テキスト全文
産科危機的出血の初期対処と目次
#1. 病棟急変の初期対処~産科出血の適切な対応~ 産婦人科専攻医 平野 翔大
#2. 目次 産科危機的出血とは
定義・疫学
Shock indexについて
産科危機的出血の初動対応
症例提示
まず考えるべきこと
緊急度の判定
出血の対応 産科における出血対応について 2
産科危機的出血の定義とShock index
#4. 概念図 産科危機的出血とは? 産科危機的出血の対応指診2017 より引用 産科における出血対応について 4
#5. つまり・・・ 産科危機的出血とは? SIが重要!! Shock index=心拍数/収縮期血圧
SI>1→産科異常出血(15%以上の出血)
SI>1.5→産科危機的出血(30%以上の出血) 出血量はどこまで測るべき? 産科DICスコア覚えてません 初動対応時は参考程度で 見えない出血もある
→参考程度に 産科における出血対応について 5
出血性ショックの原因と対応
#6. SIの見かた 橈骨動脈触知:SBP>90mmHg
大腿動脈触知:SBP>70mmHg
頸動脈触知:SBP>60mmHg 産科危機的出血の初期対応 産科における出血対応について 6 SI>1→産科異常出血(15%以上の出血)
SI>1.5→産科危機的出血(30%以上の出血) 軽度のショック=血圧ぎりぎり
「冷汗するな、クラクラするな」 SI=1(HR=SBP) SI=1.5(HR>>SBP) 中等度のショック=血圧保てない
「あれ私・・・?」 正常成人:体重の8%(大体4L)
後期妊婦:1.4~1.5倍(大体6~8L) SIと出血量/血液量 1.5L 2.5L 触診と血圧 ※特にダブルルート補液時は血圧計より有用!
#7. 血圧の低下=出血死の切迫 「血圧が下がったらショックと考える」では遅い 産科における出血対応について 7
#8. 産科におけるショック 出血性ショックが産科ショックの90%を占める!
4つの”T”
子宮収縮不良(tone) 40%
分娩時外傷(trauma) 20%
胎盤遺残(tissue) 10%
凝固障害(thrombin) 10%
その他のショック
心外閉塞・拘束性(全身型羊水塞栓・肺塞栓・リトドリン等による急性肺水腫)
心原性ショック(急性心筋梗塞・周産期心筋症)
敗血症性ショック(劇症型溶血性レンサ球菌感染症・長期ルートからのセラチア属感染)
アナフィラキシー(アトニンなど薬剤・ラテックス手袋) 産科危機的出血とは? 産科における出血対応について 8
症例提示と初動対応の重要性
#9. (産科的)原因疾患 分娩前
前置胎盤・常位胎盤早期剥離・前置血管
→緊急帝王切開!!!
分娩第1,2期(~胎児娩出)
軟産道裂傷・胎盤部分的剥離
分娩3期~分娩2時間後
軟産道裂傷
子宮収縮不全(弛緩出血・限局型羊水塞栓・子宮内反など)
胎盤遺残・子宮仮性動脈瘤
凝固障害(DIC・全身型羊水塞栓) 産科危機的出血とは? 産科における出血対応について 9
#10. 産科危機的出血の初動対応 ①症例提示からイメージしましょう
#11. 受診時data 33歳女性 G2P1 妊娠38週4日
胎動減少で前医受診、IUFDの診断
診察中に腹痛を訴え、当院に救急搬送
来院時Vital
HR 108/min, BP 121/86mmHg, BT 37.4℃, SpO2 99%(O2 10L), JCSⅠ-1
HR 118/min, BP 103/65mmHg, BT 37.4℃, SpO2 99%(O2 10L), JCSⅠ-1
HR 121/min, BP 81/58mmHg, BT 37.4℃, SpO2 99%(O2 10L), JCSⅠ-1
所見
腹痛は増強傾向、明らかな出血は認めない 症例提示 産科における出血対応について 11 診断:常位胎盤早期剥離による子宮内胎児死亡・子宮内出血 どこで対応しますか?
まず何をしますか?
#12. その後の経過 内診所見:子宮口全開大, Sp+1
エコー所見:胎児心拍-, 胎盤肥厚+
来院時採血所見:産科DIC診断(Hb8点台、凝固異常あり)
↓
MFICU搬入、吸引分娩にて児娩出
→直後より子宮内より大量の血液流出が持続
SI>1.5となり、RBC+FFP+PC同時輸血開始
アトニン・メチルエルゴメトリン投与で双手圧迫継続し止血
輸血合計100単位以上、術後肺水腫にてICU入室 産科における出血対応について 12 症例提示 見えるものだけが危機的出血ではない
急変時の判断と役割分担
#13. 産科危機的出血の初動対応 ②最初の判断は、「どこで」「誰が」診るか
#14. 常に考えるべきこと 「対応能力の限界」 どこで、誰が診る? 産科における出血対応について 14 ICU転床
↑
産科病棟で対応可能? 人的資源が対応可能?
↓
他病棟の応援要請 救急/ICU Dr call
↑
産科医のみで対応可能? 限界に達してから
応援要請しない!
#15. 助産師/看護師に求められること 人員・器材の確保
予想できるなら早めの行動
実働部隊
十分な人員と物品で必要な処置を
どこで、誰が診る? 産科における出血対応について 15 緊急時は、医師は「判断」「指示」に
専念したい!
急変時に必要な物品と初動対応
#16. 急変時に用意すべき物品 救急カート
どこに何があるか把握していますか?
処置車もあると良い
エコー
Emergency IDで良いので起動しておく
広い場所
狭い場所での的確な対応は困難
情報
分娩後?既往症?
診断・選択肢がかなり狭まる! 産科における出血対応について 16 どこで、誰が診る? すべて備えているのが I C U
#17. 産科危機的出血の初動対応 ③次に「出血で死なせないために」は?
#18. 出血で最悪のstory 出血多量
↓
出血性ショック
↓
心肺停止 出血/ショックに気付くには 産科における出血対応について 18 見えない出血はないか? CPA寸前なのか? ショックなのか?
出血/ショックの認識と行動
#19. ICLS(BLS)などの復習 まずはABC!
Airway 声を出せますか?
Breathing 呼吸回数が10~29回?
Circulation 動脈触知できますか?
ショックの5P
周囲に無関心で無欲状態(虚脱:prostration)
皮膚が蒼白(顔面蒼白:pallor)
冷汗をかいている(冷汗:perspiration)
脈が弱く速い(脈拍触知不能:pulselessness)
呼吸不全(pulmonary deficiency) 出血/ショックに気付くには 産科における出血対応について 19 一個でも破綻していたら、
CPAはすぐ!
#20. 急変を見たら、全身状態の把握から! 1分1秒を争う状態なのか? 産科における出血対応について 20
#21. まずするべきこと 人を集める
可能な限り多くの人を集める
役割分担をする
コマンダー・記録者は絶対に必要
記録をする
記録・情報収集専任がいるのが望ましい 出血/ショックに気付いたら 産科における出血対応について 21
大量出血に対する初動対応
#22. 産科危機的出血の初動対応 ④「切迫していない」大量出血に対する初動対応
#23. 出血が多そう・・・ まず何をしますか? 酸素投与・Vital signsの把握
妊娠中なら酸素飽和度は下げない
Full monitor+JCSの確認
ルートの確保・採血・補液
可能なら18G以上で2ルート
まずは細胞外液の投与(全開!)
胎児状態の把握
CTGモニタリングを開始
エコーで状態を確認 産科危機的出血の初期対応 産科における出血対応について 23 ICU転床
救急科call Vital異常なら 取れないなら 医師採血
中心静脈穿刺(QQ call) 明らかに異常 超緊急帝王切開
急速遂娩
#24. 初動対応は「サルも聴診器」 サ:酸素 →10Lマスク
ル:ルート →採血・輸液負荷
も:モニター →ECG, SpO2
聴:超音波 →FAST, 胎児心拍, 子宮周囲
(診:心電図 →12誘導)
(器:胸部レントゲン) 産科における出血対応について 24 産科危機的出血の初期対応 「サルも聴診器」
原因検索と治療の流れ
#25. 出血が多そう・・・ まず何をしますか? 酸素投与・Vital signsの把握
妊娠中なら酸素飽和度は下げない
Full monitor+JCSの確認 産科危機的出血の初期対応 産科における出血対応について 25 ICU転床
救急科call Vital異常なら 血圧・心拍数
血圧計に頼らない!
橈骨動脈触知:SBP>90mmHg
大腿動脈触知:SBP>70mmHg
頸動脈触知:SBP>60mmHg 呼吸数
最も全身状態の変化に鋭敏な指標
体温
高度上昇なら疑う疾患が変わる
意識状態の確認
傾眠傾向ならば既に脳血流は低下
#26. 出血が多そう・・・ まず何をしますか? ルートの確保・採血・補液
可能なら18G以上で2ルート
まずは細胞外液の投与(全開!) 産科危機的出血の初期対応 産科における出血対応について 26 取れないなら 医師採血
中心静脈穿刺(QQ call) ルート確保の場所は?
可能なら上肢
下肢は妊娠子宮に圧迫されて届きにくい
ルート確保が難しい時
採血よりルート確保が大事!
最初から正中でもok 初期輸液は?
ラクテックor生食全開
可能な限り太い針<可能な限り早く
採血項目は?
血算>生化=凝固>その他
動脈穿刺なら血液ガスも!
#27. 出血が多そう・・・ まず何をしますか? 胎児状態の把握
CTGモニタリングを開始
エコーで状態を確認 産科危機的出血の初期対応 産科における出血対応について 27 明らかに異常 超緊急帝王切開
急速遂娩 CTG
優先度は低い(エコーで代用可能)
経腹US・大腿採血の邪魔になる可能性も
エコー
FAST/FASPによる一次スクリーニング
児心拍の確認
早剥/内反/胎盤遺残などは診断もでき得る
#28. 原因検索・治療 前置胎盤・常位胎盤早期剥離・前置血管
→超緊急帝王切開
軟産道裂傷・胎盤部分的剥離
→急速遂娩・縫合など
子宮収縮不全(弛緩出血・限局型羊水塞栓・子宮内反など)
→双手圧迫・用手的整復・手術(開腹子宮整復・摘出)
胎盤遺残・子宮仮性動脈瘤
→子宮動脈塞栓術など
凝固障害(DIC・全身型羊水塞栓)
→大量輸血・原因除去
産科危機的出血の対応 産科における出血対応について 28 圧迫
除去 +補充
塞栓
常に考えるべき対応の重要性
#29. いつでも考えておくこと 「今、ここで自分たちが対応していて問題がない状態か?」 産科における出血対応について 29