テキスト全文
意識障害の基本的な鑑別方法
#1. 意識障害と 神経所見 ~AIUEO TIPS以外で 意識障害の鑑別をし よう~ puruco@脳神経内科
#2. 救急外来での意識障害の診察、ちゃんとできていますか?? ABCの安定化をして、AIUEO TIPSを思い浮かべながら 鑑別する…までは良いとして、 ルーティンでなんとなく頭部CTを撮っていませんか?
#3. 術後の鎮静をOffにした後、意識の改善が悪い症例はありませんか? 挿管中だったりシリンジポンプがついていると、移動も画像検査も 限られてしまいますね。 このスライドでは、皆さんが遭遇した意識障害が、器質性か代謝性かの見当を つけやすくするための神経診察のポイントをご紹介します。
意識障害の神経診察のポイント
#4. まずは意識障害の対応の基本について確認しよう! 意識障害 ABCの確認 A:気道 →挿管など B:呼吸数やSpO2 →酸素投与など C:血圧や脈拍など →末梢ルート確保やCPR 補助的検査 心電図 血算、赤沈 血液ガス 血糖(低血糖はすぐに補正) 血液生化学(電解質、BUN、Cr、肝機能、アンモニアなど) 尿 神経診察 ある 病歴聴取(周囲から)→AIUEO TIPS念頭に ない (局所所見・髄膜刺激兆候が) 中枢神経系に原発性の 病変を疑う 代謝性、内分泌系、循環 障害、中毒性疾患を疑う レジデントノート増刊2017;18:3058-66 および神経内科ハンドブック第5版153頁を参考に作成
#5. 意識障害の神経診察をしよう! 4つのポイントをおさえよう! ①血圧 ②目 ③四肢 ④髄膜刺激兆候
#6. 意識障害の神経診察をしよう! ①血圧:血圧上昇は頭蓋内疾患を疑う! (2) (1) [1] 脳灌流圧 = 平均血圧 - 頭蓋内圧 [2] 血圧 = 心拍出量(心拍数 × 1回拍出量 )×末梢血管抵抗 (4) 脳保護のため脳灌流圧は常に一定に保つために代償する。 (1)頭蓋内疾患で頭蓋内圧上昇↑ (2)代償で平均血圧上昇↑ (3)平均血圧上昇に伴い末梢血管抵抗上昇↑ (4)心拍数低下↓ ➢血圧上昇+心拍数低下((1)~(4))をCushing徴候という。 BP≧160 mmHgは頭蓋内疾患を強く疑う。 (3)
目の診察における重要な観察ポイント
#7. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:診察で最も大切。観察ポイントは5つ [1] 眼位 [2] 瞳孔と対光反射 [3] 眼球運動 [4] 睫毛反射と角膜反射 [5] visual threat 意識障害で閉眼しているので 用手的に開眼させて評価する。
#8. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:用手的に開眼させてチェック [1] 眼位 <内下方偏倚> <側方共同偏視> Rt Rt (右共同偏視) ◆眼球運動経路:前頭前野、側頭・頭頂葉~脳幹(線維の交差) ➢交差前(前頭葉~頭頂葉)の広範な梗塞や出血 →病側をにらむ共同偏視・対側の片麻痺 ➢交差後(テント下)の病変 →健側をにらむ共同偏視・同側の片麻痺 ➢てんかん発作 →健側(焦点の反対)をにらむ共同偏視・同側の片麻痺(Todd麻痺) 視床病変
#9. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:用手的に開眼させてチェック [2] 瞳孔と対光反射 消失していれば 器質性障害あり (感度83% 特異度77%) 左右差を 見よう ◆両側縮瞳・両側散瞳は器質性・代謝性どちらの場合もある。 ◆瞳孔不動(anisocoria)があれば器質性脳障害を考える。 4mm 3mm 左右差0.5mm以上で有意。1mm以上で器質性脳障害の可能性が上がる(感度83% 特異度77%)。
#10. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:用手的に開眼させながら頭位を変える [3] 眼球運動 <頭位変換眼球反射(人形の目現象)> 顔を左に向ける 顔を右に向ける 目線はまっすぐ 顔の向きのまま 目線は変わらず 同じ場所を見続ける <正常> 頭位を変えても視線は変えない <正中位> <異常> 頭位とともに視線が変わる 左右両方or片側の眼位が正中を超えない →脳幹部の異常 ・MLF症候群・PPRF症候群 ・One and a Half症候群など MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束) PPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)
瞬目反射と視覚的脅威の評価
#11. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:用手的に開眼させてチェック [4] 睫毛反射と角膜反射 睫毛反射:睫毛に触れたときに瞬目が 誘発される反射 <角膜反射> 強膜(白目)の 部分ではない! 角膜反射:角膜を物理的に刺激したときに 瞬目が誘発される反射 →いずれも消失で脳幹部の障害が 疑われる。 視野の外から ティッシュ等をこより状にして 角膜に触れる
#12. 意識障害の神経診察をしよう! ②目:用手的に開眼させてチェック [5] visual threat ◆掌などを目の前にサッとかざして、 瞬目反射が惹起されるかどうかをチェック。 バッッ! →反射がなければ視野障害や 半側無視の可能性あり。
四肢の診察と筋トーヌスの評価
#13. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [1] 肢位 [2] 筋トーヌス [3] 四肢の運動 [4] 腱反射 [5] 病的反射
#14. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [1] 肢位 上肢は 屈曲内転位 麻痺側は 外転外旋位 ⑥右下肢だけ やや外転外旋位で 眠っている人の図 膝は伸展位 ⑦徐皮質硬直の図 (無料イラスト見つからず) 眼位と合わせて 病巣を類推しよう! 足関節は 伸展位 足関節は 伸展位 股関節は 内転内旋位 <脳血管障害> 軽度な外転外旋位 麻痺側でよくみられる 膝は伸展位 <除皮質硬直> 肩関節屈曲、肘関節・手関節屈曲 下肢伸展 →広範な大脳障害(器質性・代謝性) 上肢は 回内伸展位 <除脳硬直> 肩関節内転、肘関節伸展、 前腕回内、手関節屈曲 下肢伸展 →脳幹の障害
#15. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [2] 筋トーヌス 筋トーヌス(筋緊張):正常でも姿勢保持のために最低限の筋緊張はある。 亢進 <筋強剛 Rigidity> 受動運動で絶えず抵抗を示す。 ➢鉛管様強剛 ➢歯車様強剛 →パーキンソン病など 亢進 <痙縮 Spasticity> 急激な受動運動で抵抗を示す 途中で急に抵抗が減じる ➢折りたたみナイフ現象 →脳血管障害など 弛緩 <Hypotonus> 視診で弛緩・平らになって垂れ下がる 触診でやわらかく抵抗の低下を感じる 四肢を揺さぶると手足の振り子様運動 (pendulousness)を診る。 →同側の小脳半球の障害など
#16. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [3] 四肢の運動 <1>上肢落下試験:両上肢を持ち上げ同時に離す。 →落下が早い方が麻痺側 <2>膝立て試験:両下肢をそろえて膝立ての状態にして手を離す。 →膝立てを保てない方が麻痺側 <3>痛み刺激:爪の根元や胸骨中央への疼痛刺激をする。 →動かさない方が麻痺側 ※各四肢をつまむ方法をとることもあるが、皮下出血をする場合もありおすすめはしない <その他>筋強剛が強い場合 セロトニン症候群や悪性症候群の可能性もあるため、薬剤投与歴の確認は必須。
病的反射と髄膜刺激徴候の確認
#17. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [4] 腱反射 深部腱(筋伸展)反射:求心性神経、脊髄内のシナプス結合 運動神経、下行性運動路の評価 亢進:上位運動ニューロン障害 (基底核を除く前角細胞より中枢側の障害) 低下:下位運動ニューロン障害 (前角細胞、脊髄婚、末梢神経障害など) ※急性期の場合は上位運動ニューロン障害でも腱反射が低下する場合はあるので注意する
#18. 意識障害の神経診察をしよう! ③四肢:左右差をみよう! [5] 病的反射 Babinski徴候、Chaddock反射→Flexor以外は異常!上位運動ニューロン障害を考える。 Babinski徴候 Chaddock反射 通常位 爪楊枝などの ディスポーザブルな素材で 矢印のようになぞる 異常 Extensor 伸展 異常 異常 Indifferent 変化なし Extensor 伸展 正常 Flexor 屈曲 爪楊枝などで 踝から足背外側を 矢印のようになぞる
#19. 意識障害の神経診察をしよう! ④髄膜刺激兆候:3つの徴候をチェックしよう! <項部硬直> <Kernig徴候> <Brudzinski徴候> 硬くて顎が首につかない 下肢を90度屈曲させ、さらに130度以上 屈曲させようとすると、抵抗があり 痛みで顔をしかめる 頸部を前屈させようとすると 股関節と膝関節が屈曲する ※Jolt accentuation は患者に首を振ってもらって確かめるものなので、意識障害時は施行できない。 陽性の場合はクモ膜下出血や髄膜炎を疑う。 髄液検査をする場合は眼底や頭部CTで頭蓋内圧亢進がないかをチェックする。 病歴から細菌性髄膜炎を疑う場合に、髄液検査に時間がかかりそうなら 先に抗菌薬+ステロイド。抗菌薬開始直後であれば髄液培養に影響はない。
ABCDE TIPSによる意識障害の鑑別
#20. 意識障害の神経診察をしよう! 以上の4点の組み合わせで、意識障害のある患者の 神経診察をしよう。 中枢神経系原発の意識障害か否かを「AIUEO TIPS」と 思い浮かべながら鑑別しよう。 それでも鑑別が難しい場合は、 次の「ABCDE TIPS」を参考にしよう!
#21. ABCDE TIPS 疾患 着眼点 A Acute disseminated encephalomyelitis(ADEM) (急性散在性脳脊髄炎) ・特発性、感染後(ヘルペスなどウイルス感染やカンピロバクター、連鎖球菌 など)、予防接種後(2-15日後)など。 ・発熱、頭痛、項部硬直など伴う。病巣によっては神経脱落症状もある。 B Bickerstaff brainstem encephalitis (ビッカースタッフ型脳幹脳炎) ・Fisher症候群の亜系。顔筋麻痺と小脳失調と意識障害が3徴である。 ・Babinski徴候(+)。 C Cerebral venous (sinus) thrombosis (脳静脈洞血栓症) ・Protein C/S欠損症や抗リン脂質抗体症候群、妊娠やピル内服などの凝固亢 進状態で生じる。 ・MRV(MR Venography)で静脈洞欠損像、CTでびまん性の白質低吸収像あり。 D Drug-induced encephalopathy ・メトロニダゾールやメトトレキサート、抗精神病薬、抗てんかん薬など E Epilepsy(特に非痙攣性てんかん重積状 態(NCSE)) ・特に高齢者に多いとされている。痙攣のないてんかん重積状態。眼球の偏倚 のみ、脳波異常(徐波)の場合などがある。 T Thrombotic microangiopathy (血栓性微小血管症) ・血小板減少や溶結性貧血、腎機能障害などを呈し、昏睡を呈する場合もある。 I (other) Immune-mediated encephalitis ・抗N-methyl-D-aspaetate(NMDA)受容体関連脳炎、抗voltage-gated potassium channel(VGKC)複合体抗体関連脳炎、橋本脳症など。 P Paraneoplastic encephalitis ・傍腫瘍関連抗体などが原因である。 (Iと一部重複するが、治療選択肢の違いから掲載) S SLE(全身性エリテマトーデス) & Neuro-neutrophilic disease ・Neuropsychiatric SLE(神経精神ループス)が該当する。神経好中球症は分類 基準を参考にする。
意識障害の評価における重要なメッセージ
#22. Take home Message ①◆チェックすべきは4項目。バイタル、目、四肢、髄膜刺激兆候を見よ。 ②◆血圧上昇時は頭蓋内病変>全身疾患を疑え! ③◆眼位と脳幹反射と瞬目反射で頭蓋内病変を探れ! ④◆肢位と筋トーヌスと反射での意識障害の評価は難しい。 眼位とあわせて病巣を類推せよ! ⑤◆髄膜刺激兆候でEmergencyを見落とすな!
参考文献と関連資料
#23. 参考文献 レジデントノート増刊2017;18:3058-66 Hosptalist Vol.5 No.1(特集:神経内科).メディカルサイエンスインターナショナル.2017 Angel MJ et al:Metabolic encephalopathies.Neurol Clin 2011;2011;29:837-82 水野美邦.神経内科ハンドブック第5版.医学書院.2016. 田崎義昭.ベッドサイドの神経の診かた.南山堂.2010