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腎生検の実臨床への生かし方

投稿者プロフィール
長澤将

東北大学病院

24,678

126

概要

腎生検は治療選択、腎予後の判定にとても役立ちます。腎生検でわかること・わからないことなど、腎生検結果を診療に活かすための知識を、具体例と共にまとめました。

◎目次

・今回のTips

・腎生検の基本知識

・腎生検の適応 = 禁忌がなければ腎生検できる

・腎生検による「メリット>リスク」が適応

・腎生検の目的(メリット)

・腎生検で腎予後が分かるの?

・腎生検のリスク

・そもそも、どのくらい出血するの?

・出血のリスクを減らすことはできますか?

・安静は出血を減らしますか?

・実際どうしていますか?

・腎生検でわかること・わからないこと

・腎生検する前に考えて欲しいこと

・具体例

・腎生検を診療に活かす!

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

参考文献

  • 『糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の病理診断への手引き』

  • 『腎生検ガイドブック 2020』p.57

  • Hamano T,et al. Biopsy-proven CKD etiology and outcomes: Chronic Kidney Disease Japan Cohort (CKD-JAC) study. Nephrol Dial Transplant. 2022 Mar 22:gfac134. doi: 10.1093/ndt/gfac134.

  • Canney M, et al. The Risk of Cardiovascular Events in Individuals With Primary Glomerular Diseases. Am J Kidney Dis. 2022 May 24:S0272-6386

  • Titze S,et al; GCKD study investigators. Disease burden and risk profile in referred patients with moderate chronic kidney disease: composition of the German Chronic Kidney Disease (GCKD) cohort. Nephrol Dial Transplant. 2015 Mar;30(3):441-51

  • Clin Exp Nephrol. 2020 ;24(5):389-401

  • Medicine 2016;95:e4754

  • Clin Kidney J. 2017;10:9-15. 日腎会誌 1986;28:821-828

  • Clin Exp Nephrol. 2018 Oct;22(5):1100-1107

  • 日腎会誌 2020;62:45‒51

  • Clin Exp Nephrol. 2009;13:594–597.

  • Clin Exp Nephrol. 2009;13:325–331

  • Nephrol Dial Transplant 2009;24:3068-74.

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テキスト全文

腎生検の実臨床への活用法と基本知識

#1.

腎⽣検の実臨床への⽣かし⽅ 〜腎⽣検の適応、実際、どう活かすか︖〜 ⻑澤@腎臓内科 1

#2.

今回のTips ü 腎⽣検の適応(私⾒多め) ü 腎⽣検でわかることわからない事(⼤事なのは診断 → 治療選択、腎予後の判断) ü 腎⽣検結果を診療に活かす(具体例を挙げて) 2

#3.

腎⽣検の基本知識 Ø ⽇本では⼤体 1 万件/年 程度⾏われている → J-RBR(Japan Renal Biopsy Registry)の登録が⼤体年 4000〜4500/年程度 平成 10 年〜12 年の腎臓学会の集計では 1 万⼈程度とあったため、このくらいの数と予想できる Ø 確定診断に必要 →『症候群」はあくまで⾊々な診断の寄せ集め 診断例 ×︓「ネフローゼ症候群」 ◯︓「膜性腎症によるネフローゼ症候群」 「糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群」 Ø 「臨床診断」か「腎⽣検までしてしっかり診断されているか」は⼤違い →「糖尿病性腎症が強く疑われる場合は,臨床診断の感度が 95%と⾼く」※とあるが、 この根拠となった論⽂は書いていない ※『糖尿病性腎症と⾼⾎圧性腎硬化症の病理診断への⼿引き』p.62 → プロの⽬から⾒ると、20 ⼈に 1 ⼈診断を間違っていていいのか︖ と思う 3

腎生検の適応と禁忌、メリット

#4.

腎⽣検の適応 = 禁忌がなければ腎⽣検できる 絶対的禁忌 p 患者の不同意 p 尿路感染症 p コントロールできない 出⾎傾向 → 普通に考えて観⾎的⼿技をしない → 感染症とわかっていて腎⽣検をするメリットはない 相対的禁忌(形態的異常) p ⽔腎症 → ⽔腎のグレードによるが、ネフローゼやバリバリの 腎炎だったらせざるを得ない状況はあると思う p ⽚腎 → ⽚腎だからといって、出⾎が増えるわけではない 腎摘出になったら…なんて⾔うが、腎摘出になった 症例は 0.007%、バイオプシーガンとなってから 報告を⾒たことがない ※『腎⽣検ガイドブック 2020』p.57 p ⾺蹄腎 → 実は回転異常で腎⾨部が外側に向いていて危険だ、という話 ※『腎⽣検ガイドブック 2020』p.14 → 相対的禁忌とされているが、施設や術者の考え⽅が⼤きいと思う p その他 → 妊娠後期や⻲背でうつぶせになれなくても、側臥位や座位でも エコー下なら腎⽣検できる ※ 座位は腎臓が下にくるので刺しやすい 腹臥位で背中から穿刺するのは、実は⼀番腎臓が⽪膚から遠い 4

#5.

腎⽣検による「メリット>リスク」が適応 Ø 全ての医療⾏為はゼロリスクではないので、「メリット>リスク」で適応を考えるのが 妥当だと思う Ø 腎⽣検によるメリット → 次のページ 5

#6.

腎⽣検の⽬的(メリット) Ø 検尿異常から IgA 腎症を⾒つける(腎⽣検最⼤の⽬的) → 検診で⾒つかった検尿異常を腎臓内科に送るのはこのため Ø ネフローゼ症候群などの 病型の確定 → 膜性腎症、微⼩変化型ネフローゼ、巣状分節性⽷球体硬化症、アミロイドーシスでは 治療⽅針も予後も念頭に置くべきことも全然違う Ø 腎予後の判定(これは少数派意⾒として) → ⾶び込みできた Cr = 4 mg/dL が糖尿病性腎硬化症か IgA 腎症かは⼤違い 腎予後、移植、腹膜透析を含めた治療を⾒据えるならば確定診断が重要 → 急性腎障害で尿が出ないときに、急性尿細管壊死として粘るか、荒廃した腎臓として 腎代替療法を提案するかなどを判断する材料になる 6

腎生検のリスクと出血の実態

#7.

腎⽣検で腎予後が分かるの︖ Ø 腎⽣検の結果を組み合わせると 予後予測が正確になる Hamano T,et al. Biopsy-proven CKD etiology and outcomes: Chronic Kidney Disease Japan Cohort (CKD-JAC) study. Nephrol Dial Transplant. 2022 Mar 22:gfac134. doi: 10.1093/ndt/gfac134. Ø 腎炎であっても、病型別に⼼⾎管イベントが想定できる Canney M, et al. The Risk of Cardiovascular Events in Individuals With Primary Glomerular Diseases. Am J Kidney Dis. 2022 May 24:S0272-6386 Ø ⼤規模研究でも せいぜい 20% 程度しか腎⽣検されていない ことには注意 → 東北⼤学が主導で⾏った GONRYO 研究でも、⽷球体腎炎で 81%、糖尿病性腎症や腎硬化症で 20% 程度しか腎⽣検されていない Clin Exp Nephrol 2010;14:333-9 → これは海外の研究でも同様の傾向 Titze S,et al; GCKD study investigators. Disease burden and risk profile in referred patients with moderate chronic kidney disease: composition of the German Chronic Kidney Disease (GCKD) cohort. Nephrol Dial Transplant. 2015 Mar;30(3):441-51 7

#8.

腎⽣検のリスク 01 ⽇本のアンケート結果 (腎臓学会が 2018 年に⾏ったもの) (15,657 例回収) リスク 発⽣率 ⾁眼的⾎尿 2.8% 輸⾎ 0.8% 膀胱タンポナーデ 0.4% インターベンション 0.2% 腎臓摘出 0.0% 死亡 0.006% ▶ 低発⽣率で、しかも腎⽣検の⼿技とは無関係と書いてある 8

#9.

腎⽣検のリスク 02 知っておいたほうがいいこと Ø 出⾎に伴うインターベンションの 65% が 24 時間以内 に起こるが、 20% は 1 週間以上経ってから 起きている → なので、腎⽣検後はしばらく注意が必要 Ø Clin Exp Nephrol. 2020 ;24(5):389-401 私は「次の外来までは無理しないでね」と話します ⾎腫が⼤きい(>30 mm)と 5〜7 ⽇後に 70% で発熱する Medicine 2016︔95︓e4754 → なので、⾎腫が⼤きい場合にはカロナールなどを退院処⽅で出しておく 9

出血リスクの管理と安静の重要性

#10.

そもそも、どのくらい出⾎するの︖ Ø Clin Kidney J. 2017;10:9-15. 1986;28:821-828 腎⽣検の出⾎量は中央値が 38 mL(90% 以上が <100 mL の出⾎) ⽇腎会誌 → ただし、べき乗の分布でロングテールがあるので 1,000 mL 以上出⾎する⼈は必ず出てくる 出⾎を増やす因⼦は穿刺回数のみ(4 回以上は慎重に) Ø ⼤事なのは 出⾎量≠合併症 → 当然「体格が⼩さい」「もともと貧⾎がある」「全⾝状態が悪い」などは合併症を起こしやすい (出⾎のリスクと合併症のリスクを混同している⼈が多い) 10

#11.

出⾎のリスクを減らすことはできますか︖ Ø 術後の⼿技などで減らすことは おそらくできなさそう p ⽤⼿圧迫︓迷⾛神経反射↑(出⾎は 10 mL 程度減るが、臨床的意義があるか︖) Clin Exp Nephrol. 2018 Oct;22(5):1100-1107 p アドナ®︓効果なさそう ⽇腎会誌 2020︔62︓45-51 p 「さらし」や砂嚢︓まともな論⽂すら無い Ø 術後の超⾳波での観察と患者の状態をチェックしたほうがいいだろう 11

#12.

安静は出⾎を減らしますか︖ Ø 安静は2時間で⼗分 と考えている → ベッド上安静 2 時間 vs 7 時間で出⾎合併症は変わらず、7 時間で腰痛が増えたというデータあり Clin Exp Nephrol. 2009;13:594–597. Ø 腎⽣検後のエコーで⾎腫の厚みが 2 cm以上の時は合併症を増やす → ⼼配ならば寝かせっぱなしよりエコー当てに⾏ったほうが良い Clin Exp Nephrol. 2009;13:325–331 ⼤きな出⾎は⼤体、患者さんが痛かったり、吐き気を訴えるので、 そこを逃さず⾒に⾏くのが良い 12

腎生検前の考慮事項と具体例

#13.

実際どうしていますか︖ p 朝絶⾷ p 10時から腎⽣検 p 昼ごはんまでベッド上安静 p 昼ご飯は起きて⾷べてもらう 翌朝から安静解除して、採⾎確認して退院 (このあたりは各病院でブラッシュアップしてください) p 初回のトイレは看護師付き添い p 翌朝まではトイレ歩⾏まで 13

#14.

腎⽣検でわかること・わからないこと わかること わからないこと p 年齢 p 性別 p Cr p 尿タンパク p 病名(ex. IgA 腎症) このような基本的パラメータは 分からない検査である p 組織学的重要度 p 尿初⾒ p 治療反応 このように意外と少ない p 薬剤性腎障害の被疑薬 Ø 腎⽣検は、臨床的なパラメータと組み合わせて判断する のが重要 p 腎予後︓残存している⽷球体、間質障害などから p 治療反応︓「MCNSなら反応は良いだろう」「Selectivity Index が低い膜性腎症だから反応がいいだろう」 …なんてことを考えながら⾏う Ø なので、「腎病理の病名」だけで判断するレベルだと腎⽣検はあまり⽣かせない → 病理だけで⾊々⾔うのもナンセンス(学問的には良いと思う) 14

#15.

腎⽣検する前に考えて欲しいこと Ø 「この患者にどのような病理結果だったらどうするか︖」をイメージ ※「⼀応」や「念のため」でする検査ではない Ø 「この患者に腎⽣検の結果で治療⽅針が変わるか︖」を常に意識する事がいいだろう 分かりにくいので具体例を挙げていきます 15

具体例に基づく腎生検の結果と対応

#16.

具体例 01(背景) 90歳 ⼥性 ※症例は個⼈がわからないように改変しています 主訴︓浮腫 ü ADL ⾃⽴ ü 既往歴︓特記事項無し、糖尿病無し ü 感冒後 3 週間してから、下腿浮腫 → 全⾝浮腫で来院 ü Alb = 1.9 g/dL、尿タンパク 6.3 g/gCre、ANCA 陰性、GBM 陰性、補体正常 90 歳だから腎⽣検はしない︖︖ 16

#17.

具体例 01(検査後) 腎⽣検︓MCNS であった ü 年齢を考えステロイドパルスのみ → 完全緩解 ü その後はステロイドを漸減し、最⼩量 PSL = 0.05 mg/kg/day ü 再発なく経過 → 2年間再発なく、かかりつけ医にこのまま紹介 (再発したときは ADL や認知機能で相談) 余談︓驚くべきことに腎病理では動脈硬化性病変なし︕ 17

#18.

具体例 02(背景) 82歳 ⼥性 ※症例は個⼈がわからないように改変しています 主訴︓浮腫 ü ADL は寝たきり(⾃分で寝返りできない)、⾃発語もない ü 既往歴︓特記事項無し、糖尿病ははっきりしない ü Cr = 0.8 mg/dL、Alb = 2.3 g/dL、尿タンパク 13.3 g/gCre、ANCA 陰性、GBM 陰性、補体正常 どうする︖ 18

腎生検結果の解釈と治療方針

#19.

具体例 02(検査後) 腎⽣検︓アミロイドーシスであった p 腎臓への治療反応は悪いと考えます p 腎予後は 2〜3 年だと思います p また、⼼臓などの問題が起きると思います(不整脈や⼼不全) ü 家族に上記を説明 → 「治らない病気であれば積極的な治療希望しません」 ü 元いた施設に戻った(腎予後の⾒⽴てをつけた、紹介状を嘱託医へ) 余談︓体液量管理はしました 19

#20.

具体例 03(背景) 36歳 男性 ※症例は個⼈がわからないように改変しています 主訴︓全⾝浮腫 ü 全⾝浮腫で来院 ü 既往歴︓これまで全く検診などを受けたことはない ü 180cm、121kg、腎臓は 11×5 cm、左右差なし、輝度はやや⾼輝度、アキレス腱反射(-) ü Cr = 1.1 mg/dL、Alb = 2.9 g/dL、尿タンパク 8.7 g/gCre、Hb = 10.9 g/dL、HbA1c = 7.1%、 ANCA 陰性、GBM 陰性、補体正常 どうする︖︖ とりあえず、全⾝浮腫なのである程度コントロールするとして、 ネフローゼ症候群に対してどう介⼊する︖ 20

#21.

具体例 03(検査後) 腎⽣検︓糖尿病性腎症であった ü 腎臓の状態を⾒ると、腎予後は 2 年程度と考えた ü 本⼈はショック受けていたが、治療を頑張って 5 年後に⾎液透析導⼊となった(腎移植待機) ü 本⼈の「もっと早く分かっていれば・・・」→ 健診で早期発⾒が重要︕ ü ただし、スコアによる腎予後が全てではなく、「頑張れば腎予後伸びる⼈がいる」と⾔う事も重要です (「戦うべき相⼿をはっきりさせるために腎⽣検しましょう」と話します) 余談︓糖尿病性腎症のスコアがあります ※『糖尿病性腎症と⾼⾎圧性腎硬化症の病理診断への⼿引き』p.4 21

腎生検を診療に活かす方法と重要性

#22.

具体例 04(背景) 67歳 ⼥性 ※症例は個⼈がわからないように改変しています 主訴︓検尿異常 ü ⾷堂のおかみさん(むちゃくちゃ元気) ü 既往歴︓40歳から⾼⾎圧、60歳頃から尿タンパクが指摘されていたが、 主治医からは「⾼⾎圧によるものだね」と⾔われていた → 前医の閉院に伴いかかりつけ医が変わって「専⾨医に診てもらった⽅がいいよ」と⾔われ紹介 ü 154cm、52kg、腎臓は 10×4.5 cm、左右差なし、輝度はやや⾼輝度、糖尿病歴 ü Cr = 1.23 mg/dL、Alb = 4.0 g/dL、尿タンパク 1.2 g/gCre、uRBC = 5〜9/HPF、 ANCA 陰性、GBM 陰性、補体正常 これを腎⽣検する︖︖ 22

#23.

具体例 04(検査後) 腎⽣検︓IgA 腎症(M0 S1 E0 T1 C0)であった 臨床的な IgA 腎症の腎予後のスコアがあります Nephrol Dial Transplant 2009︔24︓3068-74. p ⼀部被包癒着などもあり、治療適応があると考えます p 放置すると 5〜10 年は⼤丈夫だが、15〜20 年後は⼼配というレベル ü 本⼈に上記を説明 →「やれることやって」 ü 扁桃摘出 + ステロイドパルスで尿所⾒はほぼ寛解(尿タンパクが 0.2〜0.5 g/gCre 残った) ü RAA 系で⾎圧も⽬標値であり、Cr = 1.0 mg/dL 程度(これから SGLT2 阻害薬を⼊れていく感じ) 余談︓ここに SGLT2 阻害薬を使うのが最近の考え⽅ IgA腎症についてもっと知りたければ「保存する」を︕(各論⼈気ないんです、、、、) 23

#24.

腎⽣検を診療に活かす︕ ü 腎⽣検は 治療選択、腎予後の判定 にとても役⽴ちます ü 特に 尿タンパク、ADL が良い に⼈は早めに紹介を︕ ▼これまでのスライドも参考にしてください︕▼ 24

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