テキスト全文
皮膚縫合の目的と基本概念
#1. 図 解 縫合の基本 Part1 皮膚縫合編 shun@形成外科
#2. はじめに ・こんにちは! shun@形成外科です ・このスライドでは、明日からきっと役に立つ 針の扱い方・縫合の方法・なぜそうするかの理由を 分かりやすくイメージできるように図解しています ・いくつかのポイントさえ押さえれば 縫合がもっとキレイに、きっと楽しくなると思います それでは、皮膚縫合編を早速始めていきましょう Twitter ID @shun46618111
#3. 目 次 <Contents> ・皮膚縫合の目的 ・針の扱い方 ・針と糸の選択 ・針と糸の運針の考え方 ・縫合時の注意点 ・皮膚の内反・外反 ・単結紮と外科結紮 ・バイトとピッチ
縫合時の注意点と針の扱い
#4. 皮膚縫合の目的 目的:傷あとが目立たないようにキレイにするため 縫合しない創 縫合した傷 <パックリと開いた傷を縫わずに治した場合> <パックリと開いた傷を縫合した場合> ・面状瘢痕となり、傷の面積が広いため目立つ ・線状瘢痕となり面積が少なく目立たない ・凹む、段差、位置のずれが出ることがある ・平坦となり目立たない ・治癒に時間がかかる ・1-2週間で抜糸すると治癒 ・痛みや浸出液がでる ・痛みも少なく、浸出液も減り処置も楽になる
#5. 皮膚の扱い・持針器のサイズ それでは縫合時の注意点やコツを見ていきましょう 皮膚はやさしく扱う 初めのうちは鑷子を持つ時に力が入りがちです 皮膚を鑷子でぎゅっとつかむと皮膚が潰れて挫滅します 赤ちゃんの肌を扱うように皮膚はやさしく持ちましょう 持針器のサイズに注意 繊細な(6-0/7-0を持つ)持針器で大きな針を持つと持針器が壊れます 大きな針と小さな針で持針器は使い分けましょう 〈形成外科の例〉4-0より太い針糸 → 大きい持針器 5-0より細い針糸 → 小さい持針器
#6. 針と糸の選択〈表皮縫合〉 ① 皮膚は硬いため角針を使用 ※裂けやすい時は丸針を使用することも ② 糸の種類 ・組織反応性が少なく、瘢痕になりにくい糸がよい ・非吸収糸のナイロンを使用します ”針と糸の選び方“のスライドも 参考になるのでぜひご覧下さい ③ 糸の太さ ・緊張の強い場合は太く、弱い場合は細い糸を使用します ・深い層を縫う時は、浅い縫合と同じかより太い糸を使います 使用例 表皮縫合 顔面・頚部 6-0/7-0 ナイロン 四肢・体幹 5-0 ナイロン
針の選択と刺し方の基本
#7. 針の把持する部位 針の部位の名称 Point 針先 Swage 糸固定部 × 〇 × Body 針先=Point、糸固定部=Swage(Eyeとも呼ぶ) 他=Body → 持針器で把持する部位 ※ swageはかしめるの意味(糸と針を圧着固定) 針先と糸固定部(✖)は持たない 皮膚に刺して針を抜く時に先端を潰さない様に注意 針の切れ味が落ちて刺さらなくなります どうしても持つ場合は先端は軽く持ちましょう 1/3程度の部位(〇)を把持する 針先から長く持つとテコの原理で針が曲がりやすい 針先から短く持つと針が皮膚を貫通できない
#8. 針は彎曲にそって進める ✖ 針は横に押さない! shun@形成外科 × shun@形成外科 〇 ・針が真っ直ぐ(直針)であればフェンシングのように突き 刺しますが、縫合針の多くは彎曲(円形)しています ・真っ直ぐ刺そうとすると先端以外は切れないため 針が曲がってしまいます ※ 実際は皮膚縫合くらいであれば可能ですが 手にかかる抵抗はあると思います 〇 針の彎曲に沿って円形に進めよう! ・針は円形で先端のみが切れます ・円形に針を進めるために手首ごと肘の回内・回外が メインで針を回転させる ※手首は補助的に動かす ※ トンネルを先頭の人がドリルで穴を掘り、後の人 はその穴をそのまま通るイメージです
#9. 針の刺し方 90° shun@形成外科 針は垂直に刺して、垂直に出す! ・針の刺入出は垂直に行うのが基本 shun@形成外科 90° ・刺入出の角度が浅い(針を寝かせる) と皮膚が内反します
運針のイメージと技術
#10. よくある質問 90° shun@形成外科 90°で針を刺入するって 手首が固くてできません 90° 鑷子で創縁(赤矢印)を持ち上げると 手首が楽になりますね
#11. 運針(針の通り道)のイメージ shun@形成外科 ① 浅く針を入れると内反する ・内反とは内側に反る、翻ること ・表皮縫合で内反するとV字状に陥凹して 目立つため避けます shun@形成外科 ・針を浅く(鋭角)刺すと、皮膚の表層部のみ 寄り、深部が寄らないと皮膚が内反します ※ 特に薄いペラペラの皮膚で強く締めすぎた 場合は支持力が弱いため注意! 皮膚が内反やずれて重なりやすい
#12. 運針のイメージ ② shun@形成外科 深部を大きくかけると外反する ・外反とは皮膚が外に反る(上に凸) shun@形成外科 ・針を鈍角(90°以上)で刺して、 台形のように深い組織を多くかけると 深部の組織がぐっと寄るため 下から押されて盛り上がり外反する ※ 糸の締め具合でも変わります
運針の最重要ポイントと注意
#13. 運針のイメージ ③ shun@形成外科 イメージは長方形 ・針を垂直に刺して、垂直に出すのを 意識すると長方形に近づきます ・力が均等にかかるため、創が均等に 寄り平坦に密着する shun@形成外科 ・平坦 or やや外反くらいが良い皮膚縫合 実際は内反/外反が問題にならないことが 多いため、縫合時に内反/外反した場合に 運針を意識すると改善すると思います
#14. 運針は創と直交する平面 <針を右から刺して左から出す場合> 糸は創面と直交する同一平面を通るイメージ D 90° A C ※ ホールケーキを包丁で四等分する場合 縦が創面、横が針と糸が通過する平面 B shun@形成外科 A = 皮膚の刺入部から創縁の距離 B = 針を出す深さ C = 創内の再刺入部の深さ D = 針を出した部位から創縁の距離
#15. 運針の ”最重要ポイント” 皮膚刺入出部から創縁の距離:A=Dとする ・AやDの距離をバイトと呼ぶ D 90° AとDは創を挟んで垂直の部位とする A C B ・結んだ糸が創と直交するように shun@形成外科 皮膚からの深さを揃える: B=Cとする ・ここがずれると皮膚に段差ができる この3点を意識するのが最重要です
皮膚の内反・外反とその影響
#16. 創に対して斜めに糸をかけるとずれる <創に対して斜めに糸をかけた場合> shun@形成外科 ・糸の方向(→)に力が働きます ここで懐かしの “ベクトルの分解”をすると 赤矢印のように “左の皮膚は上方向へ” “右の皮膚は下方向へ” 力が働きます ・糸を締めると皮膚が上下へずれていき 垂直の位置までずれると止まります shun@形成外科 実際は多少のズレは影響は少ないです 硬い骨でイメージするとわかりやすいかも
#17. 深さが違うと段差ができる 皮膚からの深さを揃えると平坦になる: B=C 創縁から針を“出す深さ”と“刺す深さ”が違うと段差になる: B≠C <針を浅く出し、深く刺した場合> C>B shun@形成外科 shun@形成外科 ・左図は C>B の場合 ・左の皮膚が高くなり 段差ができる B =針を出す深さ C =針を再刺入する深さ 段差はずっと残ります 段差ができたらやり直そう
#18. 皮膚の内反・丸まりに注意 shun@形成外科 上皮成分(表皮・粘膜上皮層など)は癒合しない ・老人の皮膚裂傷(スキンテアー)などでは、皮膚が ペラペラで薄いため、皮膚がくるんと丸まってい ることがよくあります shun@形成外科 <皮膚が丸まった状態で縫合した場合> ・表皮(オレンジ)部分: 癒合しない ・灰色部分: 表皮以外と接するため癒合する ・紫部分: 表皮と接するため癒合しない 周囲の表皮が増殖しながら表皮欠損部に張っていく →下図のように皮膚が内反や丸まっていると 抜糸時に創離開や瘢痕部の陥凹が生じる きちんと皮膚の端を確認してから 縫合やステリ固定を行いましょう
糸結びの技術とバイト・ピッチ
#19. 糸結び 単結紮と外科結紮 単結紮(single knot) 外科結び (surgical knot) ・1回結びのこと。通常は単結紮を3回行う ・1回目の結紮時に糸をくるくると2回絡ませる方法 ・2回結ぶと糸が緩まなくなる ※ 2回目で強く締めすぎないように注意 ・糸同士の接触面積が増え摩擦抵抗が大きくなるため 2回目の結紮までの間に緩みにくい ※ 1回目で強く締めすぎないように注意 ・傷が開く方向に緊張が強い場合に 1回目と2回目の結紮の間に緩みやすい ・緊張が強く単結紮ではすぐ緩む場合の縫合に用いる ※ 緊張が強くなければ単結紮で良い
#20. 糸はきつく締めない 瘢痕(横線)以外に糸の痕(縦線)を残さないように注意 糸の痕 瘢痕 線路みたいな瘢痕を見たことはありませんか? かなり目立つため以下のことに注意して余計な傷跡は防ぎましょう ・抜糸の時期を守る。長期間放置しない ・皮膚縫合には組織反応性が低いナイロンを使用する 絹糸は組織反応性が高いため、使用しないか早めの抜糸を心掛ける ・糸をきつく締めすぎない。「ピタッと寄ったところでStop!」 「つまようじ1本分浮かせるイメージ」
#21. バイトとピッチ バイト: 創縁~刺入出部の距離 ピッチ: 縫合糸の間隔 バイト ピッチ ・縫合の目安は“創縁がきちんと寄っている”になります はじめはバイトとピッチの幅を同じにすると良いです ・糸切りは短かすぎると糸がほどけ、長すぎると縫合時に邪魔です 実際は糸の太さによって糸切りの長さは変わりますが、分からな い時はピッチと同じ程度にしましょう
ステリ・ステープラーの使用法と参考文献
#22. ステリ・ステープラーの注意点 創縁をきっちり寄せる ※ 間が開いていると瘢痕の幅が広くなって目立ちます テープ(ステリ)…以下の症例は縫合を考慮してもいいかも ‣出血・汗・唾液などで浮いて剥がれてしまう ‣頭髪・眉毛・眼球の近くでテープを十分な長さで貼れない ホチキス(ステープラー) ‣創縁にすき間・段差・内反ができないように注意しましょう ※頭で傷がパックリ開いている場合は、他の人に創縁を寄せて 貰ってからステープラーで固定しましょう ※手や鑷子2本で創縁を揃えておき、別の人に固定して貰う
#23. Take home message ・針は彎曲に沿って回転させよう ・皮膚からの深さを揃えよう ・バイト(創縁と刺入出部の距離)を揃えよう ・創部と糸は直交させよう 今回は縫合の基本的な理論を説明しました 実際の臨床ではここまで意識しないことが多いかもしれません 縫合時に皮膚が内反・外反・ずれてしまう時があれば、これらを意識 すると改善できると思います。明日から早速実践してみましょう!
#24. 参考文献 ・形成外科診療ガイドライン 2021年版. • 研修医・外科系医師が知っておくべき形成外科の基本知識と手技. ・田嶋定夫. 形成外科手術手技シリーズ 顔面骨骨折の治療. 形成外科. 克誠堂出版, 2012, Vol55 増刊号. 改訂第2版. 克誠堂出版, 1999. ・平野明喜. 形成外科診療プラクティス 顔面骨骨折の治療の実際. 文光堂, 2010. スキル外来手術アトラス 改題第3版. 文光堂, 2006. • 市田正成. ・医学大辞典 第2版. 医学書院, 2009. • 菅又章. 実践よくわかる縫合の基本講座. PEPARS. 2017, No.123 増大号. 次回、全米が泣いた? Part 2 真皮縫合編. Coming soon