テキスト全文
#1. Daisuke Yamamoto
Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital Strategies for Seizure and epilepsy in ER ERでの非専門医のための
けいれん/てんかん
診療ストラテジー
#2. Introduction けいれん発作、てんかん診療は難しいです。
また、診断においては慎重さを求められることも
難しさの一要因です。
また、診断ピットフォールも多く、
シンプルには処理できないこともままあります。
ここでは、ERでの初期対応について
可能な限り実用性のある内容を
勉強できるスライドを目標に、
ERでの非専門医のために作成しました。
#4. けいれん発作、てんかんなどの言葉使いを整理! 1 けいれん(convulsion)は、脳由来ではない可能性も含んだ曖昧な表現であり、使用は非推奨とされています。
脳由来の異常電気放電による発作に対応する言葉はseizureです。これだとわかりにくい、と考えるなら、
けいれん発作(convulsive seizure)という表現がいいかと思われます。けいれん、けいれん発作は症候を指した言葉です。
一方、てんかん(epilepsy)は、反復性のけいれん発作を起こしうる状態の、診断名です。
わかりにくいですが、きちんと使い分けてみてください。
#5. けいれん発作、てんかんなどの言葉使いを整理! 1 けいれん → convulsion
曖昧表現である。
けいれん発作 → convulsive seizure
脳由来の「けいれん」
非けいれん性発作 → non-convulsive seizure
NCSEのNC。「けいれん」のない発作もある。
発作 → seizure
つまり、convulsive+non-convulsive seizure。
てんかん → epilepsy
seizureを反復しうる疾患のこと。
会話において誤解が起こりにくいよう、「けいれん」はなるべく使用しないのが望ましいです。このスライドではけいれん発作で説明していきます。
#6. けいれん発作とてんかん けいれん発作 (seizure)は、「てんかん」ではないので、一時的には抗てんかん薬治療が必要かもしれないが、永続的には必要ない。
てんかん (epilepsy)は、長期間の抗てんかん薬治療が必要である。
異常電気放電により、大脳機能低下(非けいれん性発作)やけいれん発作を、反復性に認める疾患が「てんかん」である。初発のけいれん発作を見たときには、それがてんかんによる発作かどうか?その他の原因で起こった発作なのか?は、区別ができない。ただし、双方は治療方針・検査方針が異なるので、混同してはいけない。
#7. けいれん発作は、結果である。
けいれん発作の原因について、調べる必要がある。 2 けいれん発作自体も問題だが、けいれん発作に至った原因を評価しなければならない。その原因を治療しなければならない可能性がある。
初発のけいれん発作をみたら、けいれん発作に至る原因は?と考えること。
#8. けいれん発作の原因は
大脳皮質にある。 大脳皮質の細胞障害や機能異常が、けいれん発作の誘因になりうる。例えば、脳梗塞・ヘルペス脳炎による大脳皮質の破壊性刺激は、けいれん発作を引き起こす。アルツハイマー型認知症による、大脳皮質細胞変性も原因になりうる。自己免疫性脳炎や、代謝性脳症による大脳皮質機能障害も原因になりうる。何らかの原因での大脳皮質の破壊、機能障害が、けいれん発作の誘因になる。やはり何が原因なのか?を考えなければならない。
#9. 急性症候性発作、というタームを理解しよう。 3 急性症候性発作とは、ある誘因によって起こされたseizureを指します。
ER診療では、急性症候性発作かどうか?を評価するのがまずは最初のアプローチです。
もしかしたら、「てんかん」によるけいれん発作かもしれないが、そうでない可能性(急性症候性発作)について、まずは検討すべきです。
#10. 急性症候性発作
の原因:以下を想起する。 頻度の多いもの:
脳卒中、低血糖、低Na血症、尿毒症、アルコール離脱
薬剤性:
NSAIDS+LVFX、テオフィリン、ベンゾジアゼピン離脱
頻度は多くないが鑑別すべき重要なもの:
脳炎(感染性・自己免疫性)
#11. 急性症候性発作の
可能性を十分考慮する。 けいれん発作をみたら、急性症候性発作をまずは想起しよう。原因のあるけいれん発作であれば、原因についての対応がもちろん必要である。
けいれん発作のみへの対応では足りない。
それがCriticalな病態の可能性がある。
ヘルペス脳炎や自己免疫性脳炎など、Criticalな疾患も混ざっている可能性がある。
#12. 急性症候性発作のうち、
まずは
コモンな脳卒中を想起する。 脳卒中発症とともにけいれんを発症することがある。「新規発症のけいれん発作」では、脳卒中をまずは検討すべき。よって、MRI検査は必須である。けいれん対応のみならず、その原因が脳卒中であった場合には、脳卒中の治療を行わなければならない。まず、脳卒中の可能性について検討すべく、MRI評価をする必要がある。
#14. てんかんの診断が既に
ついている患者さんが
けいれんしたとき けいれんのきっかけが何だったかを確認する。これら誘因を確認し、発作のきっかけを明らかにする。
きっかけが明らかでないなら、採血やMRI検査を施行することも検討。 きちんと内服していたか?
(コンプライアンスの確認) 睡眠不足・疲労はなかったか?
(身体的/精神的ストレス?) 感染症などの別の病態は?
→採血評価も検討 Triggerとなる薬剤の内服は?
→LVFXなど
#15. けいれん発作後には意識もうろう状態を来たします。また、発作後の精神症状を認める場合もあります。また、発作後の運動障害(トッドの麻痺という)を来たすこともあります。発作後の意識障害、精神症状、運動症状など認めない場合には帰宅可です。
症状残存ある場合には、念のためMRI評価も検討されます。 発作後、帰宅可能な要件
:発作再発なく、何も症状がない、なら帰宅可。
意識障害や、いずれかの症状残存あるなら入院。
#16. けいれん対応
未診断患者編
(New onset seizure)
#17. この場合には、十分な評価が必要です。
頭部MRI、採血検査、場合によっては髄液検査を要します。
慎重な対応を要します。 初発のけいれん発作(New onset seizure)なら、
先述通り、急性症候性発作の可能性を
追求すること!
#18. 検査:
頭部MRI 初発けいれん発作では、必須の検査である。少なくとも、最もコモンで確率の高そうな、新規発症の脳卒中を評価しよう、というスタンスでMRIは施行を検討してください。 鑑別は多様であります。
新規脳卒中によるけいれん
陳旧性脳卒中病変による症候性てんかん
認知症に合併する症候性てんかん
脳腫瘍など器質的病変による症候性てんかん
感染性脳炎(特にヘルペス脳炎)
自己免疫性脳炎
など。画像評価は必要です。
#19. 検査:
採血検査 詳細は省きますが、以下項目を含んだ一般採血検査をしましょう。
Na, Ca, Mg, Glucose, NH3, CPK, CRP, Vit.B1, 血算, 血液ガス分析
プロラクチンの追加も検討してください。真のてんかん発作か否か?の評価の参考になります。 主には以下を評価する。
電解質異常(低Na血症)のけいれん
低血糖によるけいれん
#20. 検査:
髄液検査 脳炎評価の場合に必要です。
髄液検査は、細胞数、蛋白、糖といった、髄液一般検査に加え、髄液 HSV-DNA PCR を提出し、保存検体も採ってください。ただし、ここまで来ると専門医の評価を要する状況です。検査を提出して、専門医コンサルテーション OR 転院搬送を検討してください。 脳炎診断の難しいところは、頭部MRI検査で陰性でも、否定できない、という事実によります。これは困ります。髄液異常があれば、感染性脳炎、自己免疫性脳炎の診断の一助になりえます。ただし、髄液異常が必ずしもある訳ではありません。難しいです。
#22. まずは、すぐに準備する薬。注意点は以下2点。
①呼吸抑制を来たしやすい。呼吸が止まってしまう可能性がある。
投与量・間隔には十分注意!!!
②半減期が短い。次の発作抑制には不十分!!!
すぐに効果切れて、つぎの発作が起こりうる。発作繰り返す場合には、つぎの発作抑制のためにホストインと併せて使用するのがよい。 ジアゼパム
商品名:セルシン・ホリゾン (1A:10mg)
まず使う薬!急いで準備してもらう。
#23. ジアゼパム投与方法
1A = 10mg
※原液のままIV なんとか呼吸停止は避けたいところ。やはり、使用感覚は使いながら慣れるしかない。 一つの目安は、
体格の小さい人 →0.5A IV
体格の大きい人 →1.0A IV
とされています。
反復して注射していると呼吸抑制を来たす可能性が高いです。反応をみながら、慎重に追加投与は行うべきです。
心配なら、0.25A をIVしてみるのは、無難です。何度か呼吸停止した苦い経験があります。
#24. ホスフェニトイン
商品名:ホストイン
次の発作を止めるための薬。 ホストインはかなりいい薬。発作抑制については、その効果を信じて使用しよう。ジアゼパム投与後、発作を繰り返すのが心配ならホストインまで投与してよい。
投与方法は、初回投与はローディングドーズ、つぎの日からは維持量のドーズとなっている。体重ごとのローディングドーズは、すぐに参照できるようにERに控えておきましょう。
#25. ホストイン
体重換算表 ローディングドーズをすぐに参照できるようにしておこう!細かい用量には目をつむって使用!
すべて、左記バイアル量を
生食100mlで溶いて、
15分で投与! 例:体重60kg患者の場合
ホストイン1.8V + 生食100ml
15分で投与
#26. ジアゼパム→ホストイン投与して、それでも発作を繰り返す場合に是非検討したい方法。非専門医でも使用経験があり、使いやすい薬剤でもあるので、試してみてほしい。
ドルミカム持続投与まですれば、かなりの症例は発作コントロール可能だと思われる。 ミダゾラム
商品名:ドルミカム
挿管する前に是非試したい治療薬。
#27. ドルミカム少量持続投与
MDZ(1A, 10mg, 2ml) MDZ 5A+ 生食40mlで
50mg:50mlの組成で使用。
(※1ml/hr で1mg/hr)
呼吸状態を慎重にモニタリングして行うこと!
(※ここでは安全のため、MDZ導入時のIVなしで示しています。) てんかん診療ガイドラインでは、
0.05~0.4 mg/kg/hr
で持続投与と記載されています。
例えば体重50kgとすると、
2.5mg~20mg/hr となりますが、最大用量はこれでは呼吸停止です。
経験的には、ガイドラインの最小用量相当の、2mg/hrで開始。若年者なら、5mg/hrくらいまで試す。高齢者なら慎重に増減検討する。
ただし、だめなら、次のステップに移行することを躊躇しないこと。
#28. ジアゼパム→ホスフェニトイン→ミダゾラム
まで投与して発作が止まらなかった場合は、挿管・人工呼吸器管理・静脈麻酔薬投与を検討。
ここに至る前には、家族への病状説明とともに、複数医師での方針確認を要する。また専門家の協力も必要。 静脈麻酔薬
プロポフォール、チオペンタール、チアミラール
ここからは
救急医、集中治療医、専門医の協力を仰いで。
#29. 難治性てんかん重積
状態での、最終治療への
移行のタイミングについて 発症から、30-60分程度で、最終段階治療への移行を検討。60分程度で、方針決定をするつもりで、ここまでに検査と治療を並行して進める。 てんかん診療ガイドラインでは、「30分以上てんかん重積状態が持続すると後遺障害の危険性がある」とされており、治療開始から60分程度で、静脈麻酔での最終治療に移行することを検討するよう、記載されている(より早く判断すべきとの記載もあるが、現実的には60分くらいだと思う)。
けいれん抑制ができない場合には、最終段階へ移行することは躊躇せずに判断されるべきである。
ただし、ここからは専門治療領域であり、複数医師で方針検討したい。
#30. 末梢ルート確保困難な場合もある。まずは、ミダゾラム筋注を検討しよう。ジアゼパム筋注は効果不十分であると言われている。ジアゼパム注腸も選択肢だが、それよりは現実的な投与方法だろう。
まずは発作を止めて、ルート確保をしよう。ルートはひとまず、どんな血管でもいいと思います。 ルートが取れないとき
ミダゾラム筋注で対応!
10mg 単回投与
#31. 静脈麻酔薬使用前に、レベチラセタム静注のオプションがあり、検討してみる価値があります。他剤と比べ、呼吸抑制がなく、速効性もあり、使用しやすいです。ホストイン投与後に、検討すべき選択肢です。投与量は、1000-3000mg単回投与がガイドラインでも示されています。現状では保険適応外使用ではあります。 オプション治療
レベチラセタム静注も選択肢です。
専門医の指示を仰ぎながら、検討しましょう。
#32. 次のスライドからは、
実際の行動を整理しながら、
知識の確認もしよう。
#34. 酸素投与 MASK 5L! けいれん治療の流れ① 人・物を集める!
モニター装着! けいれん発症!
#35. 末梢ルート確保! けいれん治療の流れ② ジアゼパムIV
①回目
0.5~1.0A
呼吸抑制に注意!!! しばらく見極める。
#36. 呼吸抑制観察 けいれん治療の流れ③ 止まらなければ、
発作繰り返せば、
ジアゼパムIV
②回目
0.5~1.0A しばらく見極める。
#37. 止まらなければ、
発作繰り返すなら、
ホストイン投与
(必要V)+NS 100ml
15分で投与! けいれん治療の流れ④ しばらく見極める。 ミダゾラム少量持続投与検討。
MDZ 5A + NS 40ml作る。 ※オプション:レベチラセタム投与の検討
#38. 止まらなければ、
MDZ 2ml/hrで
開始! けいれん治療の流れ⑤ 呼吸抑制に注意しつつ、
発作抑制ないなら
MDZ投与量を増量。 挿管・静脈麻酔の可能性に
ついて検討する。
家族にも状況説明加える。 ここまでで30分→→→→→60分
#39. 挿管・静脈麻酔施行の検討。
救急医や集中治療医への応援要請。 けいれん治療の流れ⑥ 挿管。人工呼吸器管理。
静脈麻酔薬の開始。
専門医の召喚。もしくは転院搬送。 ここまでで60分→→→最終判断を。
#41. 簡易血糖測定!
低血糖の除外。 けいれん診断の流れ① けいれん治療の開始! けいれん発症! 低血糖なら、Vit.B1 100mg IVしてから、ブドウ糖IV。
#42. 薬剤性の検討
LVFX?
テオフィリン? けいれん診断の流れ② アルコール離脱?
Bz離脱? 採血一式。
電解質異常?
低Na血症? 低Na血症なら、Na補正とともに、全身管理。
#43. 頭部CT施行
脳出血? けいれん診断の流れ③ 頭部MRI施行
脳梗塞?脳炎?
※痙攣つづくなら、
挿管してからの検査検討。 髄液検査
脳炎評価目的。
※努力目標 脳出血の
治療へ。 脳梗塞の
治療へ。 発作止まらず、もしくは診断つかないならここまでで専門医へ。 萎縮やMassなど
構造異常あれば
症候性てんかん
の評価。
#44. てんかん重積状態で、最後までいく場合は多くはない。ただし、その先を想像しながら治療を進めていく必要がある。ある程度はけいれん対応はできることは必須だが、もちろん全部自分でできなくてよい。導入部分の対応がマスターできれば、ほとんど対応可能である。
#45. けいれんの原因評価は、このスライドで提示されたものが想起出来ており、検査が施行できれば及第点である。診断的ピットフォールである脳炎があることを知った上で、けいれん発作の治療とけいれん評価の検査ができればよい。
#46. 脳炎について
どのように考えて
どう対応すべきか
#47. ヘルペス脳炎のみ、最低限カバーできれば及第点としてよい。
ヘルペス脳炎は早期治療介入が必要である。
ヘルペス脳炎は、MRIで画像異常が得られる可能性が高い。
髄液異常も指摘できる可能性が高い。
ただし、所見に乏しいこともある。 脳炎→最低限はヘルペス脳炎のカバー
自己免疫性脳炎の評価については、
専門家に委ねる姿勢で。
#48. ヘルペス脳炎を
疑うポイント 易感染性背景の場合。
基礎疾患あり。また、
アルコール多飲、高齢者など 特徴的なMRI所見、髄液異常 新規発症の
比較的難治性けいれんのとき 発熱、意識障害、
高次脳機能障害の合併
#49. ヘルペス脳炎の対応
→ガイドラインも参照。 疑った場合は、
髄液検査を施行してください。
髄液一般
髄液HSV-DNA PCR
提出してください。
保存検体も提出してもらえると、
GOODです。
アシクロビル 10mg/kg*3回/dayを投与できると最高です。
ヘルペス脳炎でなくても、
投与することには問題ありません。
迷った場合、疑う場合は迷わず投与、というポリシーになっています。
#53. ①けいれん発作に対する投薬の方法
②けいれん時ひとまず行うべき検査について
③その先を想起しながら進む治療ストラテジー
について、本スライドでは解説しました。
コンサルトしにくい環境の当直医の先生方へ、少しでも参考になれば幸いです。診療技術、知識がより広がり、全体的な診療レベル向上につながりますよう。 TAKE HOME MESSAGE!