テキスト全文
敗血症/敗血症性ショックの基本目標
#1. 研修医/コメディカルに知ってほしい~敗血症/敗血症性ショック~ レクチャー動画
あります
#2. 本日の目標 2
敗血症/敗血症性ショックの
①診断できるようになる
②初療ができるようになる
症例紹介と既往歴の確認
#3. 症例:86歳男性 3 発熱、意識障害 【主訴】 20XX年9月15日朝に38度台の発熱あったが、自宅で様子を見ていた。
排尿時痛の訴えあった。
16日、発熱が持続するため前医を受診し、解熱剤を処方された。
帰宅途中の車内で気分不良、シバリングが出現し、体動困難となったために救急搬送となった。
【現病歴】
#4. 脳梗塞
腎盂腎炎(半年前)
慢性心不全
脂質異常症
4 【既往歴】 ランソプラゾール
シロスタゾール
プラバスタチン
アゼルニジピン
フロセミド
クエンメット 【内服薬】
来院時のバイタルサインとショックの原因
#5. 5 体温:39.4℃、HR:137回/分、BP:78/52mmHg、RR:30回/分、SpO2:89%(RA) 【来院時バイタル】 GCS:E4V3M5
頭部:眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし、頸部リンパ節腫脹なし
呼吸音:清、crackleなし
心音:整、心雑音なし
腹部:平坦、軟、左>右のCVA叩打痛あり
四肢:浮腫なし、末梢冷感あり、CRT 4秒、両下肢に網状皮斑あり
【身体所見】
#6. 6 ショックの原因は?? ショックの診断についてはショックの講義を復習しましょう!
#7. 7 ショックの原因は?? ショックの診断についてはショックの講義を復習しましょう! 敗血症っぽい!! ですよね・・・??
敗血症の定義と診断基準
#8. 敗血症の定義 1991年 Sepsis-1
2001年 Sepsis-2
2016年 Sepsis-3
「感染に対する制御不能な宿主生体反応に起因した、
生命を脅かすような臓器障害」
【診断基準】感染症(疑い)+ SOFAスコアが2点以上の増加
8 Sepsis-3
#9. 敗血症性ショック 敗血症の診断があり以下を満たす
30ml/kgの晶質液を投与後に
①MAP≧65mmHgを維持するために血管作動薬が必要
②血中乳酸値>2mmol/L(18mg/dL) 9
#10. 敗血症診断の流れ 10 日本版敗血症診療ガイドライン 2020
qSOFAスコアと敗血症のスクリーニング
#11. qSOFA 11 qSOFAが2点未満でも
敗血症は除外できない!! qSOFAは敗血症のスクリーニング検査としては不適
qSOFAが2点以上の患者で70%は重症
→重症化リスクの指標にはなるかもしれない
SSCG2021
#12. 敗血症診断の流れ 12 日本版敗血症診療ガイドライン 2020 必須ではない
#13. qSOFAより優れたスクリーニングはあるのか?
どのようなときに敗血症を疑うのか?
13 敗血症をどうスクリーニングしていくか
#14. 敗血症のスクリーニング 14 単一のスクリーニングとしてはどれも完全ではない qSOFA, SIRS, NEWSなど感度は50-80%程度
バイタル、全身状態がわるければ敗血症の可能性がある
1つの評価項目や値にとらわれずに判断する
疑わしければ再評価を経時的に行う
qSOFA以外のスクリーニング SSCG2021
症例に基づく身体所見と採血結果
#16. 体温:39.4℃、HR:137回/分、BP:78/52mmHg、RR:30回/分、SpO2:89%(RA) 【来院時バイタル】 GCS:E4V3M5
頭部:眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし、頸部リンパ節腫脹なし
呼吸音:清、crackleなし
心音:整、心雑音なし
腹部:平坦、軟、左>右のCVA叩打痛あり
四肢:浮腫なし、末梢冷感なし、CRT 4秒、両下肢に網状皮斑あり
【身体所見】
#17. 17 体温:39.4℃、HR:137回/分、BP:78/52mmHg、RR:30回/分、SpO2:89%(RA) 【来院時バイタル】 GCS:E4V3M5
頭部:眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし、頸部リンパ節腫脹なし
呼吸音:清、crackleなし
心音:整、心雑音なし
腹部:平坦、軟、左>右のCVA叩打痛あり
四肢:浮腫なし、末梢冷感なし、CRT 4秒、両下肢に網状皮斑あり
【身体所見】 ショック状態で感染症もありそう。
敗血症なんじゃない???
敗血症の診断基準と治療介入の重要性
#21. 21 SOFAスコア2点以上だし、さては敗血症だな!
敗血症の治療始めるか~!
#22. 22 SOFAスコア2点以上だし、さては敗血症だな!
敗血症の治療始めるか~!
#23. 敗血症は内科エマージェンシー 23 治療介入の遅れが死亡率を上昇させる N Engl Med.2017 Jun 8; 376(23):2235-2244 3時間バンドル完遂までの時間 死亡率 死亡率 抗菌薬投与までの時間 かもしれない
#24. すべての血液検査結果がそろうまで少なくとも30分はかかる
採血結果をみる → 敗血症覚知 → 介入開始では 遅い!
24 【敗血症の診断基準】
感染症(疑い)+ SOFAスコアが2点以上の増加 しかし 採血結果を待つ時間はない
身体所見から判断し治療介入を開始する
臨床では
敗血症治療の3本柱と具体的な流れ
#25. 敗血症治療の3本柱
25 ①感染源の同定と治療
②血行動態の維持 ③予防・補助的治療
#26. 敗血症治療の3本柱
26 ①感染源の同定と治療
②血行動態の維持 ③予防・補助的治療 並行して行う
#29. 29 感染源の特定・治療 1時間! 6時間!
#30. 具体的にイメージしてみてください 30 あなたは3年目の後期研修医です。
あなたの他にいるのは1年目研修医と看護師1人です。 1時間 Time Zero 患者到着から抗菌薬投与、ドレナージまでの診療・検査の流れを時間軸を意識して話し合ってみましょう! 6時間
感染源の特定と治療のタイミング
#31. 31 感染源の特定・治療 1時間! 6時間!
#32. 感染源の検索 32 必要に応じて各種培養を提出する
検体採取のために抗菌薬投与を遅らせてはならない
ただし血液培養2セットだけは必ずとる! 血液 尿 喀痰 便 髄液 抗菌薬投与前に各種培養を提出する
などなど
#33. 33 感染源の特定・治療 1時間! 6時間!
#34. 抗菌薬投与のタイミング 34 ショックが存在する ショックが存在しない 敗血症の
可能性がある 敗血症が確信的
Or
可能性が高い 抗菌薬を1時間以内に速やかに投与する 抗菌薬を1時間以内に
速やかに投与する ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- ---------------------------------------
感染症の有無の評価を速やかに行う 感染症の関与が考えられる場合は3時間以内に抗菌薬を投与する SSCG2021より
#35. 抗菌薬の選択
* 35 詳しくは感染症の講義をお楽しみに Empiric theraphyを
「想定された菌をすべてカバーし、かつ最も狭域の抗菌薬」
#36. 36 感染源の特定・治療 1時間! 6時間!
#37. ドレナージして悪い膿瘍はない!
必要ならコンサルトを早急に!
37 ドレナージ デブリドマン 縦隔炎
膿胸
腹腔内膿瘍
急性胆管炎・胆嚢炎閉塞性腎盂腎炎
化膿性脊椎炎など 壊死性筋膜炎
感染性膵壊死など
デバイス抜去 カテーテル関連
・血流感染症
・尿路感染症
汚染物質の除去 穿孔性腹膜炎 感染源コントロールが適応となる病態 治療介入を速やかにおこなう
ルート抜去やデバイスの抜去、
穿刺など簡便に行えるものはすぐに行う
#38. 38 Time Zero 1hr 20分 30分 6hr
血行動態の維持と循環作動薬の使用
#42. 敗血症ではなぜショックになる?
血圧 = 心拍出量 × 体血管抵抗
有効循環血漿量減少が減少するため組織の低灌流が起きる 42
#43. 乳酸値の測定
乳酸:低灌流を反映して上昇し、死亡率と相関する
最初の乳酸値が2mmol/L以上(18mg/dL)患者では再検する(2時間後)
乳酸が十分に低下しているのを確認するまで採血を行う(6時間毎測定)
43
#44. 低灌流or乳酸≧2mmol/Lにはまずは輸液を 44
リンゲル液を30ml/kg 全開で投与開始
末梢ルートは20G以上の太さで、2本確保する
#45. 膠質液 アルブミンの併用は大量輸液の際に考慮してよい
アルブミンを併用してもしても死亡率に差はなかった¹⁾
HESは推奨されない
HESの使用で腎代替療法や死亡リスクが上昇する²⁾
1)Martin GS、 et、al、 J Crit Care 50:144–154
2)Rochwerg B、 et. Ann Intern Med 161(5):347–355 45
ノルアドレナリンの使用と投与方法
#47. 循環作動薬 47 α作用 β作用 血管収縮 フェニレフリン ノルアドレナリン 心拍数↑
心筋収縮↑ アドレナリン ドブタミン
#48. 循環作動薬 48 *すでにショックを起こしている患者に強心薬(ドブタミン)を単独では使用しない
#49. 血管作動薬 初期輸液中もしくは初期輸液後、MAP≧65mmHgを保てない場合
ノルアドレナリンを開始する
ノルアドレナリン:0.25γ-0.5γ
日本では0.05γ~0.1γから開始することが多い
49 1mg/1ml製剤
#51. ノルアドレナリンvsドパミン 51
ドパミンよりノルアドレナリンの使用を推奨する
敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンを使用したほうが
死亡率が低く、不整脈の発生率も低かった
有害事象 不整脈 ノルアドの方がよい ノルアドの方がよい
#52. *そのほかの循環作動薬は基本的に推奨されない そのほかの循環作動薬 52 併用もしくは変更が検討されるとき
#53. 53 カテコラミン投与したいけど
そんなすぐにはCVとれないよ~~!
#54. 末梢からの循環作動薬投与 押し用の補液もオーダーする(生食を10ml/hくらいで流しておく)
循環作動薬用の単独ルートをつくる(できれば20G以上で)
末梢からの投与期間はなるべく短くする(24-48時間以内で合併症は少ない)
肘静脈もしくはそれより中枢側のなるべく太い血管を選ぶ
血管外漏出のリスクを必ず説明する
54 末梢から循環作動薬を行く注意点 CVがすぐにとれない場合には末梢から循環作動薬を投与する
#55. ノルアドレナリンの組成 55 末梢から行く場合は薄めでもいいかも
ノルアド抵抗性の敗血症性ショックへの対応
#57. ①末梢2本からラクテック全開投与
②反応が悪ければノルアドを開始
*ルートの1つをノルアド専用ルートにする
57
#58. ①末梢2本からラクテック全開投与
②反応が悪ければノルアドを開始
*ルートの1つをノルアド専用ルートにする
③初期輸液が終わったら輸液速度を調整
*80~100ml/hで。あとはノルアドで調整
58
#59. ①末梢2本からラクテック全開投与
②反応が悪ければノルアドを開始
*ルートの1つをノルアド専用ルートにする
③初期輸液が終わったら輸液速度を調整
*80~100ml/hで。あとはノルアドで調整
④血圧が安定しなければ
ノルアド抵抗性の敗血症性ショックとして対応
ほかのショックも鑑別に
59
#60. ノルアドでは血圧が保てない場合 ノルアドレナリンの増量よりバソプレシンの併用が推奨
バソプレシン(ピトレシン):0.01単位から0.03単位/分
ピトレシン2A(40単位)+ 生食38mlで1ml/時=1単位/mL
⇒0.6ml/時で0.01単位/分
*日本だとノルアドレナリンの開始量が少ないので0.25γ-0.5γに到達した時点で追加を考慮
*実際には0.01単位/分から0.03単位/分の間で始める
60
#61. 循環作動薬 まとめ 61 敗血症にはまずノルアドレナリン! 心拍出量が
少ない場合 バソプレシン
併用下で目標MAPに
届かないとき ほかの
循環作動薬 推奨されない
ドパミンも使わない アドレナリンまたは
ドブタミンを
併用することがある アドレナリンの
併用を考慮 ノルアドレナリン以外が考慮されるとき
#62. 敗血症性ショックで
ノルアドレナリンが0.2-0.3γ
それでも血圧が保てない!
バソプレシンやアドレナリンか?! その前に。。。
#63. ノルアド抵抗性の敗血症性ショック 感染源のコントロールはできているか?
・抗菌薬のスペクトラムはあっているか
・投与量は正しいか
・ドレナージの必要はないか
輸液はたりているか?
・輸液反応性をチェック
別の原因がかくれていないか?
・心筋症
・CIRCI(Critical illness-related corticosteroid insufficiency)
・アシデミア 63 みんほす!的
3つのポイント
敗血症の予防・補助的治療と重要なメッセージ
#65. ステロイドの投与 高容量の循環作動薬を必要とする場合にはステロイドの投与を推奨
アドレナリンもしくはノルアドレナリン≧0.25γを4時間以上使用した患者で考慮
ヒドロコルチゾン
50mg q6h(30分かけて) or 200mg/day持続静注
*5-7日で漸減または中止を検討する
敗血症の死亡率を改善するエビデンスはないが、早期にショックを離脱できる
可能性がある
65
#66. 66
Time Zero 2hr 1-3hr 10分 40分-60分
#67. 67 ABCと簡単な病歴の確認 ルート確保
一般採血(Lac含めて) 30ml/kgの輸液開始
感染源検索
1.各種培養提出
抗菌薬オーダー・投与 循環動態の評価 必要に応じて昇圧薬の開始 必要あればドレナージ ステロイドの開始 ここまでで
1時間! A・Bに異常があれば
・気道確保
・酸素投与
を必要に応じて 画像検査 血液培養も一緒に取ると早い 乳酸の再検 ここまでで
1-3時間!
#69. DVT予防 出血リスクがなければDVT予防(抗凝固療法)を行う
低分子ヘパリン(LMWH)が未分化ヘパリン(UFH)よりもよい
*日本ではLMWHの適応なし
フットポンプ、弾性ストッキング単独では明確なエビデンスに乏しい
処方例
ヘパリンカルシウム 皮下注 5000単位を12時間ごと
クレキサン 皮下注 0.2mlを12時間ごと
ヘパリン 持続静注 5000単位より開始(APTT40-80を目標に)
69
#70. DVT予防 出血リスク
70 Padua Prediction Score
#71. DVT予防 出血リスク
71 Padua Prediction Score 実際にはVTEのリスクと出血のリスクを
天秤にかけて症例毎に必要性を検討する
#72. ストレス潰瘍予防 リスク因子を持つ患者に投与する
例)ヘパリン使用、抗血栓薬の使用、潰瘍の既往など
処方例
ファモチジン(ガスター®)静注 20mg 12時間ごと
オメプラゾール(オメプラゾール®)静注 20mg 24時間ごと
*ファモチジンは胃酸分泌耐性が生じる
*24時間以上の人工呼吸器管理を必要とする患者においては
院内肺炎やCD腸炎の発症率が高かったともいわれる 72
#73. 栄養 可能な限り早期に経腸栄養を開始する
早期に開始(72時間以内)した症例とそうでない患者で予後に差はない
有害事象もないことから72時間以内の開始が弱く推奨される
*基本的に使える腸は使う!
急性期では過剰な栄養投与はかえってよくない
*目標カロリーの半分くらいからスタートする
TPNの併用もいいかもしれない 73 詳しくは
栄養の講義で
#74. 血糖コントロール 血糖>180mg/dLでインスリン開始を検討する
目標:144-180mg/dL
急性期は1-2時間おきの血糖測定
安定すれば4時間ごとの測定に変更(SSCG2016)
*高血糖は感染を惹起するだけでなく、血管内皮細胞障害や好中球の機能低下を引き起こす
*インスリンは持続で開始し、状態の改善や食事の開始に伴い定時打ちに変更する
74
#75. Take home message 敗血症の”正確な”診断基準を知ろう
そのうえで”早期に”敗血症と判断ができるようになろう
敗血症の治療は
2つの軸と時間を意識