テキスト全文
東京曳舟病院 ER診断カンファレンスの概要
#1. 東京曳舟病院 救急科
藤原 翔 ER診断カンファレンス 〜Back to the history〜
82歳男性の背部痛と現病歴の詳細
#3. 主訴:背部痛, 左臀部痛
現病歴:6ヶ月前に発熱, 咳嗽が出現. 肺炎と診断され10日間レボフロキサシンを内服した. 呼吸器症状が改善と同時期より腰背痛が出現した. 歩行時にも疼痛を認めるようになったため, 救急外来を受診した. 症例 82歳男性
#4. 外傷や落下, 重いものを持ち上げたりはしていない.
数ヶ月の経過で背部痛は増悪し, 左臀部痛が出現した.
朝のこわばりなし
発熱なし, 悪寒なし, 夜間の発汗なし
数ヶ月の間に9kgの体重減少あり
便失禁なし, 尿失禁なし
最近の外傷歴なし, 手術なし 追加問診
#5. ROS(-):朝の関節のこわばり, 発熱, 悪寒, 咳嗽呼吸苦,
夜間の発汗, 便失禁, 尿失禁, 下痢嘔吐
ROS(+):6ヶ月前から腰背部痛, 左臀部痛, 歩行時の
疼痛, 半年で9kgの体重減少 Review of System
腰背部痛の追加問診と問題リスト
#6. Onset:6ヶ月前からのgradual onset, 呼吸器症状後
Provocative/palliative factor:運動で増悪/前屈で改善なし
Quality/quantity:夜間に疼痛で起きるほど
Region/radiation:腰背部/下肢への放散痛なし
Symptoms associated:不明
Time course:持続痛 痛みに関する追加問診
#7. # 6ヶ月前からの腰背部痛, 左臀部痛
# 6ヶ月前の発熱, 咳嗽
# 10日間のLVFX内服歴
# 9kgの体重減少 Problem List
#8. Key Factは?
・gradual onset
・6ヶ月前の発熱咳嗽
・LVFX内服歴
・腰背部痛
・左臀部痛
・持続痛
・9kgの体重減少 System1直感的思考
System1直感的思考による鑑別疾患の考察
#9. System1直感的思考 第一印象と鑑別の最上位について考えて下さい
疾患名でなく病態の解釈でも良いです
最優先で欲しい問診項目についても
#10. System1直感的思考 # 結核性脊椎炎, 腸腰筋膿瘍
# 腰椎の疾患
- 感染症, 腫瘍転移, 脊椎の溶骨性変化, 外傷
# 膠原病
- PMR, 強直性脊椎炎
# 非特異的な腰痛症/圧迫骨折 + α
既往歴と社会歴の重要性
#11. 既往歴
洞不全症候群 (数年前 PMI)
拡張性心不全
肺線維症
高脂血症, 高血圧, 痛風
帯状疱疹後神経痛
基底細胞癌(Mohs顕微鏡手術後)
内服歴
アロプリノール
アスピリン
メトプロロール(β blocker)
シンバスタチン
ガバペンチン
オキシコドン, アセトアミノフェン
アレルギー歴:特記事項なし
#12. 社会歴
退職後は大学教授として勤務
奥様, 成人した子供達と同居
28年前に葉巻を禁煙
症状出現前まで毎晩1杯の酒
非合法薬物使用なし
昔, アジア, 南米, 全米を旅行
家族歴
母親 うっ血性心不全
父親 冠動脈疾患 (詳細不明)
兄弟 非ホジキンリンパ腫
System1直感的思考と病態の解釈
#13. System1直感的思考 Impression
腫瘍でなければ慢性の炎症はありそう
アジア, 南米, 全米の旅行歴の詳細必要
家族歴に心疾患多い
洞不全症候群の原因は?肺線維症の既往あり
肺炎の治療前後のレントゲンはあるか
#14. System1直感的思考 # 結核性脊椎炎, 腸腰筋膿瘍
# 腰椎の疾患
- 感染症, 腫瘍骨転移, 脊椎の溶骨性変化, 外傷
# 膠原病
- PMR, 強直性脊椎炎, サルコイドーシス, etc...
# 非特異的な腰痛症/圧迫骨折 + α 解像度を上げていくと?
#15. System2分析的思考 ・腰痛の原因となり得る部位(解剖学的)
・腰痛の鑑別疾患(フレームワーク)
・慢性経過をたどる化膿性脊椎炎 etc...(SQ)
・VINDICATE(病因による分類)
腰痛の解剖学的アプローチと鑑別疾患
#16. 腰痛の原因となり得る部位
脊椎由来:椎体, 椎間板, 棘突起
周辺運動器由来:後縦靭帯, 広背筋, 腸腰筋, 棘間靭帯,
脊柱起立筋, その他軟部組織
神経由来:脊髄, 神経根, 硬膜外, 硬膜下
後腹膜臓器由来:膵臓, 腎臓, 尿管, 十二指腸
血管由来:腹部大動脈, 下大静脈, 後腹膜臓器を栄養する血管 解剖学的アプローチ
#17. ・非特異的な腰痛
・脊髄, 馬尾の圧迫
- 腰椎椎間板ヘルニア, 強直性脊椎炎
圧迫骨折, 外傷, 腫瘍, 感染症
・腫瘍の骨転移
・硬膜外膿瘍
・化膿性脊椎炎
・圧迫骨折
・神経根症
・脊柱菅狭窄症
・強直性脊椎炎
・変形性脊椎症
・脊椎側弯症, 後弯症
・心因性
・脊椎以外の由来
- 膵炎, 腎結石, 腎盂腎炎, 腹部大動脈瘤等 フレームワーク 腰痛の鑑別 Stephanie G Wheeler.Evaluation of low back pain in adults:UpToDate 他に腰痛に関連する可能性あり
梨状筋症候群
Bertolotti症候群
仙腸関節機能障害
#18. ・慢性経過をたどる化膿性脊椎炎
・腰椎転移の頻度の高い腫瘍
・渡航関連の脊椎炎
・脊椎の症状・腰背部痛を起こす膠原病 Semantic Qualifier
慢性経過をたどる化膿性脊椎炎の病原体
#19. 慢性経過をたどる化膿性脊椎炎
→virulenceの弱い病原体
細菌:CNS, Propionibacterium Acnes, streptococci etc…
Brucella spp., Salmonella spp.
抗酸菌:結核, 非結核性抗酸菌症
真菌:Cryptococcus neoformans, Blastomyces dematidis, Coccidioides
immitis, Histoplasma capsulatum, Burkhoderia pseudomallei
寄生虫:Entamoeba histolytica, Echinococcus multilocularis
ウイルス:なし
Semantic Qualifier 免疫不全ありなら真菌の鑑別は広がる
Candida spp., Aspergills spp.,Mucor spp.,
Fusarium spp., Geotrichum spp.,Scedosporium spp.
#20. 腰椎転移の頻度の高い腫瘍
- Neoplastic epidural spinal cord compression (ESCC)
- 肺癌 (25%), 前立腺癌 (16%), 多発性骨髄腫 (11%), 乳癌(7%)
- 20%はESCCが腫瘍の最初の症状 Semantic Qualifier Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;80(3):824.
QJM. 2014;107(4):277. Epub 2013 Dec 11.
#21. 渡航関連の脊椎炎
細菌:Brucella spp., Salmonella spp.
抗酸菌:結核
真菌:Cryptococcus neoformans, Blastomyces dematidis,
Coccidioides immitis, Histoplasma capsulatum,
Burkhoderia pseudomallei
寄生虫:Entamoeba histolytica, Echinococcus multilocularis
Semantic Qualifier
膠原病と腰背部痛の関連性
#22. 脊椎の症状・腰背部痛を起こす膠原病
・脊椎関節炎 (spondyloarthritis : SpA)
- 強直性脊椎炎, 乾癬性関節炎, SAPHO症候群,
反応性関節炎, 炎症性腸疾患関連脊椎関節炎,
ぶどう膜炎関連脊椎関節炎, 未分類脊椎関節炎
・びまん性特発性骨増殖症 (DISH)
・骨化性腸骨炎
・家族性地中海熱 (仙腸関節炎による腰背部痛)
・線維筋痛症, リウマチ性多発筋痛症 (腰背部の筋肉痛)
Semantic Qualifier
#23. Vascular (血管系):
Infection (感染症):
Neoplasm (新生物):
Degenerative (変性疾患):
Iatrogenic/Idiopathic/Intoxication/Inheritance (医原性/特発性/中毒/遺伝性):
Congenital (先天性):
Allergy&Autoimmune (アレルギー, 自己免疫性疾患):
Trauma (外傷性):
Endocrinopathy/Metabolic/Else (代謝内分泌疾患, その他): 病因による分類 (VINDICATE)
#24. V:腹部大動脈瘤, 大動脈解離
I:脊椎炎, 硬膜外膿瘍, 膵炎, 腎盂腎炎, 腎結石
N:腰椎転移, 脊椎腫瘍
D:なし
I:非特異的な腰痛症
C:側弯症
A:脊椎関節炎, DISH, 骨化性腸骨炎, 家族性地中海熱
線維筋痛症, リウマチ性多発筋痛症
T:圧迫骨折, 横突起・棘突起骨折, 腎損傷E:なし 病因による分類 (VINDICATE)
来院時の現症と検査所見
#25. System1直感的思考 # 結核性脊椎炎, 腸腰筋膿瘍
# 腰椎の疾患
- 感染症, 腫瘍骨転移, 脊椎の溶骨性変化, 外傷
# 膠原病
- PMR, 強直性脊椎炎, サルコイドーシス, etc...
# 非特異的な腰痛症/圧迫骨折 + α
#26. System2 分析的思考 # 化膿性脊椎炎
細菌:CNS, Streptococcus, Propionibacterium, Brucella spp., Salmonella spp. ,
Burkhoderia pseudomallei
抗酸菌:結核, 非結核性抗酸菌
真菌:Cryptococcus neoformans, Histoplasma capsulatum,
Blastomyces dematidis, Coccidioides immitis
寄生虫:Entamoeba histolytica, Echinococcus multilocularis
# 腫瘍骨転移
- 肺癌, 前立腺癌, 多発性骨髄腫 etc…
# 膠原病
- 脊椎関節炎 (SpA), びまん性特発性骨増殖症 (DISH), 骨化性腸骨炎,
家族性地中海熱, 線維筋痛症, リウマチ性多発筋痛症, サルコイドーシス
#27. 来院時現症 BP 110/60mmHg, PR 60bpm, BT 37.1℃, RR 16/min
SpO2 98%(room air)
咽頭発赤腫脹なし, 潰瘍なし, 白苔なし
左前胸部にペースメーカー植え込みあり
呼吸音清, cracklesなし, 雑音なし, gallop rhythmなし
腹部平坦軟, 肝脾腫なし, 腸蠕動音正常
頸部, 腋窩, 鼠径リンパ節腫脹なし
Janeway病変なし, Osler結節なし
胸腰椎CT所見とその解釈
#28. 来院時現症 脳神経 Ⅱ〜Ⅻ異常なし
下肢筋力低下なし, 下肢筋力 近位・遠位共にMMT 5/5
膝蓋腱反射両側で軽度低下
触覚・振動覚異常なし
馬尾症状なし, 肛門括約筋の弛緩なし
脊椎, 仙腸関節の圧痛なし
Straight-leg raising testで放散痛なし(ラセーグ徴候なし)
両側股関節の屈曲, 内旋, 外旋に異常なし
#30. 胸腰椎単純CT ・L4, L5の終板の破壊
・傍椎体の軟部組織が腫脹し
左側の椎間孔まで達する
渡航歴と感染症の関連性
#31. 胸腰椎単純CT ・L4, L5の終板の破壊
・傍椎体の軟部組織が腫脹し
左側の椎間孔まで達する
#32. 渡航歴:タイ, マレーシア, ベネズエラ, ベリーズ, ニカラグア, オーストラリア, ニュージーランド, アメリカ国内
夏はボストンに住み, 冬はアリゾナで過ごしている.
症状が出現する6ヶ月前にもアリゾナで過ごしていた.
殺菌していない乳製品は摂取していない. 追加問診
#33. # 化膿性脊椎炎
細菌:CNS, Streptococcus, Propionibacterium, Brucella spp., Salmonella spp. ,
Burkhoderia pseudomallei
抗酸菌:結核, 非結核性抗酸菌
真菌:Cryptococcus neoformans, Histoplasma capsulatum,
Blastomyces dematidis, Coccidioides immitis
寄生虫:Entamoeba histolytica, Echinococcus multilocularis
# 腫瘍骨転移
- 肺癌, 前立腺癌, 多発性骨髄腫 etc…
# 膠原病
- 脊椎関節炎 (SpA), びまん性特発性骨増殖症 (DISH), 骨化性腸骨炎,
家族性地中海熱, 線維筋痛症, リウマチ性多発筋痛症, サルコイドーシス 鑑別
化膿性脊椎炎の鑑別と経過観察
#34. # 化膿性脊椎炎
細菌:CNS, Streptococcus, Propionibacterium, Brucella spp., Salmonella spp.,
Burkhoderia pseudomallei
抗酸菌:結核, 非結核性抗酸菌
真菌:Cryptococcus neoformans, Histoplasma capsulatum,
Blastomyces dematidis, Coccidioides immitis
寄生虫:Entamoeba histolytica, Echinococcus multilocularis
# 腫瘍転移 (肺癌, 前立腺癌, 多発性骨髄腫 etc…)
# サルコイドーシス 鑑別
#35. 緊急性の高い神経症状がなく, 全身状態良好であったため, Empiricalな抗菌薬投与や侵襲的処置は行わず,
血液培養採取し, 培養で同定できなければ穿刺予定とした.
HIVスクリーニング検査陰性
血液培養陰性, PSA, ACE正常範囲内
CXRでは石灰化した複数の縦隔・肺門部リンパ節あり
CTでも同様のリンパ節, 右上葉に実質性の瘢痕, 微量の胸水 経過
#36. 胸部単純CT 石灰化した複数の
縦隔・肺門部リンパ節
石灰化したリンパ節の原因と鑑別
#37. Semantic Qualifier 石灰化した複数の縦隔・肺門部リンパ節
#38. 石灰化した複数の縦隔・肺門部リンパ節 Semantic Qualifier Common causes
・感染性の肉芽腫性疾患
結核, ヒストプラズマ症,
コクシジオイデス症
・サルコイドーシス
・珪肺症
・治療後のリンパ腫
Uncommon causes
・PCP
・腫瘍転移
甲状腺癌 (乳頭癌, 髄様癌)
卵巣粘液嚢胞性癌, 大腸粘液癌
骨肉腫
気管支カルチノイド腫瘍
・アミロイドーシス
・強皮症
・キャッスルマン病
#39. 石灰化した複数の縦隔・肺門部リンパ節 Semantic Qualifier Common causes
・感染性の肉芽腫性疾患
結核, ヒストプラズマ症,
コクシジオイデス症
・サルコイドーシス
・珪肺症
・治療後のリンパ腫
Uncommon causes
・PCP
・腫瘍転移
甲状腺癌 (乳頭癌, 髄様癌)
卵巣粘液嚢胞性癌, 大腸粘液癌
骨肉腫
気管支カルチノイド腫瘍
・アミロイドーシス
・強皮症
・キャッスルマン病
最終診断と治療方針の決定
#40. # 化膿性脊椎炎
- 結核, Histoplasma capsulatum, Coccidioides immitis
# 腫瘍転移
- 肺癌, 前立腺癌, 多発性骨髄腫, 甲状腺癌, 骨肉腫,
気管支カルチノイド腫瘍 etc...
# サルコイドーシス 鑑別
#41. 脊椎全体に広がる椎体の変性が特徴
今回は連続した2椎体の変性 脊椎サルコイドーシス
#42. # 化膿性脊椎炎
- 結核, Histoplasma capsulatum, Coccidioides immitis
# 腫瘍転移
- 肺癌, 前立腺癌, 多発性骨髄腫, 甲状腺癌, 骨肉腫,
気管支カルチノイド腫瘍 etc... 鑑別
コクシジオイデス症の病態とリスク要因
#43. ツベルクリン反応陰性
尿Histoplasma capsulatum抗原陰性
抗菌薬は使用せず, CTガイド下にL4-5椎間板生検を実施.
椎間板, 椎骨の穿刺検体の培養, 病理を提出.
→塗抹では細菌, 真菌, 抗酸菌は認めず.
椎骨検体の結核 PCR陰性.
病理結果, 培養の結果を待つことに. 経過
#44. 病理 椎間板の生検標本
巨細胞, 形質細胞を伴う炎症性の慢性肉芽腫, 腐骨.
真菌染色で直径15-25μmの丸くて厚みのある非芽胞性真菌を認めた。
#45. 真菌培養
酵母様真菌が発育し, Coccidioides immitisと同定
コクシジオイデス抗体は陽性
補体結合抗体は1 : 64 組織培養
#47. アムホテリシンによる点滴治療を拒否したため,
イトラコナゾール経口での治療を開始.
副作用が出現したため, 高用量フルコナゾールに変更.
半年後に合併症の進行があり治療を中止し, ホスピスで亡くなった. 経過
#48. ・土壌中のCoccidioides immitisを吸い込むことで感染
・7-21日の潜伏期の後に, 発熱, 頭痛, 発疹, 筋肉痛,
体重減少, 倦怠感や乾いた咳など様々な症状が出現
→ウイルス性上気道炎に類似
・血行転移までが早く, 数週から数ヶ月で肺外症状が出現
長い場合は1-2年. コクシジオイデス症
#49. ・肺コクシジオイデス症の0.5%で播種性となり,約半数が死亡
・肺外症状の好発部位は, 皮膚, 皮下軟部組織, 関節, 椎体
・急性は髄膜炎となることが多い.
・カルフォルニア州やアリゾナ州への海外渡航歴はリスク
他にテキサス, ネバダ, ユタ州, メキシコ西部,
アルゼンチン パンパ地域, ベネズエラ ファルコン州
・本邦で渡航歴がない症例では, 綿花を扱う工場の勤務歴あり コクシジオイデス症
#50. ・病態の解釈で感染性を挙げる場合は, ウイルス, 細菌,
抗酸菌, 真菌, 寄生虫に分けて細かく鑑別を挙げる
→鑑別の解像度を上げる作業
・膠原病など他の疾患についても同様
・コクシジオイデス症のリスクとなる地域を知っていれば
初期から鑑別の上位に挙げられる(綿花工場も忘れずに) Take home message