#4.
01. 緩徐進行1型糖尿病の診断基準 緩徐進行1型糖尿病/SPIDDM (slowly progressive insulin dependent diabetes mellitus)
【必須項目】
1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性であるa) 。
2. 原則として、糖尿病の診断時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない。
3. 経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の診断後3ヶ月 b)を過ぎてからインスリン療法が必要になり、最終観察時点で内因性インスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド<0.6ng/ml)である。
a)膵島関連自己抗体とは、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体,亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、インスリン自己抗体(IAA)を指す。ただし、IAAはインスリン治療開始前に測定した場合に限る。
b)典型例は6ヶ月以上である
・上記1、2、3を満たす場合、「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断する。
・上記1、2のみを満たす場合は、インスリン非依存状態の糖尿病であり、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」とする。 2023年改訂. 日本糖尿病学会 (http://www.jds.or.jp/modules/study/index.php?content_id=50, 2023/8/1アクセス)
#5.
01. 緩徐進行1型糖尿病の診断基準 緩徐進行1型糖尿病/SPIDDM (slowly progressive insulin dependent diabetes mellitus)
【参考項目】
「緩徐進行1型糖尿病(probable)」は、海外では、LADA(latent autoimmune diabetes in adults、緩徐発症成人自己免疫性糖尿病)に含まれる概念で、典型例では35才以降に発症する。しかし、小児を含む若年者にも発症する場合があり、これらの例は海外ではLADY(latent autoimmune diabetes in youth)と呼称されている。
本スライドでは、典型例(LADA)と若年発症例(LADY)の二つの仮想症例を紹介し、
診断や治療法のエビデンスにも触れていきます。
症例発表やレポート作成の参考に、また1型糖尿病への理解を深めるための
一助となれば幸いです。 2023年改訂. 日本糖尿病学会 (http://www.jds.or.jp/modules/study/index.php?content_id=50, 2023/8/1アクセス)
#6.
02. 症例A(典型例) 【症例】62歳、男性
【現病歴】50歳時に職場健診で高血糖を指摘されたことを契機に糖尿病の診断を受けた。食事療法や運動療法に積極的に取り組み、メトホルミン500㎎の内服により長らく血糖管理は良好で、HbA1c:6.5%前後を推移していた。X年5月頃から特に誘因なく血糖管理が悪化し、シタグリプチン50㎎、グリメピリド1㎎を追加されるも効果は乏しく、グリメピリドを2㎎に増量されたが血糖管理はさらに増悪し、HbA1c:10.5%に達した。また2カ月で7kgの体重減少が見られた。体重減少の原因精査目的にX年10月にA市民病院消化器内科に紹介され、上下部消化管内視鏡や胸腹部造影CTを実施されたが異常はなかった。血糖管理不良に伴う体重減少の可能性が疑われ、同院糖尿病内科に紹介された。 糖尿病患者は悪性腫瘍の頻度が高いので、この鑑別は重要です◎
#7.
02. 症例A(典型例) 【既往歴・併存症】高血圧症、脂質異常症
【アレルギー歴】アモキシシリン
【常用薬】メトホルミン500㎎、シタグリプチン50㎎、グリメピリド2mg、テルミサルタン40㎎、アムロジピン5㎎、アトルバスタチン5㎎
【生活歴】飲酒:機会飲酒。喫煙:なし。最大体重:50歳, 65kg(BMI23.3kg/m2)、20歳時の体重:60kg(BMI21.5kg/m2) 。
【家族歴】糖尿病:父が2型糖尿病で内服治療中。父方祖母が心筋梗塞。
【現症】身長:167cm 体重:55kg BMI:19.7kg/m2
血圧:136/85mmHg 脈拍:98bpm
#8.
02. 症例A(典型例) 〈尿検査〉 〈血算〉 〈生化学検査〉 〈血糖関連検査〉 〈生化学検査〉 〈糖尿病合併症〉
#9.
02. 症例A(典型例) 【経過】GAD抗体高値であったが、内因性インスリン分泌能は保持されており、ケトーシスは認めなかった。緩徐進行1型糖尿病(probable)と診断し、ただちにグリメピリドは中止とした。仕事の都合で入院はできず、外来管理を行う方針とした。食事・運動療法およびメトホルミン1500㎎への増量によりHbA1c<7.0%未満を達成した。しかしその後徐々に血糖コントロールが悪化し、インスリン分泌能も経時的な低下を認めたために、インスリンを導入した。以降血糖管理は改善したが、徐々にインスリン必要量が増加した。X+3年には空腹時血清Cペプチド0.4ng/mLに低下し、緩徐進行1型糖尿病(definite)と診断し、経口血糖降下薬は中止し、応用カーボカウントを導入した。パーソナルCGMも活用し、HbA1c:6.5%~7.0%前後で安定している。 問診で血糖管理悪化の原因が特定できなかったのでGAD抗体を測定→ビンゴ! SPIDDM(definite)と急性発症の基準は0.6ng/mL未満です。劇症は尿中Cペプチド<10μg/日 or 空腹時血清Cペプチド<0.3ng/mLかつグルカゴン負荷後(or食後2h)血清Cペプチド<0.5ng/mLです。ややこしいですね。
#10.
03. 症例B(若年発症例) 【症例】28歳、女性
【現病歴】X-5年4月頃から口喝・多飲・多尿・体重減少があり、7月に職場健診で尿糖5+を指摘されたが放置していた。同年12月に感冒で近医を受診した際に、随時血糖:381mg/dLであったために糖尿病が疑われ、X-4年1月にA市民病院糖尿病内科に紹介された。身長:162㎝、体重:50kg、BMI:19.1kg/m2、随時血糖:442mg/dL、HbA1c:14.5%のため、糖尿病の診断となった。 GAD抗体 (RIA法):58.9U/mlと高値であったが、空腹時血中Cペプチド:0.8ng/mLとインスリン分泌能の枯渇はなく、血中ケトン体:165μmol/Lでケトーシスはなかった。経過および採血所見から、緩徐進行1型糖尿病(probable)と診断した。 どんだけ放置してんねんと思うかもしれませんが、糖尿病内科あるあるです。。。
#11.
03. 症例B(若年発症例) 【現病歴】挙児希望があったため、頻回インスリン注射法を導入した。当初は総インスリン量が30単位/日であったが、徐々に必要量が低下し、総インスリン量10単位/日でHbA1c:6.0%前後で安定した。X-4年10月に妊娠が判明し、翌年6月に女児を出産した。母児ともに特記すべき合併症はなかった。妊娠中は総インスリン量が最大26単位/日に達したが、分娩後は12単位/日まで低下した。以降も糖尿病内科外来に通院していたが、受診は不定期で、インスリンを1週間以上打っていないこともしばしばあった。HbA1c:7.4%~7.8%で推移しており、ケトーシスに至ることはなかった。X-2年5月を最後に外来受診を中断した。
X年12月10日から腹痛、嘔吐があり、食事摂取もままならず、11日夕には意識レベルの低下を認めたため、家人が救急要請し、A市民病院へ搬送された。 妊娠前とか妊娠中はみんながんばるんですよね そして出産後はゆるんでしまう…。これもあるあるです
#12.
03. 症例B(若年発症例) 【既往歴・併存症】緩徐進行1型糖尿病以外に特記すべきことはない。
【アレルギー歴】なし
【常用薬】なし
【生活歴】飲酒:なし。喫煙:なし。最大体重:19歳, 55kg(BMI21.0kg/m2)、20歳時の体重:52kg(BMI19.8kg/m2)。
【家族歴】糖尿病:母方祖父が2型糖尿病で内服治療中。高血圧症、脂質異常症、心疾患、脳血管疾患の家族歴はない。
#13.
03. 症例B(若年発症例) 【入院時現症】身長:162cm 体重:46kg BMI:17.5kg/m2
意識レベル:GCS E4V4M6
BT:36.8℃ 血圧:106/60mmHg 脈拍:101bpm SpO2:100%(室内気)
瞳孔径:右4mm、左4mm。両側対光反射迅速にあり。Kussmaul呼吸あり。
眼瞼結膜蒼白なし。眼球結膜黄染なし。口腔粘膜乾燥あり。
甲状腺腫大なし。
呼吸音清、左右差なし。心雑音なし。
腹部平坦、軟。腸蠕動音軽度亢進。臍周囲に圧痛あり、筋性防御なし。
#14.
03. 症例B(若年発症例) 〈動脈血液ガス分析〉 〈尿検査〉 〈血算〉 〈生化学検査〉 〈血糖関連検査〉 〈安静時心電図〉
心拍数:95/分、洞調律 〈胸腹部造影CT〉
空腸から回腸近位部にかけて壁肥厚があり、腸炎の可能性がある。その他の臓器に異常を認めない。腹水貯留なし。 〈胸部レントゲン〉
心胸郭比:42%、肋横隔膜鈍化なし
#15.
03. 症例B(若年発症例) 【入院後経過】採血所見から糖尿病性ケトアシドーシスと診断した。生理食塩水の大量輸液および経静脈的インスリン持続投与にて治療を開始したところ、速やかに意識レベルは改善した。集中治療室に入院し、30分から1時間ごとに採血を実施し、急激な血糖値の低下による脳浮腫を来さないように、輸液流量とインスリン投与量を調整した。
翌朝にはpH:7.386、HCO3-:18.8mmol/L、血糖:197mg/dL、血中総ケトン体:1966μmol/Lと高血糖、代謝性アシドーシスの改善を認めており、一般病棟に転床した。転床時、5%ブドウ糖液100ml/hrに対して速効型インスリン1.8U/hrの経静脈的投与により血糖値は200mg/dL前後に安定していた。 血糖の下げ幅は1時間あたり50-75mg/dLが安全と言われています。
輸液による脱水の補正だけでかなり下がるので、インスリン量は慎重に調整しましょう。
#16.
03. 症例B(若年発症例) 【入院後経過】一般病棟に転床して以降は経静脈的インスリン投与は中止し、インスリンデグルデク7単位/日の皮下注射を開始した。血糖値200mg/dL未満を目標とし、超速効型インスリンの皮下注射を行った。
全身状態安定後に内因性インスリン分泌能を評価したところ、空腹時血清Cペプチド:0.08ng/mL、尿Cペプチド:4.37μg/日と著明に低下していた。本症例は当院の最終受診の半年後から口喝、多飲、多尿があったが、いずれの病院にも受診せずインスリン注射もしていなかった。その結果インスリン分泌能が緩徐に低下していき、緩徐進行1型糖尿病(definite)に進展し、腸炎を契機に糖尿病性ケトアシドーシスを発症したと考えられた。 超速効型インスリン1単位で血糖値が50mg/dL下がる計算(ISF=50)でインスリンスライディングスケールを使用しました わたしは体格からアタリをつけて基礎インスリンの投与量を決め、微調整していくことが多いです 我慢強い人ですよね。よく2年も耐えたものだと思います
#17.
03. 症例B(若年発症例) 【入院後経過】本人に糖尿病合併症の発症と進行を抑制するためには血糖コントロールを良好に保つ必要があること、内因性インスリン分泌能が低下しており、血糖管理には永続的にインスリン治療が必要であること、またインスリン治療を中断すれば命に係わることを説明し、理解を得られた。
腹部症状が改善し、血糖値が200mg/dL未満を維持していることを確認し、食事摂取(1600kcal/日)を開始した。
さすがにDKAは応えたようです。受診中断する前にも説明しているはずですが、イタイ目に合わないと実感しにくいのかもしれません
#18.
03. 症例B(若年発症例) 【入院後経過】食事摂取は良好であり、応用カーボカウントを導入した。追加インスリンにインスリンアスパルトを使用し、目標血糖:120mg/dL、インスリン効果値:50mg/dLとしてインスリン量を調整した。糖質インスリン比を朝は12g/U、昼は13g/U、夕は12g/Uとし、食前血糖値は100~150mg/dLを推移した。
眠前血糖、空腹時血糖から基礎インスリンの必要量を評価し、インスリンデグルデク8単位とした。
治療と並行して糖尿病合併症の評価を行った。網膜症はなく、腎症1期、末梢神経障害及び自律神経障害を認めなかった。頸動脈エコーで内膜中膜複合体の肥厚はなく、四肢血圧同時測定で末梢動脈疾患を疑う所見は認めなかった。入院第16病日に軽快退院となった。 カーボカウントについて、詳しくは「カーボカウント導入編」「実践編」ご参照ください 日本人は1日総インスリン量の30%前後となることが多いといわれています
#19.
04. 診断のポイント 日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会緩徐進行1型糖尿病分科会報告(第一報)
臨床的に2型糖尿病として治療されている症例の10% (95%CI:8-13%) が膵島関連自己抗体陽性である。
緩徐進行1型糖尿病は2型糖尿病(インスリン非依存かつ膵島関連自己抗体陰性)と比較して発症年齢、性別、糖尿病家族歴に差はない一方、
田中昌一郎ら. 糖尿病 2011;54:65-75 血糖管理不良な症例が多い
自己免疫性甲状腺疾患の合併症が多い
平均BMIが低い(ただし約20%がBMI25kg/m2であり、肥満であるからといって緩徐進行1型糖尿病の可能性は否定できない) 非肥満で血糖管理不良な症例に対しては積極的に膵島関連自己抗体の測定を検討する!
#20.
05. 治療のポイント <インスリン依存状態への進行予測因子1)>
その他、膵島関連自己抗体の重複陽性2,3)や、SU薬の使用4)も予測因子とされる。 Yasui J, et al. PLoS One 2016;11:e0155643、2) Kasuga A, et al. J Autoimmun 1999;12:131-135、
3) 田中昌一郎ら. 糖尿病 2011;54:65-75、4) Maruyama T, et al. J Clin Endocrinol Metab 2008;93:2115-21 *10U/mLをカットオフとする報告3)も。2016年にGAD抗体の測定方法はELISA法に変更された。
残念ながら、ELISA法のカットオフ値は不明。
#21.
05. 治療のポイント <緩徐進行1型糖尿病 (probable) における治療法の選択>
SU薬の使用は避けるべき DPP4阻害薬、ビグアナイド薬がインスリン分泌能低下を防ぐことに有効である可能性2-6)
チアゾリジン薬がインスリン依存状態への進展を促す可能性6) Maruyama T, et al. J Clin Endocrinol Metab 2008;93:2115-21、2) Zhao Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:E876–E880
3) Awata T, et al. Diabetes Ther. 2017;8:1123–1134、4) Johansen OE, et al. Diabetes Care. 2014;37(1):e11–e12
5) Buzzetti R, et al. Diabetes Metab Res Rev. 2016;32(3):289–296、6) Shimada A, et al. Diabetes Metab Res Rev. 2011;27:951-3. Tokyo Study1)
対象・方法:罹病期間5年未満・GAD抗体陽性・インスリン非依存の糖尿病症例をSU薬投与群とインスリン投与群に割り付けし、インスリン依存状態への進展リスクを調査。
結果:5年以内にインスリン依存状態へ進展した割合は、SU群 43%に対してインスリン群 10%と有意にSU群で高かった(P=0.003)。 ※インスリンはSU薬に比べて有用という結果だが、
インスリンがSU薬以外の血糖降下薬に比べても有用であるとと示した報告ではない
つまり、インスリン分泌能が保持されていれば、インスリン以外の薬剤の使用も選択肢 × 〇 ×
#22.
06. 症例の振り返りと補足 2型糖尿病として治療されていて、血糖コントロールの悪化をきっかけに緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)と診断される、典型的な症例だと思います。スライド18に示す通り、2型糖尿病として治療されている症例の10%(※対象や診断基準の違いにより、2-3%とする報告もあります)がSPIDDMと言われています。SPIDDMかどうかで治療方針が変わるので、疑えばためらわずGAD抗体を測定してください。 治療中断によりケトアシドーシスを発症した症例です。2年間無治療で生活できていたことからは、当初はインスリン非依存状態であり、徐々にインスリン分泌能が低下したと推察されます。治療を中断しなければインスリン非依存状態である期間がもう少し長かったかもしれません。 ※スペースの都合で省略しましたが、SPIDDMと診断されたら甲状腺機能と甲状腺関連抗体の測定をお勧めします(橋本病やバセドウ病が見つかる場合があります) <症例A>
<症例B>
#23.
07. Take Home Message 臨床的に2型糖尿病として治療している症例の10%に緩徐進行1型糖尿病がいることを認識する。
緩徐進行1型糖尿病の治療にSU薬は使わない。インスリン分泌能が保持されていれば、DPP4阻害薬やビグアナイド薬を使用しても良い。血糖管理に必要であれば早期からインスリン治療を導入する。
2023年12月 日本糖尿病学会から「緩徐進行1型糖尿病疑い例への治療介入に関するステートメント」が発表されました(糖尿病 66(12):807~814,2023)。
ぜひご参考にしてください!