テキスト全文
症例報告の意義と原則について
#1. 2026年9月28日
市立伊勢総合病院 総合診療教育研究センター
谷崎隆太郎 感染症系 Case report/ Clinical picture の書き方
#2. 症例報告 Case Report とは 臨床に携わる者だけが記載することができる、最も古くから存在する医学コミュニケーションであり、臨床医の質を測る指標の1つ。 自身の診療と向き合うことでメタ認知する機会が得られ、以降の臨床能力が格段にレベルアップする、秘薬(ドーピング)のようなもの。
谷崎が考える
#3. 原則 伝える内容が「明確」で、「一般化」でき、「教育的、教訓的」なもの。
診断根拠を十分に示すことができるもの。
何かしら新奇性があるもの。 ※必ずしも成功体験でなくて良い。むしろ実際には、失敗体験の方がより多くの臨床医に寄与する。
Case ReportとClinical Pictureの違い
#4. 医学教育における症例報告の意義。千葉医学 93:31 ~ 33,2017
#5. Case report か Clinical picture か ※字数、文献数、著者数はジャーナル・記事カテゴリーにより大きく異なる。
#6. Case Report を
書こう! Case Report Clinical Picture or 新奇性の内容は? 新たな症状、新たな治療、
治療の有害事象・副作用、
極めて珍しい事例、など その疾患の典型・非典型を
熟知しておかないといけない 文献を通じた勉強が必要 臨床能力UP!
先行文献の検索とエビデンスレベル
#7. 先行文献の検索 主に PUBMED などで検索。
基本は、当該疾患の過去のすべての症例報告に目を通す。
あまりに数が膨大すぎる場合は Case Series や Systematic review がすでに存在することが多いので、まずはそれらの中での最新年度の Review 文献を読んで基本的な知識を充填する。 まあとにかく勉強になる。
#8. 臨床能力も上げてくれるなんて、Case Report って素晴らしい・・・! しかし・・・
#9. Case Report は引用されにくい=ジャーナルの Impact factor が上がりにくい JAMA 2005; 293: 2362–6
#10. エビデンスレベルが低い・・・? J Bodyw Mov Ther 2012;16(1):42-9 もう Case Report は
受理しなくていいのでは?
症例報告の役割と重要性
#11. エビデンスレベルが低い・・・? J Bodyw Mov Ther 2012;16(1):42-9
#12. 多くの臨床医は、
「Case Report や Case Series を医学文献の中で二流に追いやることは、赤ん坊を風呂の水と一緒に捨てるようなものだ。」
と抗議するであろう Jan P. Vandenbroucke 2001
#13. 症例報告 Case Report の役割 新しい疾患の認識と記述
薬の予期せぬ効果や有害事象の検出
疾患のメカニズムの研究
医学教育・監査として活用
疾患の稀な病型の認識 Ann Intern Med 2001; 134: 330-334 ※EUで2002~2011年に安全性を理由に撤退した19薬剤のうち、18薬剤(95%)で case report が根拠として引用された。 BMJ Open 2014; 4: e004221
#14. Case Report や Case Series はエビデンスレベルでは
最低あるいは最弱かもしれないが、
しばしば第一線のエビデンスであり続けることに変わりはない。
ここから全てが始まるのである。 Jenicek M. Clinical case reporting in evidence-based medicine. Oxford: Butterworth-Heinemann; 1999:117; cited in Vandenbroucke JP. In defense of case reports and case series. Ann Intern Med. 2001;134:330-4.
感染症系症例報告の書き方のコツ
#15. すべては症例報告から始まる Case Report Case Series Cohort study Randomized Controlled Trial Meta-analysis Case-Control Study
#16. 感染症系 Case report にするときのコツ 「患者背景 × 臓器 × 微生物 × 治療」の
どこかで新奇性を探す。
日本初の感染症症例報告の紹介
#18. PCRで同定された日本初の Plasmodium knowlesi 感染症の輸入感染例(珍しい!) PCRでは P. vivax の primer で増幅されることがあり、本症例でも最初は P.vivax と判定されたが、DNA sequencing で P. knowlesi と同定された。
(診断へのインパクトが大きい!) IF: 3.0 (2024)
#19. 89歳男性に生じた、世界初の
Sphingobium yanoikuyae 菌血症の1例 IF: 7.2 (2024) とにかく、ヒトへの感染が珍しい微生物による菌血症
#20. 乳がん全身多発転移(入院後診断)の
患者に起きた、
Streptococcus dysgalactiae 菌血症
+
感染性心内膜炎
+
化膿性膝関節炎
+
化膿性脳室炎 バンコマイシンの腰椎穿刺からの髄腔内投与で神経学的後遺症なく救命しえた世界初の報告。 IF: 1.6 (2024)
Clinical Pictureの具体例と教育的意義
#21. 35歳の基礎疾患のない成人に生じた世界初のデバイス関連でも IE でもない S. saccharolyticus 菌血症。 発熱、頭痛を主訴に来院したので、髄膜炎かと思ったら菌血症だった。 最初の Revise まで8ヶ月かかり、その間に抗菌薬感受性についての最新データがEUCAST から発表され、当該部分はすべて書き直しに・・・。 IF: 3.1 (2025)
#22. 「患者背景 × 臓器 × 微生物 × 治療」の
どこかで新奇性を探す。
#23. 実際の Clinical picture の紹介
稀な病態の症例報告とその影響
#24. ダウン症の40代女性に生じた、
脳・脊髄結核腫、塗沫陽性肺結核。 最初は転移性脳腫瘍として消化管精査がされていた。転移と思っても、やっぱり結核の可能性は検討すべき(教育的!) Intern Med 2014; 53: 1457-1458. IF: 1.1 (2024) 見た目のインパクトがある
#25. 電撃性紫斑病という稀な病態(珍しいが、すでに多数の報告はある)。
末梢血のグラム染色でも菌が見えた!(臨床的インパクト大!)
診断にも非常に有用。(教育的!) Emerg Med J 2017;34:199 IF: 2.7 (2024) 感染症は救急症例も多いので、
救急系ジャーナルも狙える。
#26. 2期梅毒といえば皮疹が有名だが、壊疽様の口唇炎の報告はない(今回初めて記録された新たな症状) IF: 13.0 (2025) CMAJ 2019; 191 (50): E1382. 原因不明の皮疹では、やっぱり2期梅毒は鑑別に入れよう(教育的!)
Case report/Clinical pictureの構成と注意点
#27. 肩関節の偽痛風グラム染色。
日本のジャーナルには
ひたすらRejectされた・・・
欧州では珍しい? Eur J Intern Med 2024; 124: 130-131. IF: 6.1 (2024)
#28. とにかく Clinical picture は見た目勝負!! 文章での解説がそれなりに必要であれば、それはきっと Case report 向き。
#29. Case report/ Clinical picture には型がある <構成>
Introduction → Case presentation → Discussion Introduction
これまで分かっていたこと
今回初めて分かったこと Case
重要なことはすべて書く
重要でないことはすべて書かない Discussion
今回の報告内容の短いまとめ
考察(過去との比較)、具体的な新奇性
一般化可能性、教訓など
CARE checklistと投稿の心得
#32. NEJM, JAMA, BMJ などの主要ジャーナルの編集者の集まり。 医学論文を出すにあたって
守るべきルール一式が記載 注:Case report/Clinical picture では、患者同意と匿名化が必須!! ジャーナルによっては、このICMJEに準拠した書類提出を
求められることもある。 ※特に顔面の画像の場合、目を黒く覆うだけでは不可。
#33. まとめ 感染症は「患者背景×臓器×微生物×治療」の掛け算で新奇性が作りやすい領域です。普段からCase report/Clinical picture になるのでは?といった嗅覚を養いましょう。 Reject上等!それぞれのジャーナルに適した内容があるので、諦めずに投稿を続けましょう。 新奇性の発見は高度な検査ではなく「この所見はこの疾患では説明がつかない」という臨床医の違和感から始まるので、ぜひそれを見える形で世の中にシェアしましょう。