テキスト全文
#1. Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital ERの、
そのてんかん発作を
評価する。
#2. Introduction てんかん発作(epileptic seizure)は発作抑制の対応のみならず、
その原因についても検討する必要があります。
発作抑制だけがなされ、治療を要する発作の原因病態が
見逃されることは避けたいです。
発作の原因評価と発作抑制の治療を並行して進められる思考が必要です。
やはり評価の主題としては、その発作が「てんかん」による発作なのか?
誘発性発作/急性症候性発作なのか?を常に考えなければいけません。
#3. 前提として二つの用語を理解する。
誘発性発作(provoked seizure):中毒や薬剤、アルコール(多量摂取/離脱いずれも)電解質異常、代謝性要因など誘因が特定可能なてんかん発作。
急性症候性発作(acute symptomatic seizure):頭部外傷や脳卒中、硬膜下血腫、脳外科手術、中枢神経感染症、脳炎などが原因の急性脳機能障害によって誘発されたてんかん発作。
ER診療においては、その発作がてんかん(epilepsy)による発作なのか、
誘発性発作/急性症候性発作なのかを判別しようとする思考が重要です。
#4. 症状についての
病歴聴取 病歴聴取のポイントを示します。
また、てんかん発作らしさのポイントも確認しましょう。
#5. 発作イベントの健忘があるか?
発作後の混乱や見当識障害があったか?
発作前に前兆があったか?
全身性のけいれん発作の様子は?
身体一部のけいれん発作の様子は?
眼位(上転、共同偏視)はどうたった?
発作後の限局性の麻痺(Toddの麻痺)は認められた?
自動症(口をくちゃくちゃする、非合目的運動)は認められた?
咬舌・失禁の有無? 発作の様子の記載
患者本人と発作目撃者から以下の様子を聴取して下さい。
#6. けいれん(convulsion)は脳由来のみが原因ではなく、
失神(一過性の循環不全)でも認められることがあります。
発作が脳由来であった場合、
発作後に遷延する意識障害の存在 や、
発作に関する健忘 を認めます。
これらを確認できると、その「けいれん」が、
脳由来の「てんかん発作」であった可能性が高いと判断できます。 その「けいれん」が脳由来の
てんかん発作だったかどうか?
#7. 検査 採血で何を確認するか?
髄液検査はやったほうがいい?
MRI検査のポリシーは?
#8. 採血検査
急性症候性発作の原因評価を含めた以下採血オーダーをして下さい。 電解質(特にNa)、グルコース、CPK、腎機能、肝機能、NH3、血算、ラクテート(上昇でてんかん発作を肯定)
#9. 髄液検査の検討 中枢神経感染症(細菌性髄膜炎、ヘルペス脳炎など)や、
自己免疫性脳炎が鑑別になる場合には髄液検査を行います。
免疫不全状態の患者では積極的に検査します。
#10. 神経症状に異常があればMRI 初発けいれん発作であれば、いずれかのタイミングでMRI評価は行われる必要があります。比較的高齢者であれば、脳卒中による急性症候性発作の鑑別目的で、ERでの頭部MRI施行は検討されます。
また、発作後神経症状の残存があるならMRIは施行します。
#11. てんかんによる発作?
そうでない発作? 反復する問いですが、重要です。
#12. てんかんによる発作であれば、発作抑制が診療の主題となります。一方、特定の原因によって誘発された発作(誘発性発作/急性症候性発作)の場合は、その原因に対するアプローチを要します。例えば、低Na血症、低血糖、脳卒中、脳炎などです。よって、背景に隠れている、治療介入必要な疾患の存在を追求する姿勢が重要です。
特に初回けいれん発作の場合には、慎重な原因評価が求められます。 「てんかん」による発作なのか?
誘発性発作/急性症候性発作なのか?が問題
#13. 共同偏視+けいれん発作の
組み合わせ 共同偏視の向きと、
けいれん発作の組み合わせから、
病態推測可能な、有用なルールがあります。
#14. 例えば、左大脳半球の
脳梗塞による急性症候性発作の場合には、
左共同偏視+右半身のけいれん発作
となる。
例えば、左大脳半球が焦点の
てんかん発作の場合には、
右共同偏視+右半身のけいれん発作
となる。
このルールは
破壊性障害と刺激性障害
(急性症候性発作と純粋なてんかん発作)を区別する上で有用です。是非確認を。
#15. ERでのマネジメント てんかん発作での薬剤投与の詳細は
てんかん診療ガイドラインの
てんかん重積状態での治療フローチャートを参照してください。
発作抑制が困難なら第一段階から第三段階まで治療を
ステップアップしていきます。
#16. 発作抑制が困難なら
第一段階から第三段階まで
治療をステップアップします。 第一段階 まず発作を止める薬剤
ジアゼパム(セルシン®) 5-10mg 静注
第二段階 次の発作抑制に使用する薬剤
①ホスフェニトイン(ホストイン®)22.5mg/kg+生食100ml 15分で点滴静注
②レベチラセタム(イーケプラ®) 1000-3000mg+生食100ml 15分で点滴静注
第三段階 第二段階までの治療で発作抑制困難なら、
ミダゾラム持続静注、またはプロポフォール持続静注を検討。
#17. 急性症候性発作に対する治療介入 低血糖性けいれん、低Na血症など電解質異常、脳卒中、脳炎などによる
急性症候性発作の場合には、これらの治療介入を必要とします。
特に脳梗塞の場合にはtPA療法や血管内治療のtherapeutic time windowを
逃さないことが重要です。
#18. Disposition てんかん発作再燃なく、誘因に対して介入されており、 神経症状の残存がないなら帰宅も検討。
初発けいれん発作を帰宅対応とする場合は、 必ず専門外来へ引き継ぐこと。
神経症状の残存があるなら、必ず入院対応とする。
神経症状の残存があるなら、MRIや髄液検査施行などの 追加検査を行う。
#19. ここで語られる内容はごく基本的な内容ですが、改めて解説しています。
発作についての判断の仕方、検査のポリシーについて理解してください。
思考方法について整理していただき、診療に生かしていただければ嬉しいです。
その発作がてんかんによる発作なのか、誘発性発作/急性症候性発作なのか。
この問いが入り口で常に検討される主題であります。
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