テキスト全文
妊産婦とCOVID-19に関する知見と取り組みの概要
#1. 妊産婦とCOVID-19に関する知見と取り組み 2021/01/29
産婦人科医 平野 翔大
#2. COVID-19の「現状」
世界で得られた知見
今わかっていること
各シチュエーションでの「対応」
陽性妊婦・分娩
濃厚接触者・擬似症
入院時・分娩・分娩後
感染しないための「対策」
子供の感染
妊婦への指導
妊婦とワクチン Today’s agenda
#3. Q&A:COVID-19と妊産婦の「現状」 世界の感染症例から得られた知見
妊婦のCOVID-19感染リスクと重症化の可能性
#4. Q1. 妊婦は免疫力が低下しており、かかりやすい?
「妊婦だから感染しやすいということはない」
海外において妊婦の感染率が高いというdataはない
妊婦において”特別な”感染防御は要しない
日本の妊婦陽性者数は一般に比べて低い
「妊婦は免疫力が低下している」といった言説はno evidence ① COVID-19の「現状」
#5. Q2. 妊婦は重症化しやすい?
「妊婦は重症化しやすい可能性がある」
Meta-analysisにて妊婦での重症化率が高い可能性あり1)
米国の11月までの解析では妊婦の重症化リスクが指摘されている2)
死因はほぼ全例ARDS+肺炎
国内での妊婦死亡/呼吸器使用は1例(海外発症の外国人旅行者)
① COVID-19の「現状」 Allotey J et al, BMJ 2020; 370;m 3320.
CDC, Morbidity and Mortality weekly report 2020./11/6
#6. Q3. 重症化しやすい妊婦は?
「妊婦でも非妊婦と同じ重症化因子」
かなり疑わしい(複数の解析で指摘)
高齢・肥満・妊娠前からの糖尿病/高血圧
疑わしい(指摘している解析あり)
血清D-dimer, IL-6の上昇 ① COVID-19の「現状」 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第4.1版
妊婦におけるCOVID-19の転帰と感染経路
#7. Q4. 重症化した場合の転帰は?
「子宮内胎児死亡・早産・母体死亡を引き起こしうる」
母体死亡は1例のみ血栓塞栓、他はARDS+多臓器不全1)
IUFD例は母体重症肺炎+多臓器不全によるもの
新生児死亡も未熟性によるもの
出生例の33.7%が早産2) ① COVID-19の「現状」 Hessami K et al. J Matern Fetal Neonatal Med, 2020; 1-6.
Turan O et al. Int J Gynacol Obstet. 2020 Jul 24.
#8. Q5. 子宮内で感染(垂直感染)する?
「子宮内感染は否定できないが、奇形の原因にはならない」
垂直感染の可能性はあるが、胎児奇形・胎児死亡とは結びつかない
出生時から症状を有したPCR陽性例(垂直感染疑い)が1例存在1)
児からのIgM抗体検出報告あり2)
児の重篤な肺炎・敗血症の報告あり(中国)3) ① COVID-19の「現状」 1) Goh XL et al. Fetal Neonatal Ed. 2020. Jan;106(1): 112-113.
2) Fenizia C et al. Nat Commun, 2020. 11: 5128.
3) Lingkong Zeng et al. JAMA Prdiatr. 2020;174(7): 722-725.
#9. Q6. 分娩時に感染(産道感染)する?
「現時点では不明」
2020/4までの系統的レビュー
→30%で経腟分娩、新生児PCR(+)の4名はいずれもC/S ① COVID-19の「現状」 Elshafeey F et al. Int J Gynacol Obstet. 2020: 150: 47-52.
#10. Q7. 母乳でコロナウイルスに感染する?
「母乳PCRは陰性、RNAは検出、感染は否定的」
26例での母乳検査で、PCR陽性は0例、RNA陽性が4例1)
18例での母乳検査でPCR陽性が1例2)
→細胞培養でウイルス分離されず、感染性なしと判断
単一施設の周産期に感染した妊婦から生まれた101人の児を母子同室で直母3)
→発症例なし ① COVID-19の「現状」 1) Goh XL et al. Fetal Neonatal Ed. 2020. Jan;106(1): 112-113. 2) Chambers C et al. JAMA Pediatr.2020; 324(13): 1347-1348.
3) Dumitriu D te al. JAMA Pediatr. 2020; Oct 12; e204298.
新生児へのCOVID-19感染の影響とリスク
#11. Q8. 新生児が感染した場合どうなる?
「酸素投与・非侵襲的呼吸管理・人工呼吸を要し、死亡例もある」
「但し全例市中感染が疑われる」
NICUで37例の前方視的研究
41%に酸素投与
16%に非侵襲的呼吸管理
3%に人工換気
ダウン症・先天性心疾患合併の1例で死亡 ① COVID-19の「現状」 Kanburoglu MK et al. Pediatr infect dis J. 2020;39: e297-302
#12. 現時点で判明していること 産婦人科領域にかかわるまとめ
#13. 感染・重症化について
妊婦が感染しやすいという事実はない
市中での妊婦の感染率は健常成人と同等か低い
妊婦は重症化しやすい可能性がある
市中での妊婦の感染率は健常成人と同等か低い
高齢・肥満・妊娠前からの糖尿病/高血圧で要注意
重症化した場合、子宮内胎児死亡・早産・母体死亡を引き起こしうる
但し母体状態悪化に伴うもので、児の感染によるものは認めない
① COVID-19の「現状」
#14. 胎児/新生児への感染について
子宮内感染はあり得るが、奇形の原因とはならない
産道感染については不明
母乳では感染しない
但し現在は完全人工栄養が推奨されている
新生児の市中感染では死亡例がある
子宮内感染による直接的な死亡は現在認められていない
① COVID-19の「現状」
陽性妊婦に対する医療機関での対応策
#15. 日本での妊婦管理について
周産期医療センターを中心とした構造
ハイリスク分娩は基本的に周産期センター=総合病院
立ち会い・面会・里帰りは各施設にて制限
画一された制限は行われていない
公費PCRの対象
施設判断で全例PCRも認められている
① COVID-19の「現状」 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ (日本産婦人科学会)
#16. outline COVID-19の「現状」
世界で得られた知見
今わかっていること
各シチュエーションでの「対応」
陽性妊婦・分娩
濃厚接触者・擬似症
入院時・分娩・分娩後
感染しないための「対策」
子供の感染
妊婦への指導
妊婦とワクチン 導入
#17. 各シチュエーションにおける対応 ①陽性(感染)妊婦への対応
#18. 1-1. 陽性妊婦に対する対応 施設対応・感染防護
産科的管理は通常に準じる
各都道府県の対応要請に準じ、感染対策に留意
個室・CTGは専用に・使用後は消毒
分娩室は陰圧である必要はない
医療従事者はfull PPE(可能であればN95マスク)
会陰縫合は二重手袋+鈍針
② 各シチュエーションにおける感染対策 日本産婦人科学会 COVID-19への対応(第5版)
#19. 1-2. 陽性妊婦に対する対応 妊娠初期の陽性例
自宅安静を指示
流産や胎児奇形をきたす可能性は少ない
妊婦健診の延期を考慮
産科的異常(出血・腹痛・破水感など)がなければ1~2週の延長
② 各シチュエーションにおける感染対策 日本産婦人科学会 COVID-19への対応(第5版)
#20. 1-3. 陽性妊婦に対する対応 妊娠後期の陽性例
感染のみで帝王切開とする根拠はない
原疾患増悪のない限り、産科的管理としては通常妊婦と同様
母乳については要検討
完全人工栄養とすべき(学会指針)
直接母乳哺育・母児同室での感染はなかったという報告もあり
② 各シチュエーションにおける感染対策 日本産婦人科学会 COVID-19への対応(第5版)
濃厚接触者妊婦と擬似症妊婦への対応
#22. 2-1. 陽性妊婦に対する対応 実際の対応(私見)
リスク層別化が必要(特に後期)
COVID-19対応+分娩可能施設は限られる
糖尿病・高血圧・肥満・喫煙(妊娠前含)・血栓素因有は入院管理
特に分娩の可能性がある妊婦でのリスク有は注意
血栓素因=妊婦で血栓塞栓の報告あり+過凝固傾向
早産のリスクを洗い出しておく
無症候でも早産スクリーニングを検討
② 各シチュエーションにおける感染対策
#23. 2-2. 陽性妊婦に対する対応 実際の対応(私見) 管理目標:合併症なく隔離解除+医療従事者の感染防止
初診時:現状/リスク因子把握
隔離期間中に必要となる全ての診察を一度に行う
基本診察(内診+経腹/経腟エコー)
早産リスク評価(BTB/checkPROM®/エラスターゼ/腟培養/GBS など)
今後2週で必要になり得る検査
GDMの鑑別 ② 各シチュエーションにおける感染対策
#24. 2-3. 陽性妊婦に対する対応 実際の対応(私見) フォロー項目:身体所見+α
毎日のVital・適宜児心音doppler・下腿浮腫/Homan’s sign
定期的な採血(内科にて施行)
ハイリスク症例への対応
早産ハイリスク=早期のリンデロンを考慮
※治療目的にプレドニンを用いる事があり、主科と相談
※リトドリンは副作用に肺水腫があり、慎重に
重症化ハイリスク=早期からの投薬治療を考慮
※基本的に主科の方針を尊重(母体救命が第一優先) ② 各シチュエーションにおける感染対策
#25. 2-4. 陽性妊婦に対する対応 実際の対応(私見) 分娩が避けられない場合
<帝王切開とする理由>
医療者(特に助産師)の感染リスク低減
母子分離
設備上の問題(陰圧手術室など)
導線管理上の計画分娩
<帝王切開としない理由>
産科的適応はない ② 各シチュエーションにおける感染対策
#26. 各シチュエーションにおける対応 ②濃厚接触・擬似症妊婦への対応
入院時・分娩時の感染対策と基本方針
#27. 3-1. 濃厚接触者妊婦に対する対応(私見)
濃厚接触者としての標準的対応
妊婦であるのみで対応を変更する必要性はない
妊婦健診は延期を考慮(産婦人科感染症学会推奨)
日本の健診頻度であれば隔離期間の延期は問題になりにくい
自宅血圧測定を症例し、上昇時には電話連絡を指示
分娩遅延は慎重な対応を
分娩遅延効果が認められた薬剤はない
② 各シチュエーションにおける感染対策
#28. 3-2. 擬似症(疑い)妊婦に対する対応
「疑い患者」の定義を今一度確認
症状で診るなら「37.5度以上の発熱+呼吸器症状」
鑑別:インフルエンザ医・産科的発熱(子宮内感染・乳腺炎など)・喘息・アレルギー性鼻炎など
PCR陰性の評価に注意(≠非感染証明)
双方の症状が揃っている場合のfull PPE対応解除などは慎重に
医療者・設備を最優先に
地域周産期医療の維持を第一に、適切な施設での診療を
② 各シチュエーションにおける感染対策
#29. 各シチュエーションにおける対応 ③入院時・分娩時・分娩後の対応
#30. 4-1. Withコロナにおける診療の基本
徹底したスタンダートプリコーション
特に分娩時は血液飛散=アイシールド必須
糞口感染の疑いあり=分娩時の肛門の扱いに注意
Do not harmの原則
消毒法などについて、エビデンスのある消毒法の使用を!
人との接触は最低限に
立ち会いは非推奨・児への面会も形式を検討
② 各シチュエーションにおける感染対策
妊婦PCRスクリーニングと感染対策の重要性
#31. 4-2. Withコロナにおける分娩介助
血液飛散の現場
アイシールド必須
糞口感染が示唆
分娩介助時の肛門保護・処理について改めて検討
立ち会いの代替手段の工夫
ビデオ通話・児の窓越し面会etc…
是非皆様の施設での工夫をお聞かせください!
② 各シチュエーションにおける感染対策
#32. 4-3. 分娩後に生じる問題
母子分離となった場合のNICU面会
他院分娩の新生児搬送例・分娩後母親のみ退院例
院内分娩→NICUでも初産例の育児指導をどうするか?
院内他施設との整合性も問題になる
産褥熱のプロトコールを決めておく
産褥熱 or コロナ疑い?
母体熱発時は面会禁止・人工栄養も止むを得ず ② 各シチュエーションにおける感染対策
#33. 5. 妊婦PCRスクリーニングについて 栃木県妊婦PCR検査
35~36週での唾液法PCR検査
妊婦が自己採取し病院に持参→陽性のみ通知
PCRでの陰性証明は行うべきでない
分娩=最大5週間の幅→間での感染に無防備になる危険性
第3波の重要感染スポット:家庭内感染
検査前確率が高い場合には行う
帰省分娩・医療/介護/保育従事者・直近の旅行など ② 各シチュエーションにおける感染対策
#34. outline COVID-19の「現状」
世界で得られた知見
今わかっていること
各シチュエーションでの「対応」
陽性妊婦・分娩
濃厚接触者・擬似症
入院時・分娩・分娩後
感染しないための「対策」
子供の感染
妊婦への指導
妊婦とワクチン 導入
小児の感染リスクと妊婦への指導内容
#35. 小児の感染について 現時点で得られている情報(抜粋)
#36. 小児の感染に関するエビデンス
小児での感染率は低く、重症化率も低い
日本でも感染率は低く、死亡例なし、重症例も9歳までなし
健常小児では死亡率も低い
海外でも死亡例は全て基礎疾患あり
ウイルス排泄期間が長い可能性
海外でも死亡例は全て基礎疾患あり 3.感染しないための「対策」 Viner RM et al. JAMA Pediatr. 2020. 4573 Castagnoli R et al. JAMA Pediatr. 2020; 174; 882-9. Xu CLH et al. Pediatr infect disJ. 2020; 71(6):1547-1551.
#37. 第二子以降妊娠の対応(私見)
小児では重症化リスクは低くても、感染拡大リスクはある
妊婦も感染対策を最優先できない(糞便処理など)
ルーチンでの母子分離は勧められない
現状小児クラスターは少なく、持ち込み源としての重要性も高くない
有症状小児との接触については検討
スタンダートプリコーションの徹底が難しいという前提が必要 3.感染しないための「対策」
#38. 妊婦への指導について 妊婦に感染させないために
#39. 日常生活における指導
基本は全く同じ
手洗いうがい・マスク・適度な環境清拭(ミルトン®が有用)
イソジンの過度な使用に注意(ヨウ素含有)
家庭内受動喫煙に注意
現状小児クラスターは少なく、持ち込み源としての重要性も高くない
里帰り分娩は極力自粛させる
移動自体がリスク+妊婦の両親がリスク高い年代の可能性 3.感染しないための「対策」 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ (日本産婦人科学会)
#40. 受診に関する指導
妊婦健診(+子供の健診・予防接種)は控えないように指導
未受診リスクの方が遥かに高い
発熱・感冒症状があれば電話相談
主治医もしくは相談センターへ相談するように指示
インフルエンザの予防接種を
妊娠中可能である事が明らか 3.感染しないための「対策」 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ (日本産婦人科学会)
COVID-19ワクチンに関する妊婦への情報提供
#41. 感染に関する指導
感冒症状・発熱がある同居人とは家の中でも感染対策
妊婦は家庭内感染が多い!
別室・マスク着用・タオル/食器は別に、妊婦は触れない
感染時に起きうることを説明
重症化リスク、奇形リスクは低いこと、後期は早産などを起こしうること
3.感染しないための「対策」 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ (日本産婦人科学会)
#42. 妊婦とCOVID-19ワクチン 現時点で得られている情報
#43. SARS-CoV-19ワクチンに関する提言 米国生殖医学会タスクフォース(訳:日本生殖医学会)
生殖細胞や胎児に与える影響は不明
科学的根拠からは影響を与える可能性は非常に低いと考えられる
ワクチンの臨床試験において妊婦・授乳女性は対象外とされている
米国食品医薬品局(FDA)は妊娠への影響について市販後観察研究の実施を条件に、接種を認可
妊娠予定・妊娠中・授乳中いずれでもワクチン接種を差し控えることを推奨しない
ワクチンが不妊・妊娠前期/中期の流産、死産、先天異常のリスクを高めることはない
臨床医は、患者に対しワクチン接種を推奨すべき 3.感染しないための「対策」
#44. SARS-CoV-19ワクチンに関する提言 日本産婦人科感染症学会
COVID-19 ワクチンは、現時点で妊婦に対する安全性、特に中・⻑期的な副反応、胎児および出⽣児への安全性は確⽴していない。
流⾏拡⼤の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない。接種する場合には、⻑期的な副反応は不明で、胎児および出⽣児への安全性は確⽴していないことを接種前に⼗分に説明する。同意を得た上で接種し、その後 30 分は院内での経過観察が必要である。器官形成期(妊娠 12 週まで)は、ワクチン接種を避ける。⺟児管理のできる産婦⼈科施設等で接種を受け、なるべく接種前と後にエコー検査などで胎児⼼拍を確認する。
感染リスクが⾼い医療従事者、重症化リスクがある可能性がある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している⽅は、ワクチン接種を考慮する。
妊婦のパートナーは、家庭での感染を防ぐために、ワクチン接種を考慮する。
妊娠を希望される⼥性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする。
(⽣ワクチンではないので、接種後⻑期の避妊は必要ない。) 3.感染しないための「対策」
#45. 医療者・妊婦の参考にできる情報 信頼性高く、free-accessな資料
#48. 医療者として、妊婦に対する正しい情報提供を行うには?
正しいリソースの把握・提供
一個人の意見より「evidenceに基づいた情報」を
リスクを定量化する視点を さいごに