#4.
局所麻酔薬中毒とは 局所麻酔薬中毒とは ・局所麻酔薬は神経のNaチャネルを遮断することで麻酔効果を発揮 ・局所麻酔薬の血中濃度が高くなりすぎると、脳などの中枢神経や心筋の Naチャネルも遮断し、局所麻酔薬中毒(以後、局麻中毒)に陥ります ・Naチャネル感受性の違いにより、中枢神経症状→心血管症状の順で発症 頻度 ・局所麻酔薬中毒の頻度:約 1/10000~1/500と幅がある 硬膜外ブロック 10000症例あたり 1.2 ~ 11症例 末梢神経ブロック 10000症例あたり 2.5症例 頻度は稀ですが、局所麻酔薬を使用する限り誰でも遭遇する可能性があります 症状、予防、治療、鑑別を覚えましょう 参考文献:日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017.
#5.
神経伝達の機序 神経軸索の通常時:外側+/内側-に分極 刺激が入り神経が興奮する 細胞膜にある電位依存性Naチャネル から Na+ が細胞外→内へ流入する 神経軸索の興奮時:外側-/内側+に脱分極 脱分極が神経に沿って伝わっていく 感覚や運動の指令が伝達される 参考文献: 藤木翔太. How to 局所麻酔&伝達麻酔 局所麻酔薬の種類と特徴. PEPARS 2017; 127: 1-7.
#6.
局所麻酔薬の作用機序 神経軸索の通常時:外側+/内側-に分極 刺激が入り神経が興奮する 細胞膜にある電位依存性Naチャネル からNaイオンが細胞内へ流入する 局所麻酔薬はNaチャネルに 結合し、細胞内へ流入を阻害 神経軸索の興奮時:外側-/内側+に脱分極 脱分極が障害される 脱分極が神経に沿って伝わっていく 神経伝達がSTOP 感覚や運動の指令が伝達される 局所麻酔が効いている 参考文献: 藤木翔太. How to 局所麻酔&伝達麻酔 局所麻酔薬の種類と特徴. PEPARS 2017; 127: 1-7.
#7.
局所麻酔薬中毒の作用機序 神経軸索の通常時は外側+内側-に分極 刺激が入り神経が興奮する 細胞膜にある電位依存性Naチャネル 局所麻酔薬はNaチャネルに 結合し、細胞内へ流入を阻害 からNaイオンが細胞内へ流入する 局所麻酔薬の血中濃度が 高くなりすぎる 神経軸索の興奮時は脱分極 末梢神経の脱分極が障害 中枢神経や心筋の脱分極が障害 脱分極が神経に沿って伝わる 末梢神経の伝達がSTOP 中枢神経や心血管症状が発現 感覚や運動の指令が伝達される 局所麻酔が効いている 局所麻酔薬中毒 参考文献: 藤木翔太. How to 局所麻酔&伝達麻酔 局所麻酔薬の種類と特徴. PEPARS 2017; 127: 1-7.
#8.
局所麻酔薬中毒の原因 過量投与 過量の局麻を投与後に、周囲組織から 緩徐に血管内へ吸収された場合 症状の経過 ・局麻投与後に 数~30分 程度かけて 血中濃度が上昇する ・血中濃度の上昇に伴い、段階的に さまざまな症状が出現し始める 血管内誤投与 誤って血管を穿刺してしまい 血管内へ局麻を投与した場合 症状の経過 ・血管内誤投与では、少量でも血中濃度 が急上昇し、中毒域を超える場合あり ・1/2の症例は投与後 50秒以内に 3/4の症例は 5分以内に症状が発現する 局麻中毒の発症時間は様々です。単回投与後 15分以上で発症することもあり 大量に使用した場合は少なくとも30分間は経過観察しましょう 参考文献:日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017.
#9.
中枢神経系の症状 • 局麻血中濃度上昇により、まず、大脳皮質の抑制系ニューロンが遮断される 初期症状として、刺激症状の舌・口唇のしびれ、多弁・めまい・けいれんなどが現れる • 血中濃度のさらなる上昇により、次は大脳皮質の興奮系ニューロンも抑制される 抑制症状として、意識消失、呼吸停止などが発症する 心停止 局麻血中濃度上昇 ステップ1 さらに血中濃度上昇 ステップ2 20- 15- 局所麻酔 の影響 局麻中毒 の症状 大脳皮質の抑制系ニューロン を抑制→刺激症状 • 舌・口唇のしびれ • 金属様の味覚 • 多弁・呂律困難 • 興奮・めまい • 視力・聴力障害 • ふらつき・けいれん 参考文献:日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017. • 大脳皮質の興奮系ニューロ ンを抑制→抑制症状 10- 呼吸停止 昏睡 意識レベル低下 痙攣 筋肉のふるえ 視野障害、多弁 • せん妄 • 意識レベル低下 • 昏睡 • 呼吸停止 5- 心毒性 頭重感、耳鳴り 口唇・舌のしびれ 0リドカイン 血中濃度 (μg/mL) 稲田英一. 新麻酔科研修の素朴な疑問に答えます Ⅶ. 局所麻酔薬・区域麻酔 中枢神経 系毒性
#10.
心血管系の症状 • • • • • 神経症状が先行し、遅れて心血管系症状が発現する 初期は、交感神経の興奮に伴い、高血圧、頻脈、心室性期外収縮などを生じる その後、心筋・刺激伝導系の直接的な抑制を生じ、不整脈、循環虚脱などを発現する 血管内誤投与の場合は、神経症状なしで循環虚脱を生じる 心電図はPR延長、ORS幅の増大が特徴的 心停止 20- 局麻血中濃度上昇 ステップ1 局所麻酔 の影響 局麻中毒 の症状 交感神経の興奮による症状 • 高血圧 • 頻脈 • 心室性期外収縮 さらに血中濃度上昇 ステップ2 心筋、刺激伝導動系の直接的 な抑制がおこる • 洞性徐脈 • 伝導障害 • 低血圧 • 循環虚脱 • 心静止 呼吸停止 15- 昏睡 10- 意識レベル低下 痙攣 5- 筋肉のふるえ 視野障害、多弁 頭重感、耳鳴り 口唇・舌のしびれ 0リドカイン 血中濃度 (μg/mL) 参考文献:日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017. 稲田英一. 新麻酔科研修の素朴な疑問に答えます Ⅶ. 局所麻酔薬・区域麻酔 心毒性 中枢神経 系毒性
#11.
非典型的症候 • • • • 先駆症状あり 16% 症候発現遅延 または 神経症候なしで循環症状出現 41% 心血管系、神経系疾患などの基礎疾患の存在が関係 全身麻酔や鎮静下では症状の発見が遅れるため注意 手術時は、術野に集中しており、患者も布で覆われているため、ただでさえ 変化に気付きにくい状況です。特に麻酔も術者が行う場合は、看護師さんと 一緒に声掛けをするなど、局麻中毒の兆候がないか気にかけましょう 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017. 藤木翔太. How to 局所麻酔&伝達麻酔 局所麻酔薬の種類と特徴. PEPARS 2017; 127: 1-7.
#12.
局所麻酔薬中毒の予防 局麻の投与量を減らす ・FDAが最も推奨する局麻中毒発生予防策は投与量を制限すること ※米国食品医薬品局 (Food and Drug Administration: FDA) ・局麻は最小有効量(麻酔の効果はきちんとでる最小量)を使用する 【局麻投与量を少なくする方法】※個人の見解です 1. 細い針を使用する(30-34Gなど) 細い針は少量ずつしか注入できません 同じ1mlでも 23G と 32G では、局麻する範囲が結構違います 2. 生食で希釈する 使用量が多くなりそうな場合、生食で 2-3 倍に希釈する 希釈しても、麻酔効果はあります 3. 麻酔方法を変更する 使用量が多そうで局麻中毒が心配な場合は、全身麻酔など麻酔方法を変更 参考文献:日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017.
#13.
局所麻酔薬の極量 一般名 リドカイン 商品名 局所麻酔薬の極量 (mg/kg) • 7(E添加あり)(E:エピネフリン) キシロカイン • 4(E添加なし) ※ 1%キシロカイン:1ml=10mg • 4.4 ※海外歯科ガイドラインの小児使用量 メビパカイン カルボカイン ブピバカイン マーカイン レボブピバカイン ポプスカイン ロピバカイン アナペイン プロカイン マーカイン 2%リドカイン(1/80000E添加あり) •5 • 2-4 リドカイン(キシロカイン)の極量に注目 ・キシロカインEなし:4 mg/kg ・キシロカインEあり:7 mg/kg エピネフリン含有時は、血管収縮作用により 吸収が遅延→作用時間が延長し、極量が増える • 10 よく使用する局所麻酔の極量は必ず覚えておきましょう 特に小児や広範囲に麻酔する場合は極量を超えないように注意を 参考文献:甫母祐子. 3救急 消毒、局所麻酔法. 小児科診療. 2019, Vol.82, 増刊号. 日本歯科麻酔学会. 安全な歯科局所麻酔に関するステートメント. 2019.
#14.
局所麻酔薬中毒の予防 吸引テストの実施 ・穿刺後に吸引し、逆血がないことを確認する ※吸引テストをしても、確実に血管内投与が避けられるわけではないため注意 少量分割投与 ・1度に全量投与ではなく、少量(3-5ml)ずつ、分割して投与後にしばらく観察する ・血管内誤投与時に、1度に全量を注入すると局麻中毒のリスクが上がる また、高圧をかけて一気に注入すると、神経損傷を引き起こす可能性もある エコーで針やカテーテル先端の位置を確認 ・末梢神経ブロックなどで、エコーで針やカテーテルの先端の位置確認は血管内投与を 予防するのに有用 ※必ず血管内投与を防止できるわけではないため注意 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017.
#15.
局所麻酔薬中毒の予防 患者の病態を把握する ・小児・肝障害がある患者 → 代謝酵素活性が低下するため、局麻中毒を生じやすい ・心不全患者 → 循環時間が遅延し、組織の局麻濃度が上昇しやすい ・局麻はpHの影響をうける → アシドーシスは麻酔効果発現が遅く、アルカローシスでは早い ※ 局麻に炭酸水素Na(メイロン)を添加すると効果発現が早まるのはこのため 局麻の最大耐容量(極量)が添付文書にありますが 患者の状態によっても中毒閾値は変化します! ・局麻血中濃度の推定は難しい ・体重あたりの最大耐容量のみを基準に投与はやめ、極量より少ない量に留める 極量とはこれ以上は局所麻酔中毒の危険性が高いという目安であり 極量まで使用可能という意味ではないので注意しましょう 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド. 2017. 藤木翔太, 山本寛人. How to 局所麻酔&伝達麻酔 局所麻酔薬の種類と特徴. PEPARS 2017; 127: 1-7.
#16.
局麻中毒の治療 局麻中毒の発生 まず行うこと 循環不安定 ・重度低血圧 ・不整脈あり 経過観察 □局所麻酔薬の投与を中止 □モニターの装着 □気道確保と100%酸素投与 □痙攣の治療 □血中濃度測定のための採血 □心配蘇生の開始 □脂肪乳剤の投与 □体外循環の準備 □応援の要請 □静脈ラインの確保 ※必要に応じて気管挿管、人工呼吸 ※ベンゾジアゼピンが推奨 ※余裕があれば 循環安定 □患者を監視と治療ができる場所へ移動 □観察の継続 □脂肪乳剤の副作用に注意 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017 を改変して引用 □注意深い観察 □脂肪乳剤を考慮 □対症的な治療
#17.
局麻中毒の治療時の注意点 脂肪乳剤の注意点 • 局麻を使用する場合、20%脂肪乳剤(イントラリポス®)を常備する • プロポフォール(溶媒は脂肪乳剤)を脂肪乳剤の代用としない ※ プロポフォールの投与量増加による直接心抑制が生じるため • 小児も成人と同じ量を使用 • 投与開始後は、局麻の血中濃度が一時的に上昇する場合がある • 多くは総投与量 10 mL/kg 以下で蘇生効果が報告。最大投与量の目安は 12 mL/kg ※ 動物実験に基づいた、ヒトにおける脂肪乳剤の致死量は 67 mL/kg 頻脈・不整脈・蘇生時の注意点 • 局麻中毒からの蘇生は長時間を要する場合がある • 頻脈・不整脈の治療目的でリドカインを用いない ※リドカインは局麻と同成分 • アドレナリン投与量はAHA (American Heart Association ) 蘇生ガイドライン等に従う ※ ASRA (American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine)基準の< 1 μg/kg にはこだわらない 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017 を改変して引用
#18.
局麻中毒時の脂肪乳剤の投与法 20% 脂肪乳剤 の 投与法 ※ ( )内は体重70kgの場合 1.5 mL/kg(100mL)を約1分かけて投与 0.25 mL/kg/min(17mL/min=1,000mL/h)で持続投与開始 5分後 循環の改善が無い場合 ・bolus投与2回目 : 1.5 mL/kg(100mL)を投与 ・持続投与量を2倍: 0.5 mL/kg/min(2,000mL/h)に上昇 さらに5分後 bolus投与3回目:1.5 mL/kg(100mL)を投与 ※ bolus投与は3回が限度 循環の回復・安定後もさらに10分間は脂肪乳剤の投与を継続 ※ 最大投与量の目安:12mL/kg 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017 を改変して引用
#19.
脂肪乳剤の副作用 • 脂肪乳剤は局麻中毒治療では、ほとんどの症例で最大投与量以下で副作用なく効果を認める • 脂肪乳剤の副作用の多くは、局麻以外の薬物中毒治療後に生じたもの ※ 原因として、局麻は吸収が比較的急速に生じ、血中濃度の上昇も短時間のため。一方で 局麻以外の薬物は経口摂取で消化管吸収に長時間かかり、脂肪乳剤が多量に長時間投与されるため <副作用の報告例> • 局麻以外の薬物中毒30例で、血清アミラーゼ上昇、高脂血症、気管支痙攣が各々1例で生じた • 重篤な副作用として、多量の循環作動薬による中毒に対し、脂肪乳剤の投与後まもなく 高度の徐脈や心停止を生じた症例 ※ 脂肪乳剤が原因とは特定されていない • 局麻以外の薬物中毒例に、肺障害や膵炎の報告 ※ 肺障害は蘇生時のアドレナリンが影響している可能性あり • 脂肪乳剤の投与後に血液濾過で、濾過フィルターの目詰まりが生じた 脂肪肪乳剤投与後は呼吸状態や胸部Xpに注意し リパーゼ、アミラーゼ等の検査を行うことが望ましいです 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017
#20.
鑑別 局麻中毒以外の疾患の可能性も必ず考慮しましょう アナフィラキシー 皮膚、粘膜の症状が急速に発症し、さらに下記症状の少なくとも1つ伴う場合 アナフィラキシーの可能性が非常に高い 気道/呼吸 呼吸不全 循環器 ・呼吸困難 ・喘鳴 ・低酸素血症など 血圧低下 臓器不全症状 その他 ・筋緊張低下 ・失神 ・失禁など ・皮膚および粘膜症状 80-90%、気道症状 70%、消化器/心血管系症状 45% ・皮膚症状を伴う場合はアナフィラキシーを疑いますが 手術時は布で覆われている場合が多いため注意しましょう! 参考文献: 日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン2022 消化器症状 ・腹痛 ・嘔吐など
#21.
鑑別 不安/パニック発作・過換気症候群 ・不安/パニック発作… 強い緊張、切迫した破滅感、息切れ、頻脈、消化器症状、皮膚紅潮 ・ 過換気症候群 … 呼吸は浅く速い、四肢の痺れ(テタニー様けいれん発作) Trousseau(トルソー)徴候=産科医の手、頭痛、動悸、頻脈 ポイント:強い緊張・不安がある。SPO2は正常。蕁麻疹、喘鳴、血圧低下などは生じません 血管迷走神経反射 ・強い疼痛・緊張などのストレスで生じる。急激な徐脈、低血圧、蒼白、発汗、失神 ポイント:失神の持続時間は1 分程度で、一過性の意識消失です 特に後遺症を残さず、生命予後は良好 既往がある場合は要注意 参考文献: 日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン2022.日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017 失神の診断・治療ガイドライン 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005- 2006年度合同研究班報告)
#22.
鑑別 薬剤の影響 ・鎮静薬…ベンゾジアゼン系の脱抑制→多弁、呂律困難 過量投与→傾眠、意識消失、呼吸停止 ・脊髄くも膜下/硬膜外麻酔…徐々に発現する徐脈、低血圧、呼吸停止 ・血管収縮薬…頻脈、高血圧、頭痛、不安感 その他の併発症 ・喘息、脳卒中、心筋梗塞など 参考文献: 日本麻酔科学会. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド2017
#23.
Take home message ・局麻はなるべく少なく、最小有効量を使おう! ・局麻中毒に早く気付くため、初期症状に注意しよう! ※ 舌・口唇のしびれ、金属様の味覚、多弁・呂律困難、興奮、めまい、視力・聴力障害 ・局麻中毒以外も鑑別しよう! ※ アナフィラキシー、不安発作、過換気症候群、血管迷走神経反射、薬剤性、併発症 ・局所麻酔時には、局麻中毒やその他の疾患の症状にも 注意しましょう! ・『局所麻酔時に痛みを減らすテクニック』のスライドも あるのでぜひご覧ください