テキスト全文
脳卒中後てんかんの概要と重要性
#1. Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital
Daisuke Yamamoto Common diseaseである
脳卒中後てんかんを学ぶ。
#2. Introduction 脳卒中後てんかんについて、臨床で必要な最小限の知識を
学ぶためのプレゼンテーションです。
脳卒中後てんかんはcommon diseaseであり、
プライマリケアに関わる医師にも重要なテーマです。
また、脳卒中後てんかんを通じて、
てんかん診療一般の理解にもつながるような内容になっています。
Early seizureとLate seizureの定義と違い
#3. early seizure、late seizureとはなにか?
#4. Early seizure (ES) は急性症候性発作である、と言えます。
ESは、脳卒中発症とともにけいれん発作を来す場合を指します。
定義としては、脳卒中発症7日以内に発症した発作です。多くは1-2日以内発症。
急性症候性発作とは、神経系に影響を及ぼすイベントに時間的に並行して起こるけいれん発作です。これは、「てんかん」とは区別されます。
てんかんではありませんので、抗てんかん薬の使用は一時的で、永続的な使用は行いません。 Early seizureとは?
#5. 繰り返しになりますが、一過性のけいれん発作は起こりうる状態ではあるが、将来的に反復性をもって発作を来す「てんかん」とは区別されます。
急性症候性発作での抗てんかん薬の使用は短期間のみとします。
永続的な使用は必要ありません。
例えば、入院中のみの抗てんかん薬の使用や、外来での減量中止が方針となります。
急性症候性発作はてんかんとは区別する。
急性症候性発作とてんかんの区別
#6. 急性症候性発作の原因疾患:てんかん診療ガイドライン2018
#7. Late seizureとは? Late seizureは、ほぼ「てんかん」と同義です。
Late seizureの定義は、脳卒中発症後の慢性期の発作を指します。
脳卒中後の慢性期に起こった発作は、てんかんによる発作と言えます。
その理由は、発作の反復リスクが高いことによります。
てんかんとは、反復性をもって発作を来し得る病態です。
Late seizureの場合は発作を反復しうるので、継続的な抗てんかん薬での発作予防が検討されます。
#8. 発作の反復性について てんかんの診断を検討する時、通常は二度の発作をもって「反復性がある」と評価し、抗てんかん薬が導入されます。
一度発作があった人が、反復発作を来す頻度は50%以下であることが知られています1)。
二度発作があった人が、反復発作を来す頻度は70%以上であることが知られています1) 。
この疫学データをもとに、二度の発作をもって、てんかんの評価をする事となっています。 1) Epilepsia 2014;55:475-482
#9. Late seizure = てんかん 一方で、反復性が高い病態の場合には、一度の発作をもって、てんかんとして診断します。
脳卒中後てんかんは、反復性が高い(再発率60%以上)ことが知られています1)。よって、LSはおおむねてんかんとしての理解が可能な病態となります。
すなわち、抗てんかん薬導入が初回発作から議論されることになります。 1) Epilepsia 2014; 55: 475-482.
脳卒中後てんかんの発症頻度とリスク因子
#10. SUMMARY 1 脳卒中発症と共に起こるけいれん発作がearly seizureである。
Early seizureはてんかんではない。急性症候性発作である。
この場合の抗てんかん薬使用は一時的である。
脳卒中発症後、時間が経った後におこる発作がLate seizureである。
Late seizureは、反復性に発作を来し得る。つまりは、Late seizureはてんかんである。
てんかん診断の二回発作ルールについても確認してください。
#11. 脳卒中後てんかんの
頻度はどれくらいか?
#12. Late seizure=脳卒中後てんかん (Post stroke epilepsy)
脳卒中後のてんかん発症頻度は、6-12%です1)。
よって、脳卒中後にてんかん発作を認める頻度は低くありません。
コモンであることは、説明できる必要があります。
また、脳卒中後てんかんが起こりやすい条件も知られています。 脳卒中後てんかんはコモン 1) Eur J Neurol 2013; 20: 1247-1255
高齢者における脳卒中後てんかんの影響
#13. 脳卒中後てんかん発症のリスク因子が知られている。
リスク:出血性病変がある、テント上皮質病変である、脳卒中が重症である。1)
発症に関連するリスクの組み合わせのスコア化による予測の検討もある。
(SeLECT score, CAVE score)
脳出血患者においては、未来のてんかん発症リスクは伝えてもいいかもしれない。
脳卒中後てんかんのリスク 1) Neurochem Int 2017; 107: 219-228
#14. 高齢者てんかん(65歳以上)の頻度は1%以上です1)。加齢とともにてんかん患者は増えていきます。脳の器質的病変の増加とともにてんかん発症が増えることは了解しやすいです。
また、高齢者てんかんの背景疾患の40%が脳卒中後てんかんです2)。
高齢者てんかんと脳卒中後てんかんは、オーバーラップする患者群です。
脳卒中後てんかん、高齢者てんかんいずれもコモンな問題であることを知りましょう。 高齢者てんかんもコモン 2) Ann N Y Acad Sci 2010; 1184: 208-224 1) Epilepsy 2020; 14: 7-10
#15. SUMMARY 2 脳卒中後にてんかんを発症する頻度は5-10%である。少なくはない。
高齢者てんかん(65歳以上)は、1%以上の頻度である。
高齢者てんかんの一番多い背景疾患は脳卒中である。
脳卒中後てんかん、高齢者てんかんはコモンなテーマであることを理解する。
脳卒中後てんかんの治療薬と選択基準
#17. PSEで推奨される
治療薬は? 現時点で脳卒中後てんかんにエビデンスのある推奨薬はありません。抗てんかん薬の選択において、考え方はいくらかあります。
#18. 焦点性てんかんとは、脳の一部分にてんかん性の異常放電を来し得るてんかん原性をもつてんかんです。
脳卒中後てんかんは、脳卒中で傷がついた部分にてんかん原性を持つわけであるので、焦点性てんかんです。
よって、脳卒中後てんかんでは、焦点性てんかんに有効な抗てんかん薬を選択する、という抗てんかん薬の選択基準になります。 選択の基準:
焦点性てんかんに有効なAEDを選ぶ。
#19. 従来薬とされる抗てんかん薬は薬物相互作用があります。
薬物相互作用とは、併用薬剤の効果減弱を認めます。
脳卒中を発症する患者群は高齢者です。よって、前提として併存症に対する内服を有している可能性は高いです。よって、併用薬への影響の少ない抗てんかん薬を選択する必要があります。
この特性は新規抗てんかん薬にあります。 選択の基準:
薬物相互作用の少ない抗てんかん薬を選ぶ。
#20. 従来薬の中で、焦点性てんかんで選択されるカルバマゼピンでは、コレステロール値上昇の可能性があります1)。
抗凝固薬への影響も考慮します。従来薬はワルファリンやDOACへの薬物相互作用の懸念もあり、従来薬は使用のしにくさがあります。 選択の基準:
血管障害リスクの少ないAEDを選ぶ。 1) 脳卒中 2017; 39: 400-404.
#21. 併用薬との兼ね合いから、新規抗てんかん薬が妥当です。
先の説明のごとく、もう一つの条件は焦点性てんかんで選ぶ、でした。
以上より、高齢者×焦点性てんかん、での推奨薬の検討となります。
高齢者の焦点性てんかんに対する抗てんかん薬について、米国エキスパートオピニオン1)は以下順での推奨です。
レベチラセタムLEV > ラモトリギンLTG > ラコサミドLCM 選択の基準:
高齢者 X 焦点性てんかん の条件で選ぶ。 Epilepsy Behav 2017; 69 :186-222
#22. SUMMARY 3 発作分類は大きく、焦点性てんかんと全般性てんかんがある。投薬はそれぞれに有効な薬剤選択をする。
脳卒中後てんかんは、焦点性てんかんである。焦点性てんかんに有効な薬剤選択をする
従来薬は薬物相互作用がある。
新規抗てんかん薬は薬物相互作用はあまり問題にはならない。
従来薬は、血管障害リスクがあることは知っておく。
以上より、焦点性てんかんに有効な新規抗てんかん薬、が治療薬の選択条件となる。
レベチラセタムとラコサミドの比較
#23. 頻用抗てんかん薬について知る。
LEV VS LCM
#24. レベチラセタムについて知る。
LEVとは:汎用性の高いAED 最も頻用されるAEDが、レベチラセタムです。
今一度、LEVとはどんな抗てんかん薬かを理解しましょう。
LEVの特徴は使いやすさにつきます。
#25. レベチラセタム ①
急性期使用に長じている。 長所
注射製剤もあり、かつ、最初からてんかん発作抑制に十分な有効用量を投与できる。
ERはじめ、急性期病院の現場での使い勝手のよさがある。
短所
眠気や易怒性の誘発は、少なからずあり。
副作用が問題になる場合には、他剤への変更を検討する。
成人てんかんにおいて、非専門医にとっては第1選択にしてもよい薬剤。
#26. レベチラセタム ②
オールマイティな特性。 レベチラセタムの強み:てんかん発作が焦点性てんかん であっても、全般てんかんであっても有効である。
焦点性てんかんか全般てんかんか、てんかん発作分類について診断に悩む場合にも、選択してよい薬剤。
レベチラセタムはすぐに効果が発揮できる、副作用の少ない薬剤で、使い勝手がよい(点滴投与可な)薬剤である。
#27. ラコサミドについて知る。
LCMとは:成人用AED 近年頻用される薬剤です。
LEV同様、新しいAED(第3世代の位置づけ)です。
LEVと似たようなニュアンスもありながら、異なる特徴もあります。
ラコサミドのニュアンスも押さえておきましょう。
#28. ラコサミド
眠気少なく、効果もよい。 200mg/dayが維持量。
1週間での有効用量までの増量が可能であり、レベチラセタム同様急性期病院で使用しやすい薬剤。
眠気が問題になりにくい薬剤でもあり、第1選択薬で眠気が問題になり、継続できなかった症例で変更薬剤の選択肢になる。
高齢者でも比較的使いやすい薬剤。
副作用の心筋電導障害の報告はある。
あまり弱点がなく、焦点性てんかんでは頼りになる薬剤。
#29. LEVとLCMの違いをまとめる てんかん発作分類についての違い
全般性てんかん+焦点性てんかん 幅広く推奨される LEV
焦点性てんかん で推奨される LCM 併存症がある場合の違い
LEV:幅広い併存症において、最も推奨されるAED。
脳腫瘍、全身癌、脂質異常症、急性期脳梗塞、薬剤多剤使用者、
肝疾患、心疾患、HIVなど。
ただし、精神疾患の併存症は除く。(うつ、不安症、精神病)
LCM:幅広い併存症での推奨あるAED。
そして、精神疾患の併存でも推奨されている。 Epilepsy Behav. 2021.doi: 10.1016/j.yebeh.2020.107540.
#30. LEVとLCMについて AED選択肢は多い方がよいので、頻出薬双方を理解して下さい。
症例を通じた脳卒中後てんかんの理解
#32. 症例 70歳男性 初発のけいれん発作 心房細動あり。心原性脳塞栓症を68歳時に発症した。
軽度の麻痺症状が後遺していた。皮質を含んだ梗塞病変であった。
今回、全身性けいれん発作を認め、ER受診に至った。
#33. 症例 70歳男性 ERでの確認事項は? 今回のてんかん発作を来しましたが、Late seizure=Post stroke epilepsyとして評価していいかどうか、が検討事項になります。
採血検査で異常がないかを確認。
頭部CTで出血病変のないことを確認。必要に応じてMRI施行の検討。
特に他に発作誘因がなければ(=急性症候性発作が否定できれば)、PSEとして評価できることになります。
#34. 症例 70歳男性 発作を止めるアクション もちろん、ERでの発作抑制は重要なテーマです。
三段階の治療介入について確認しましょう。
1st line治療 ジアゼパム 0.5A/1.0A IV 五分間隔あけて二回まで
2nd line治療 レベチラセタム1000mg drip OR ホスフェニトイン Drip
発作抑制が困難なら、3rd line治療を検討。
#35. 症例 70歳男性 PSEとしての説明 以下のように説明しましょう。
PSEとして評価されます。PSEは稀なものではありません。脳卒中後10%の人に起こりうるものです。
発作反復リスクが高いことが知られています。半分以上の人が、二度目の発作リスクがあります。
PSEとして抗てんかん薬の導入は検討されます。
専門外来に紹介しますので/もしくは、後日外来で説明しますので、抗てんかん薬について検討しましょう。
#36. 症例 70歳男性 抗てんかん薬の選択 抗てんかん薬の選択条件は、新規抗てんかん薬+焦点性てんかん、が検討事項でした。
今回はラコサミド LCMを選択としました。
RP)ラコサミド(ビムパット)100mg/day 一週間
その後、
ラコサミド(ビムパット)200mg/day に増量
薬剤の忍容性・有効性をその後確認していくことになりました。
脳卒中後てんかんの診療における重要性
#37. てんかん、の診療においては最もコモンな話題が、脳卒中後てんかんです。
高齢者てんかんの文脈でも語られるテーマであり、いずれの診療科の先生においても
ある程度抑えておいていただきたい内容となっています。
Early seizure、Late seizureの理解から、てんかん診断の基本の理解にもつながります。治療についてもてんかん診療の理解においても重要なテーマとなっています。 TAKE-HOME MESSAGE!