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11889

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曳舟ER診断カンファレンス第5回〜Eye of the Beholder〜

投稿者プロフィール
藤原翔

医療法人伯鳳会東京曳舟病院

28,450

35

概要

東京曳舟病院救急科では診断・身体診察に関する勉強会を行っています。

実際にERで出会った難診断症例や、New England Journal of MedicineのClinical Problem-Solvingなどの症例を元にカンファレンス形式で実施しています。

ERでの診断学に興味がある方はぜひご参照下さい。勉強会の参加もお待ちしております。

東京曳舟病院 救急科医長

藤原 翔

mail: fujiwarackn@gmail.com

本スライドの対象者

研修医/専攻医

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テキスト全文

左眼周囲の腫脹と嚥下困難の症例紹介

#1.

東京曳舟病院 救急科 藤原 翔 ER診断カンファレンス 第5回 Eye of the Beholder

#2.

※一部日本用にアレンジしています

#3.

主訴:左眼周囲の腫脹, 嚥下困難 既往歴:高血圧 現病歴:受診3日前から左眼周囲の腫脹と固形物の嚥下困難が出現し, 食べ物がつかえるようになったため, 救急外来を受診した. 症例 47歳男性

症状の経過と緊急性の評価

#4.

ROS (-) :眼の痒み, 痛み, 羞明, 複視, 視力低下, 頭痛      発熱, 倦怠感, 消化器症状, 喘鳴, 呼吸苦 ROS (+):左眼の腫脹, 固形物の嚥下困難, 嗄声 Review of System

#5.

もしこのような電話相談があったら この時点で何を疑う? 緊急性はあるか?

#6.

・3日前からの症状 ・左眼周囲の浮腫 ・固形物の嚥下困難 ・嗄声 ・発熱含む全身症状なし ・眼の症状なし System1直感的思考

#7.

・3日前からの症状  ⇨ アナフィラキシーは less likelyだが除外必須 ・発熱や疼痛なし  ⇨ 感染症など局所の炎症ではなさそう? ・片側の局所の浮腫+嗄声  ⇨ 左眼, 咽頭喉頭周囲の軟部組織腫脹?

#8.

アナフィラキシーは除外必須 咽頭炎に処方された薬剤によるアレルギーの可能性も 血管浮腫による咽頭浮腫は気道緊急となり得る   ⇨急性〜亜急性の経過の嚥下困難は要注意 緊急性は?

血管性浮腫の鑑別と考察

#9.

System1直感的思考 # 血管性浮腫  - 薬剤性, アレルギー性, HAE(遺伝性), 後天性 # ウイルス性咽頭炎+薬剤アレルギー # 固定薬疹 # アナフィラキシー 浮腫が両側性なら 甲状腺機能低下症も鑑別 著者は旋毛虫症も挙げている

#10.

内服歴:直近の受診歴なし, 市販薬の使用なし アレルギー歴:貝類, 直近の摂食なし 家族歴:母親 乳癌 生活歴:不動産関連の仕事, ボストン在住 動物暴露:ペット飼育なし, 特に動物暴露なし 渡航歴:過去3年間に中国, 日本, メキシコ渡航    直近6ヶ月間は渡航歴なし 嗜好歴:飲酒喫煙なし

来院時の身体所見と問題リスト

#11.

来院時現症 BP130/80mmHg PR95bpm BT37.3℃, RR 18/min SpO2 100%(RA) GCS E4V5M6, 嗄声あるが会話可能 左眼周囲全体に浮腫, ごく軽度の紅斑あり 眼球運動正常,瞳孔3/3mm, 対光反射+/+, 瞳孔の変形なし 眼瞼結膜, 口腔粘膜に異常所見なし 舌は全体的に軽度腫脹あり 呼吸音清, cracklesなし, stridorなし 脳神経Ⅱ〜Ⅻ異常なし, 四肢MMT5/5, その他の皮疹, 浮腫なし

#12.

A:左眼瞼周囲の紅斑 B:左眼周囲の浮腫

#13.

Problem List # 3日間持続する左眼周囲の浮腫 # 左眼周囲の紅斑 # 嗄声 # 嚥下困難 # 舌のびまん性浮腫

#14.

# 血管性浮腫  - 薬剤性, アレルギー性, HAE(遺伝性), 後天性 # ウイルス性咽頭炎+薬剤アレルギー # 固定薬疹 # アナフィラキシー System1直感的思考

#15.

身体所見上は血管性浮腫が疑われた. 明らかな誘引がないため, 感染や炎症の評価のため炎症マーカー提出, また後天性C1-INH欠損症を考慮しC4を測定. 薬剤やアレルゲンへの暴露なく, 症状の持続時間からアレルギー性の可能性は低いが治療を行った.

治療経過と新たな症状の出現

#16.

アレルギー性の機序を考慮し, H1 blockerとPSL40mgを3日間処方し, 漸減終了した. しかし症状は進行し, 発声障害, 咽頭の浮腫, 鼻汁の逆流, 肩と臀部の痛み, ジャンプ力の低下が出現し, 2週間後にERを受診した. 経過

#17.

新規の身体所見として... 前頸部, 側頸部の圧痛 両側上腕の浮腫 股関節の屈曲, 伸展, 外転 MMT4/5 座位からの立ち上がり困難 臀部, 大腿部に疼痛あり 触覚や振動覚問題なし, 深部腱反射の減弱亢進なし

#18.

頭頸部MRI 左眼窩,顔面筋, 舌, 頸部筋群の浮腫

#19.

頭頸部MRI 左眼窩,顔面筋, 舌, 頸部筋群の浮腫

#20.

Problem List # 左眼周囲の浮腫, 紅斑 # 嗄声 # 嚥下困難 # 舌のびまん性浮腫 # 肩周囲の疼痛 # 臀部の疼痛 # 両側上腕の浮腫 # 下肢近位筋の筋力低下 # 顔面筋の浮腫 # 頸部筋群の浮腫, 圧痛

筋炎の鑑別と関連疾患の考察

#21.

Problem List # 左眼周囲の浮腫, 紅斑 # 嗄声 # 嚥下困難 # 舌のびまん性浮腫 # 肩周囲の疼痛 # 臀部の疼痛 # 両側上腕の浮腫 # 下肢近位筋の筋力低下 # 顔面筋の浮腫 # 頸部筋群の浮腫, 圧痛 ⇨ミオパチー, 特に筋炎を示唆 嚥下困難+筋力低下で重症筋無力症は鑑別. ただ筋肉の浮腫は伴わない.

#22.

System2分析的思考 ・解剖学的アプローチ ・嚥下困難, 近位筋筋力低下の鑑別(フレームワーク) ・嚥下障害を生じる筋炎, 頸部筋群の筋炎 etc...(SQ) ・VINDICATE(病因による分類)

#23.

System2分析的思考 ・解剖学的アプローチ ・嚥下困難, 近位筋筋力低下の鑑別(フレームワーク) ・嚥下障害を生じる筋炎, 頸部筋群の筋炎 etc...(SQ) ・VINDICATE(病因による分類)

#24.

・嚥下障害を生じる筋炎 (ミオパチー) ・頸部筋群の筋炎 ・眼瞼浮腫を伴う筋炎 Semantic Qualifier

#25.

・嚥下障害を生じる筋炎 (ミオパチー) ・頸部筋群の筋炎 ・眼瞼浮腫を伴う筋炎 Semantic Qualifier

後天性ミオパチーの病因分類

#26.

- 遺伝性ミオパチー  筋緊張性ジストロフィー1,2型, 眼咽頭型筋ジストロフィー, ミトコンドリア性ミオパチー, 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー, Duchenne型筋ジストロフィー, 肢帯型筋ジストロフィー,  先天性ミオパチー, ポンペ病, 筋原線維性ミオパチー, MEGF10ミオパチー, 声帯咽頭ミオパチー etc.. - 後天性ミオパチー  多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群,免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎 - 神経原性障害  ALS/PMA, 急性脊髄灰白髄炎(ポリオ後症候群), 脊髄性筋萎縮症1型, 球脊髄性筋萎縮症, 末梢神経障害(ギラン・バレー症候群, 糖尿病) - 神経筋接合部障害  重症筋無力症, Lambert-Eaton症候群, 先天性筋ジストロフィー 嚥下障害を生じるミオパチー Neuromuscul Disord. 2021;31(1):5-20.

#27.

- 遺伝性ミオパチー  筋緊張性ジストロフィー1,2型, 眼咽頭型筋ジストロフィー, ミトコンドリア性ミオパチー, 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー, Duchenne型筋ジストロフィー, 肢帯型筋ジストロフィー,  先天性ミオパチー, ポンペ病, 筋原線維性ミオパチー, MEGF10ミオパチー, 声帯咽頭ミオパチー etc.. - 後天性ミオパチー 多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群,免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎 - 神経原性障害  ALS/PMA, 急性脊髄灰白髄炎(ポリオ後症候群), 脊髄性筋萎縮症1型, 球脊髄性筋萎縮症, 末梢神経障害(ギラン・バレー症候群, 糖尿病) - 神経筋接合部障害  重症筋無力症, Lambert-Eaton症候群, 先天性筋ジストロフィー 嚥下障害を生じるミオパチー Neuromuscul Disord. 2021;31(1):5-20.

#28.

Vascular (血管系): Infection (感染症): Neoplasm (新生物): Degenerative (変性疾患): Iatrogenic/Idiopathic/Intoxication/Inheritance (医原性/特発性/中毒/遺伝性): Congenital (先天性): Allergy&Autoimmune (アレルギー, 自己免疫性疾患): Trauma (外傷性): Endocrinopathy/Metabolic/Else (代謝内分泌疾患, その他): 病因による分類 (VINDICATE)

#29.

V: I:旋毛虫症, シャーガス病, 糸状虫症 N:傍腫瘍症候群としてのミオパチー D: I: C: A:特発性炎症性筋疾患(PM/DM含む), 筋ジストロフィー, 重症筋無力症 T: E:甲状腺機能低下症 病因による分類 (VINDICATE) 他にも挙げてみて下さい

#30.

System2分析的思考 # 後天性ミオパチー D/D: 多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群, 抗合成酵素症候群, 免疫介在性壊死性ミオパチー, 封入体筋炎

筋生検と病理所見の結果

#31.

System2分析的思考 # 後天性ミオパチー 多発筋炎, 皮膚筋炎, Overlap症候群 ⇨ 各種抗体, 身体所見, 筋生検 抗合成酵素症候群 ⇨ アミノアシル tRNA合成酵素に対する抗体陽性, DMと鑑別難免疫介在性壊死性ミオパチー ⇨ 急性〜亜急性, 対称性の四肢近位筋力低下,                  頚部筋力低下, 筋生検で壊死像 封入体筋炎 ⇨ 50歳以上, 慢性経過, 三角筋よりは手指や手首屈筋の筋力低下  皮膚筋炎に特徴的な身体所見 ・Gottron丘疹, Gottron徴候 ⇨ なし ・ショールサイン      ⇨ なし ・ホルスターサイン     ⇨ なし ・ヘリオトロープ疹     ⇨ 片側性は非典型的

#32.

検査所見 正常10-40mg/dL 抗Jo-1抗体を含む筋炎特異的抗体パネルは陰性

#33.

筋生検  左三角筋 筋生検 ・筋繊維に軽度の大小不同 ・筋膜周囲の萎縮は認めない ・HE染色では, 主に骨膜上血管の周囲に炎症性浸潤 ・主要組織適合性複合体(MHC)クラスⅠ染色は陽性 壊死していない線維に斑状に分布していた ・膜侵襲複合体(MAC)に特異的な染色では, 散在 する毛細血管を取り囲むように陽性を呈した

#34.

病理所見 (血管周囲の炎症, 筋繊維のMHCクラスⅠ陽性, 内皮細胞へのMAC沈着など) と臨床症状から皮膚筋炎と診断された. mPSL1000mg 3日間投与し, PSL60mg内服で治療を行った. 眼窩周囲の発疹と嗄声は改善, CKも低下したが, 近位筋の筋力低下は残存した. メトトレキサート20mg/週で開始し, CKは正常化, 筋力も改善した. 経過

#35.

症状と採血データの改善から6ヶ月が経過し, PSLを15mgまで漸減したところで症状が再燃した. 近位筋の筋力低下, CK上昇, Gottron丘疹が出現した. 免疫グロブリンとメトトレキサート25mg/週への増量で症状は軽快した. 経過中に悪性腫瘍は認めなかった. 経過

皮膚筋炎の最終診断と治療経過

#36.

皮膚筋炎 最終診断

#37.

皮膚筋炎の身体所見

#38.

皮膚筋炎の身体所見 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)

#39.

・筋炎特異的自己抗体の中では, 抗ARS抗体が最も頻度が高い ・DM特異的自己抗体 DM-specific autoantibody(DMSA)は現在5種類  - 抗MDA5抗体, 抗TIF1-γ抗体, 抗Mi-2抗体,抗SAE抗体, 抗NXP-2抗体 ・各抗体で疾患の表現が異なる 皮膚筋炎 (DM)の抗体検査 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)

#40.

・MRIで筋生検の部位を検討  上腕二頭筋, 上腕三頭筋, 三角筋, 大腿四頭筋, 前脛骨筋が多い ・筋線維の大小不同 ・筋束周辺の萎縮 ・血管周囲の炎症細胞浸潤 (perifascicular atrophy; PFA) ・筋内鞘小血管への補体複合体沈着像 (membrane attack complex; MAC) ・主な浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞 ・筋炎の多くでMHC classⅠ,Ⅱ陽性⇨ジストロフィーとの鑑別 皮膚筋炎の病理所見 N Engl J Med 1986; 314(6):329-334 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2009;80(10):1060-8.

稀な疾患の非典型例と重要なメッセージ

#41.

・片側の眼瞼浮腫, 嚥下障害を初発症状とした皮膚筋炎  ⇨ 稀な疾患の非典型例 ・初診時にミオパチーを疑うことは難しかったが,  症状の進展に伴い, 鑑別を挙げ直して診断に至った  ⇨ 繰り返し丁寧に診察することが大切 ・DMに特徴的な抗体検査や皮膚所見がなく, 筋生検を要した

#42.

・稀な疾患の非典型例は, 後から症状が揃うことがある ・筋炎の症状が現れにくい皮膚筋炎がある ・嚥下障害からミオパチーを想起できるように Take home message

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