テキスト全文
#1. 重症COVID-19病棟での意思決定支援 家族支援チームとの協働 日本集中治療医学会 第7回関西支部学術集会(2023.7.29)会長企画「急性期医療でACPは可能か? ~倫理と現実のあいだ~」 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一
#2. 日本集中治療医学会 第7回関西支部学術集会COI開示 発表者名:黒田浩一 講演内容に関連し、発表者に開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
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#3. 「COVID-19に対する薬物治療の考え方」
日本感染症学会
COVID-19治療薬タスクフォース 3
#4. 本日の内容 1. 導入 - COVID-19の特殊性 -
2. 患者への病状説明・意思決定支援 - 家族支援チームとの協働 -
- 病状説明の際に常に意識すべき重要なこと
- 事前準備 - 直接面会はとても重要である
- 病状説明の実際と工夫 - 家族支援チームとの協働 4
#5. 1. 導入 - COVID-19の特殊性 - 5
#6. COVID-19は「ふつう」の病気になった 2023年7月現在... 感染症法
5類感染症 人々の
意識 致命率
重症化率 オミクロン以前(~2021年12月)は、特にワクチン非接種者で特別な感染症であった 6
#7. 第5波までは... ADL自立の比較的若年者
(40~70歳)
致死的な肺炎 経験/evidence不足
臨床経過・予後(QOL・生存)
推定が難しい 医療逼迫と厳密な感染対策
業務量の著増 感染対策上の問題
直接面会が難しい 7
#8. 意思決定支援が特に重要な状況であった 正しい情報の不足
インフォデミック 面会禁止 社会的スティグマ 未知の感染症への不安・恐怖
病状の理解不足や誤解が生じやすかった 患者と家族の接触機会の消失
病状の理解不足や誤解が生じやすかった 医療従事者からの正しい情報の提供・精神的サポート・意思決定支援が非常に重要な状況 冷静な判断が難しかった 8
#9. 意思決定支援の障壁 患者の価値観の確認や意思決定支援の阻害要素が複数存在した 知識不足
経験不足 面会禁止 業務負担の増大 病状説明の「質」に影響した
正しさ、わかりやすさ、説明者の自信 etc 医師・病棟看護師と家族の接触機会の減少
家族ケアの機会消失 病状説明機会の減少
病棟看護師による病状説明の同席が難しい
医療チーム内の連携不足 9
#10. 何か足りなかったか? 適切な病状説明
- 理解しやすい説明
- 最新の知見(エビデンス・社会のルール)を反映している説明
- 適切なタイミングの説明
病状だけでなく、社会状況についても配慮した家族ケア
直接面会するシステム 10
#11. 2020年11月から本格的に感染症科が診療に関与 院内感染対策がひと段落した
当時、中心となって診療する科が不在であった
「専門診療科」としての役割を果たすべきと考えた
行ったこと
- 業務分担を明確にした
- 病状説明・意思決定支援の機会を増やした
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#12. 業務分担 意図したものではない要素もあったが、以下のように落ち着いた 方針決定・病状説明
主治医(感染症科・呼吸器内科)
※他診療科からの人的支援あり 全身管理
集中治療医・ICU看護師 家族ケア
家族支援チーム・主治医 意思決定支援
主治医・家族支援チーム
多職種カンファ 12
#13. 病状説明・意思決定支援の機会を増やした 対面での面談 週1~2回(家族支援チーム同席)
平日は毎日電話で病状説明
TV面会の充実・予約システムの構築(2020.11~)
レッドゾーンでの直接面会を可能にした(2020.12~) 13
#14. 未知の感染症はいずれまた出現する 本日は、重症COVID-19患者がICUを占有していた時期(第3~5波)に、私たちが実践していた意思決定支援についてお話させていただく。特に第3波の途中までは、現在のように感染対策・治療・予防法が確立されておらず、手探り状態であった。
未知の感染症によるパンデミックはいずれやってくるため、その時の参考になれば幸いである。なお、パンデミック期であっても、意思決定支援の基本は、日常診療のそれとまったく同じである。 14
#15. 2. 患者への病状説明・意思決定支援 - 家族支援チームとの協働 - 15
#16. このセクションの内容 病状説明の際に常に意識すべき重要なこと
事前準備
病状説明の実際と工夫
直接面会はとても重要である
家族支援チームとの協働 16 家族支援チーム 家族支援チーム 家族支援チーム
#17. 1. 病状説明の際に常に意識すべき重要なこと わかりやすい病状説明が一番重要(知識・経験・練習が必要)
状況を理解することがすべての前提となる(全てはここから始まる)
事前準備
患者の価値観・(推定)意思の確認
全体的な方向性を、患者・家族と医療従事者で決定する
具体的な方針は医療者側が提案する(患者・家族に丸投げしない) 17 家族支援チーム 家族支援チーム
#18. 家族と医療従事者の対立の根本的な原因 説明不足・説明がわかりにくい(医師側の知識・理解不足)
患者・家族の価値観を尊重しない、意思を確認しない
- 一方的に治療方針を決定する
- 家族の推定意思を信用しない
感情に配慮していない
倫理的な問題は、実際にはほとんどなかった 18
#19. 医師の説明がわかりにくい 多くの場合、医師の知識不足・理解不足や対話能力が原因
患者・家族が病状を理解できていないことが原因で対立する 19
#20. 患者・家族の価値観・意思を尊重しない 自分たちの「常識」を押し付けていないか?
医療従事者の「ダブル・スタンダード」
「自身と同じ価値観」の患者・家族の価値観を尊重しない 20
#21. 倫理的な問題 本人の希望と家族の希望が全く逆であった事例
- 本人(挿管中)は治療希望、家族は治療に強く拒否的
- それぞれが許容できるQOLが異なっていた
ECMOが延命治療となってしまった事例
本人の意思不明、かつ、代理意思決定者不在(稀)
医療従事者が、本人と家族の価値観を受け入れ難い事例 21 どの患者を入院させるかというトリアージは、十分な倫理的検討はなされずに、行政サイドの判断で行われた 「終末期」ではないのに
withhold/withdraw
を希望する患者と家族
#22. 2. 事前準備 22 面談の目標を決める(必ず医療側で目標と説明する内容を共有する)
①診断や経過の説明 ②推定意思の確認・治療方針の決定 参加者の決定 患者側
どの家族を呼ぶか
代理意思決定者・家族関係
オンライン機器の活用 医療者側の同席者
家族支援チーム(看護師・MSW)
病棟看護師
集中治療医
#23. 人が多ければよいというわけではない 事前に役割分担を共有した上で、適切な人員でのぞむ 23
#24. 3. 病状説明の実際と工夫 家族面談(病状説明)の流れ
- 自己紹介をした後で、まず最初に、話し合う内容を共有する
- 理解状況を確認する
- わかりやすく、ゆっくりと、自信をもって説明する
- 適宜、要約しつつ、質問がないか確認する
- 質問には、簡潔かつ明確に回答する 24 家族支援チームの同席
#25. 病状説明の要点 25 わかりやすい説明を心がける
丁寧な字で紙に書く・録音許可
必要な内容に限定する
今後の見通しを必ず説明する 感情への対応・気配り
患者に対して興味を持つ
共感する
感情移入はしない 患者の価値観を確認する
それを基に方向性を決定する 価値観に合った治療方針に提案
「各」医療行為の希望の確認は不要
重大な決定は2回目に 家族支援チーム 家族支援チーム
#26. 説明は、紙に書く・録音希望あれば許可する 口頭の説明だけだと、忘れてしまう
非専門医が知らない内容を、患者・家族が記憶できると思いますか? 26
#27. 今度の見通しをわかる範囲で必ず話す 患者・家族がもっとも知りたいことの1つである
わからないことは、わからないとはっきり伝える 27
#28. COVID-19の特殊性 パンデミック期の重症COVID-19の病状説明・意思決定支援は、常時の重症感染症の患者と基本は同じである 28 家族自身について
感染対策
患者宅での対応
体調相談 インフォデミック対策
情報リテラシー
臨床経過・治療
死亡退院後の対応 スティグマへの対応
共感
類似例の情報共有
対処法
#29. 本人の意思をできる限り直接確認する 挿管前の本人と可能な限り時間をとって面談する
- ベッドサイドのイスに座って、30~45分くらい
その場で決められないことは、家族と方針を決めて良いか確認する
本人と家族の話し合いの機会を持てるように工夫する
- スマートフォン(LINE・Facetime・通話)、直接面会 29
#30. 本人の意思が不明の場合 家族の希望、ではなく、患者の価値観にあった治療を模索する
家族による推定が難しい場合でも、本人の生き方から推定できるよう、医療側は支援を行う(対話・質問)。家族に全ての責任を負わせない。
家族の推定を手伝いつつ、医療チームで医学的に妥当と考えられる治療を検討して提案する。その場合、多職種カンファレンスが有用である(内科医、集中治療医、病棟看護師、家族支援チーム、リハビリ技師、MSW、病院管理職など)。 30 家族支援チーム
#31. 代理意思決定支援時の注意点 31 本人の価値観にあった治療
共に考える
(家族の希望ではない) 家族ケア
家族の精神的負担が大きい
共感と支援 生死を決める判断
代理人に丸投げしない 患者の価値観にあった
医学的に妥当な治療
医療側から提案・推奨する 家族支援チーム
#32. 治療の差し控え・治療中止を検討する際 治療の差し控え・治療中止は、可能な限り、チーム(多職種)で検討する
患者の考える最低限のQOLで余命が望める可能性があるか
どうやって生きていきたいか
必ずしも「終末期」(3学会合同ガイドライン)とは限らない
症状緩和治療はしっかりと行う(治療の最適化)
何もしない訳ではない(「撤退」という言葉は使わない)
患者の尊厳、快適さ、症状緩和を大切にしていくことを伝える 32
#33. 4. 直接面会はとても重要である 患者と家族が直接話し合うことができる(時間的猶予がある場合)
家族が本人の状態を理解しやすくなる
- Web画面上では、患者の状態を誤解することがある(e.g. 顔色がよい)
直接、見て・聞いて・触れることは非常に重要である
オンライン面会は、家族の満足度の向上に有用ではあるが、直接面会に代わるものではない 33 J Pain Symptom Manage. 60(2):e79-e80, 2020.
#34. 5. 家族支援チームとの協働 病状説明時の同席
- 説明中の家族の様子の評価(理解しているか、表情・感情の動き)
- わかりにくい説明にブレーキを掛ける
- わかりにくい説明に対して、患者に代わって質問する役割 34 家族支援チーム
#35. 5. 家族支援チームとの協働 病状説明後の家族面談
- 病状説明の理解状況の把握と補足説明(再度説明する機会を調整)
- 患者は、医師には、なかなか「わかりません」とはいえない
- 患者は、心のうち・感情を表出するハードルは高い
病状説明の話し方・内容についてのフィードバック 35 家族支援チーム コミュニケーションは「技術」であると言われるが...
そのためには多くの経験が必要であり、体験を経験にするために振り返りとfeedbackが必要
#36. 36 事例 2回目以降の病状説明時は
経過・予想される経過と対応・方針について話す
#37. 医師の仕事でもっとも重要なこと 医学的適応を適切に評価すること
見通しも含めて、病状を、患者・家族に理解できるように説明すること
患者の価値観にあった、医学的に妥当な治療を提案すること
患者に興味を持ち、最後までサポートしつづけること
他の専門職をリスペクトして、協働すること(お任せすること)
診療の責任を引き受けること 37
#38. 本日の内容 1. 導入 - COVID-19の特殊性 -
2. 患者への病状説明・意思決定支援 - 家族支援チームとの協働 -
- 病状説明の際に常に意識すべき重要なこと
- 事前準備 - 直接面会はとても重要である
- 病状説明の実際と工夫 - 家族支援チームとの協働 38