テキスト全文
#1. 東京曳舟病院 救急科
藤原 翔 ER診断カンファレンス 第5回 Eye of the Beholder
#3. 主訴:左眼周囲の腫脹, 嚥下困難
既往歴:高血圧
現病歴:受診3日前から左眼周囲の腫脹と固形物の嚥下困難が出現し, 食べ物がつかえるようになったため, 救急外来を受診した. 症例 47歳男性
#4. ROS (-) :眼の痒み, 痛み, 羞明, 複視, 視力低下, 頭痛
発熱, 倦怠感, 消化器症状, 喘鳴, 呼吸苦
ROS (+):左眼の腫脹, 固形物の嚥下困難, 嗄声 Review of System
#5. もしこのような電話相談があったら
この時点で何を疑う?
緊急性はあるか?
#6. ・3日前からの症状
・左眼周囲の浮腫
・固形物の嚥下困難
・嗄声
・発熱含む全身症状なし
・眼の症状なし
System1直感的思考
#7. ・3日前からの症状
⇨ アナフィラキシーは less likelyだが除外必須
・発熱や疼痛なし
⇨ 感染症など局所の炎症ではなさそう?
・片側の局所の浮腫+嗄声
⇨ 左眼, 咽頭喉頭周囲の軟部組織腫脹?
#8. アナフィラキシーは除外必須
咽頭炎に処方された薬剤によるアレルギーの可能性も
血管浮腫による咽頭浮腫は気道緊急となり得る
⇨急性〜亜急性の経過の嚥下困難は要注意 緊急性は?
#9. System1直感的思考 # 血管性浮腫
- 薬剤性, アレルギー性, HAE(遺伝性), 後天性
# ウイルス性咽頭炎+薬剤アレルギー
# 固定薬疹
# アナフィラキシー 浮腫が両側性なら
甲状腺機能低下症も鑑別
著者は旋毛虫症も挙げている
#10. 内服歴:直近の受診歴なし, 市販薬の使用なし
アレルギー歴:貝類, 直近の摂食なし
家族歴:母親 乳癌
生活歴:不動産関連の仕事, ボストン在住
動物暴露:ペット飼育なし, 特に動物暴露なし
渡航歴:過去3年間に中国, 日本, メキシコ渡航 直近6ヶ月間は渡航歴なし
嗜好歴:飲酒喫煙なし
#11. 来院時現症 BP130/80mmHg PR95bpm BT37.3℃, RR 18/min SpO2 100%(RA)
GCS E4V5M6, 嗄声あるが会話可能
左眼周囲全体に浮腫, ごく軽度の紅斑あり
眼球運動正常,瞳孔3/3mm, 対光反射+/+, 瞳孔の変形なし
眼瞼結膜, 口腔粘膜に異常所見なし
舌は全体的に軽度腫脹あり
呼吸音清, cracklesなし, stridorなし
脳神経Ⅱ〜Ⅻ異常なし, 四肢MMT5/5, その他の皮疹, 浮腫なし
#12. A:左眼瞼周囲の紅斑 B:左眼周囲の浮腫
#13. Problem List # 3日間持続する左眼周囲の浮腫
# 左眼周囲の紅斑
# 嗄声
# 嚥下困難
# 舌のびまん性浮腫
#14. # 血管性浮腫
- 薬剤性, アレルギー性, HAE(遺伝性), 後天性
# ウイルス性咽頭炎+薬剤アレルギー
# 固定薬疹
# アナフィラキシー System1直感的思考
#15. 身体所見上は血管性浮腫が疑われた.
明らかな誘引がないため, 感染や炎症の評価のため炎症マーカー提出, また後天性C1-INH欠損症を考慮しC4を測定.
薬剤やアレルゲンへの暴露なく, 症状の持続時間からアレルギー性の可能性は低いが治療を行った.
#16. アレルギー性の機序を考慮し, H1 blockerとPSL40mgを3日間処方し, 漸減終了した.
しかし症状は進行し, 発声障害, 咽頭の浮腫, 鼻汁の逆流, 肩と臀部の痛み, ジャンプ力の低下が出現し, 2週間後にERを受診した. 経過
#17. 新規の身体所見として...
前頸部, 側頸部の圧痛
両側上腕の浮腫
股関節の屈曲, 伸展, 外転 MMT4/5
座位からの立ち上がり困難
臀部, 大腿部に疼痛あり
触覚や振動覚問題なし, 深部腱反射の減弱亢進なし
#18. 頭頸部MRI 左眼窩,顔面筋, 舌,
頸部筋群の浮腫
#19. 頭頸部MRI 左眼窩,顔面筋, 舌,
頸部筋群の浮腫
#20. Problem List # 左眼周囲の浮腫, 紅斑
# 嗄声
# 嚥下困難
# 舌のびまん性浮腫
# 肩周囲の疼痛
# 臀部の疼痛
# 両側上腕の浮腫
# 下肢近位筋の筋力低下
# 顔面筋の浮腫
# 頸部筋群の浮腫, 圧痛
#21. Problem List # 左眼周囲の浮腫, 紅斑
# 嗄声
# 嚥下困難
# 舌のびまん性浮腫
# 肩周囲の疼痛
# 臀部の疼痛
# 両側上腕の浮腫
# 下肢近位筋の筋力低下
# 顔面筋の浮腫
# 頸部筋群の浮腫, 圧痛
⇨ミオパチー, 特に筋炎を示唆 嚥下困難+筋力低下で重症筋無力症は鑑別.
ただ筋肉の浮腫は伴わない.
#22. System2分析的思考 ・解剖学的アプローチ
・嚥下困難, 近位筋筋力低下の鑑別(フレームワーク)
・嚥下障害を生じる筋炎, 頸部筋群の筋炎 etc...(SQ)
・VINDICATE(病因による分類)
#23. System2分析的思考 ・解剖学的アプローチ
・嚥下困難, 近位筋筋力低下の鑑別(フレームワーク)
・嚥下障害を生じる筋炎, 頸部筋群の筋炎 etc...(SQ)
・VINDICATE(病因による分類)
#24. ・嚥下障害を生じる筋炎 (ミオパチー)
・頸部筋群の筋炎
・眼瞼浮腫を伴う筋炎 Semantic Qualifier
#25. ・嚥下障害を生じる筋炎 (ミオパチー)
・頸部筋群の筋炎
・眼瞼浮腫を伴う筋炎 Semantic Qualifier
#26. - 遺伝性ミオパチー
筋緊張性ジストロフィー1,2型, 眼咽頭型筋ジストロフィー, ミトコンドリア性ミオパチー, 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー, Duchenne型筋ジストロフィー, 肢帯型筋ジストロフィー,
先天性ミオパチー, ポンペ病, 筋原線維性ミオパチー, MEGF10ミオパチー, 声帯咽頭ミオパチー etc..
- 後天性ミオパチー
多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群,免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎
- 神経原性障害
ALS/PMA, 急性脊髄灰白髄炎(ポリオ後症候群), 脊髄性筋萎縮症1型, 球脊髄性筋萎縮症, 末梢神経障害(ギラン・バレー症候群, 糖尿病)
- 神経筋接合部障害
重症筋無力症, Lambert-Eaton症候群, 先天性筋ジストロフィー 嚥下障害を生じるミオパチー Neuromuscul Disord. 2021;31(1):5-20.
#27. - 遺伝性ミオパチー
筋緊張性ジストロフィー1,2型, 眼咽頭型筋ジストロフィー, ミトコンドリア性ミオパチー, 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー, Duchenne型筋ジストロフィー, 肢帯型筋ジストロフィー,
先天性ミオパチー, ポンペ病, 筋原線維性ミオパチー, MEGF10ミオパチー, 声帯咽頭ミオパチー etc..
- 後天性ミオパチー
多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群,免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎
- 神経原性障害
ALS/PMA, 急性脊髄灰白髄炎(ポリオ後症候群), 脊髄性筋萎縮症1型, 球脊髄性筋萎縮症, 末梢神経障害(ギラン・バレー症候群, 糖尿病)
- 神経筋接合部障害
重症筋無力症, Lambert-Eaton症候群, 先天性筋ジストロフィー 嚥下障害を生じるミオパチー Neuromuscul Disord. 2021;31(1):5-20.
#28. Vascular (血管系):
Infection (感染症):
Neoplasm (新生物):
Degenerative (変性疾患):
Iatrogenic/Idiopathic/Intoxication/Inheritance (医原性/特発性/中毒/遺伝性):
Congenital (先天性):
Allergy&Autoimmune (アレルギー, 自己免疫性疾患):
Trauma (外傷性):
Endocrinopathy/Metabolic/Else (代謝内分泌疾患, その他): 病因による分類 (VINDICATE)
#29. V:
I:旋毛虫症, シャーガス病, 糸状虫症
N:傍腫瘍症候群としてのミオパチー
D:
I:
C:
A:特発性炎症性筋疾患(PM/DM含む), 筋ジストロフィー, 重症筋無力症
T:
E:甲状腺機能低下症 病因による分類 (VINDICATE) 他にも挙げてみて下さい
#30. System2分析的思考 # 後天性ミオパチー
D/D: 多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群, 免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎
#31. System2分析的思考 # 後天性ミオパチー
多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群 ⇨ 各種抗体, 身体所見, 筋生検
抗合成酵素症候群 ⇨ アミノアシル tRNA合成酵素に対する抗体陽性, DMと鑑別難免疫介在性壊死性ミオパチー ⇨ 急性〜亜急性, 対称性の四肢近位筋力低下,
頚部筋力低下, 筋生検で壊死像
封入体筋炎 ⇨ 50歳以上, 慢性経過, 三角筋よりは手指や手首屈筋の筋力低下
皮膚筋炎に特徴的な身体所見
・Gottron丘疹, Gottron徴候 ⇨ なし
・ショールサイン ⇨ なし
・ホルスターサイン ⇨ なし
・ヘリオトロープ疹 ⇨ 片側性は非典型的
#32. 検査所見 正常10-40mg/dL 抗Jo-1抗体を含む筋炎特異的抗体パネルは陰性
#33. 筋生検 左三角筋 筋生検
・筋繊維に軽度の大小不同
・筋膜周囲の萎縮は認めない
・HE染色では, 主に骨膜上血管の周囲に炎症性浸潤
・主要組織適合性複合体(MHC)クラスⅠ染色は陽性 壊死していない線維に斑状に分布していた
・膜侵襲複合体(MAC)に特異的な染色では, 散在 する毛細血管を取り囲むように陽性を呈した
#34. 病理所見 (血管周囲の炎症, 筋繊維のMHCクラスⅠ陽性, 内皮細胞へのMAC沈着など) と臨床症状から皮膚筋炎と診断された.
mPSL1000mg 3日間投与し, PSL60mg内服で治療を行った.
眼窩周囲の発疹と嗄声は改善, CKも低下したが, 近位筋の筋力低下は残存した. メトトレキサート20mg/週で開始し, CKは正常化, 筋力も改善した. 経過
#35. 症状と採血データの改善から6ヶ月が経過し, PSLを15mgまで漸減したところで症状が再燃した.
近位筋の筋力低下, CK上昇, Gottron丘疹が出現した.
免疫グロブリンとメトトレキサート25mg/週への増量で症状は軽快した. 経過中に悪性腫瘍は認めなかった. 経過
#38. 皮膚筋炎の身体所見 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)
#39. ・筋炎特異的自己抗体の中では, 抗ARS抗体が最も頻度が高い
・DM特異的自己抗体 DM-specific autoantibody(DMSA)は現在5種類
- 抗MDA5抗体, 抗TIF1-γ抗体, 抗Mi-2抗体,抗SAE抗体, 抗NXP-2抗体
・各抗体で疾患の表現が異なる
皮膚筋炎 (DM)の抗体検査 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)
#40. ・MRIで筋生検の部位を検討
上腕二頭筋, 上腕三頭筋, 三角筋, 大腿四頭筋, 前脛骨筋が多い
・筋線維の大小不同
・筋束周辺の萎縮
・血管周囲の炎症細胞浸潤 (perifascicular atrophy; PFA)
・筋内鞘小血管への補体複合体沈着像 (membrane attack complex; MAC)
・主な浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞
・筋炎の多くでMHC classⅠ,Ⅱ陽性⇨ジストロフィーとの鑑別 皮膚筋炎の病理所見 N Engl J Med 1986; 314(6):329-334
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2009;80(10):1060-8.
#41. ・片側の眼瞼浮腫, 嚥下障害を初発症状とした皮膚筋炎
⇨ 稀な疾患の非典型例
・初診時にミオパチーを疑うことは難しかったが,
症状の進展に伴い, 鑑別を挙げ直して診断に至った
⇨ 繰り返し丁寧に診察することが大切
・DMに特徴的な抗体検査や皮膚所見がなく, 筋生検を要した
#42. ・稀な疾患の非典型例は, 後から症状が揃うことがある
・筋炎の症状が現れにくい皮膚筋炎がある
・嚥下障害からミオパチーを想起できるように Take home message