCO3- 12mEq/ L step 1: pH 7.21なのでアシデミア step 2: HCO3-12なので代謝性アシドーシス step 3: 予測PaCO2=12+15=27で実測PaCO2 31は 高いので、呼吸性アシドーシスを合併 step 4: AG=23で、AG増加。 step 5: AG増加型の代謝性アシドーシス +呼吸性アシドーシス
本症例の病態 本症例は、病歴や尿ケトン体3+から、糖尿病性ケト アシドーシスと考えられる。 呼吸性アシドーシスを合併しているのは、部屋で倒れ ていたために、低換気になったのだと考えられる。
Case 3
Case 3 47歳、女性。 数年前から、四肢の脱力が時々あった。本朝より下肢 のけいれんがあり、立ち上がりができなくなり、救急 車で来院した。 血圧98/52 mmHg。う歯の多発を認める。
Case 3 血液検査: Na 140 mEq/L、K 2.1 mEq/L、Cl 115 mEq/L、 BUN 20 mg/dL、Cr 0.7 mg/dL、血糖100mg/ dL。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.27、 PaO2 95mmHg、 PaCO2 27mmHg、 HCO3- 12 mEq/ L。 尿:pH 6.5、尿蛋白(‒)、尿潜血(‒)、尿ケトン 体(‒)、Na 70mEq/L、K 35mEq/L、Cl 79mEq/ L
Case 3 pH 7.27 PaCO2 27mmHg HCO3- 12mEq/ L step 1: pH 7.27なのでアシデミア step 2: HCO3-12なので代謝性アシドーシス step 3: 予測PaCO2=12+15=27で実測PaCO2 27は 一致しているので、代償の範囲。 step 4: AG=13で、AG正常。 step 5: AG正常の代謝性アシドーシス
AG正常のアシドーシスの原因 HCO3-を喪失する場所 消化管 腎臓 下痢、小腸瘻孔など 尿細管性アシドーシス • • • 近位型RTA 遠位型RTA 高K血症型RTA その他、特殊なものとして、 • • 塩酸セベラマー投与 陽イオンギャップの高いアミノ酸製剤の投与
尿細管でのHCO3 再吸収と酸の排泄 近位尿細管 Henleループ 遠位尿細管 集合管 H+分泌 HCO3- HPO42- H2PO4NH4+ NH3 HCO3- 再吸収 H+分泌 この部位の障害 この部位の障害 近位型RTA 遠位型RTA
RTA 近位型RTA:近位尿細管でのHCO3-の再吸収障害 アシドーシスは進行性ではない、低K血症 原因疾患:多発性骨髄腫、アセタゾラミド 遠位型RTA:集合管での尿酸性化障害 アシドーシスは高度、骨減少症、尿管結石、低K血症 原因疾患: シェーグレン症候群、高Ca尿症 高K血症型RTA:アルドステロンの作用不全 アシドーシスは軽度、高K血症 原因疾患: 偽性低アルドステロン症、慢性腎不全、糖尿病、SLE
本症例の病態 AG正常の代謝性アシドーシス シェーグレン症候群による尿細管性アシドーシス
Case 4
Case 4 58歳、男性。 1年前から高血圧で通院している。2年前から、膝に 力が入らないと感じていた。2日前から両下肢の脱力 感を自覚し、その後、悪化し、立つことさえできなく なったため救急車で搬送された。 血圧194/112mmHg
Case 4 血液検査: Na 141 mEq/L、K 1.8 mEq/L、Cl 90 mEq/L、ア ルドステロン27.1ng/dL(基準5〜10)、レニン活 性0.1ng/ml/時間(基準1.2〜2.5)。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.52、 PaCO2 50mmHg、HCO3- 40 mEq/ L。 尿検査: 尿pH 7.0、Na 73 mEq/L、K 9.1 mEq/L、Cl 70 mEq/L。
Case 4 pH 7.52 PaCO2 50mmHg HCO3- 40mEq/ L step 1: pH 7.52なのでアルカレミア step 2: HCO3-40なので代謝性アルカローシス step 3: 予測ΔPaCO2=0.5〜1x16=8〜16、実測 ΔPaCO2=10であり、代償の範囲内。 step 4: AG=11で、AG正常。 step 5: 代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスの診断 代謝性アルカローシス アルカリ投与 除外 尿Cl濃度 >40mEq/L <20mEq/L 有効循環血漿量の減少 ミネラルコルチコイド過剰 ・嘔吐 ・経鼻胃管からの胃液吸引 ・過去の利尿薬内服 高血圧 あり なし レニン・アルドステロン レニン↑ ・Bartter / Gitelman症候群 ・ループ利尿薬内服 ・サイアザイド利尿薬内服 ・重度のK喪失 レニン↓ アルドステロン↑ ・腎動脈狭窄 ・悪性高血圧 ・レニン産生腫瘍 レニン↓ アルドステロン↓ ・原発性アルドステ ロン症 ・Cushing症候群 ・甘草 ・AME ・Liddle症候群 ・ステロイド投与
本症例の病態 高血圧以外明らかな病歴なし。 尿中Cl >40mEq/L 高血圧 レニン低値、アルドステロン高値 本症例は、原発性アルドステロン症
Case 5
Case 5 60歳、男性。 喫煙歴:1日30本、40年。数年前から労作時の呼吸 困難を認めている。 血圧130/80 mmHg。
Case 5 血液検査: Na 140 mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 98 mEq/L、 BUN 16 mg/dL、Cr 1.1 mg/dL。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.36、 PaO2 70mmHg、 PaCO2 55mmHg、 HCO3- 30mEq/ L。
Case 5 pH 7.36 PaCO2 55mmHg HCO3- 30mEq/ L step 1: pH 7.36なのでアシデミア step 2: PaCO2 55なので呼吸性アシドーシス
代償性変化予測 代償性変化の予測範囲 代償範囲の限界値 代謝性アシドーシスの 呼吸性代償 ΔPaCO2=1〜1.3 Δ HCO3- PaCO2=15mmHg 代謝性アルカローシス の呼吸性代償 ΔPaCO2=0.5〜1.0 Δ HCO3- PaCO2=60mmHg 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.1 ΔPaCO2 HCO3-=30 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.35 ΔPaCO2 HCO3- =42 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.2 ΔPaCO2 HCO3- =18 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.4 ΔPaCO2 HCO3- =12 慢性の呼吸性アシドーシスとは24時間以上続くもの。 Δ計算をおこなうときは HCO3- は24、PaCO2は40、AGは12を正常値とする。
Case 5 pH 7.36 PaCO2 55mmHg HCO3- 30mEq/ L step 1: pH 7.36なのでアシデミア step 2: PaCO2 55なので呼吸性アシドーシス step 3: 慢性の呼吸性アシドーシスに対する代償で は、予測ΔHCO3- =0.35x15=5.25、実測ΔHCO3=6であり、代償の範囲内。 step 4: AG=12で、AG正常。 step 5: 呼吸性アシドーシス
本症例の病態 COPDによる慢性呼吸性アシドーシス
Case 6
Case 6 83歳、女性。 生来健康で畑仕事をするほど元気であった。朝、台所 で倒れているところを家族に発見された。四肢は冷た くなっていた。救急外来到着時、血圧90mmHg(触 診)、脈拍96/分、体温34.5度。 全身状態は不良で、呼びかけても返答は不明瞭。四肢 末梢にチアノーゼあり。下肢には網状皮斑が見られ た。右季肋部を圧迫すると顔をしかめた。 Dr.須藤の酸塩基平衡と水・電解質より引用
Case 6 血清電解質: Na 134 mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 96 mEq/L。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.32、 PaO2 69mmHg、 PaCO2 12mmHg、 HCO3- 6mEq/ L。
Case 6 pH 7.32 PaCO2 12mmHg HCO3- 6mEq/ L step 1: pH 7.32なのでアシデミア step 2: HCO3- 6なので代謝性アシドーシス step 3: 予測PaCO2=6+15=21で実測PaCO2 12は 低く、過換気があり、呼吸性アルカローシスを合併 step 4: AG=32で、AG増加 step 5: AG増加型の代謝性アシドーシス +呼吸性アルカローシス
本症例の病態 AG増加型代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス という組み合わせを起こす病態は、敗血症かアスピリ ン中毒が代表的。 敗血症では、エンドトキシンが呼吸中枢を刺激して、 過換気になる。 本症例でも、敗血症を疑って、原因検索をおこなう。 本症例は、急性化膿性胆嚢炎に伴う敗血症であった。
AG増加型代謝性アシドーシス +呼吸性アルカローシス 敗血症かアスピリン中毒を疑う
Case 7
Case 7 19歳、男性。 生来健康で12時間前にも特に変わったことはなかっ た。アパートの自室で倒れているのを友人が発見し て、救急外来に運び込まれた。 意識不明。血圧90/60mmHg、脈拍数110/分。
Case 7 血液検査: Na 152 mEq/L、K 3.6 mEq/L、Cl 104 mEq/L。 動脈血ガス分析(自発呼吸、room air): pH 7.42、 PaCO2 24mmHg、HCO3- 15 mEq/ L。 尿ケトン3+、糖()
Case 7 pH 7.42 PaCO2 24mmHg HCO3- 15mEq/ L step 1: pH 7.42は中性! 中性だが、PaCO2もHCO3- も異常値で複数の酸 塩基平衡が存在して、綱引きの結果が中性になっ たと考える。アシドーシスもアルカローシスもあ るはず。
Case 7 pH 7.42 PaCO2 24mmHg HCO3- 15mEq/ L step 1: pH 7.42中性だが、アシドーシスがあるはず step 2: HCO3- 15なので代謝性アシドーシス step 3: 予測PaCO2=15+15=30で実測PaCO2 24は 低く、過換気があり、呼吸性アルカローシスを合併 step 4: AG=33で、AG増加 step 5: AG増加型の代謝性アシドーシス +呼吸性アルカローシス
AG増加型代謝性アシドーシスでは ΔAG ΔHCO3測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン 測定され ない 陽イオン 測定され ない 陰イオン AG AG HCO3- HCO3- Na+ Cl- Na+ Cl- 陽イオン 陰イオン 陽イオン 陰イオン 正常 AG増加型 代謝性アシドーシス
Case 6では HCO3- 6mEq/L AG 32mEq/L ΔHCO3- =18mEq/L ΔAG=20mEq/L であり、ΔHCO3- ΔAGといえる。
Case 7では HCO3- 15mEq/L AG 33mEq/L ΔHCO3- =9mEq/L ΔAG=21mEq/L であり、ΔHCO3- =ΔAGとはいえない。 AGの上昇具合からすると、HCO3- はもっと低いはず (予測HCO3- =3mEq/L)で、何らかのHCO3-が増え るような病態が隠れている。 つまり、代謝性アルカローシスが隠れている。
ΔAG>ΔHCO3 の時は、 AG増加型代謝性アシドーシスに代謝性 アルカローシスが合併している。 ΔAG<ΔHCO3 の時は、 AG増加型代謝性アシドーシスにAG正の代 謝性アシドーシスが合併している。
Case 7 pH 7.42 PaCO2 24mmHg HCO3- 15mEq/ L step 1: pH 7.42中性だが、アシドーシスがあるはず step 2: HCO3- 15なので代謝性アシドーシス step 3: 予測PaCO2=15+15=30で実測PaCO2 24は 低く、過換気があり、呼吸性アルカローシスを合併 step 4: AG=33で、AG増加 step 5: AG増加型の代謝性アシドーシス +呼吸性アルカローシス +代謝性アルカローシス
本症例の病態 代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの存在を一元的 に説明しようとすると、アセチルサリチル酸(アスピリン) 中毒か、敗血症である。本症例は、アセチルサリチル酸中毒 であった。 アセチルサリチル酸は体内で速やかにサリチル酸に代謝さ れ、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を阻害するなどし て、乳酸またはケト酸などの産生を増加させ、AG増加型の 代謝性アシドーシスを引き起こす。また、サリチル酸は直 接、呼吸中枢に作用して過呼吸を起こす。 代謝性アルカローシスは、おそらく嘔吐があったためと思わ れる。
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血液ガスの読み方 Step1:アシデミアか、アルカレミアか。 pH 7.36ならアシデミア、pH 7.44ならアルカレミア。 中性でも、PaCO2、HCO3-、AGに異常がないか確認。 Step2:アシデミアまたはアルカレミアの主たる要因 は代謝性変化か、呼吸性変化によるものか判断する。 Step3:代償性変化が予測の範囲内かをチェックす る。 Step4:アニオンギャップを計算する。AGが増加して いる場合は、ΔAGとΔHCO3-を比較する。 AG=Na+-(Cl- + HCO3-) ΔAG>ΔHCO3- なら代謝性アルカローシスの合併 ΔAG<ΔHCO3- ならAG正常の代謝性アシドーシスの合併 Step5:病歴、現症、検査所見を総合的に判断する。
代償性変化予測 代償性変化の予測範囲 代償範囲の限界値 代謝性アシドーシスの 呼吸性代償 ΔPaCO2=1〜1.3 Δ HCO3- PaCO2=15mmHg 代謝性アルカローシス の呼吸性代償 ΔPaCO2=0.5〜1.0 Δ HCO3- PaCO2=60mmHg 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.1 ΔPaCO2 HCO3-=30 呼吸性アシドーシスの 代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.35 ΔPaCO2 HCO3- =42 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(急性) Δ HCO3- =0.2 ΔPaCO2 HCO3- =18 呼吸性アルカローシス の代謝性代償(慢性) Δ HCO3- =0.4 ΔPaCO2 HCO3- =12 慢性の呼吸性アシドーシスとは24時間以上続くもの。 Δ計算をおこなうときは HCO3- は24、PaCO2は40、AGは12を正常値とする。