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曳舟ER診断カンファレンス第4回〜Circling Back for the Diagnosis〜

投稿者プロフィール
藤原翔

医療法人伯鳳会東京曳舟病院

24,901

38

概要

東京曳舟病院救急科では診断・身体診察に関する勉強会を行っています。

実際にERで出会った難診断症例や、New England Journal of MedicineのClinical Problem-Solvingなどの症例を元にカンファレンス形式で実施しています。

ERでの診断学に興味がある方はぜひご参照下さい。勉強会の参加もお待ちしております。

東京曳舟病院 救急科医長

藤原 翔

mail: fujiwarackn@gmail.com

本スライドの対象者

研修医/専攻医

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テキスト全文

東京曳舟病院 ER診断カンファレンスの概要

#1.

東京曳舟病院 救急科 藤原 翔 ER診断カンファレンス 〜Circling Back for the Diagnosis〜

#2.

※一部アレンジしています

腹痛を訴える28歳男性の病歴と症状

#3.

主訴:腹痛, 嘔気, 嘔吐 現病歴:6週間前から右上下腹部に断続的な痛みが続いている.食事で増悪し, 母親からもらった制酸剤を服用すると1~2時間で消退していた. 受診日は腹痛が8時間続き, 食後に増悪し,嘔吐を繰り返したためERを受診した. 症例 28歳男性

#4.

既往歴:Gilbert症候群 (2年前に近医で指摘)     非アルコール性脂肪肝, BMI 33 嗜好歴:喫煙歴なし, 機会飲酒 追加問診

#5.

ROS(-):吐血, 胆汁様嘔吐, 下痢, 発熱, 悪寒 ROS(+):右上下腹部痛, 嘔気, 嘔吐 Review of System

#6.

Onset:6週間前, 特に契機なし Provocative/palliative factor:食事で増悪, 制酸剤で改善 Quality/quantity:断続的で波がある Region/radiation:右上下腹部, 放散痛なし Severity:痛みのため動けないほど Time course:1〜2時間で消退する 痛みに関する追加問診

来院時の身体所見と初期評価

#7.

来院時現症 BP 145/90mmHg, PR 84bpm, BT 37.1℃, RR 18/min SpO2 100%(room air) GCS E4V5M6, 腹痛により苦悶様 眼球結膜黄染あり 呼吸音清, cracklesなし, 心雑音なし, gallop rhythmなし 右上下腹部に軽度の圧痛あり, 上腹部に強い 反跳痛なし, 筋性防御なし, 肝臓は触知せず

#8.

# 6週間前からの右上腹部痛 # Gilbert症候群 # 非アルコール性脂肪肝 # 肥満 (BMI 33) Problem List

#9.

System1直感的思考 第一印象と鑑別の最上位について考えて下さい 疾患名でなく病態の解釈でも良いです 最優先で欲しい問診項目についても

#10.

 Key Factは? ・6週間前からの右上下腹部痛 ・食事で増悪する腹痛 ・制酸剤で改善 ・Gilbert症候群 ・非アルコール性脂肪肝 System1直感的思考

右上腹部痛の鑑別診断と考察

#11.

System1直感的思考 Impression 右上腹部痛がメインなら肝胆道系疾患 食後の増悪は, 胃潰瘍や胆石発作に典型的 1〜2時間で改善しており, 制酸剤による改善かは不明 Gilbert症候群は確定診断かは怪しい

#12.

System1直感的思考 # 胆石疝痛発作  - 胆嚢炎, 胆管炎, 肝膿瘍 # 胃潰瘍 # 増悪寛解を繰り返している虫垂炎

腹部CTと超音波検査の結果

#13.

血算 凝固 生化学

#14.

・肝腫大なし、脂肪肝 ・脾腫あり (矢状断で16cm) ・胆石なし, 胆管拡張なし ・胆嚢の壁肥厚なし, 周囲の脂肪織濃度上昇なし ・虫垂の腫大なし 腹部単純CT 画像ありません...

#15.

腹部超音波 ・胆泥あり ・胆嚢壁の肥厚 ・胆嚢周囲に少量の液貯留 ・門脈, 肝静脈の血流は正常

#16.

急性胆嚢炎疑いとして入院となり、メロペネムが開始された. 入院2日目, 腹痛は改善傾向となった. フォローの採血が行われ, ビリルビン, 肝酵素の上昇を認めた. 肝炎のスクリーニング採血では有意所見なし. 肝胆道系精査のためMRCPが撮影された. 経過

入院経過と胆嚢炎の疑い

#17.

血算 生化学 その他

#18.

MRCP ・肝内胆管・総胆管拡張なし ・胆管結石なし ・脂肪肝 ・胆泥あり, 胆嚢壁の肥厚 ・胆嚢周囲に少量の液貯留

#19.

入院3日目, 解熱し腹痛は消退した.T-Bil 5.7mg/dL, D-Bil 2.5mg/dLまで低下し, ALT 292U/L, AST 89U/L, APL 174U/Lまで改善. メロペネムは中止され、胆嚢摘出術目的に外科へ紹介され退院となった. 経過

#20.

めでたしめでたし... ではない! 一連の経過で違和感はないか?

無石性胆嚢炎の原因とリスク要因

#21.

# 無石性胆嚢炎# 一過性のD-bil上昇 (D-bil 11.2/ I-Bil 8.3) # 脾腫 # Gilbert症候群→間接ビリルビン上昇 # 肥満 (BMI 33) # 非アルコール性脂肪肝 Problem List

#22.

# 無石性胆嚢炎  胆泥形成あり, 発症年齢としては非典型的   # 一過性のD-Bil上昇 (D-Bil 11.2/ I-Bil 8.3)  閉塞はないが高値→一過性の閉塞で説明可能   # 脾腫  脂肪肝のみでは門脈圧亢進で説明困難   # 間接ビリルビン上昇 Gilbert症候群は確定診断?溶血の可能性は?

#23.

・若年性の無石性胆嚢炎の原因 Semantic Qualifier

#24.

 - 5F (Forty, Female, Fatty, Fair, Fecund・Fertile)  50-60歳代, 肥満傾向の女性, 中心性肥満の男性, 白人, 妊娠,  - 胆泥の構成物質の過剰  ビリルビン, コレステロール, カルシウムの過剰  - 薬剤性:フィブラート系, セフトリアキソン, ソマトスタチンアナログ製剤      ホルモン補充療法, 経口避妊薬  - その他:長期間の絶食, 脊髄損傷, 肝硬変, クローン病, 溶血性貧血(I-Bil上昇) 胆泥が溜まる病態 (≒胆石症のリスク) Nezam H Afdhal. Gallstones: Epidemiology, risk factors and prevention: UpToDate →若年性で関与する主な病態は, 溶血性貧血, 脂質異常症, 薬剤性.

遺伝性溶血性貧血の検査結果と考察

#25.

無石性胆嚢炎の原因として, 溶血性貧血は鑑別上位. 脾腫の鑑別として, 溶血性貧血もoverlapする. Gilbert症候群の診断がついた, 2年前の診療情報を取り寄せた. 経過

#26.

正常範囲

#27.

I-Bil上昇, LDH上昇, ハプトグロビンの低下あり.Hbは正常のため, 代償された溶血性貧血が疑われた. 精査のため, 網状赤血球数, 血液像の目視を提出した. 家族歴を聴取すると, 父親が27歳の頃に胆石症で胆嚢摘出術を受けていたことが判明した.

#28.

Ret 3.2% (正常範囲 0.5~2.2) 網状赤血球絶対数 172,100個/mm3 (正常範囲31,500~108,800) 末梢血塗抹標本:パッペンハイマー小体あり        有棘細胞, 分裂細胞, 球状赤血球は認めず

#29.

網状赤血球数の上昇は, 代償された溶血性貧血を支持する所見. 一方で血液像の目視では, 有意な所見は得られなかった. 父親も若年発症の胆石症の既往があり, 遺伝性疾患が疑われる.

#30.

・遺伝性の溶血性貧血 Semantic Qualifier

遺伝性球状赤血球症の診断と経過

#31.

赤血球膜異常 遺伝性球状赤血球症, 遺伝性楕円赤血球症症候群,遺伝性有口赤血球症, 遺伝性乾燥有口赤血球症 (xerocytosis) 赤血球酵素異常 グルコース-6 リン酸脱水素酵素 (G6PD)欠損症, ピルビン酸キナーゼ (PK)欠損症, グルコースリン酸イソメラーゼ欠損症, ピリミジン 5’ヌクレオチダーゼ欠損症 赤血球ヘモグロビン異常 鎌状赤血球症候群, サラセミア症候群, 不安定ヘモグロビン症 遺伝性溶血性貧血 Wintrobe’s clinical Hematology, 13th edition, Greer JP, et al, ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2014, 606 先天性溶血性貧血の7割が遺伝性球状赤血球症

#32.

4週間後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った. 複数の色素性胆石があり, 最大1.0cm×0.6cm×0.6cmであった. 周術期に行った末梢血塗抹標本で, 球状赤血球が散在していた. 経過

#33.

赤血球浸透圧抵抗試験:脆弱性が亢進 赤血球EMA(Eosin-5-maleimide)結合能試験:結合能低下 →遺伝性球状赤血球症と診断 直接クームス試験は行われなかった. 7ヶ月後の末梢血塗抹標本では, 多数の球状赤血球を認めた. 経過 東南アジア楕円赤血球症, 先天性赤血球異形成貧血(CDA)Ⅱ型でも低下

#34.

末梢血塗抹標本 7ヶ月後の検体 多数の球状赤血球を認める

胆泥形成と急性胆嚢炎の最終診断

#35.

遺伝性球状赤血球症による 胆泥形成を原因とした急性胆嚢炎 最終診断

#36.

・溶血性貧血は若年性の胆石症のリスク   ・貧血を伴わない溶血性貧血  代償された軽症の溶血性貧血では貧血を伴わない   ・球状赤血球を認めない球状赤血球症  初期の末梢血塗抹標本では, 球状赤血球は認めなかった  →軽症例の2〜3%では少数のため, 観察されないことがある   Turning Point

#37.

・先天性溶血性貧血の中で最も多く, 7割を占める ・本邦の有病率は人口100万人あたり5.7〜20.3人 ・北欧系の人種では2000人に1人 ・発症年齢は0~65歳, 20歳以上の発症が40%を占める ・遺伝形式は常染色体優性遺伝, 1/3は遺伝性が確認できず ・本疾患の小児, 若年成人における胆石症の発症率は40% 遺伝性球状赤血球症

#38.

・網状赤血球増加により相殺されてMCV正常が多い ・赤血球浸透圧抵抗試験は10〜20%で正常 ・赤血球EMA結合能試験が有用 ・重症貧血の場合は, 脾臓摘出術の適応 ・感染を契機に溶血発作や, ヒトパルボウイルスB19など による無形成発作を生じることがある 遺伝性球状赤血球症

#39.

・溶血性貧血は胆泥・胆石症のリスク・貧血の無い, 代償性の溶血性貧血という病態がある ・「前医の診断は疑え」 Take home message

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