#4.
糸の材質による分類 天然か合成 天然 ・現在は絹糸以外は合成糸。
・体内に残る糸は、感染防止の観点から合成吸収糸が使用されています。 ・日本では天然性非吸収糸の絹糸のみ。(例: シルクブレード)
・編み目に細菌が入り感染巣になりやすく、組織反応性も大きい。
・しなやかで結びやすく、安価なため日本ではまだ使用されています。 合成 ① 『天然』 or 『合成』
② 『モノフィラメント(1本)』 or 『マルチフィラメント(複数本)』
③ 『吸収性(溶ける糸)』 or 『非吸収性(溶けない糸)』
などの分類があり、糸の種類によって特徴が異なります。 糸の材質による分類
#5.
糸の本数による分類 モノフィラメント(1本の繊維) ・メリット しなやかで柔らかく、結びやすい(緩みづらい)。
・デメリット 細菌が繊維間に入りやすく、感染巣になることあり。
<マルチフィラメントは編み糸と撚り糸の2種類>
・編み糸…繊維を編んだ糸、Braid(編む)ブレードとも言います。
・撚り糸…繊維を撚った糸。ほとんどが編み糸です。 ・メリット 細菌が入りにくい、通過時の組織損傷が少ない。
・デメリット 捻じれや傷に弱い。
柔軟性に欠け、結び目大きく、緩みやすい。 マルチフィラメント(複数本の繊維)
#6.
吸収性 か 非吸収性 非吸収性(溶けない)糸 ・体内で加水分解によって代謝、排泄されます。時間経過により、糸の抗張力
(引っ張られた時に耐える力)が徐々に低下します。
・分解速度は、材質・本数(モノかマルチ)・加工法によって違いうため、
目的に応じて糸を選択します。
・『抜糸困難な患者』や『感染防止にある程度の期間で消失が求められる部位
(皮下組織・消化管・粘膜などの体内)』で選択されます。 吸収性(溶ける)糸 ・組織反応性(免疫反応)が少なく、瘢痕が目立たないため皮膚に用いられます。
・『抜糸可能な部位(皮膚)』や『長期に組織の支持が必要な部位(腱など) 』
に選択します。
絹糸は組織反応が強く、瘢痕が目立つので皮膚には使用しません。
#7.
非吸収性糸について 非吸収性モノフィラメント ・緩んでほしくない、確実な結紮が必要な部位
に使用します。
・絹糸も天然の非吸収性マルチフィラメントです。 ・ナイロンが最も良く使用されます。
・組織反応性が少なく瘢痕が目立たないため、
数日で抜糸する表皮縫合に用いられます。
・病院にある糸を1つ確認しましょう。 非吸収性マルチフィラメント 材質は同じでも、糸の名前(商品名)は会社によって違います。
#8.
吸収性糸は目的で使い分ける ・加水分解される速度は、糸によって違うため、目的に応じて糸を選択します。
・真皮縫合は抗張力の持続期間が長いものがいいな → 6週間もつPDS
・死腔をなくす皮下縫合は、持続期間はそれほど長くなくてよい → 4週間もつバイクリル・高齢者で抜糸の来院が困難 → 2週間で脱落するバイクリルラピッド 抗張力:組織の張力に対抗する糸の結び目の力
抗張力残留度:最初の抗張力を100として、残っている抗張力の残留度。
吸収期間:糸が形として無くなる期間。 注:ラットに埋めた結果です。
#9.
吸収性糸について 吸収性モノフィラメント ・抜糸できず体内に残存する皮下・筋などに、用途に応じて持続期間を考慮し選択されます。
・モノフィラメントで細菌が入り込みづらく、感染巣になりにくい。
・真皮縫合にはポリジオキサノンが成分であるPDS(商品名)などが使用されます。
以前は非吸収性糸(ナイロン)が真皮縫合に使われましたが、長期に残存するため縫合糸
膿瘍のリスクがありました。一般的には、組織が癒合した後の糸は吸収・消失が望ましく、
現在の真皮縫合は、50%強度が6週間以上持続するPDSなどが用いられます。
#10.
吸収性糸について 吸収性マルチフィラメント ・編み糸なのでしなやかで結びやすく、緩みにくい。
・マルチフィラメントは細菌が入り込みやすく、感染巣になる場合があります。
・バイクリルラピッドは1-2週で分解・脱落するため、抜糸が不要で便利です。
・粘膜の様な癒合が早く瘢痕が目立たない部位に使用します。
・眼瞼・口腔粘膜ではモノフィラメントは硬くチクチクするため、
柔らかい吸収性マルチフィラメントを選ぶ場合もあります。
・小児や高齢者で抜糸困難時はバイクリルラピッドも考慮します。
#11.
丸針と角針 角針(Cutting edge) ・丸針は角針だと裂けてしまうような弱い組織に使用します。
皮下脂肪、粘膜、腸、腱、神経、血管、ペラペラの裂けやすい皮膚
などに使用します。 ・角針は切れ味が良いため、表皮・真皮・爪などの硬めの組織に使用します。
角針の断面は三角形ですが、刺通しにくい組織では逆三角形針、組織を
掬(すく)うように使う台形のヘラ型針など様々な針先の形状があります。 丸針(taper point)
#12.
針の形状による分類 ・糸を引っ張ると針から外れるものを『コントロールリリース(CR) 』と言い、
『デタッチ』と呼ばれる事が多いです。
・手結びの数が多い場合に便利です。 糸と針の結合形態 弱弱弯 弱弯 強彎 強強彎
円周の1/4 3/8 1/2 5/8 針の形状による分類
#13.
病院によっては使用している糸 抗菌縫合糸 ・糸の周囲に棘の様な返し(barb)があり、1つ1つ結紮(単純結節縫合)せずに、
真皮・皮下組織を連続縫合で閉創できます。
・メリット 創閉鎖の時間短縮や組織を結節しないためatraumaticです。
・デメリット やり直しができず、1か所切れると全てが緩みます。
・吸収性モノフィラメントの STRATAFIX や V-Loc があります。
・美容で行う糸リフト(弛んだ皮膚や脂肪を引き上げる)でも棘付きの糸を使用する場合があります。 ・抗菌作用を持つトリクロサンを表面にコーティングすることで、細菌コロニー形成を阻害します。
・PDSプラス, バイクリルプラスがありますが、値段がやや高価です。
抗菌縫合糸は、これまでに多くの研究で手術部位感染(SSI)が減少すると示されています。現在はSSI予防の抗菌縫合糸の使用に関して、WHOは推奨、ACS&SIS(米国外科・外科 感染症学会)は清潔~汚染の腹部手術に推奨、CDC(米国疾病予防センター)はSSI予防 に考慮に入れるべきとされています。
返し付き(barb)縫合糸
#14.
針と糸の選び方のまとめ 顔面・頚部 ・表皮縫合 角針 5-0 ナイロン
・真皮縫合 角針 4-0・5-0 PDS
・皮下縫合 丸針 4-0・5-0 PDS or Vicryl
あくまで目安なので状況に応じてこれ以外の糸も使用します。 ・表皮縫合 角針 6-0・7-0 ナイロン
・真皮縫合 角針 5-0・6-0 PDS 四肢・体幹 ・皮膚は、組織反応性が少なく瘢痕が目立ちにくい角針ナイロンを使用します。
・真皮は、吸収性で抗張力が長く、感染リスクが少ないポリジオキサノン(PDSなど)
を使用します。
・糸の太さ:皮下縫合≧真皮縫合≧表皮縫合 浅い縫合と同じかより太い糸を使います。
・眼瞼・手掌・足底など、真皮縫合を行わない部位は覚えておきましょう。
以下に、外傷での縫合時の針と糸の選び方の例を記載します。
#15.
Take home message ・皮膚と硬いものは角針、その他の裂ける組織は丸針を選びましょう。
・皮膚はナイロン、真皮はPDS、皮下脂肪・筋肉はPDSやバイクリル
と覚えましょう。
・表皮縫合は顔と首は6-0ナイロン、体幹と四肢は5-0ナイロン。
真皮と皮下縫合は同じか太い糸を使いましょう。 表の特徴が理解できていれば、後は実践あるのみ。
どんどん縫合していきましょう。
#16.
医学生、研修医、専攻医の先生向けに
本を書きました。
・これから縫合を学びたい人
・縫合が苦手な人
・縫合がもっとうまくなりたい人
ぜひ手に取ってみてくださいね! ※電子書籍はM2PLUS、医書.jpで購入できます。
#17.
参考文献 ・田中克己. 実践!よくわかる縫合の基本講座 形成外科における縫合法の基本(総説).
PEPARS. 2017, 増刊号, no. 123.
・菊池雄二. 実践!よくわかる縫合の基本講座 形成外科における縫合材料.
PEPARS. 2017, 増刊号, no. 123.
・横田和典. 実践!よくわかる縫合の基本講座 皮下縫合・真皮縫合の基本手技.
PEPARS. 2017, 増刊号, no. 123.
・三川信之.Ⅱ形成外科的縫合法の理論と実際 1創の縫合法 2)真皮縫合
3)皮膚縫合.形成外科.2012, vol.55, 増刊号.
・菱木智郎.The operation 手術基本手技:その極意とコツ 糸の種類と選択.
小児外科. 2010, vol.42, no.10.
・矢野邦夫.国内外の学会のガイドライン、最新情報は?手術部位感染を中心に.
INFECTION CONTROL. 2017, vol.26, no.12.