テキスト全文
抗菌薬+αのコントロバシーと併用の正当性
#1. 抗菌薬+α のコントロバシー 東京曳舟病院 救急科
藤原 翔
#2. その抗菌薬の併用は正しい?
患者への害はないのか?
#3. CombinationTherapy IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 3
アミノグリコシドの使用と考慮すべき場面
#4. IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 4 CombinationTherapy
#5. 今回使用する略語 5 Abbreviations
GM : Gentamicin CLDM:Clindamycin ゲンタマイシン クリンダマイシン RFP : Rifampicin MEPM:Meropenem リファンピシン メロペネム SM : Streptomycin PIPC/TAZ:Piperacillin-tazobactam ストレプトマイシン ピペラシリン・タゾバクタム
#6. IEにおけるアミノグリコシド 6 Aminoglycoside for Infective Endocarditis 考慮する場面は4つ
・α溶血連鎖球菌
・腸球菌
・黄色ブドウ球菌
・人工弁のIE 自然弁の話
α溶血連鎖球菌と腸球菌の治療法
#7. α溶血連鎖球菌(S.bovis group) 7 S.bovis group ・PCGに対するMIC≦0.12μg/mL
PCG単剤 4週間で治療可能, CTRX or VCM単剤でも可
2週間のレジメンではGM併用 (自然弁, 合併症なし, 疣贅≦1cm etc...)
・ PCG MIC>0.12,<0.5μg/mL
PCG+初期2週間のGM併用推奨, VCM or CTRXは単剤
・PCG MIC≧0.5μg/mL
腸球菌に準じた治療として, PCG or CTRX+初期2週間GM併用, VCM単剤
European Society of CardiologyはVCMにも併用を推奨だが腎障害リスク高
・GMは分割投与が基本. 腎機能考慮し1日1回も検討可 Circulation. 13;132(15):1435-86.
#8. 腸球菌(E.faecalis, E.faecium) 8 Enterococcus spp. ・ペニシリン系に対して連鎖球菌と比較し耐性があることから
アミノグリコシド系の併用が推奨されている.
・アミノグリコシドは腸球菌に対して不透過性だが, 細胞膜活性剤を
使用することで有効な細胞内濃度を達成できる.
・腸球菌のゲンタマイシン高度耐性も問題となっている
・ゲンタマイシンの長期使用は腎機能障害を生じるリスクが高い Circulation. 13;132(15):1435-86.
#9. 腸球菌(E.faecalis, E.faecium) 9 Enterococcus spp. ・AMPC+CTRXはAMPC単独より, in vitro, in vivoで菌量が減少
・動物モデルのE.faecalisのIEにおける併用療法の研究
AMPC+CTRXはAMPC+GMと同等に菌量が減少
・E.faecalisのIEにおける多施設非ランダム化比較試験
AMPC+CTRX vs AMPC+GM
CTRX併用群の背景は癌など全身状態は不良であったが死亡率は同等 Clin Infect Dis. 2013;56(9):1261-8. J Antimicrob Chemother. 2003;52(3):514-7. Antimicrob Agents Chemother. 1999;43(3):639-46.
#10. 腸球菌(E.faecalis, E.faecium) 10 Enterococcus spp.
・腸球菌のIEでは, GMの併用が推奨される
・GMは分割投与, 腎機能障害があれば単回
・可能な限り全治療期間併用 (AKIあれば中止, できれば2週間確保)
・GMのMIC>500μg/mL(高濃度耐性)は, 治療成績は単剤と同等. SMを使用.
・E.faecalisの場合
PCG+GM 4-6週間, 高齢やCKDあればAMPC+CTRX
・E.faeciumの場合
VCM+GM 6週間 Circulation. 13;132(15):1435-86.
黄色ブドウ球菌の感染症における治療戦略
#11. 黄色ブドウ球菌 (MSSA, MRSA) 11 S.aureus
・過去には低用量GM併用療法が行われていた
・MSSAのIEに対するナフシリン単剤vsナフシリン+GMの比較試験
右心系IEでは菌血症の期間短縮したが, 死亡率は変わらず
・S.aureusのIEにおけるダプトマイシンの非劣勢を示したRCT
ダプトマイシン vs 抗黄色ブドウ球菌ペニシリン or VCM+GM
治療終了から42日後の治癒率は同等, GM併用群で腎機能障害多い
Ann Intern Med. 1982;97(4):496-503. N Engl J Med. 2006;355(7):653-65.
#12. 黄色ブドウ球菌 (MSSA, MRSA) 12 S.aureus
・自然弁のIE場合は, GM併用は推奨されない
・治療効果は変わらず, 腎機能障害が増える
・ただし, CEZと併用の研究は少ない
人工弁の感染症に対する治療法
#13. 人工弁のIE 13 endocarditis of prosthetic valve ・ブドウ球菌 (S.aureus, CNSいずれも)
CEZ or VCMにGM+RFPを併用 (初期2週間GM, 6週間RFP)
アミノグリコシドに耐性があればLVFX, それも耐性ならLZD or ST
RFPは治療開始3-5日目に追加 (選択圧によりRFP耐性が誘導される)
RFP耐性なら使用しない
・α溶血連鎖球菌(S.bovis group)
PCG MIC≦0.12μg/mL:PCG+GM 初期2週併用
PCG MIC>0.12,<0.5μg/mL:PCG+GM 6週併用 or VCM単独
PCG MIC≧0.5μg/mL:VCM+GM 6週
#14. 人工弁のIE 14 endocarditis of prosthetic valve ・その他の連鎖球菌 (A,B,C,F,G group, 肺炎球菌)
PCG or CTRX+GM 初期2週間(A群連鎖球菌はPCG感受性良好のためGM不要)
・腸球菌(E.faecalis, E.faecium)
自然弁のIEと同様に治療
アミノグリコシド耐性E.faecalis:CTRX+AMPC (βラクタム併用療法)
・HACEK
ESCではGM or CPFX併用推奨 (AHAでは推奨なし)
・その他のグラム陰性桿菌
GM or フルオロキノロン併用 (耐性獲得のリスクを下げるため)
#15. IEにおけるアミノグリコシド 15 Aminoglycoside for Infective Endocarditis
まとめ
・α溶血連鎖球菌:2週間の治療かPCG耐性ありなら使用
・腸球菌:基本ゲンタマイシン併用
・黄色ブドウ球菌:自然弁なら不要
・人工弁のIE:基本ゲンタマイシン併用
ブドウ球菌ならリファンピシン併用
壊死性筋膜炎におけるクリンダマイシンの効果
#16. IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 16 CombinationTherapy
#17. 17 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン Clindamycin for Necrotizing soft tissue infections ・クリンダマイシンによる外毒素とM蛋白の産生抑制, PBP産生抑制, postantibiotic effectが長いこと, Eagle効果が示されている
・有効性が示されているのは, A群連鎖球菌の場合のみ (≠混合感染)
・侵襲性GAS感染症患者1079名を対象とした観察研究で
CLDM併用群は死亡率低下(2.6対6.1%, aOR 0.40 [95%CI 0.15-0.91]) Lancet Infect Dis. 2021;21(5):697. Epub 2020 Dec 14.
#18. 18 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン Clindamycin for Necrotizing soft tissue infections ・Empirical therapy
MEPM or PIPC/TAZ+VCM+CLDM
・A群連鎖球菌単独感染と判明後
PCG+CLDM
・CLDMの投与期間
48-72時間以上, 血行動態・臨床的に安定後に終了検討
#19. IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 19 CombinationTherapy
MRSA菌血症に対する併用療法の現状
#20. 20 Combination Therapy for MRSA bacteremia ・In vitroで併用により殺菌までの期間が短かった
・動物モデルのIn vivoで, 併用により生存率改善
・VCM or DPT+β-ラクタム系薬併用のRCT (CAMERA2試験, n=345)
併用群で5日目の菌血症は減少も, AKIの発症率が高い
死亡・持続菌血症・再発・治療失敗の有意な改善は得られなかった
抗ブドウ球菌性ペニシリンが中心, CEZは27例のみ MRSA菌血症のβラクタム系併用 JAMA. 2020 Feb 11;323(6):527-537.
#21. 21 Combination Therapy for MRSA bacteremia ・現時点で最も大きなRCTで有意差は出なかった
菌血症消失までは早まるが, 死亡率は改善しない
腎機能障害は生じるがCEZ併用のデータは乏しい
・現時点では, MRSA菌血症へのβラクタム系薬の併用は推奨されない MRSA菌血症のβラクタム系併用
#22. IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 22 CombinationTherapy
人工関節感染におけるリファンピシンの役割
#23. 人工関節のリファンピシン 23 rifampicin combination therapy in prosthetic joint infection
・人工関節周囲にバイオフィルムが形成されると, 様々な機序により
薬剤感受性が低下(深部で代謝低下, マトリックスによる輸送制限etc)
・骨髄炎のラットモデルでRFP, CPFX+RFPは骨内の菌量を低下させた
・人工関節, 創内固定器を保存的に加療した33例を対象としたRCT
CPFX or VCMにRFP併用群, 非併用群で比較 (全てブドウ球菌)
RFP併用群で治癒率が高かった (100% vs 58%)
Science. 1999;284(5418):1318. Am J Med. 1987;82(4A):73. JAMA. 1998;279(19):1537-1541.
#24. 人工関節のリファンピシン 24 rifampicin combination therapy in prosthetic joint infection
・黄色ブドウ球菌用ペニシリン(本邦では入手不能)はRFPに拮抗
オキサシリン+RFP, オキサシリン単剤の比較試験で有意差なし
・セファゾリンとの併用のRCTは報告がない
・キノロン系との併用のエビデンスが多いが, 耐性菌リスク高
・薬剤相互作用が多いため, 使用には注意が必要
Antimicrob Agents Chemother. 1985 Oct;28(4):467-72.
#25. 人工関節のリファンピシン 25 rifampicin combination therapy in prosthetic joint infection ・起炎菌がブドウ球菌の場合にのみ検討
・ルーチンで併用は行わない
・慢性感染や保存的加療の場合の長期抑制に使用されることが多い
・治療開始から数日後にRFPを開始 (人工弁IEに順じ3-5日目?)
・投与期間は全治療期間だが, 副作用による中断は多い
・本邦ではCEZ+RFP, ST合剤+RFPの併用が多い
・エビデンスが豊富なのはキノロン系との併用
抗菌薬入りセメントの使用とその効果
#26. IEにおけるアミノグリコシド Take Home Message 壊死性筋膜炎のクリンダマイシン MRSA菌血症のβラクタム系併用 人工関節感染のリファンピシン 抗菌薬入りセメント 26 CombinationTherapy
#27. 抗菌薬入りセメント 27 Antibiotic bone cement ・非感染の初回人工関節置換術(股関節, 膝関節)のメタアナリシス
抗菌薬含有セメント(GM or CXM)使用で深部感染は減少 (RR=0.41)
抗菌薬含有セメント(GM)使用で創部感染は減少(1.2% vs 2.3%)
・感染した人工関節の2期手術の抗菌薬含有セメントに関する観察研究
GM vs GM+VCM, VCM併用群で再置換時の培養陽性率低下
全体では失敗率は低下せず, CNSによる失敗率は低下(2.5% vs13.3%) PLoS ONE 2013;8(12): e82745. Acta Orthop. 2008 Jun;79(3):335-41. Clin Infect Dis. 2019 May 30;68(12):2087-2093.
#28. 抗菌薬入りセメント 28 Antibiotic bone cement
・人工関節置換術の初回, 再置換術
深部創部感染予防に抗菌薬含有セメントを使用
・人工関節感染のセメントスペーサー, 再置換術
治療目的に抗菌薬含有セメントを使用
ゲンタマイシン含有セメントが一般的
人工関節感染における質の高い研究は少ない
抗菌薬併用療法の推奨状況とまとめ
#29. Take home message 29 ・ 抗菌薬併用療法が推奨される状況は限られている
・ 併用療法は一般的に合併症のリスクを高める
・ 感染性心内膜炎と壊死性筋膜炎の治療について押さえよう
#30. Thank You for Watching! Any Questions?