テキスト全文
#1. 脳梗塞ちゃんとできてる?TIA診断 デキレジは“こう動く”
#3. こんな経験ありませんか?① 疑う姿勢は大事ですが,安易に飛びついてはいませんか? 2 どれどれ,「様子が変」で家族に連れてこられた…と.
来院後は普段通りっぽい.よく分からないけどTIA? その症状から脳血管・病巣を説明できるかな?
説明がつかなければ他疾患も念頭に置こう. --- 精 査 後 --- ヤバレジ 上級医 結局,尿路感染症の診断で入院となりました…(泣).
#4. こんな経験ありませんか?② ABCD2スコアも,正しく活用されていない場面を見かけます. 3 58歳男性,突然発症の左麻痺(30分で軽快).
高血圧・喫煙歴あり,糖尿病なし.135/85mmHg.
典型的TIAだな,ABCD2スコアは3点!帰宅可能! ヤバレジ …… ABCD2スコアだけでの帰宅判断は危険だよ.
MRI検査もして,専門医にコンサルトしよう. デキレジ
#5. デキレジになるには? 意外とムズカシイTIAの診断・管理について,理解を深めましょう. 4 ①らしさ・らしくなさを把握している
②リスク予測ツールを適切に使用できる
#6. CONTENTS 5 Introduction TIAとは TIAの診断 mimics / chameleons 01 02 03 04
#8. 一過性脳虚血発作とは? -Transient Ischemic Attack- TIAは“脳梗塞になりかけた状態”のことで,以下のように定義されています. 7 ≦24時間 局所脳/網膜虚血による神経機能障害の一過性症状で,急性梗塞所見がないもの.
症状は長くとも24時間以内に消失すること. 2019年10月 日本脳卒中学会 Definition 再開通
#9. TIAのリスク TIA発症後早期は,脳卒中へと発展するリスクが高いです. 出典:Arch Intern Med.2007 ; 167 : 2417-22. 8 5人に1人(15-20%)が,90日以内に脳卒中を発症 「症状が消えて良かった」じゃない!!
#10. 発症早期がハイリスク TIA後1ヶ月以内に脳卒中を起こした患者のうち,約半数が24時間以内に発症しています. 出典:Neurology. 2009 ; 72 : 1941-7. 9 42% ≦24hour 1week - 1month 1day - 1week
#11. 0-3点 1.0% ABCD2スコア 脳卒中発症リスクを予測するツールとして,ABCD2スコアが広く使われています. 出典:Lancet. 2007 ; 369 : 283-92. 10 2日以内
脳卒中リスク 4-5点 4.1% 6-7点 8.1%
#12. ABCD2スコアの誤解①:診断に用いる ERで頻用するABCD2スコア,正しく利用されていない場面をよく見かけます. 出典:Neurology. 2015 ; 85 : 373-380. 11 一過性の構音障害,ABCD2スコアは4点……TIAかな? スコアが高い≠TIAらしさが上がる
#13. ABCD2スコアの誤解②:スコアだけで入院の是非を決める ERで頻用するABCD2スコア,正しく利用されていない場面をよく見かけます. 出典:Neurology. 2015 ; 85 : 373-380. 12 TIA疑い,ABCD2スコアは3点か.
<4点だから入院適応はなく外来管理でOK! ABCD2≦3点でも…
・約20%に高リスク所見(頭蓋内/外血管狭窄,心房細動)
・≧4点同等の脳梗塞リスク
#14. TIAの対応 TIAは不安定狭心症と同じ,基本的に入院管理です.適切な管理で脳梗塞を予防できます. 出典:Lancet. 2007 ; 370 : 1432-42. 13 早期診断・治療でリスク80%減! =
#15. TIAの抗血栓療法 非心原性TIAと診断したら,すみやかに抗血小板薬を開始します. 出典:N Engl J Med. 2013 ; 369 : 11-19. 14 TIA急性期(≦48時間)の再発予防にはアスピリン160-300mg/日投与が勧められる.
ABCD2スコア≧4点の高リスク例では,急性期に限定したDAPTが妥当である. 脳卒中治療ガイドライン2021 抗血小板剤2剤併用療法:DAPT
#17. TIAの診断は難しい 診断に決定的な検査はなく,意外と難渋することも多いです. 16 患者の説明,病歴に対する医師の解釈に依存 もう症状は良くなってきたけど,
なんかおかしかったんです! …どういうこと!?
#18. 診断時の注意点 DWI陽性なら症状が消失していても脳梗塞.つまり診断するにはMRI検査が必須です. 17
#19. 診断のポイント TIA診断がうまくなるかどうかは「機能局在への理解」と「病歴聴取能力」次第です. 出典: 18 機能局在 病歴聴取
#20. どの血管なら説明つく? 診断のポイント① 機能局在 TIAと決めつける前に,聴取した症状が血管支配に対応しているかどうかを考えましょう. 19 出典:Stroke. 1990 ; 21 : 637-76.
#21. TIAらしさを正しく見積もるためには,機能局在への理解が必須です. Antaa Slide:デキレジは“こう動く” 脳梗塞 梗塞部位を予測する方法 20 大まかな機能局在
#22. 診療のポイント① 血管支配領域 TIAを想起しがちな症状の中には,実は“らしくない”とされている症状もあります. 21 出典:Stroke. 1990 ; 21 : 637-76.
#23. Q&A:TIAの“ここが気になる” 出典:Headache. 2019 ; 59 : 469-476. 22 Q1. TIAで失神(drop attack)は起こる? Q2. TIAでも頭痛は起こる? A2. TIAや脳梗塞でも頭痛が起こることがある. A1. 脳底動脈(BA)の一時的な閉塞などでは起こるが,典型的ではない. BA突然閉塞(塞栓症)➜再開通なら,(末梢側に飛散した微小塞栓子による)他症状も伴うはず. ➜片頭痛既往,若年者,後方循環,皮質脳梗塞で
頭痛の訴えがあったという報告もある. TIA患者の
26%で頭痛
#24. 診断のポイント② 病歴聴取 TIAらしさ/らしくなさを見積もるためには,詳細な病歴聴取が鍵となります. 出典: 23 機能局在 病歴聴取
#25. 診療のポイント② 病歴聴取 患者の曖昧な表現を,細かな質問で明らかにしていきます. 24 様子がおかしかった A.眼を閉じていくような感じで反応が悪かった?
B.落ち着きがなく,そわそわしていた? A.意識障害かな?
後方系の症状があればTIA検討,
なければ全身状態に伴うもの? B.不穏っぽいな.
脳血管障害よりかは全身性?
勿論,発作・脳炎/脳症も念頭に.
#26. 診療のポイント② 病歴聴取 患者の曖昧な表現を,細かな質問で明らかにしていきます. 25 A.聞き取った言葉は不鮮明だけど正しかった?
B.無意味だったり,文脈にそぐわない言葉はあった? 話し方が変だった A.構音障害かな?
これだけだとTIAらしくない.
他症状の有無,頭蓋外も検索だ. B.失語っぽいな.
右利きだから左半球の症状かな.
左半身症状がないか診てみよう.
#27. 診療のポイント② 病歴聴取 患者の曖昧な表現を,細かな質問で明らかにしていきます. 26 A. 力が入らなくて落としてしまった?
B. 目標物まで手を上手く持っていけなかった? 物が持てなかった A.麻痺かな?
片側分布なら脳血管障害かも.
他のらしさもあればMRIだな. B.失調っぽいな.
他の後方循環系の症状を伴えば,
よりらしさがあがるぞ.
#28. 04.mimcs / chameleons 27
#29. TIA mimics / chameleons 不必要な検査・誤診・治療を避けるため,mimicsへの注意も欠かせません. 28 基本はStroke mimicsと同じ
#30. TIA mimics 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 29 TIA疑いの約22% 症状が一過性である分,
より広範・多彩な鑑別を要します.
#31. mimics① 片頭痛 片頭痛の前兆(aura)は,TIA mimicsのなかで最多の原因です. 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 30
auraとしての症状が
Stroke likeなことがある
症状:視覚障害が最多(閃輝暗点;表現様々)
片麻痺,感覚障害,言語障害など
特徴:数分で出現・広がり〜30分で消失
aura消失後〜1時間で頭痛出現
対策:aura表現知る,実際に描いてもらう
※片頭痛女性で,TIA時に頭痛が起こることも
➜前兆・頭痛あってもTIAを除外はできない 片頭痛患者の
約1/3に出現
#32.
脳内の異常放電による様々な症状
焦点部位次第
症状:陽性症状で始まることが多い
陽性:ニューロンの電気放電の“過剰”
例)けいれん,痛み・しびれ
陰性:ニューロンの機能低下・消失
例)麻痺,感覚脱失
対策:詳細な病歴聴取
定型的な症状が複数回=発作らしい
mimics② てんかん発作 焦点発作も重要なmimicsで,全年齢に性差なく起こり得ます. 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 31 Todd麻痺にも注意
-発作後の一過性神経脱落(陰性)症状-
#33. mimics③ 失神 失神のみのTIAは「なくはない」ですが,典型的ではありません. 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 32 意識消失のみのTIAは
1%未満
一過性に脳全体の血流が低下
症状:立っていない限り数秒以内に回復
※TIAで失神をきたすなら脳底動脈閉塞
➜通常は他の症状も伴う
原因:VVR,起立性低血圧,不整脈など
対策:詳細な病歴聴取
随伴症状(嘔気,発汗,蒼白,排尿・便)は
失神>>TIA
#34. mimics④ 一過性全健忘 -TGA- ERで遭遇することも珍しくなく,特徴的な症状を押さえておきましょう. 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 33
心身ストレス,Valsalva負荷など
➜一過性の記憶障害
症状:前向性+逆行性健忘➜≦24hに改善
同じ質問(日時,来院理由)を繰り返す
予後:一般的に良好
再発ほぼなし,脳卒中リスク増加(-)
対策:詳細な病歴聴取
※他に神経症状がないことも重要 発症 逆行性健忘 前向性健忘 全健忘
#35. 34 TIA chameleons 基本的には
Stroke chameleonsと同じ
#36. chameleons① limb-shaking TIA 頻度は稀ですが,TIA特有のchameleonsを紹介します. 出典:Pract Neurol. 2014 ; 14 : 23–31. 35 limb-shaking TIA
高度内頸動脈狭窄
➜対側の不随意運動
症状:≦5分で消失する
rhythmic jerking(上>下肢)
画像:対側ICAの高度狭窄
分水嶺に分布した陳旧性病変
対策:詳細な病歴聴取
脳血流低下を示唆するエピソード
(起立,降圧剤服用,食後,入浴後など)
#38. まとめ:TIA診療の概論 37 ※ABCD2≧4はDAPT考慮 TIA=脳梗塞になりかけ
※診断にはMRI必須
※ABCD2score≠TIAらしさ 初
期
対
応 脳梗塞発症
≦24時間に多い リスク80%減 ≦24h 無治療 入院 早期治療
#40. まとめ:mimics / chameleons 39 TIA らしい らしくない TIAらしさを総合判断