テキスト全文
実践的せん妄治療薬の導入と背景
#1. Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital 使いながら覚える
実践的せん妄治療薬 Daisuke Yamamoto
#2. Introduction いずれの処方薬でも、
実際に処方しながら、患者さんや家族、スタッフからの
フィードバックを受けつつ、習熟していくしかありません。
鎮静薬の使用に抵抗感がある人も多いと思います。
しかしながら、病棟医の必須処方薬です。
本スライドで学んで、
少しずつ実践し、使いながら覚えてください。
処方前に確認すべき全身状態
#3. 処方前の背景知識 処方前に知っておいてほしいこと。
#4. 以下は確認しよう。
脱水症、感染症、薬剤性要因、その他全身状態の変化 がないか?
全身状態を修飾しうる要因がないか、確認するスタンスは重要。
ラボデータのチェックをしてみてもいい。精神症状を修飾しうる、
全身状態の変化を来たす病態の可能性について必ず検討してみること。
せん妄に至る原因を、
一応チェックしよう。
#5. せん妄状態になってからでは遅い。
不穏・せん妄になる前に投薬介入するのが原則である。
「不穏時リスパダール屯用」では、飲んでももらえない可能性高い。
よって、不穏・せん妄予防には、事前投薬が原則!
よって、処方は、『夕食後 内服』が妥当。
「眠前内服」も飲んでもらえないかもしれない。 治療原則:
せん妄に至る前に
投薬コントロールすること。
主要な抗精神病薬の特徴と効果
#6. 処方薬の知識 薬物の特徴、強度、禁忌について。
#7. メマリー グラマリール セロクエル リスパダール 抗精神病薬
チアプリド 抗精神病薬
クエチアピン 抗精神病薬
リスペリドン NMDA受容体拮抗薬
メマンチン 四つの薬と治療強度のイメージを覚えよう。 弱 弱 中 強
#8. 認知症治療薬であるが、BPSDコントロールに有効。
いいところ
抗精神病薬でないので処方しやすい。また、認知症治療にもなる。
マイルド。過鎮静にもなりにくい。
わるいところ
効果不十分な可能性があり、強いせん妄には太刀打ちできない。
上級者向け。まずは他の抗精神病薬に習熟するのがおすすめ。
弱:メマリー
アルツハイマー型認知症治療薬でもある。
弱点あるが、使い慣れると臨床力UP!
各薬剤の利点と欠点の比較
#9. 失敗しにくいが、十分コントロールできない可能性もある。
いいところ
副作用問題になりにくい。継続処方も許容しやすい。
マイルド。過鎮静にもなりにくい。
わるいところ
効果不十分な可能性があり、強いせん妄には太刀打ちできない。
弱:グラマリール
使いやすいし、副作用も気にならない。
効果はマイルドで、失敗しにくい。
#10. 中:セロクエル
理想的プロフィール。
ただし、DM禁忌が最大のネック。 半減期が短く、夜間せん妄対策には理想的プロフィール。
いいところ
翌日持越しリスク低い。夜だけ効果が期待できる。
錐体外路障害の副作用リスクが低いのも魅力的。
わるいところ
DM禁忌。これで使えない人が多い。
#11. いいところ
確かな有効性。速効性。
わるいところ
DM禁忌ではないが、教科書的には血糖値は上昇しうる。
過鎮静リスク。
翌日持越しリスク。誤嚥性肺炎や転倒骨折リスク。
強:リスパダール
確かな有効性。
ただし、過鎮静が心配ではあり。
処方例とそのフィードバック方法
#12. 実際の処方例 処方例の方法で試してみよう。
慎重にフィードバックを受けながら、対応しよう。
#13. 興奮は軽度な場合。
過鎮静は困る病態がある場合。
外来で、急を要していない場合。
まずは弱めで始めてみたい場合。
弱:
グラマリール処方例 グラマリール50mg1X夕食後
で開始。
うまくいかなければ、
治療強度を上げる。
#14. 弱:
グラマリールのTIPS うまくいかなければ、潔く他剤への変更を検討する。
一方、他剤でコントロールついた後に、心配なら、
他剤から、グラマリールに変更するのも一手。
一般的に、せん妄、BPSDコントロールがついた後には、
減薬・中止が可能なことが多い。
グラマリールは継続処方のしやすい薬剤と理解する。
せん妄コントロールのための処方戦略
#15. 夜間せん妄におすすめ。
DMがないことは絶対確認。
少量から有効性期待できる。
中:
セロクエル処方例 セロクエル
12.5~25mg1X夕食後
で開始。
うまくいかなければ
75mg1X まで増量、
OR リスパダールに変更。
#16. 中:
セロクエルのTIPS 体格が小さい場合、過鎮静が心配な場合には、
12.5mg1Xからの処方がおすすめ。
少量でもうまくいく。
体格とせん妄強度をみながら、用量設定を試みる。
うまくいかないときには、リスパダールへの変更を
検討する。変更が有効であることは、臨床的にはあり。
とにかく、DM禁忌!忘れない。
落ち着いたら減量検討。継続処方可。
#17. 興奮が強い場合。
速効性を期待したい場合。
家族が強く困っている場合。
せん妄コントロールが重視される場合。
強:
リスパダール処方例 リスパダール
0.5mg1X夕食後
で開始。
うまくいかなければ
1.0~2.0mg1X まで増量。
メマリーの使用法と注意点
#18. 強:
リスパダールのTIPS 0.5mg1Xで開始するのがセオリー。
1.0mgから始めると強すぎることがある。
安全には、0.5mgから開始するのがおすすめ。
日中のBPSD強い場合には、増量過程で朝夕内服の2Xに増量していく。
投薬し、落ち着いてきた場合には減量可能であることを、
知っておくこと。同量常用しなくても安定しうる。
少量なら継続処方可。減量後、中止や他剤への変更検討。
#19. 絶対過鎮静は避けたい場合。
超高齢である場合。
病態が不安定で失敗したくない
場合。 弱:
メマリー処方例 メマリー 5mg1X夕食後
で開始。
効果をみながら、1週間後、
10mg1X まで増量する。
それで有効なら、同量継続で。
(最大20mg1Xまで処方可)
#20. 弱:
メマリーのTIPS これまでの抗精神病薬とはニュアンスの違う薬剤。
病態が不安定で心配な場合に使用。
例:超高齢患者の心不全のせん妄コントロールなど
弱点は、増量は1週間おきにすること、というルールがあること、適応症はアルツハイマー型認知症である、ということ。5-10mg/dayでも十分落ち着く場合がある。
少し時間的に余裕があるなら、メマリーは試してもよい。
その後の処方継続も可能であり、有用な薬である。
医療における仁術と成長の重要性
#21. 医は仁術、という言葉がありますが、仁たる姿勢とは、治療をして、患者さんからのフィードバックを受け、それを糧に、たゆまず勉強し成長し続ける様であります。
せん妄・BPSD治療の習熟は、まさにこれそのものであります。
専門家にコンサルテーションできない現場でも、
自分で治療行動を起こし、患者のメリットを考え、
フィードバックを得ながら成長する、仁たる姿勢が理想と思います。 TAKE HOME MESSAGE!