#4.
導⼊ 症例 解説 糖尿病について 2型糖尿病 1型糖尿病 主に自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊により絶体的インスリン インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす の欠乏が生じ発症する. 複数の遺伝因子に, 過食(特に高脂肪食)・運動 HLAなどの遺伝因子にウイルス感染などの誘因・環境因子が加 わって起こり, 他の自己免疫疾患を高率に合併する. 典型的には, 若年者に急激に発症し,速やかにインスリン依存状態 に陥る. 1型糖尿病は成因別に(A)自己免疫性, (B)特発性に分類され, さらに 発症様式別に, ①急性発症, ②緩徐進行(slowly progressive 不足などの生活習慣, およびその結果としての肥 満が環境因子として加わり発症する. 糖負荷後の早期のインスリン分泌低下が特徴で ある. 膵β細胞はある程度保たれており, インスリン依 存状態まで進む割合は限られている. insulindependent diabetes mellitus), ③劇症の3つに分類される. 日本糖尿病学会,糖尿病診療ガイドライン2019. p11-12
#5.
導⼊ 症例 症例:39歳 ⼥性 確定診断名(主な病名および副病名) 1. 緩徐進行1型糖尿病 2. 糖尿病性ケトアシドーシス 【主訴】 四肢末端のしびれ・夜間頻尿・多尿・口渇・体重減少 【現病歴】 X-3年に職場健診で高血糖を指摘され, 内科を受診し, 糖尿病の診断を受けて内服治療を開 始されたが数ヶ月で受診を中断した. X-1年夏頃より体重減少を認め, その後口渇が出現して きていたが放置していた. また徐々に全身倦怠感も出現し,周囲からも体重減少を指摘されて いたが受診されないままであった. X年4月2日に起立できないほどの倦怠感を認め,4月3日に 当院総合内科受診となった. 受診時の血糖値447mg/dL,尿ケトン3+より糖尿病性ケトーシスも しくはケトアシドーシスの可能性が疑われ, 発症形態より糖尿病性ケトアシドーシスが疑われ たため糖尿病内科紹介となり, 同日入院加療となった. 【既往歴】 35歳 腰椎ヘルニア, 37歳 子宮筋腫・子宮摘出術術後 【内服歴】 なし 【家族歴】 父:2型糖尿病 【生活歴】 喫煙:なし, 飲酒:なし 解説
#6.
導⼊ 主な⼊院時現症 意識 身長・体重 体温 血圧・脈拍 SpO2・呼吸数 結膜 清明(JCS-0) 152.0 cm, 38Kg(過去最大体重:50.8Kg(30歳)),BMI:16.4 36.8 ℃ 106/70 mmHg, 76 /分 (整) 98.1% , 30 /分 眼瞼結膜に貧血なし, 眼球結膜に黄疸なし 口腔内 口腔内は乾燥 甲状腺 腫大なし 頸静脈 怒張なし 胸部 呼吸音正常,ラ音を認めない, 心雑音や過剰心音を認めない 腹部 軟・平坦で圧痛なし, 腸雑音に特記すべき異常を認めない, 肝脾腫を触知しない 四肢 浮腫なし 症例 解説
#7.
導⼊ 症例 解説 主要検査所⾒ 生化学 血算・凝固 WBC: 6,320 /μL TP: 6.4 g/dL Na: 134 mEq/L RBC: 371万 /μL ALb: 4.0 g/dL K: 4.1 mEq/L Hb: 11.5 g/dL T-BiL: 0.4 mg/dL Cl: 102 mEq/L Ht: 36.4 % AST: 30 IU/L CRP: 0.3 mg/dL Plt: 22.2万 /μL ALT: 39 IU/L 空腹時血糖: 447 mg/dL LDH: 136 IU/L HbA1c: 18.6 % CK: 36 IU/L 抗GAD抗体: 41.8 U/mL BUN: 9.7 mg/dL 空腹時血清CPR: 0.4 ng/mL Cr: 0.4 mg/dL FT4: 0.7 ng/dL eGFR: 132.3 mL/分 /1.73m2 TSH: 2.83 μIU/mL 尿中Alb: 19.7 mg/gCr UA: 5.1 mg/dL 尿中CPR: 16.3 μg/日
#8.
導⼊ 症例 その他の検査所⾒ 動脈血液ガス(室内気吸入下) 検尿 腹部エコー pH: 7.283 尿ケトン体: 3+ 肝臓: 異常なし PaO2: 104.9 mmHg 尿蛋白: - 胆嚢: 異常なし PaCO2: 25.8 mmHg 尿糖: 3+ 脾臓 異常なし HCO3-: 11.8 mmoL/L 尿潜血: ± 膵臓 異常なし SpO2: 98.1 % 眼底所見 糖尿病網膜症なし \内科専門医が補足/内科専門医試験こぼれ話 ● 尿中ケトン体の測定には 新鮮尿を用いる. ケトン体は揮発性で 分解しやすいためである. 解説
#9.
導⼊ 症例 解説 緩徐進⾏1型糖尿病の診断基準 必須項⽬ 1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性である. 2. 原則として, 糖尿病の診断時, ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく, 直ちに高血糖是正のためインスリン療法が 必要とならない. 3. 経過とともにインスリン分泌能が徐々に低下し, 糖尿病の診断後3ヶ月を過ぎてからインスリンが必要となり, 空腹時 血清Cペプチド<0.6ng/mLである. 判定 ・1, 2, 3を満たす場合, 「 緩徐進行1型糖尿病(definite) 」と診断する. ・1, 2のみを満たす場合は, インスリン非依存状態の糖尿病であり, 「 緩徐進行1型糖尿病(probable) 」とする. 日本糖尿病学会, 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準2023
#10.
導⼊ 症例 治療経過 1 #1. 緩徐進行1型糖尿病 #2. 糖尿病性ケトアシドーシス • 入院時より生理食塩水+速効型インスリン5単位混注したもので輸液を500 mL/Hrの速度で開始した. その後毎時血糖 値測定し徐々に輸液速度を下げていった. • 3時間後には血糖値187 mg/dLまで低下した為,生理食塩水2000 mL輸液した時点で維持液+速効型インスリン5単位混 注を輸液速度125 mL/Hrに変更し, 生理食塩水500 mLにて輸液終了とした. • 入院当日の4月3日夕食より経口摂取可能であった事から, 翌4日よりインスリン皮下注射による血糖コントロールを開 始した. 解説
#11.
導⼊ 症例 治療経過 2 #1. #1. 緩徐進行1型糖尿病 緩徐進行1型糖尿病 • 本症例は, 3年前に糖尿病の診断を受けた際にはインスリン依存状態でなく(必須項目2), 今回入院時に抗GAD抗体陽 性(必須項目1), 血清Cペプチド0.4ng/mL(必須項目3)であったことから, 緩徐進行1型糖尿病(definite)と診断された. • 診断後速やかにインスリン治療を開始すれば, SU薬による治療を受けているものよりCペプチド分泌が保たれていると いう報告もある(J ClinEndocrinol Metab. 2008;93(6):2115–2121. doi:10.1210/jc.2007-2267). • 病気の受け入れなどから自己注射手技の習得に取りかかるのには時間が必要であったが手技自体に関しては問題な い状態であった. 解説
#12.
導⼊ 症例 治療経過 3 #1. #1. 緩徐進行1型糖尿病 1型糖尿病 • 病気の理解に関しては不十分な面が多々あり,本来であれば療養指導士を交えた教育入院に参加してもらう予定であ り,心理面などでのサポートを行う事で療養指導の効果は大きい(Diabet Med 21:491-496,2004)と思われたが,入院その ものが本人のストレスになってきており,退院となった. • 退院時は超速効型インスリンを朝:10単位, 昼:2単位, 夕:6単位, 持効型インスリンを眠前2単位皮下注射にて朝食前血 糖値122mg/dL,昼食前血糖値119mg/dL,夕食前血糖値154mg/dL, 眠前血糖値167mg/dLという状態であった. • 眠前に使用するインスリンは少量であるが,眠前注射がなければ朝食前血糖値上昇が出現を認めたため,注射継続とし た. 本人にも血糖コントロールが重要である事を説明し, またインスリン強化療法による細小血管障害の発症と進展の 予防が報告されており(N EngL J Med 329:977-986,1993), 4回注射とした. 解説
#13.
導⼊ 臨床経過(⼊院時) 症例 解説
#14.
導⼊ 退院時の治療内容 インスリン インスリン 血糖値 血糖値 〜朝〜 〜朝〜 超速効型インス 超速効型イン リン スリン 10単位 10単位 〜昼〜 〜昼〜 超速効型インス 超速効型イン リン スリン 2単位 2単位 〜夕〜 〜夕〜 超速効型インス 超速効型イン リン スリン 6単位 6単位 〜眠前〜 〜眠前〜 持効型イン 持効型インス スリン リン 2単位 1単位 朝食前血糖値 昼食前血糖値 昼食前血糖値 夕食前血糖値 夕食前血糖値 朝食前血糖値 122mg/dL 119mg/dL 154mg/dL 122mg/dL 119mg/dL 154mg/dL 眠前血糖値 眠前血糖値 167mg/dL 167mg/dL 症例 解説
#15.
導⼊ 症例 解説 1型糖尿病の発症様式別診断基準 1.高血糖症状とケトーシス 2.血糖値の状況 インスリン治療の必要性 3.膵島関連自己抗体 4.内因性インスリン分泌 診断 急性発症 緩徐進行(SPIDDM) 劇症 口渇・多飲・多尿など高血糖症状 の出現後,約3ヶ月以内にケトーシ スあるいはケトアシドーシスに陥 る. 糖尿病発症または診断時, ケトー シスやケトアシドーシスはなく, 直 ちにインスリン療法が必要とはな らない. 口渇・多飲・多尿など高血糖症状 の出現後,約1週間以内にケトー シスあるいはケトアシドーシスに陥 る. 糖尿病の診断早期に継続してイ ンスリン治療を必要とする. インスリン療法が有効. 初診時の随時血糖>288mg/dL以 上かつHbA1c<8.7% [インスリン治療は必須] GAD抗体, IA-2抗体, IAA, ZnT8抗体, ICAのうち, いずれか の陽性を経過中に確認 抗 GAD抗体, ICAのうち,いずれ かの陽性を経過中に確認. [原則陰性] 膵島関連自己抗体が証明できな いが, 空腹時血清Cペプチド <0.6ng/mLであり, 内因性インス リン分泌の欠乏が認められる. 経過とともにインスリン分泌能が 徐々に低下し, 糖尿病の診断後 3ヶ月を過ぎてからインスリンが必 要となり, 空腹時血清Cペプチド <0.6ng/mLである. 発症時の尿中Cペプチド<10μg/ 日, または空腹時血清Cペプチド <0.3ng/mLかつグルカゴン負荷 後血清Cペプチド<0.5ng/mLであ る. 1,2,3を満たす場合, 急性発症(自 己免疫性)と診断. 1,2,4を満たす 場合,急性発症と診断. 1,3,4をともに満たす場合に診断 (definite). 1,3のみを満たす場合 はインスリン非依存状態として診 断(peobable). 1,2,4のすべてを満たすものを劇 症と診断. ❇([]内は参考所⾒) 日本糖尿病学会, 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準2023, ,糖尿病診療ガイドライン2019. p13より改変
#16.
導⼊ 症例 解説 糖尿病性ケトアシドーシス 症状 ● 急激な口渇, 多飲, 多尿, 倦怠感が出現し, 脱水, 種々の程度の意識障害, 体重減少を呈する. 腹痛, 悪心を伴うこともあり, 急性腹症と誤診されることもある. 代謝生アシドーシスを補正するための過呼吸(Kussmaul呼吸)や呼気のアセトン臭, 口腔粘膜の乾燥, 低血圧, 頻脈などを認める. 検査 高血糖(250mg/dL以上),ケトーシス(β-ヒドロキシ酪酸の増加), アシドーシス(動脈血pH7.30以下, HCO 3-18mEq/L以下)などが特徴的. β-ヒドロキシ酪酸は, 小児では3000μmoL/L以上, 成人では3,800μmoL/L以上が, HCO3-18mEq/L未満に相当することが報告されている. 日本糖尿病学会,糖尿病診療ガイドライン2019. p329
#17.
導⼊ 症例 解説 糖尿病性ケトアシドーシス 治療 ①生理食塩水を中心とした十分な輸液と電解質(ナトリウム, カリウム)の補充. 通常は500~1000mL/Hr(あるいは15~20mL/kg/Hr)で輸液を開始する. 以降, 循環動態に応じて, 250~500mL/Hrを目安に調整する. 急激な浸透圧低下による脳浮腫に注意し, 血糖値が250~300mg/dLとなれば, ブドウ糖を含む低張電解質輸液の点滴静注を行う. \内科専門医が補足/内科専門医試験こぼれ話 ● 0.9%生食の大量投与と, インスリン少量持続静注療法が最も 重要である. 日本糖尿病学会,糖尿病診療ガイドライン2019. p330
#18.
導⼊ 症例 解説 糖尿病性ケトアシドーシス 治療 ②インスリンは少量持続静注が原則. 速効型インスリンを生理食塩水に混注して, 小児では0.05~0.1単位/kg/Hr, 成人では0.1単位/kg/Hrの速度を目安に持続静注を開始. 50~75mg/dL/Hrの速度で血糖が低下することが期待される. アシドーシスの補正は原則行わない. インスリン治療による高血糖やアシドーシスの改善に伴う血清カリウム低下に注意. \内科専門医が補足/内科専門医試験こぼれ話 ● ● 重曹の投与によりかえって中枢神経系のアシドーシスが遅延 したり, 高Na血症を増強する可能性がある. ただしpH<7.0のケースでは重曹液20~40mlを使用する. 日本糖尿病学会,糖尿病診療ガイドライン2019. p330
#19.
導⼊ 症例 解説 本症例のポイント • 本症例は, 糖尿病性ケトアシドーシスを合併した緩徐進行1型糖尿病(definite)の成人発症例 である. 3年前に糖 尿病の診断を受けた際にはインスリン依存状態でなく(必須項目2), 今回入院時に抗GAD抗体陽性(必須項目 1), 血清Cペプチド0.4ng/mL(必須項目3)であったことから, 緩徐進行1型糖尿病(definite)と診断された. • インスリン静注で糖尿病性ケトアシドーシスの治療を行い, 高血糖が改善された後, 慢性疾患として糖尿病治療 のためにインスリン皮下注射に切り替えた. • 療養指導を導入するにあたり, まずは1型糖尿病と2型糖尿病の相違点としてインスリン注射が必要であること を説明し, また極端なカロリー制限は不要であるという事を説明した. 家族も2型糖尿病との混乱が見られた為, 同様の事を説明し, 食事療法や運動療法を本人に強制しないように説明を行った.
#20.
導⼊ 症例 解説 よく聞かれるDKAとHHSの違いについて 糖尿病性ケトアシドーシス ⾼浸透圧⾼⾎糖状態 糖尿病性ケトアシドーシス(diabeticketoacidosis:DKA) は, イン 高浸透圧高血糖状態(hyperglycemic hyperosmolar スリンの作用の欠乏により生じる高度の栄養失調状態である. state:HHS)は脱水と高浸透圧が病態の中心となる. ケトン体のうち, アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸は弱酸性である 脳神経細胞の細胞内脱水と循環不全による脳虚血によ が, 通常の体内のpHではほぼすべてイオン化しており, DKAに り意識障害が起きるとされており, その程度は血糖値よ おける過剰の蓄積は容易に血液緩衝能を超え, 血液の酸性化 りも血漿浸透圧と相関する. を引き起こす. インスリン欠乏はDKA に比較して相対的であり, 絶対的 この高ケトン体血症が血液の緩衝作用を凌駕した結果起こっ 欠乏ではないことで脂肪分解が進まず, ケトン体生成が たアシドーシスと高血糖の浸透圧利尿による脱水がDKAの本 DKA ほど生じないと考えられる. 体である. 糖尿病専門医ガイドブック第8版,p288より改変
#21.
導⼊ 症例 解説 よく聞かれるDKAとHHSの違いについて 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) 高血糖高浸透圧状態(HHS) 糖尿病タイプ 主として1型糖尿病 2型糖尿病 発症年齢 主として若年 高齢 前駆症状 多飲, 多尿, 消化器症状 特異的なものなし 身体異常 脱水, アセトン臭, Kussmaul大呼吸 脱水, アセトン臭なし, けいれん・振戦などの 神経学的所見 尿ケトン体 陽性~強陽性 陰性~弱陽性 血糖値 300~1000mg/dL 600~1500mg/dL 浸透圧 正常~330mOsm/L 350mOsm/L以上 Na 正常~ 軽度低下 150mOsm/L以上 pH 7.3以下 7.3~7.4 BUN 上昇 著名に上昇 K 軽度高値, 治療後低下 軽度高値, 治療後低下 その他の特徴 反復傾向あり 改善後は血糖コントロール良好 糖尿病専門医ガイドブック第8版,p288より改変
#22.
導⼊ Take Home Message 1型糖尿病の病型は, 発症様式別に, 急性発症型・緩徐進行型・劇症型に分けられる. 1型糖尿病は, 2型糖尿病と異なり, 食事療法や運動療法, 極端なカロリー制限は必須ではなく, インスリン注射は必須であることを踏まえて療養指導を行う. 糖尿病性ケトアシドーシスの治療は十分な輸液と インスリン少量持続投与, 電解質の補正をする. 原則アシドーシスの補正は行わない. 症例 解説