テキスト全文
体温管理療法(TTM)の概要と適応
#2. 目次 1.TTMとは?適応と総論
2.TTMの具体的な流れ
3.TTM中の管理
#3. 目次 1.TTMとは?適応と総論
2.TTMの具体的な流れ
3.TTM中の管理
心停止蘇生後のTTMの流れと管理
#4. 院外心停止症例の神経学的予後
引用) Kitamura T et al. Circulation2012;126:2834-43. 発症1ヶ月後に高次脳機能が保たれた症例
●目撃なし院外心停止(OHCA)…2.8%
●目撃あり院外心停止(OHCA)…4.3%
#5. 心停止蘇生後の体温管理療法(TTM)
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●神経学的予後の改善を目指してOHCA蘇生後に
患者の体温を管理する治療法
#6. 心停止蘇生後の体温管理療法(TTM)
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●ROSC(Return of Spontaneous Circulation)後に
深部体温32-36度に少なくとも24時間保つことが推奨
●TTMは非施行群に比較して有意に転帰が改善
N Engl J Med:2002;346;549-63
#7. 心停止蘇生後の体温管理療法(TTM)
引用) 2020アメリカ心臓協会 CPRおよびECCのガイドライン 心停止後にROSCが認められた昏睡状態にある
すべての成人患者に対し、32-36℃から目標体温を選び
その体温に達したら少なくとも24時間以上維持する
TTMを施行するべき
#8. ROSCって聞き馴染みはあるけれど…なんの略??
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●ROSC(Return of Spontaneous Circulation)の略!
●心停止から脈を触れるようになること
【ROSCの判断】
・2分おきのリズムチェックの際に脈が触れること
✕胸骨圧迫中に体動を認める➡Asysのことも…
#9. 体温管理療法の目的と適応
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●脳保護・頭蓋内圧管理
●体温1℃↓:脳代謝67%減少
※脳酸素消費量とATP消費を軽減 【適応 】
ROSC後昏睡・頭部外傷後(脳圧管理)
※昏睡の定義:GCS≦8かつE1 V1-2 M≦5
#10. TTMの適応基準と除外基準まとめ
引用) PCPS・ECMOバイブル
TTMの具体的な手法と質の向上
#11. 目次 1.TTMとは?適応と総論
2.TTMの具体的な流れ
3.TTM中の管理
#12. 33℃
24時間
冷却水
直腸プローベ 33℃
48時間
血管内冷却
深部体温プローベ 37℃
24時間
氷嚢
腋窩プローベ 33℃
24時間
ブランケット
食道プローベ 36℃
24時間
表層冷却
膀胱プローベ TTMと一括に言っても多種多様…
引用) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6
#13. 緩徐な導入
変動が多い
復温のコントロール不良 目標体温なし 間欠的な
末梢の体温測定 シバリングコントロールなし 発熱のコントロールなし 氷嚢や冷却水による冷却
#14. シバリングに対するモニタリングとマネジメント 体温フィードバック機器 目標体温を設定 急速導入
変動が少ない
緩徐な復温 表層または血管内からの冷却 継続的に深部体温を測定 発熱のコントロール
#15. High Quality TTM
引用) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6 ●TTMはプロトコル(手技)やデバイスが施設ごとに異なる
●この”バラツキ”によりTTMの質↓
●TTMの有効性を高め、標準化することを目的として提唱 このスライド以降の各論は
当論文+JRC2020GL+AHA2020GL
それぞれを参考に作成
TTMの維持と復温に関するガイドライン
#16. 冷却後 導入 冷却期 方法 High Quality TTMの4要素
引用) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6
#17. TTMの流れ
参考) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) 合計実施時間36-48時間が
最も標準的でありエビデンスが豊富 輸血 導入 維持 復温
#18. TTMの導入
参考) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) 導入 維持 ●ROSC後早期であればあるほど有効
●導入が1時間遅延毎➡死亡率が20%↑
●6時間以上経過➡神経保護作用・生存率↓↓
【注意すべき点 】
●シバリング
●代謝の低下(特に肝代謝の薬効が遷延する)
●輸液による病院前・CPR中の冷却は非推奨
➡心再停止や肺水腫を起こしやすい
#19. CQ:OHCA蘇生後の至適体温は?
参考) Intensivist Vol13 No.1 2021 ●36℃ vs 33℃
180日後の死亡率および神経学的予後に有意差なし
N Engl J Med2013 ;369:2197-206.
●37℃ vs 33℃ (ショック非適応症例)
生存率・神経学的予後ともに33℃の方が良い結果
N Engl J Med 2019:381 :2327-37
●OHCA蘇生後の発熱は必発で、予後不良に関連
Arch lntern Med 2001 ; 161 : 2007-12 ●ショック非適応+ROSCまで時間を要した…34℃前後
●ショック適応+比較的早期にROSC…35-36℃台
#20. CQ:OHCA蘇生後の至適体温は?
参考) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6 ●2013年のTTM trialでは33℃または36℃で施行
●患者によって、どちらか有益であるかまだ不明… 36℃→出血や感染などの有害事象のリスクが高い患者
33℃→痙攣、脳浮腫など神経学的損傷のリスクが高い患者
#21. TTMの維持
参考) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) 導入 維持 ●TTM維持期間は24時間以上
●測定部位は膀胱・食道・血管内
非推奨…腋窩・耳・直腸(←遅れて変化)
【注意すべき点(特に低体温時) 】
●循環:徐脈傾向 拡張障害
●高血糖:低体温によりカテコラミン↑
インスリン分泌能↓
インスリン抵抗性↑
●低K 低Mg 低P血症
●血小板減少 凝固障害 感染症 輸血 維持
#22. TTMの維持
引用) PCPS・ECMOバイブル 導入 維持 輸血 維持
蘇生後の管理:呼吸・循環・神経の観点
#23. TTMの復温
参考) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6+JRC2020GL+AHA2020GL 導入 維持 ●TTM復温期間は24-72時間(0.15-0.25℃/h)
●0.5℃/hを超えない
●復温ペースに明らかな有意差なし
【注意すべき点】
●高体温:復温後48時間は体温管理継続
●急激な復温➡脳浮腫・頭蓋内圧亢進
●高K血症
●低血糖 輸血 維持 復温
#24. TTMの復温
引用) PCPS・ECMOバイブル 導入 維持 輸血 維持 復温
#25. TTMの流れの一例…施設ごとにプロトコール化を◎
参考)慈恵ICU勉強会スライド 心停止蘇生後の体温管理
#26. 目次 1.TTMとは?適応と総論
2.TTMの具体的な流れ
3.TTM中の管理
#27. 蘇生後の管理【呼吸】
参考) Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6+JRC2020GL+AHA2020GL 【呼吸器設定(参考)】
RR:10-12回/分 SpO2:92-98%
PaCO2 35-45mmHg
肺保護換気を考慮 TV:4-8ml/kg(予測体重) ●咳反射の消失➡無気肺に注意
●低体温に伴う免疫機能低下➡肺炎リスク↑
●復温時は代謝↑➡CO2 産生量↑
#28. 蘇生後の管理【循環】
参考) 2020アメリカ心臓協会 CPRおよびECCのガイドライン 脳圧灌流の観点からMAP80mmHg以上維持
Crit Care Med. 2019:47:960-9
低血圧➡1st Nad/心機能低下時DOB考慮
高度心機能低下時は機械的循環補助(MCS)使用考慮
Ex.)ECMO+(IMPELLA/IABP) ●低体温に伴い徐脈傾向に
●心停止後の気絶心筋や心停止症候群により
心拍出量↓や血管拡張による血圧低下
#29. 蘇生後の管理【神経】
参考) 2020アメリカ心臓協会 CPRおよびECCのガイドライン/Intensivist Vol13 No.1 2021
鎮静➡1st プロポフォール/2ndミダゾラム
鎮痛➡フェンタニル/モルヒネ(ECMO時)
TTM終了後に脳波で高次脳機能評価
中枢神経保護目的
➡1stエダラボン30mg q12h /2ndグリセオール200-500ml/day ●TTM期間中の対光反射などは神経学的予後を反映しない
●シバリングのコントロールがとても重要(後述)
●ROSC後昏睡患者にはしばしば痙攣が起こる
神経学的予後と抗てんかん治療の考察
#30. 参考:蘇生後の脳機能カテゴリー(Cerebral Performance Category)
引用) Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2011; 19: 38-42.
#31. 神経学的予後予測はROSC後いつ確認するかが大切!
参考) 2020アメリカ心臓協会 CPRおよびECCのガイドライン 【24時間以後出現すると予後不良】
脳N20SSEP欠損
ミオクローヌス
血性NSE高値
【72時間以後出現すると予後不良】
脳波burst-suppression
癲癇重積
瞳孔光反射欠如
定量的瞳孔測定
角膜反射欠如
#32. CQ:てんかん発作の予防は必要?
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●てんかん発作が生じたら治療を行う
●非痙攣性てんかん発作➡持続脳波モニタリングで認識
●てんかん発作の予防
…退院後30日以降の神経学的予後に有意差なし てんかん発作の予防はルーチンには行わない
抗てんかん薬は発作に応じて投与
#33. 抗シバリングプロトコール
参考)Stroke. 2008:39:3242-7 BSASスコア0に維持
1時間ごとに評価 【シバリングの予兆】
●鳥肌
●心電図アーチファクト
●咬筋の震え
#34. 蘇生後の管理【栄養】
参考) Intensivist Vol13 No.1 2021 【栄養】
可能であればEN20kcal/kg/日目標
【血糖】
HuR持続静注 PG180mg/dL以下の管理目標 ●TTM実施中48時間以内に栄養開始
➡神経学的予後が有意に改善した
J Parenter Enteral Nutr 2020;44:138-45
#35. 【不整脈】
アミオダロン(維持量)
※血行動態不安定な場合TTM離脱も考慮
【てんかん】
1st MDZ5-10mg(反復投与) /2nd LEV500mg
※エビデンス△ 脳代謝抑制目的
【感染】
1st ABPC/SBT(1.5g q8h)/2nd TAZ/PIPC(2.5g×2)
体温低下➡免疫↓ 発熱なく感染の判断困難
【高体温】
1stアセトアミノフェン 蘇生後の管理【対応各論まとめ】
参考) Intensivist Vol13 No.1 2021
#36. CQ:予防的抗菌薬投与は必要?
引用) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC) ●予防的抗菌薬
…肺炎の発症を減少させる可能性はあるが、
死亡・入院期間に影響を与えない
●抗生剤使用による耐性菌増加のリスク↑ ROSC後の患者に対する予防的抗菌薬投与は行わない
TTMのまとめと今後の展望
#37. 蘇生後のTTMのまとめ ●TTMは蘇生後の神経学的予後の
改善を目的に導入
●TTMは施設間のバラツキもあるのが実情
質の高いTTM管理を心がける
●体温維持中に想定される合併症は
生理学を理解した上で対応