#4.
実際の症例 来院時バイタルサイン p JCS I - 3 - R 名前はいうが興奮している p 「離せ」「どっかいけ」などの言葉を発する p 血圧 155/80 mmHg 心拍数 120 bpm p SpO2 100% 呼吸数 30回/min 腋窩温 37.5度 身体所見 p 明らかな外傷なし、エコーでも明らかな異常なし p 瞳孔径 5/5mm 対光反射 左右とも迅速 眼瞼結膜充血あり p 四肢麻痺なし、アルコール臭なし、皮膚は乾燥していない p 全身に刺青が入っている
#5.
実際の症例 検査所見 p 血糖値 140mg/dL 浸透圧ギャップなし p 血液検査は特記すべき異常なし p 全身CTでも意識障害に関連するような外傷性変化なし (暴れてしまうため、鎮静薬の投与下でおこなった) その他 p 所持物品にスティック状の吸入器具あり
#6.
実際の症例 ü 不穏(興奮状態)・散瞳・高血圧・頻脈・頻呼吸・体温上昇から 交感神経の興奮状態を疑った ü そこで交感神経賦活作用のある薬剤の中毒か、交感神経を抑制する薬剤の 離脱症候群が疑い、尿中薬物定性検査を実施した(次スライド参照) テトラヒドロカンナビオール(大麻)が検出された 後ほど警察から事故車両より大麻樹脂が見つかったと連絡もあり 大麻吸入による急性中毒症状と診断した
#7.
薬物のスクリーニング ü 薬物中毒を疑ったら尿中薬物定性検査が便利 ü SIGNIFY™ ER は 11 種類の薬物がたった 5 分で スクリーニングできる ※ この他にも薬物検査キットは販売されているが、 全国的にシェアが多いこの製品を例に説明する。
#8.
スクリーニングできる薬物 ü AMP アンフェタミン類(覚醒剤) ü COC コカイン系麻薬 ü THC テトラヒドロカンナビオール(大麻) ü BZD ベンゾジアゼピン類 ü TCA 三環系抗うつ薬 ü BAR バルビツール酸類 ü MDMA メチレンジオキシメタンフェタミン ü OPI オピオイド(モルヒネなど) ü PCP フェンシクリジン(ケタミンなど) ü OXY オキシコドン類 ü PPX プロポキシフェン類(メサドンなど)
#9.
操作および判定方法 (SIGNIFY™ER 使用説明書より抜粋) ü 検査前に尿検体とキットを室温に戻す 線が消えるのが陽性
#10.
違法薬物使用を疑ったら Q1. そもそも勝手に検査してよいのか? Q2. 検査キット使用の注意点は? Q3. もし違法薬物が陽性だったら何をすべき? といった疑問が生じるのではないでしょうか?
#11.
Q1. 患者が検査を拒否したらどうすればよいですか? A. 医療上必要と判断されれば検査は違法ではない ü 患者に医療行為を行うとき、原則は同意が必要です ü 意識障害もしくは意思決定能力の欠如がある場合、「リスボン宣言」で 述べられているように法律上権限を有する代理人から同意を得る 必要があります ü 可能な限り本人もしくは家族などの代理意思決定者に説明を行って、 同意を取得することが望ましい
#12.
Q1. 患者が検査を拒否したらどうすればよいですか? A. 医療上必要と判断されれば検査は違法ではない ü ただし、平成17年7月19日の最高裁判決において、 違法薬物使用が疑われる状況で患者の同意なく尿の薬物検査を行ったが、 それは医療上必要な検査と認められるため、違法性はないと判決が出ています ü もし同意が取れなかったら(だいたい取れないが)、 説明を尽くしたが同意は得られず、意識障害を鑑別するために必要な検査として、 採尿および尿中薬物定性検査を行った、とカルテ記載しておくと良いでしょう
#13.
Q2. 検査キット使用の注意点は? A-1. コスト ü 非常に簡便なスクリーニングキットであるが、 検査キットの費用( 3,520 〜 4,000円、購入ロット数による) は保険請求できず病院負担となります
#14.
Q2. 検査キット使用の注意点は? A-2. 偽陽性 ü 薬物検査の偽陽性は取り扱いに注意がいります ü 例えば、エフェドリン類を含有する薬物が含まれる検体だとAMPが陽性と 出ることがあったり、AMP陽性の検体を液体クロマトグラフ質量分析計などで 調べると、何も検出されなかったという報告があります ü あくまで、補助的な情報として患者のバイタルサインなどと照らし合わせて 診断する必要があります
#15.
Q2. 検査キット使用の注意点は? A-3. 陽性となる薬物の尿中排泄期間 ü 薬物を使用してから、検査キットで検出されなくなるまでには時間を要するため、 検査での陽性が必ずしも目の前の患者の症状の原因と出来るかは別問題です ü 量や投与方法等の影響を受け、量が多いほど、使用頻度が多いほど排出期間は 長くなります 参考)健常ボランティア単回投与での結果 AMP・THC 摂取後数時間〜3,4日後
#16.
Q3. もし違法薬物が陽性だったら何をすべき? A-1. まずは目の前の患者の救命 ü 昏睡で気道があやしい、外傷で治療が必要といった場合は気道確保や治療を優先し 全身状態を安定化させます ü 今回紹介した症例のように、結果的に外傷もなく緊急介入するような バイタルサインの異常も無ければ、患者およびスタッフの安全を確認しつつ、 適宜鎮静薬を使用して慎重に経過観察を行えばよいでしょう
#17.
Q3. もし違法薬物が陽性だったら何をすべき? A-2. 状況によっては届出・通報する ① 麻薬・あへん・大麻等の常用による中毒が判明した場合 ü 麻薬及び向精神薬取締法の規定に基づき、都道府県知事に届出をする必要があります (実際には保健所に連絡することになります) ü 急性の中毒症状だけで届け出するわけはないので注意 ü この届出をしたことで、医師の守秘義務違反とされることはなく、むしろ怠ると 罰則がつく可能性があります
#18.
Q3. もし違法薬物が陽性だったら何をすべき? A-2. 状況によっては届出・通報する ② ①以外で違法薬物の使用を発見した場合 ü 麻薬麻薬、大麻、覚醒剤などの違法な使用である場合は犯罪であるので、刑事訴訟法に 基づいて通報してもよいでしょう ü 守秘義務違反が懸念されるが、前のスライドで示した最高裁判例においても通報に違法 性はないとされています ü 公務員の立場で医師をしている場合は、犯罪の告発義務があるので、通報する必要があ ります(治療を優先しなければならない場合は、即時通報する必要はありません)
#19.
Q3. もし違法薬物が陽性だったら何をすべき? A-3. できれば治療につなげたい ü 私達医療者は違法薬物使用者を逮捕することが仕事ではなく、患者の健康維持に 務めることが仕事です ü 本来であれば、違法薬物から手を引けるように、薬物依存の治療等につなげていき たいところです ü 精神科医や精神保健福祉センターに協力を仰ぐのもよい手段となりえます
#20.
TAKE HOME MESSAGE TIPS 1 Ø 原因不明の意識障害ではトキシドロームに注目 Ø 薬物中毒を疑ったら尿中薬物定性検査を実施(ただし、保険適用外) TIPS 2 Ø 尿中薬物定性検査の偽陽性や尿中排出期間に注意 TIPS 3 Ø 大麻や麻薬の慢性中毒は知事に届出 Ø それ以外の違法薬物使用は状況により通報
#21.
参考文献 pAlec S. et al. False-Positive Interferences of Common Urine Drug Screen Immunoassays: A Review. J Anal Toxicol. 2014 Sep;38(7):387-96 p奈良女 昭 「乱用薬物検査キット Triageでの薬物検出期間」 Sysmex Journal Web Vol.8 No.3 2007 p斉藤 剛 「薬物中毒検出用キットSIGNIFY™ ERの基礎的評価 Sysmex Journal Web Vol.21 No.3 2020 p法医学的試料を用いたSIGNIFY™ ERの有用性評価とトライエージDOAとの比較 Sysmex Journal Web Vol.21 No.3 2020 p最高裁判例集 最一決平成17年7月19日刑集59巻6号600頁