#4.
導⼊ 症例 解説 ⾮定型肺炎について 市中肺炎 ⾮定型病原体 基礎疾患を有しない, あるいは有しても軽微な基礎疾患 頑固な乾性咳嗽や末梢⾎⽩⾎球数 の⼈が普段の社会⽣活のなかで発症した肺炎で, 最近の 増多のない場合に⾮定型病原体に ⼊院歴がなく, 介護や⾎液透析などの継続的な医療⾏為 よる肺炎を疑う. 画像所⾒に⽐し を受けていない⼈に発症した肺炎のこと. て聴診所⾒に乏しい. 市中肺炎と診断したらA-DROPやPneumonia Severity ⾮定型肺炎には, マイコプラズマ Index(PSI) などで重症度評価をおこない治療の場を決定 肺炎, レジオネラ肺炎, クラミジ する. ア肺炎が含まれる. ⾮定型病原体の関与していることも多く要注意. ⽮崎義雄,新臨床内科学第10版.医学書院.2020. p110-1.
#5.
導⼊ 症例:73歳 男性 確定診断名(主な病名および副病名) 1. ⾮定型肺炎 (マイコプラズマ) 2. うっ⾎性⼼不全 【主訴】 発熱, 息切れ, 動悸, 咳嗽 【現病歴】 慢性⼼房細動, うっ⾎性⼼不全に対し当院循環器内科外来でフォロー中で あった. 約5⽇前より発熱, 咳嗽, 動悸症状が強くなり, 2⽇前より労作時息切 れ, 四肢浮腫が出現した. 症状の増悪があり, 当院救急外来を受診された. 受 診時の胸部X線と理学所⾒から急性肺炎と⼼不全増悪と診断し, 同⽇循環器 内科に⼊院とした. 【既往歴】 19歳:肺結核, 62歳:うっ⾎性⼼不全, 65歳:⼼房細動 【内服歴】 フロセミド10mg分1, リクシアナ30mg分1, ニフェジピン40mg分2, ビソプロロール10mg分2 【家族歴】 ⼼疾患の家族歴なし 【⽣活歴】 喫煙:なし, 飲酒:なし 症例 解説
#6.
導⼊ 症例 主な⼊院時現症 意識 ⾝⻑・体重 体温 ⾎圧・脈拍 清明(JCS-0) 170.0 cm, 60.4 kg 38.0 ℃ 213/103 mmHg, 80 /分 (不整) SpO2・呼吸数 97% (酸素5L/分), 24 /分 結膜 眼瞼結膜に貧⾎なし, 眼球結膜に⻩疸なし ⼝腔内 特記すべき異常なし 甲状腺 腫⼤なし 頸静脈 怒張なし 胸部 右中下肺野に⽔泡⾳を聴取する, ⼼雑⾳や過剰⼼⾳を認めない 腹部 軟・平坦で圧痛なし, 腸雑⾳に特記すべき異常を認めない, 肝脾腫を触知しない 四肢 両下腿に圧痕性浮腫を認める 解説
#7.
導⼊ 症例 ⾎液検査成績 ⾎算・凝固 WBC: ⽣化学 9,400 /μL TP: 6.4 g/dL Cl: 105 mEq/L Neut: 83.8 % Alb: 4.1 g/dL CRP: 5.1 mg/dL Ly: 9.7 % AST: 19 IU/L FT3: 2.1 ng/dL Mo: 3.6 % ALT: 12 IU/L FT4: 1.4 ng/dL Eo: 2.8 % γ-GTP: 17 IU/L TSH: 1.13 μIU/mL Baso: 0.1 % LDH: 185 IU/L TropT: Negative RBC: 429万 /μL ALP: 199 IU/L H-HABP: Negative Hb: 13.9 g/dL T-chol: 139 mg/dL BNP: 380 Ht: 41.9 % LDL-chol: 82 mg/dL Plt: 13.8万 /μL BUN 18.2 mg/dL PT: 16.3 sec Cr 1.1 mg/dL PT-INR: 1.32 Na 138 mEq/L K 4.0 mEq/L pg/mL 解説
#8.
導⼊ その他の検査成績 動脈⾎液ガス(酸素 5L/分) 感染症関連検査 pH: 7.367 ⾎液培養(2セット): Negative PaO2: 116.9 mmHg 喀痰細菌培養: Negative PaCO2: 45.2 mmHg 喀痰抗酸菌培養: Negative HCO3-: 25.2 mmol/L 尿培養: Negative Lac: 1.2 mmol/L M.pneumoniae (CF): 64倍 C.pneumoniae (ELISA) 尿中レジオネラ抗原: IgG: Negative IgA: Negative Negative 症例 解説
#9.
導⼊ 症例 解説 画像検査所⾒ 胸部レントゲン ⼼胸郭⽐:56%, 肋横隔膜⾓:鋭, 右中下肺野および左肺に浸潤影を認める 胸部単純CT 右中下葉を主体に浸潤影を認める ほか両肺に散在性の粒状〜結節影, 浸潤影を認める 右下葉で分泌物が気管⽀内腔に充填している 画像出典: Bonagiri P, Cureus 12(7): e8955. (Licensed under CC BY 4.0)
#10.
導⼊ 症例 治療経過 1 #1. ⾮定型肺炎 • 頑固な咳嗽を有する市中肺炎で, 膿性痰の⽋如, 喀痰グラム染⾊陰性, 末梢⾎⽩⾎球数<1万 /μLという特徴か ら⾮定型肺炎を疑った. 胸部単純CTで両側性に複数の肺葉にまたがる陰影も⾮定型肺炎を⽰唆すると考えた. • ⼀⽅で, ⾼齢かつ慢性⼼不全の基礎疾患を有することから細菌性肺炎合併の可能性があった. • よって, セフトリアキソン2gとアジスロマイシン500mgを⽤いて治療を開始した. • 抗⽣剤開始後に速やかに解熱し, 咳嗽は経時的に軽快していった. 酸素投与に関しては, ⼊院当初はハイフロー ネーザルカヌラ30L/分 40%を要したが, 第7病⽇に終了した. • ⼊院後に判明した⾎液検査から, M.pneumoniaeと診断した. また最終的には喀痰培養の結果からは細菌性肺 炎を合併している可能性は低いと判断した. • アジスロマイシンは合計4⽇間投与, セフトリアキソンは合計10⽇間投与をおこなった. 軽度に咳嗽は残存し たが, 全⾝状態は改善しており第14病⽇に独歩退院した. 解説
#11.
導⼊ 症例 治療経過 2 #2. うっ⾎性⼼不全 • ⼊院時に⾼⾎圧, 呼吸困難, 発熱を認め, 慢性⼼房細動をベースに感染を契機とした慢性⼼不全の急性増悪を考 慮した. ⼊院時の⾎圧は213/103 mmHgと異常⾼値を認めており, ニトログリセリンの持続静注および内服 困難時のフロセミド5mg静注で治療を開始した. 内服可能時は, 可能な限り⼊院前からの内服を継続した. • ニトログリセリン投与後は⾎圧130/70 mmHg程度で安定し, 第8病⽇に漸減・中⽌した. 投与終了後も同⽔準 で⾎圧は安定していた. • ⼊院時は NewYork Heart Association functional classification (NYHA分類) にしてⅣ度相当の症状を呈し ていたが, 肺炎および⼼不全の治療を経て, 退院時にはベースラインと同様のNYHA分類 Ⅰ度まで改善した. 解説
#12.
導⼊ 症例 臨床経過 アジスロマイシン セフトリアキソン 70 60 38.5 CRP 6.6 体温 38.0 38 50 40WBC 37.5 9400 37 WBC 5300 体温 36.3 30 36.5 20 CRP 1.0 酸素投与 10 36 35.5 咳嗽 0 35 0 2 4 6 8 10 12 14 解説
#13.
導⼊ 症例 解説 市中肺炎における細菌性肺炎と⾮定型肺炎の鑑別 1. 年齢 60歳未満 2. 基礎疾患がない, あるいは軽微 3. 頑固な咳がある \内科専⾨医が補⾜∕内科専⾨医試験こぼれ話 l マイコプラズマ肺炎の好発年齢は5〜25歳 l 頑固な乾性咳嗽が特徴 l ⽩⾎球数が約50%の症例で正常 4. 胸部聴診上, 所⾒が乏しい 5. 痰がない, あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない 6. 末梢⾎⽩⾎球数が10,000 /μL未満である 1〜5の5項⽬中, 3項⽬以上陽性のとき: ⾮定型肺炎疑い 感度83.9 特異度87 1〜6の6項⽬中, 4項⽬以上陽性のとき: ⾮定型肺炎疑い 感度77.9 特異度93 ⽇本呼吸器学会,成⼈肺炎診療ガイドライン2017.p13.より改変
#14.
導⼊ 症例 解説 マイコプラズマ感染症 症状 \内科専⾨医が補⾜∕内科専⾨医試験こぼれ話 発熱, 全⾝倦怠感, 頭痛などから発症することが多い. 咳嗽は3〜5⽇経過して始まることが多く, 3〜4週間遷延する. l ⽪膚紅斑が画像問題として出題歴あり l 特にスティーブンスジョンソン症候群とギ ランバレー症候群は要チェック 5〜10%に多彩な肺外病変をきたすこと特徴である. 肺外病変の例 造⾎器系 ⾃⼰免疫性溶⾎性貧⾎, ⾎球貪⾷症候群, ⾎栓性紫斑病, 伝染性単核球症 ⽪膚・粘膜 多形性紅斑, 蕁⿇疹, アナフィラクトイド紫斑, スティーブンスジョンソン症候群 中枢神経系 脳炎, 脊髄炎, 無菌性髄膜炎, ⼩脳障害, 末梢神経炎, ギランバレー症候群 ⼼⾎管系 ⼼外膜炎, ⼼内膜炎, ⼼筋炎, ⾎栓症 その他 肝炎, 膵炎, ⽷球体腎炎, 中⽿炎, 結膜炎, ぶどう膜炎, 横紋筋融解症など ⽮崎義雄,新臨床内科学第10版.医学書院.2020. p110-1.
#15.
導⼊ 症例 解説 マイコプラズマ感染症 \内科専⾨医が補⾜∕内科専⾨医試験こぼれ話 l 微⽣物学的検査 発症1-2週間後, 約50%の患者で寒冷凝集素 価が上昇 (ただし⾮特異的な所⾒) 臨床では⾎清学的診断(CF法, PA法, ELISA法など)が⽤いられることが多い. ペア⾎清で有意な上昇(≧4倍)で診断でき, 単⼀⾎清が⾼値(CF法≧64倍, PA法≧320倍)でも診断できる. 迅速診断として, 抗原検査やPCR検査(FilmArray®など)が普及してきている. 治療 アジスロマイシン 500mg ×3~4⽇間 \内科専⾨医が補⾜∕内科専⾨医試験こぼれ話 l テトラサイクリン系抗⽣剤に要注意 l 8歳未満の⼩児では⻭⽛変⾊リスク (禁忌) l 妊婦で催奇形リスク (禁忌) ミノサイクリン 100mg 1⽇2回 ×7⽇間 ドキシサイクリン 100mg 1⽇2回 ×7⽇間 など (臨床経過によって⽤量・期間を調節) ※ペニシリンやβラクタムは無効 [1]⽮崎義雄,新臨床内科学第10版.医学書院.2020. p110-1. [2]DN Gilbert. Sanford Guide, App Version 6.3.1.(2023.6.27閲覧) [3]国⽴感染症研究所.マイコプラズマ肺炎とは. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html (2023.6.27閲覧)
#16.
導⼊ 症例 本症例のポイント • 本症例は, 市中肺炎の症例である. 肺炎診療ガイドライン2017における「市中肺炎における細菌 性肺炎と⾮定型肺炎の鑑別」のスコアリングでは⾮定型肺炎よりも細菌性肺炎が疑われた. • しかし同スコアリングの感度は83.9-77.9%であることから⾮定型肺炎を否定することは難しく, その他臨床兆候と併せて総合的に判断し, 細菌性肺炎に加えて⾮定型肺炎をカバーした. • CF法(補体結合反応)による⾎清学的検査でマイコプラズマ肺炎と診断した. マイコプラズマ肺炎 は⼩児および若年成⼈を中⼼に発⽣するが, ⾼齢者にも認められることがあり, 鑑別に加える必要 がある. 解説
#17.
導⼊ Take Home Message 市中肺炎では, ⾮定型病原体の関与を考慮しよう ⾮定型病原体と細菌の区別はスコアリングを参考にできる (成⼈肺炎診療ガイドライン2017) ⾮定型肺炎はスコア単独では否定が難しいことがあり, 臨床的に疑ったら 微⽣物学的検査(⾎清学的検査やPCRなど)を提出し積極的にカバーしよう 症例 解説