テキスト全文
片頭痛診療の重要性と初めの一歩
#1. Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital 片頭痛診療、
はじめの一歩。
#2. Introduction 非常にコモンな疾患でありながら、片頭痛はなかなか治療介入できずにいる医師も多いのではないかと思われます。
片頭痛はプライマリケアの領域で、
もっと治療介入可能になるべき疾患の一つでしょう。
本スライドは、治療を始めるにあたって、その「初めの一歩」を踏み出す手助けができればと思い、作成しています。
まずはこのスライドのミニマムレベルを学んで、
実践しながら、片頭痛診療ができるようになりましょう。
片頭痛の診断基準と特徴
#4. 片頭痛を
否定しない、
ことから始める。 頭痛性状の特徴は、「片側性」、「拍動性」頭痛であるがこれでは決め難い。 片側性でなく、両側性であることもある。
両側性だからといって片頭痛を否定しない。非拍動性でも否定しない。
片頭痛の緊張型頭痛との合併もあり。緊張型頭痛っぽいな、という症状があっても、 片頭痛を否定しない。後述の特徴を確認しながら、
「まずは片頭痛を否定しないで、そこに片頭痛らしさがないか?」
を確認していくことが重要です。
片頭痛のスクリーニング方法
#5. 片頭痛らしさ?
→日常生活に支障。 片頭痛らしさにおいて、「中等度~重度の頭痛」で、
「動作により悪化し、生活に支障をきたす」ことが重視されています。
●頭痛で寝込んでしまう ●頭痛で仕事や学校を休む
●頭痛で家事ができない ●頭痛が辛い
これらがないか聴取しましょう。これに、”悪心”の併存を加えて、「中等度以上の頭痛、 動作により悪化し、生活に支障のある頭痛で、“悪心を伴う”頭痛が反復する」。
この臨床像で片頭痛を疑う、というのが最もシンプルな評価です。
#6. 片頭痛
スクリーニング。 片頭痛簡易スクリーナーがあり、これを参照してください。
1)動作による頭痛の悪化、2)悪心、3)光過敏、4)臭過敏
のうち、2項目以上あれば片頭痛の可能性が高いとしています。
1)、2)はすでに述べました。3)、4)については以下のように質問しましょう。
光過敏:「日光や照明を不快に感じたり、部屋を暗くしていませんか?」
臭過敏:「頭痛の時他人の香水やたばこなど、臭いが嫌に感じますか?」
この2つの質問も、closed questionで聴取しましょう。
片頭痛治療薬の選択肢と使用法
#7. 「日常生活に支障はありませんか?」
比較的強い頭痛で、悪心があり、体動で増悪、日常生活に支障があれば片頭痛を考慮。
「頭痛時、まぶしいのが嫌だったり、臭いを不快に感じたりはしませんか?音や声が響くように感じますか?」
光過敏、臭過敏も聴取。追加して、音過敏も。
「頭痛の前に視界がチカチカしたり、フラッシュのような光やギザギザした光などが見えることはありませんか?」
視覚性前兆、閃輝暗点の有無についても追加で聴取しましょう。 質問まとめ。これらを聴取してください。
#9. 片頭痛では、「頭痛発作が軽度である場合には、アセトアミノフェン、NSAIDsを選択し、中等度以上の頭痛や、アセトアミノフェン、NSAIDsで改善しない場合には、トリプタンを選択する」というポリシーになっています。重症度が高くなければ、ロキソニンで対応してもよいです。
また、NSAIDsはトリプタン単剤での効果不十分のときに、トリプタンと併用して内服、という使い方もあります。作用機序の違う薬剤の併用による相乗効果が期待されます。 はじめの一歩の薬剤①
NSAIDs
→ここでは、「ロキソニン」を覚えよう。
#10. いずれの薬でもそうですが、1ジャンルに複数薬剤がある場合には、まずは1剤に決めて、投薬に習熟していくのがいいと思われます。ここでは、マクサルトをまずは覚えましょう。マクサルトの特徴としては、高い抗片頭痛効果、速効性が挙げられます。半減期が短いので、再発性の片頭痛には不向きであること、めまい感や眠気、倦怠感の副作用があること、が弱点として挙げられます。
トリプタンのブランド選択については、あるブランドが効果不十分なら、他のブランドに変更をしていく(トリプタンローテーションをする)ことなっています。「まずはマクサルトから、効果不十分なら他のトリプタンへの変更を」ということになります。 はじめの一歩の薬剤②
トリプタン
→ここでは、「マクサルト」を覚えよう。
トリプタンの禁忌と注意点
#11. トリプタンの禁忌は以下です。
心血管障害や脳血管障害、末梢血管障害の症状や既往
コントロールされていない高血圧症
重度の肝機能障害、腎機能障害の存在
これらはないことを、必ず確認しましょう。投薬前に一般採血、心電図は確認しておくのは無難です。トリプタンの副作用は、あっても一過性であります。有害事象で多いのは、めまい感と眠気です。これらを患者説明しましょう。 トリプタンの
禁忌①
#12. トリプタンの、他の禁忌は以下です。
片麻痺性片頭痛 :前兆として可逆的脱力を認める片頭痛
脳幹性前兆を伴う片頭痛:回転性めまいや耳鳴りの前兆伴う片頭痛
これら2型はトリプタンの使用は禁忌とされています。
特殊な症状を前兆として認める場合には、専門医へコンサルト、がいいでしょう。 トリプタンの
禁忌②
ナウゼリンと漢方薬の役割
#13. ナウゼリンも投薬選択肢として覚えましょう。
頭痛発作前の予兆期/前兆期内服、もしくは頭痛発作時に他の薬剤と伴に内服します。
ナウゼリン(ドンペリドン)の予兆期/前兆期内服は三つのメリットがあります。
悪心を軽減できる
その後内服するトリプタンの吸収を促進する
予兆期/前兆期に使用すると頭痛発現が軽減/抑制できる場合がある
「悪心が目立つ場合」には、選択肢として検討してみましょう。 はじめの一歩の薬剤③
制吐剤
→ここでは、「ナウゼリン」を覚えよう。
#14. ガイドラインでも記載がある漢方薬で、片頭痛での有効性が報告されています。NSAIDs、トリプタン以外の一手として、患者さんへの治療選択肢の一つとして覚えておいていい薬剤です。
予防薬的に投与すると頭痛の程度減弱と、頭痛回数の減少効果があります。
血管障害リスクなど、トリプタンの使用がしにくい場合にもよい適応です。 はじめの一歩の薬剤④
漢方薬
→ここでは、「呉茱萸湯(ごしゅゆとう)」
を覚えよう。
片頭痛の投薬モデルとタイミング
#16. ①軽症ならロキソニン マクサルトは追加で飲める。
初回内服から、
2時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、マクサルト ③シビアなら、ロキソニン+マクサルトも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期
#17. ①軽症ならロキソニン マクサルトは追加で飲める。
初回内服から、
2時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、マクサルト ③シビアなら、ロキソニン+マクサルトも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期 トリプタン内服は
早すぎず遅すぎず。
内服タイミング重要。
頭痛発症から1時間以内。
#18. ①軽症ならロキソニン マクサルトは追加で飲める。
初回内服から、
2時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、マクサルト ③シビアなら、ロキソニン+マクサルトも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期 処方
マクサルト10mg 1T 頭痛時屯用
※効果乏しければ、2時間後に1T追加内服可
ナウゼリン5mg 1T 悪心時屯用
※予防的内服、もしくは悪心出現時内服
ロキソニン60mg 1T 頭痛時屯用
※頭痛ひどいときは、マクサルトと併用可
女性の片頭痛とその治療法
#20. 「女性をみたら、片頭痛を疑え」とも言われるくらい。女性の片頭痛について理解しよう。 月経に関連する片頭痛は、片頭痛としての認識が乏しく、十分な治療介入ができていない可能性があります。
エストロゲンの急激な変動時(排卵期や月経初日前後)に頭痛が起こりやすく、月経開始 2日前から月経3日目までの5日間に最も起こりやすいとされます。
#21. 月経関連片頭痛の特徴として、再発/再然が多いことが挙げられます。
よって、トリプタンの中でも半減期の長い、アマージが選択されることが多いです。
マクサルトは効果は強いですが、半減期の短さが問題です。
特徴の違う、マクサルトとアマージをまずは覚えるといいでしょう。
こと、月経関連片頭痛では、アマージをまずは使ってみましょう。 はじめの一歩の薬剤⑤
トリプタン
→ここでは、「アマージ」を覚えよう。
#22. 月経関連片頭痛の特徴として、比較的強い症状であることが言われています。
トリプタンとNSAIDsを同時に内服するのは一つの手段です。
「トリプタンのみで効果が不十分なときの選択肢」として知っておいてください。 はじめの一歩の薬剤⑥
トリプタン+NSAIDs
→強い頭痛には、「アマージ+ロキソニン」。
アマージとロキソニンの併用法
#23. ①軽症ならロキソニン アマージは追加で飲める。
初回内服から、
4時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、アマージ ③シビアなら、ロキソニン+アマージも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期
#24. ①軽症ならロキソニン アマージは追加で飲める。
初回内服から、
4時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、アマージ ③シビアなら、ロキソニン+アマージも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期 トリプタン内服は
早すぎず遅すぎず。
内服タイミング重要。
頭痛発症から1時間以内。
#25. ①軽症ならロキソニン アマージは追加で飲める。
初回内服から、
4時間後追加内服可。 悪心あるなら、ナウゼリン 時間経過と投薬タイミング ②強いなら、アマージ ③シビアなら、ロキソニン+アマージも選択肢 頭痛症状 前兆・予兆期 処方
アマージ2.5mg 1T 頭痛時屯用
※効果乏しければ、4時間後に1T追加内服可
ナウゼリン5mg 1T 悪心時屯用
※予防的内服、もしくは悪心出現時内服
ロキソニン60mg 1T 頭痛時屯用
※頭痛ひどいときは、アマージと併用可
片頭痛予防薬の導入と重要性
#27. 頭痛頻度が多い場合には、片頭痛予防薬の導入が検討されます。導入基準は色々示されていますが、発作が月に2回以上、あるいは6日以上あるなら検討、とされています。ガイドラインでの推奨グレードは高くはありませんが、処方のハードルの低さ(Caブロッカーなので内科医としては出しやすい)、副作用の少なさからは、テラナスがおすすめです。妊娠時には使用できないので、その点は注意して下さい。
「片頭痛には予防薬がある」、ということを覚えておくことが必要です。また、なかなか頭痛のコントロールがつかない場合には、専門医へのコンサルテーションが必要です。 はじめの一歩の薬剤⑦
ロメリジンは副作用少なく、使いやすい
→手はじめに覚えるなら、「テラナス」。
→予防療法の存在も忘れずに。
#28. Common diseaseであるものの、なかなか治療について
一歩を踏み出しにくいのが片頭痛診療です。
はじめの一歩が踏み出せれば、そこからステップアップが始まります。
まずは特定の投薬に慣れることが、重要な一歩になるというポリシーのもと、
このスライドは作成しています。
少しでも未診断症例が治療に結びつき、患者QOL向上につながればとても嬉しいです。 TAKE HOME MESSAGE!