テキスト全文
内科診療の基本と現病歴の重要性
#1. 一宮西病院 総合内科・リウマチ膠原病内科 若山 裕人 全ての内科医に知って欲しい内科診療の基本
#2. テーマ ☑
☑
事実と解釈の分離 ルーチンの身体診察 ☑
過去資料と現病歴
#3. 過去資料と現病歴 現病歴とは”患者の病気の体験談” 過去資料とは”医師から見た病歴” ”客観的なデータ” ”診察所見”や
過去資料と現病歴の聴取方法
#4. 過去資料と現病歴 × 4週間前から息切れが出現、2週間前から貧血があり、近医にかかり芽球を認め、急性白血病と診断された。
過去資料と現病歴が混在している”経過”
#5. 現病歴とは”患者の病気の体験談” ・患者がどのように病気を体験したかを聴取 ・教科書に載っていない体験談を聞く貴重な機会 ・患者のプロブレム全てに関して聴取する 現病歴
#6. 4週間前からゲートボールをしている際に心臓がドキドキと脈が速いため途中休むようになった。
2週間前から洗濯をするときにも息がはあはあとなり、食事量が普段の2/3程度になった。
1週間前からトイレにいくのにも息が上がるようになり、横になってすごす時間が増えた。
2日前から食事はほとんど取れず、ベッドから椅子にうつるのも息切れがするため病院に受診した。
良い現病歴
病歴聴取のポイントと身体診察のルーチン
#7. 病歴聴取 線で病歴をとる 起始 いつから 持続 いつまで 性質 どんな 契機 何をしている時に 反応 治療や行動への反応 程度 どのくらいか 病歴聴取のポイント
#8. 生活強度の高いことから制限が出始める ①趣味 ②運動 ③仕事 ④家事 病気によって生活にどのように制限がかかるか 病歴聴取のポイント
#9. #1 高血圧症 #2 糖尿病 #3 冠動脈硬化性狭窄症 #4 急性肺炎 本当にその病気らしいのか確認する 珍しい病気の体験談を聴取できる なぜ全てのプロブレムで病歴聴取が必要か
#10. ・全ての患者の頭から足先まで診察をする ・健常者の正常所見も大切にする ・陽性所見と陰性所見の境界がはっきりわかる
ようになる ・途中解釈を入れずに正確に記載する ルーチンの身体診察
バイタルサインと身体診察の観察項目
#13. バイタルサイン 血圧
脈圧大:AR、甲状腺機能亢進症などの心拍出量が増加
脈圧小:拡張期血圧が上がる病気では拡張障害を示唆
脈拍
一回拍出量の低下を代償
呼吸 20回以上→低酸素かアシデミアの有無に注目
呼吸補助筋の使用 胸鎖乳突筋、斜角筋
吸気<呼気 1:1.5
頭部と胸部の診察方法
#15. 頭部 喉の粘膜の血管、歯、頬粘膜
舌の裏(舌静脈)
舌小帯
扁桃
口腔内 American Family Physician, 2024-11-01, Volume 110, Issue 5, Pages 467-475
#16. 頸部 頸静脈の2回内側に拍動しているところの、胸骨角から高さを測定 座位で鎖骨上に頸静脈拍動
→CVP 15-20cmH2O以上 内科臨床誌 メディチーナ VOL.59 NO4 頸静脈
#17. 胸部 位置:触れる最外側点
範囲:1肋間以上は心拡大疑い
パターン:強弱、不規則など ベイツ診察法ポケットガイド 第4版 触診 位置、範囲、パターンを確認 位置、範囲、パターンを確認 臥位で見えなければ左側臥位にする
#18. 胸部 心音 ・大動脈弁領域 第2肋間胸骨右縁(2RSB)
・肺動脈弁領域 第2肋間胸骨左縁(2LSB)
・三尖弁領域 第4肋間胸骨左縁(4LSB)
・僧帽弁領域 心尖拍動の外上方部 心基部側(2R,2L)
Ⅰ音<Ⅱ音 心尖部側(4L,Ap)
Ⅰ音>Ⅱ音 場所、大きさ(Levine)、高さ、放散、時相 ベイツ診察法ポケットガイド 第4版
腹部の診察とリンパ節の評価
#19. 聴診 薬局 74巻 4号 pp. 708-709 呼吸音 身体診察免許皆伝 気管支呼吸音と肺胞呼吸音
#20. 胸部の打診 左腋窩から胸骨に向けて打診すると清音から濁音になる
左鎖骨中線(左乳頭)より内側に境界があれば異常なし
肺気腫では境界が消失 胸部の打診と聴診 看護学雑誌 44巻 8号
#21. 胸部 頭側から叩いて肝臓の上縁・下縁
を見つける G.I. 911: Rapid Response to Acute Abdomen || National Center of Continuing Education 打診 打診しながら吸気で横隔膜が動く
吸気時に肝臓上縁が清音
呼気時に打診音は濁音
#22. 腹部 両膝を曲げて立てることで腹壁の力がゆるむ
横から見て、どこが最強点か
手術痕の有無
腸雑音は(高/低)調で15秒に◯回グル音を聴取 サパイラ 身体所見のアートとサイエンス 第4版 視診 聴診
四肢の診察と身体診察の上達法
#23. 腹部 表面を触り、皮下組織に何かないか(腫瘤など)を確認する 腹部を揺らして腹膜が痛くないかとどの臓器に触れているか意識して診察
少し深く押して筋肉の層まで押す、必ずどの層を押しているか意識する
触診・打診
#24. リンパ節 頸部
鎖骨上窩
腋窩
鼠径
頸部と鎖骨と腋窩のリンパ節は悪性腫瘍で多い ClinicalKey Introduction Frank H. Netter MD
Plate 16 Overview of Lymph Vessels and Lymphoid Organs サイズ・可動性・境界
・硬さ・圧痛
#25. 四肢 手掌・足底
爪
動脈の触診
脈圧、硬さ
Hospitalist 10巻 1号 pp. 105-114(2022年09月) Hospitalist 7巻1号 (2019年3月発行)pp.150-155(2019年3月1日) Am Fam Physician. 2012;85(8):779-787 浮腫、皮疹
#26. ルーチンの診察を徹底し正常と異常の境界を
はっきりさせる 自分よりも診察のできる上級医と所見を擦り合
わせる 身体診察の上達のために必要なこと CTやエコーであった異常所見を再度診察で撮
りに行く
事実と解釈の分離と診断の過程
#27. 事実と解釈 知らず知らずのうちに自身や他者の解釈の
入った診療をしていることを自覚する どこまでが事実でどこからが解釈なのか
を理解する 所見を正確に書くことで事実を明瞭にする 事実と解釈
#28. 事実と解釈 例)胸部単純CTで2cm程度の”肺癌”を認める(解釈) 2cm程度の”腫瘤”を認める(事実) 腫瘤 膿瘍 腫瘍 嚢胞 肉芽種 血腫 事実と解釈 事実と解釈
#29. 診断とは ・名無しの処から始まり、一般広範な名を経て、特殊な名
を求めていく過程。
・広範な集合から、より狭い集合へと絞っていく作業。
例:発熱症→急性肺炎→肺炎球菌肺炎
診断の集合とその進め方
#35. 時に古典的疾患名でなくても、そうとしか呼べないこともある。
例:慢性進行性運動麻痺症等 その時その都度その時点での紛れもない診断名である
例:発熱症、嘔吐症、食思不振症 診断とは
#36. ・診断は根拠事象を持って集合を右に進めていく ・集合は絶対的で互いに重複があってはならない ・集合はカテゴリーを意識して作成する 診断とは
プロブレムリストの立て方と実例
#37. ・診断は根拠事象を持って集合を右に進めていく ・集合は絶対的で互いに重複があってはならない ・集合はカテゴリーを意識して作成する 診断とは 自分が不用意に集合を右に進めていない
かを意識する
#38. 形態範疇:心筋症、脳梗塞、慢性腎炎、インスリノーマ
「疾患」には2つの異なる範疇がある。
診断とは 機能範疇:心不全、失語症、腎不全、低血糖症
#39. プロブレムリストの立て方 主訴 現病歴 診察所見 検査結果 過去資料 患者が困っていること 異常な診察所見 異常な検査所見
#40. プロブレムリストの立て方 ①プロブレムは時系列順 ②プロブレムの数は病気の数 ③疑い病名はつけない
#41. 原因域 結果域 1成立の過程 2誘因 3病気の性質 1機能障害 2形態変化 3合併症 いわゆる鑑別疾患 病気が体に与える影響 プロブレム毎の考え方
#42. #1 高血圧症 S)15年前に検診で指摘。家族歴・運動習慣なし O)ECG:SV1+RV5 3.1mV A)原因:2次性高血圧の精査は未 P)Tx アムロジピン 10mg 単純CT:大動脈弓の約30%が石灰化 TTE: IVST 12mm PWT 12mm 結果:心筋肥大 動脈硬化 腎硬化症 腎は縦5.7cm×横3.2cmで辺縁不整 実際のカルテ記載の例 週に1回はラーメンを食べる
低K血症の考え方と鑑別疾患
#43. #1 高血圧症 #2 糖尿病 #3 冠動脈硬化性狭窄症 #4 急性肺炎 プロブレム間の関係 #1-#4の関係に関して
評価する #1と#2がおそらく#3
を引き起こしたと理解
#44. 低K血症を用いて考え方を追加説明 ※元々別の発表スライドから追記していますので
繋がり悪いですがご容赦ください
#45. 低◯◯血症の考え方(原因) 摂取不足 排泄過多 シフト 排泄とシフトの要素は物質により異なる
#46. 低◯◯血症の考え方(結果) 消化管 骨格筋 神経 血液 心筋 腎臓 電解質異常がそれぞれどの臓器に影響を与えているか
#47. Hospitalist Vol 2 No 1 2014.3 他の電解質異常よりもシフトを起こす要素が多い シフトが強い時は高K血症でもK欠乏の時がある 排泄の9割は尿中から排泄 Kの体内動態
#48. 低K血症の鑑別疾患(原因域) 腎排泄 シフト 尿細管性アシドーシス 薬剤(利尿薬等) 内分泌(コルチゾール・PA) 低Mg血症 先天性チャネル異常症 アルカローシス β刺激・甲状腺機能亢進 高血糖・インスリン 造血亢進 薬剤
病気のアセスメントと理解の深化
#49. 低K血症 (⊃希釈) ⊃シフト ⊃欠乏⊃摂取不足 ⊃消化管 ⊃腎臓 ⊃薬 ⊃先天性チャネル異常 ⊃RTA ⊃低Mg血症 ⊃ミネラルコルチコイド過剰 尿中K/血液ガス/薬をチェック ⊃排泄過多 低K血症の鑑別疾患(原因域)
#50. 筋肉 心筋 腎臓 臨床症状 臓器 筋力低下・筋痙攣・呼吸筋麻痺・横紋筋融解 消化管 消化管の平滑筋運動低下に腹満感や食指不振や嘔吐 偽性結腸閉塞の原因となる 通常は下肢から始まり体幹・上肢へ進行 Up to date clinical manifestation and treatment of hypokalemia in adult PVC・AF・VF・U波・T波の平坦化・ST変化 心電図変化の程度はKと相関しない 尿細管障害・アンモニア産生増加・血圧上昇 低K血症の結果域
#51. 病気のアセスメントの仕方 (カルテのAに記載する項目) 松波総合病院 傍島卓也先生スライドより一部改変 正しい診療への合理的アプローチ 栗本秀彦 著
もう少し具体的に
#52. 原因域 結果域 1成立の過程 2誘因 3病気の性質 1機能障害 2形態変化 3合併症 いわゆる鑑別疾患 病気が体に与える影響 プロブレム毎の考え方
#53. 現状把握(プロブレムを理解) A.原因域
(どうしてこんな事態になってしまったのか)
B.結果域
(病気が、どのような悪さをしているのか)
#54. 現状把握(プロブレムを理解) A.原因域
(どうしてこんな事態になってしまったのか)
B.結果域
(病気が、どのような悪さをしているのか)
#55. 現状把握(プロブレムを理解) 黄色ブドウ球菌→皮膚の傷口から侵入→血流に乗る→僧帽弁で増殖→疣贅→脳塞栓
↑ |←ーーーーーーーーーー pathogenesis——————————→|
Etiology EtiologyとPathogenesisを考える
#56. 現状把握(プロブレムを理解) ・微生物
・抗原
・遺伝子変異
・薬剤等 Etiology Pathogenesis ・侵入ルート
・進展経路
・基礎疾患等
患者全体の理解と推奨リソース
#57. 現状把握(プロブレムを理解) A.原因域
(どうしてこんな事態になってしまったのか)
B.結果域
(病気が、どのような悪さをしているのか)
#58. 現状把握(プロブレムを理解) 病気が、どのような悪さをしているのか
例:範囲・段階 ex. 癌のステージ
例:機能障害の程度 ex. パーキンソン病のヤール分類
例:合併症 ex. 感染性心内膜炎に続発した糸球体腎炎
#59. 原因域 結果域 1成立の過程 2誘因 3病気の性質 1機能障害 2形態変化 3合併症 いわゆる鑑別疾患 病気が体に与える影響 プロブレム毎の考え方 自分が原因について考えているのか
結果について考えているのか意識する
#61. 患者の全体を理解する 患者に起きている事実 (基礎資料) ただしく分解してリスト化 (プロブレムリスト) 正しい診療への合理的アプローチ 栗本秀彦 著
#62. 正しい診療への合理的アプローチ 栗本秀彦 著 推薦図書と推薦動画 Youtube “松波総合内科”で検索→臨床推論 これらを使った病態生理から迫る臨床推論スライドもupしてありますのでぜひご覧ください!! 講演や勉強会にご興味のある方ぜひご連絡ください! 一宮西病院内科専攻医研修ホームページ (責任を持って内科力を鍛えます!!!
旅費も出るのでぜひ見学にお越し下さい!)
#63. 推薦図書と推薦動画 内科学研鑽会 ホームページ (過去の討論を閲覧できます) 臨床内科学ホームページ (臨床医学基本講義がおすすめです) ※栗本秀彦先生の作成されたサイトです