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侵襲性真菌症の概要と重要性
#2. 有効な 検査がない 症状が乏しい 普段使わない 治療薬 珍しい 放っておくと 致死的 真菌症ってムズカシイ そんなあなたに 致死的な侵襲性真菌症のマネジメントができる
カンジダとアスペルギルスの特徴
#3. yeast mold 2 酵母か糸状菌か.まずはこの つでよい カンジダ 酵母様真菌代表 アスペルギルス 酵母様真菌代表はカンジダ,糸状菌代表はアスペルギルス まずこの2種類を覚えましょう. 両者を対比することで,違いがよくわかります. 糸状菌代表
#4. カンジダ 敵はどこにいるか知ろう アスペルギルス カンジダは皮膚・腸管内の常在菌 アスペルギルスは空気中の環境真菌 気道感染・尿路感染は非常にまれのため, 高度好中球減少症の患者では, 喀痰・尿培養で検出しても通常はコンタミと判断します. アスペルギルス症の対策のために無菌室入室とします.
侵襲性カンジダ症とアスペルギルス症の感染経路
#5. 侵襲性カンジダ症は血流感染 バリアの破綻 カテーテル関連血流感染 (CRBSI) 腹腔内感染 侵襲性カンジダ症は皮膚・腸管バリアの破綻が背景にあります. 血液培養から検出した場合, そのため,主な感染部位は, CRBSI(カテーテル関連血流感染)と腹腔内感染です. 血流感染 1セットでも真の菌血症として対応してください.
#6. 侵襲性アスペルギルス症は気道感染 アスペルギルスの主な感染臓器は肺と副鼻腔です. 非特異的肺炎像 肺の防衛には好中球機能が重要です.[1] 気道定着 貪食能低下 出血性梗塞 血管侵襲 組織破壊 halo sign Air-crescent sign
免疫抑制と侵襲性真菌感染の関係
#7. カンジダ 必ず患者背景を見極め,疑いましょう アスペルギルス 侵襲性真菌感染は健常人では発症しません.必ず免疫抑制となる素因があるはずです. “免疫抑制”と大きく括るだけでは不十分です.“バリアの破綻”,“好中球機能低下”,“液性免疫不全”,“細胞性免疫不全”の4つに分類して考えましょう. 中等度 好中球減少 バリアの破綻 侵襲性カンジダ症は 侵襲性アスペルギルス症は バリアの破綻が重要です. 高度な好中球減少の状態で発症します. 中心静脈カテーテル,消化管穿孔, “高度な好中球減少”とは 腹部外科術後は大きなリスクです. 10日間以上,好中球<500/μLな状態です[2] 細胞性免疫不全 細胞性免疫不全はどちらにも関与し, 複数の免疫抑制が絡むことも珍しくありません. 高度
#8. カンジダ アスペルギルス 血清学的検査を乱用していませんか? カンジダ症ではβ-D-グルカン,アスペルギルス症ではガラクトマンナン(GM)抗原が乱用されています. この検査の感度・特異度 一見すると高い精度に思えるでしょうか? 侵襲性カンジダ症 侵襲性アスペルギルス症 β-D-グルカン 感度 [3] 77% 特異度 [3] 85% ガラクトマンナン GM抗原 感度 [4] 71% 特異度 [4] 89% 実臨床では検査前確率によって,的中率が大きく変わります. 検査の限界をよく理解すること,検査前の臨床状況,患者背景を見極めなければ正しく結果を解釈できません.
β-D-グルカンとガラクトマンナンの検査の限界
#9. 検査前確率を想定してからβ-D-グルカンを測りましょう 血培陽性率 血液培養でのカンジダ陽性率はわずか50%[5]です. 血培が陰性であってもカンジダ菌血症を除外できません. このような血培陰性例や,治療初期など限定的な状況において % β-D-グルカンは有用である可能性があります. 敗血性ショック 発熱性好中球減少症 ICU入室 2 7% 陽性的中率 しかし, 陽性的中率は検査前確率によって大きく異なります. 敗血症性ショック・発熱性好中球減少症で % 検査前確率 93% 偽陽性率 ICUに入室した患者群の場合, 偽陽性率は93%であるとされています[6]. なお,陰性的中率はいずれの群でも97%以上です. β-D-グルカンが有用な状況とは,カンジダ菌血症の事前確率が高い患者層で, 血培結果を待たず先行して治療するとき,侵襲性カンジダ症の除外に使用する場合です.
#10. β-D-グルカンは偽陽性が多い 細菌菌血症 ペニシリン系抗菌薬 (ピペラシリン/タゾバクタムetc) 血液製剤 血液透析 (アルブミン/凝固因子/グロブリン製剤) (セルロース膜) ガーゼ 保菌 (表在性真菌症) 偽陽性となる状況 そもそもβ-D-グルカンが偽陽性となる状況は多数あり, カンジダ菌血症を引き起こすような重症患者像とよく一致します.[7]
侵襲性カンジダ症のリスク要因と診断
#11. 侵襲性カンジダ症を最も疑う状況 バリアの破綻 消化管穿孔 腹部外科術後 バリアの破綻 菌交代現象 中心静脈栄養 広域抗菌薬投与 要注意 バリアの破綻があるときに侵襲性カンジダ症を発症するリスクが飛躍的に上がります. このような患者の発熱時に血液培養とβ-D-グルカンを測定しつつ経験的抗真菌薬治療を開始するのは妥当です.
#12. ガラクトマンナン抗原はあてにならない 固形臓器移植,固形癌化学療法中,膠原病免疫抑制中の患者など. 有病率 1.6% 抗原陽性 アスペルギルス症 [8] アスペルギルス症でない 1.6% 98.4% 陽性的中率 偽陽性率 抗原陰性 76.9% 偽陰性率 血清アスペルギルスガラクトマンナン抗原(GM抗原)もかなり誤用されている検査です. 血液内科以外の患者でGM抗原を測定した結果, 陽性的中率1.6%と偽陽性が非常に多い結果となりました. また,偽陰性率も76.9%とアスペルギルス症のスクリーニングにも不十分でした. 検査前確率が高くなければガラクトマンナン抗原を測定する意味がありません
アスペルギルス症の診断と治療薬
#13. アスペルギルス症は総合的に判断しましょう 侵襲性 特異度 病理 背景 感度 特異度 感度 CT BAL 病理 50% 高 BAL [10] 40% 90.3% [11] 低 CT [9] 95% [10] しかし,アスペルギルス症の診断には決め手がなく, 患者背景を考察した上で,CT画像,BAL,病理組織学的検査を組み合わせて総合的に判断するしかありません.
#14. まず覚えるべき抗真菌薬は 2つ キャンディン系 アゾール系 ミカファンギン ボリコナゾール 侵襲性カンジダ症 侵襲性アスペルギルス症 使用する機会が少なくても,まずは経験的治療で使用する2種類を覚えましょう
院内感染におけるカンジダ症の治療戦略
#15. 院内でのカンジダ症はempiricでnon-albicansもカバーする C.krusei other 侵襲性カンジダ症ではミカファンギンが第一選択です C.parapsilosis C.albicans 従来はC.albicansがメインの菌腫であったため、外来での健常人の感染であるならば フルコナゾールが選択されてきました. しかし、院内での侵襲性感染症の場合はnon-albicansが起炎菌である可能性も高いです. C.glabrata 特にC.glabrataとC.kruseiはフルコナゾール耐性であるため, C.albicansおよびnon-albicansをカバーするためにミカファンギンが第一選択です. [12] (リスクの低い特定の状況でフルコナゾールを選択するのはありかもしれません[16]) 割合(%) フルコナゾール ミカファンギン アムホテリシンB 代表的なカンジダ属の感受性は決まっています C.albicans 42.1 〇 〇 〇 培養同定してde-escalationしてください C.glabrata 26.7 耐性 〇 〇 C.parapsilosis 15.9 〇 耐性 〇 C.tropicalis 8.7 〇 〇 〇 C.Krusei 3.4 耐性 〇 〇 C.lusitaniae 1.1 〇 〇 耐性 余裕がある人は代表的な菌種と感受性パターン を覚えておいてください [12],[13]
#16. アスペルギルス症の第一選択薬はボリコナゾール ボリコナゾールvsアムホテリシンBのRCT[14] かつてはアムホテリシンBが標準治療薬でした. 近年の大規模臨床試験で,ボリコナゾールは アムホテリシンBに比べ,治療効果で優位性かつ 重篤な有害事象が少ないことが示されています.[14] 糸状菌感染症では,ムコール症の可能性を頭に置いておきましょう. ムコール ムコール症はガラクトマンナン抗原陰性で,ボリコナゾール無効のためです. アスペルギルス症に比べ,侵襲性副鼻腔感染症が多い傾向があります.
#17. 治療の注意点 カンジダ血症の場合,血管内デバイスは必ず抜去してください.[14] アスペルギルス症は時にドレナージが必要であり, フォローの血液培養も採取する必要があります. 副鼻腔や皮膚においては外科的切除を考慮する場合もあります. カンジダ血症を見た場合,必ず眼科コンサルトをしてください.[13] ミカファンギンは眼内移行性がないため, カンジダ眼内炎で失明する可能性があります 高度の好中球減少が背景にあることが多いため, 抗真菌薬投与1週間程度は回復に伴い画像所見の悪化をみます.
侵襲性真菌症のまとめと参考文献
#18. まとめ 対比して理解しましょう 形態 糸状菌 皮膚/腸管 常在部位 空気中 血流感染 感染様式 気道感染 CRBSI・腹腔内 主要focus 副鼻腔/肺 バリアの破綻 患者背景 高度好中球減少 酵母 微妙 β-D-グルカン 補助検査 ガラクトマンナン抗原 ミカファンギン 初期治療 ボリコナゾール non-albicans 注意すべき菌 ムコール 微妙
#19. References [1] アスペルギルス症の病態生理 Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition.3107-3115 [2] 侵襲性アスペルギルス症発症のリスク A risk prediction score for invasive mold disease in patients with hematological malignancies.PLoS One 2013;8:9:e75531 [3] β-D-グルカンの感度・特異度 β-D-glucan assay for the diagnosis of invasive fungal infections: a meta-analysis.Clin Infect Dis. 2011 Mar 15;52(6):750-70 [4] ガラクトマンナン抗原の感度・特異度 Diagnosis of invasive aspergillosis using a galactomannan assay: a meta-analysis.Clin Infect Dis. 2006 May 15;42(10):1417-27. [5] 血液培養陰性の侵襲性カンジダ症は50%に及ぶ Finding the "missing 50%" of invasive candidiasis: how nonculture diagnostics will improve understanding of disease spectrum and transform patient care. Clin Infect Dis 2013;56:1284-92. [6] 各患者層ごとのカンジダ菌血症に対する培養以外の陽性的中率の検証 Non-culture diagnostics for invasive candidiasis: promise and unintended consequences. J Fungi(Basel) 2048:4 [7] IDSA カンジダガイドライン2016 (BDG偽陽性となる状況) Clinical Practice Guideline for the Manag
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#20. Contact デザインの力で医療をよりよくしたい M.D. General Physician Information Designer 酒井 希天 @DrDesignerKiten sakaikiten@gmail.com Sakai Kiten 本スライドは教育研修用途に限り,自由に使っていただいて構いません @Drdesignerkiten