テキスト全文
失神の定義と学習目標
#1. ERでみる失神 produced by バヤシ@救急集中治療 Part.2 マネジメント編
#2. このスライドの⽬標 ☆ERを受診する患者の約1%が失神 ☆救急搬送される患者の約3%が失神 ◯学習⽬標 ⅰ.失神の病態・アプローチを理解する ⅱ.予後不良な失神をみつける ⅲ.専⾨医の診察につなげる
#3. ⽬次 1.失神とは 2.失神かどうかで鑑別する⼀過性意識消失 3.病態⽣理でみる失神 3−1.⼼原性失神 3−2.神経調節性失神 3−3.起⽴性低⾎圧 4.ERでの失神マネージメント 4−1.失神診断の難しさ 4−2.診療フローチャート 4−3.帰宅させるなら⾏うこと 5.失神に関するよくある質問 6.Take Home Message Part.1 Part.2
失神の病態生理と診断の難しさ
#4. 復習)病態⽣理でみる失神 失神を疑ったら、 右図の病態を考える 複数の要素が絡んで 失神することもある ⾎管抑制型 ⼼抑制型 神経反射活動低下 薬 剤 性 ⾃ 律 神 経 失 調 起⽴性低⾎圧 神経調節性失神(反射性失神) 混合型 末 梢 ⾎ 管 抵 抗 低 下 低⾎圧/ 脳低灌流 ⾃律神経の 器質的障害 ⼀次性 ⼆次性 低 ⼼ 拍 出 静脈還流不⾜ 不 整 ⼼ 脈 原 性 ︵ ⼼器 肺 疾質 ⾼ 患的 ⾎ 圧 症 そ ︶ の 他 静脈 プーリング 循環⾎液量 減少 ⼼原性失神 2018欧州⼼臓学会ガイドラインを参考に作成
#5. 失神を診断確定する難しさ 失神の原因となる疾患は⾮常に多い ⼼原性失神はリスクや⼼電図、エコーなどのERで⾏える検査で 診断にたどり着ける可能性が⾼い しかし、神経調節性失神と起⽴性低⾎圧の⼀部に関しては、 ・神経に原因があること ・診断に必要なtilt試験は救急外来で⾏えないこと もあり、初療時には暫定診断するしかない →ERでは、⼼原性失神の可能性の検討、 循環不全や貧⾎の有無の確認を⾏って、 何らかの失神、として対応する
失神マネジメントの基本概念
#6. ややこしい失神の⼀例 ⾼⾎圧および発作性⼼房細動がある⾼齢男性 降圧薬やβブロッカーを内服している 数⽇前から下痢をしていて、トイレで排便して出てきたところ で意識を失った →脱⽔による起⽴性低⾎圧 薬剤性起⽴性低⾎圧 排便による状況失神 発作性⼼房細動による⼼原性失神 複数の要素が絡んでいる可能性もある
#7. 失神マネジメントのイメージ 神経調節性失神(反射性失神) ⾎管抑制型 混合 ⼼抑制型 神経反射活動低下 ⾃然軽快していれば帰宅 (場合によっては専⾨科へ) 薬 剤 性 ⾃ 律 神 経 失 調 末 梢 ⾎ 管 抵 抗 低 下 低⾎圧/ 脳低灌流 ⾃律神経の 器質的障害 低 ⼼ 拍 出 静脈還流 不⾜ 不 整 ⼼ 脈 原 性 器 ︵ ⼼ 疾質 肺 患的 ⾼ ⾎ 圧 そ の 他 ⼼原性失神 ⼊院 (治療もしくは精査が必要) 起⽴性低⾎圧 出⾎などによる 循環⾎液量減少
ERでの失神診療フローチャートとリスク評価
#8. ERの失神診療フローチャート ⼀過性意識消失 失神か⾮失神か ⾮失神 詳細な病歴聴取(⽬撃情報が⼤事) 外傷を含めた⾝体診察 ⼼電図、⼼エコー、⾎液検査 必要に応じて画像検査 失神として リスク評価 (次スライド) 低リスク 帰宅 ※⾮失神例の場合は その原因の治療⽅針に準ずる ⼊院 ⼼原性失神と診断 もしくは⾼リスク 起⽴試験 Physical Counter-pressure Maneuver指導 場合によっては脳神経内科紹介
#9. ERでの失神のリスク評価 ⾼リスク 低リスク 病歴 新規に発症した胸部不快感、呼吸困難、腹痛、頭痛 運動時あるいは臥位時の失神 突然出現する動悸の後に起こる失神 (以下は⼼電図異常や⼼疾患の既往のある場合) 前兆がないか、10秒以下の短い前兆 50歳以下での突然死の家族歴 座位時の失神 病歴 反射性失神に典型的な前兆 突然の不快な光景、⾳、匂いや痛みのあと 状況失神を疑うエピソード(排尿、⾷事など) 頸部圧迫のエピソード 臥位や座位から⽴位になったあとの発症 既往歴 重症な器質的⼼疾患、冠動脈疾患 既往歴 過去に同様のエピソードをもつ失神、⼼疾患なし ⾝体所⾒ 原因不明の収縮期⾎圧<90mmHg 直腸診で⾎便や⿊⾊便を認める 無症候性の持続性徐脈(<40bpm) 未診断の収縮期雑⾳ ⾝体所⾒ 正常所⾒ 前述の⼼電図異常 正常⼼電図異常 ※⾼リスク、低リスクの特徴がない場合は慎重に経過観察か⼊院させる
起立試験とPhysical Counter-pressure Maneuver
#10. 帰宅前に起⽴試験(Schellong試験の簡易版) tilt試験は設備や時間を要するが、起⽴試験はERのベッドサイドで⾏える 失神患者を帰宅させる前に実施しておこう ⼿順① 2分以上安静臥位を保ち⾎圧測定する ⼿順② ⽴位にして、⽴位直後と2分後の⾎圧を測定する ※起⽴性低⾎圧を強く疑う場合は、5〜10分後の⾎圧測定も検討 起⽴性低⾎圧の原因が⾃律神経異常のとき →収縮期・拡張期⾎圧低下、脈拍不変 起⽴性低⾎圧の原因が循環⾎液量減少のとき →収縮期⾎圧低下、脈拍上昇 →急性出⾎などを⾒逃していないか確認を!
#11. Physical Counter-pressure Maneuver 失神しそうになった時に、体⾎管抵抗を上げて脳⾎流を確保する⼿技 しゃがみこむ(蹲踞)の他に、以下のような⽅法がある 両⼿を組んで引っ張りあう 脚を組んで押し付け、 お腹に⼒を⼊れる 脚を交差して押し付ける
失神患者に関するQ&AとTake Home Message
#12. Q. 失神患者に使えるスコアリングはないの? A. 決定的なものはない ⼊院か帰宅を判断したり、神経調節性失神らしさを判断したりする スコアリング(Clinical Decision Rule)がないわけではない しかし、今のところ感度の⾼いものがないため、 現場でスコアリングに頼り切るのは危険である 代表例: San Francisco Syncope Rule OESIL risk score FAINT score
#13. Q. 失神患者に頭部CTは必要? A. 必須ではない 頭部外傷を合併している⼀過性意識消失では撮影する くも膜下出⾎の症状が失神のみ、というのは⾮常に稀 わずかな頭痛や意識の変化がないか問診をしっかり⾏う ただし、⽇本はCTへのアクセスが⾮常によいため、 患者がどうしても頭の病気が⼼配で仕⽅ない、 といった状況では、撮影してもいいかもしれない (よほどのことがない限り⾃分は撮らないが)
#14. Take Home Message ①危険な⼼電図と左室流出路障害を⾒逃すな! ②繰り返す起⽴性低⾎圧は、背景にある脳神経疾患を疑え! ③帰宅前には起⽴試験を忘れずに! ④physical counter-pressure maneuverを指導しよう!
参考文献とガイドライン
#15. 参考⽂献 ・2018 Guidelines for the diagnosis and management of syncope(European Society of Cardiology) ・2017 ACC/AHA/HRS Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope ・⽇本循環器学会2012年版失神の診断・治療ガイドライン ・2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal