#4.
1.定義・分類 ネフローゼ症候群とは 定義 Ø ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体において血液中の蛋白が大量に尿中に漏出する ことで発症する症候群である Ø 原因は多岐にわたるが、末期腎不全など重篤な合併症を予防するためにも 早期の診断と治療開始が肝要である Ø 本スライドは 『日本腎臓学会 エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020』 に準拠して説明する
#5.
1.定義・分類 ネフローゼ症候群の診断 成人ネフローゼの診断基準(厚生労働省) • • • • 蛋白尿:3.5 g/日以上が持続する 随時尿において尿蛋白・クレアチニン比が 3.5 g/gCr 以上 の場合もこれに準ずる 低アルブミン血症:血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下(血清総蛋白量 6.0 g/dL 以下も参考になる) 浮腫 脂質異常症 (高 LDL コレステロール血症) 注: 1)上記の尿蛋白量,低アルブミン血症 (低蛋白血症) の両所見を認めることが 本症候群の診断の必須条件である 2)浮腫は本症候群の必須条件ではないが,重要な所見である 3)脂質異常症は本症候群の必須条件ではない 4)卵円形脂肪体は本症候群の診断の参考となる エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020. 厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する 調査研究班 ネフローゼ症候群診療指針.日腎会誌 2011;53:79̶122. 難治性ネフローゼ症候群分科会.
#6.
1.定義・分類 ネフローゼ症候群の分類 Ø 一次性と二次性に大別され、それぞれ特徴的な原因疾患が存在する。 Ø 一次性ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体そのものの病変が原因となって発症する 例)微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症など Ø 二次性ネフローゼ症候群は、全身性の基礎疾患に伴って発症する 例)糖尿病性腎症、ループス腎炎 Ø これらの疾患を病歴、既往歴、腎生検を含む検査などで大別していく Ø ネフローゼ症候群の予後は原因疾患によって大きく異なるため、早期の診断と適切な治療方針 の決定が求められる Ø 病歴や既往歴、血液検査など非侵襲的な臨床所見から原因疾患を絞り込み、腎生検を考慮していく
#7.
2.原因・診断 一次性ネフローゼ症候群の原因疾患 疾患名 特徴 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS) - 小児の一次性ネフローゼ症候群の約80%を占める 成人でも約10〜15%を占める 糸球体の足細胞の障害が原因と考えられている ステロイド治療に対する反応性が良好 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS) - 成人一次性ネフローゼ症候群の約30〜40%を占める 糸球体の一部に分節状の硬化病変を認める ステロイド抵抗性を示すことが多い 末期腎不全に至るリスクが高い 膜性腎症(MN) - 成人一次性ネフローゼ症候群の約20〜30%を占める 糸球体基底膜の肥厚と免疫複合体の沈着を特徴とする 自然寛解もあるが、慢性化のリスクがある 高齢者に多い 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN) - 一次性ネフローゼ症候群の約5〜10%を占める - 糸球体基底膜の二重化とメサンギウム細胞の増殖を特徴とする
#8.
2.原因・診断 二次性ネフローゼ症候群の原因疾患例 分類 原因疾患 代謝性疾患 - 糖尿病性腎症 - アミロイドーシス 自己免疫疾患 - ループス腎炎(SLE) - 血管炎症候群 感染症 悪性腫瘍 薬剤性 その他 - B型肝炎関連腎症 C型肝炎関連腎症 HIV関連腎症 パルボウイルスB19感染症 多発性骨髄腫 悪性リンパ腫 固形癌 NSAIDs ペニシラミン 金製剤 インターフェロン 移植関連腎症 妊娠高血圧腎症
#9.
2.原因・診断 年齢別の好発疾患 年齢層 一次性ネフローゼ症候群 二次性ネフローゼ症候群 小児期 - 微小変化型ネフローゼ症候群 - IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病) 若年成人 - 微小変化型ネフローゼ症候群 - 巣状分節性糸球体硬化症 - ループス腎炎(SLE) 中年期 - 膜性腎症 - 巣状分節性糸球体硬化症 - 糖尿病性腎症 - 薬剤性(NSAIDs、金製剤など) - 膜性腎症 - 糖尿病性腎症 - アミロイドーシス - 悪性腫瘍関連 高齢期 Ø 一次性ネフローゼ症候群では、小児期は微小変化型が大多数を占め、 成人期以降は膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症の頻度が増加 Ø 二次性ネフローゼ症候群では、若年成人ではループス腎炎、中年期以降は糖尿病性腎症が最も多くなる
#10.
2.原因・診断 主な症状・身体所見 p 全身性浮腫 特に下肢や顔面に出現しやすい 圧痕性浮腫を呈する 高度になると全身性浮腫となり、胸水、腹水、陰嚢水腫を伴うこともある 低アルブミン血症による血管内浸透圧の低下と、ナトリウム貯留による体液貯留が原因 p 尿の泡立ち 多量の蛋白尿を反映 p 食欲不振、腹痛、下痢 腸管浮腫による消化器症状の一つ p 全身倦怠感、易疲労感 低アルブミン血症や体液貯留に伴って出現 p 呼吸困難、腹部膨満感 胸水や腹水が原因 p 体重増加 体液貯留による急激な体重増加を認める
#11.
2.原因・診断 主な尿・血液検査所見 検査項目 主な所見 尿検査 - 尿蛋白定量(24時間蓄尿) 3.5g/日以上 - 尿蛋白/尿クレアチニン比(随時尿) 3.5g/gCr以上 - 尿沈渣 卵円型脂肪体、ろう様円柱などの出現 血液検査 - 血清アルブミン 3.0g/dL以下 - 血清LDLコレステロール 250mg/dL以上の高値を示すことがある - 血清トリグリセリド 高値を示すことが多い - 血清クレアチニン 急性腎障害を合併することがある - 血液凝固系 低アンチトロンビンIII血症、高フィブリノゲン血症を認めることがある - 免疫グロブリン IgG低下を認めることがある
#12.
3. 治療・合併症 治療のアウトライン p ネフローゼ症候群と診断したら、まず原疾患が一次性か二次性かを特定する p 一次性ネフローゼ症候群の場合、原疾患に応じてステロイドを中心とした 免疫抑制療法を開始する p ステロイドへの反応性を確認する p ステロイド反応不良の場合、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群と診断し、 シクロスポリン、ミゾリビン、タクロリムスなどの免疫抑制薬を検討する。 p 二次性ネフローゼ症候群の場合、原疾患に応じた治療を行う p 一次性、二次性に関わらず、支持療法を行う 支持療法 Ø 浮腫管理: 食塩制限、利尿薬、アルブミン製剤の使用を検討する Ø 脂質異常症管理: スタチンなどの脂質降下療法を行う Ø 血栓症予防: 抗凝固療法を考慮する Ø 感染症予防: ワクチン接種、生活指導を行う
#13.
3. 治療・合併症 薬物療法のリスト 薬の種類 詳細 ステロイド薬 - 第一選択薬 - 尿蛋白陰性化後、2〜4週間継続し、以後漸減 免疫抑制薬 - ステロイド抵抗性または依存性の症例に使用 - カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)を 主に使用 利尿薬 - 浮腫、胸腹水の管理に使用 - ループ利尿薬(フロセミドなど)が主に使用される レニン-アンジオテンシン系阻害薬 - 尿蛋白減少と腎保護作用を目的に使用 スタチンなど脂質異常症治療薬 - 高コレステロール血症の是正に使用 抗凝固薬 - 血栓症の予防と治療に使用 アルブミン製剤 - 難治性の浮腫、低アルブミン血症に対して使用
#14.
3. 治療・合併症 ステロイドの使用 p 投与量 ü 初期診療:プレドニゾロン0.8〜1mg/kg/日(最大60mg)で治療開始 ü 重症例やステロイド低反応性が予想される場合ステロイドパルス療法を検討 ü 寛解後1〜2週間は初期量を継続 治療反応性をチェック ü 完全寛解後は2〜4週毎に5〜10mg/日ずつ漸減 ü 5〜10mgに達したら再発をきたさない最小量で1〜2年程度維持し漸減中止 ü 4週後に完全寛解に至らない場合は初回腎生検組織の再評価を行い、 必要なら再生検も考慮 ü 再発時の治療:プレドニゾロン20〜30mg/日もしくは初期投与量を投与 p 使用の注意点 ü 副作用として、感染症、高血圧、高血糖、骨粗鬆症、白内障、緑内障、満月様顔貌 などに注意が必要である ü ステロイド減量・中止時は副腎不全に注意し、急な中止は避ける ストレス時には増量を考慮する
#15.
3. 治療・合併症 アルブミン製剤の使用 p 使用の推奨条件 重度の低アルブミン血症(血清アルブミン値が2.0-2.5g/dL未満) 重篤な浮腫や胸水、腹水が認められる場合 (特に利尿薬に反応しない、緊急性が高い場合) p 使用の注意点 ü アルブミン製剤は一時的な対症療法であり、根本的な治療ではない ü 症状改善効果は限定的であり、ルーチンの使用は推奨されない ü 他の治療(ステロイドや免疫抑制剤)と併用することが重要 ü 合併症やコストの観点から長期的な使用は避けるべき ü 使用後の水分管理に注意 ü 急性腎障害を増やすという報告もあり注意 かつ
#16.
3. 治療・合併症 スタチン/抗凝固薬の使用 スタチン p 適応 ü ネフローゼ症候群に伴う脂質異常症に対して使用する ü LDLコレステロール値100mg/dL以下を目標に積極的な使用が推奨される ü 抗酸化作用や抗炎症作用など多面的な効果により、尿蛋白減少や腎機能低下の抑制が 期待される p 使用上の注意 ü シクロスポリン(ネオーラル)との併用時は、 ü ピタバスタチン(リバロ)とロスバスタチン(クレストール)は禁忌
#17.
3. 治療・合併症 スタチン/抗凝固薬の使用 抗凝固薬 p 適応 ü 血清アルブミン値が2.0-2.5g/dL未満の高度の低アルブミン血症で検討 ü 特に膜性腎症によるネフローゼ症候群は血栓塞栓症のリスクが高いため積極的に検討 ü 血栓塞栓症の既往がある場合は、再発予防目的で抗凝固療法が推奨される p 使用上の注意 ü ワルファリンまたは低分子ヘパリンが第一選択薬とされる ü 出血リスクが高い患者では、抗凝固療法のリスクとベネフィットを十分に検討 ü ネフローゼ症候群では抗凝固薬の薬物動態が変化するため、慎重な投与量調整と モニタリングが必要 ü 抗血小板薬との併用は出血リスクが高まるため注意が必要
#18.
3. 治療・合併症 支持療法 非薬物療法 詳細 - 塩分制限 1日6g未満を目標とする 体液管理に重要 食事療法 - 蛋白制限 疾患に応じて0.8-1.1g/kg/日が推奨されている 蛋白過剰摂取を避ける意味合いであり、厳格に守る必要はない - エネルギー摂取 35kcal/kg/日を目標とする - 水分制限 高度の難治性浮腫の場合に検討 生活指導 - 感染症予防のための手洗い、うがいの励行、ワクチン接種 - 血栓症予防のための弾性ストッキングの着用、下肢挙上
#19.
3. 治療・合併症 治療反応性 ネフローゼ症候群の治療効果判定基準 治療効果の判定は治療開始後 1 カ月,6 カ月の尿蛋白量定量で行う. ・完全寛解 : 尿蛋白< 0.3 g/日 ・不完全寛解Ⅰ型:0.3 g/日 尿蛋白< 1.0 g/日 ・不完全寛解Ⅱ型:1.0 g/日 尿蛋白< 3.5 g/日 ・無効 : 尿蛋白 3.5 g/日 注: ü ネフローゼ症候群の診断・治療効果判定は24時間蓄尿により判断すべきであるが,蓄尿ができない場合には 随時尿の尿蛋白・クレアチニン比(g/gCr)を使用してもよい ü 6 カ月の時点で完全寛解,不完全寛解Ⅰ型の判定には,原則として臨床症状および血清蛋白の改善を含める ü 再発は完全寛解から,尿蛋白 1 g/日(1 g/gCr)以上,または (2+)以上の尿蛋白が2〜3 回持続する 場合とする. ü 欧米においては,部分寛解(partial remission)として尿蛋白の50%以上の減少と定義することもあるが 日本の判定基準には含めない.
#20.
3. 治療・合併症 治療反応性 ネフローゼ症候群の治療反応による分類 ・ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群: 十分量のステロイドのみで治療して1カ月後の判定で完全寛解または不完全寛解Ⅰ型に至らない ・難治性ネフローゼ症候群: ステロイドと免疫抑制薬を含む治療を6カ月行っても、完全寛解または不完全寛解Ⅰ型に至らない ・ステロイド依存性ネフローゼ症候群: ステロイドを減量または中止後再発を2回以上繰り返すため、ステロイドを中止できない ・頻回再発型ネフローゼ症候群: 6 カ月間に2回以上再発 ・長期治療依存型ネフローゼ症候群: 2年間以上継続してステロイド,免疫抑制薬などで治療されている
#21.
4.主な疾患別まとめ 疾患別まとめ MCNS p 微小変化型ネフローゼ症候群 (MCNS) ü 一次性ネフローゼ症候群の約40%を占める ü ステロイド反応性良好(90%以上が寛解)だが、再発が30-70%程度にあり、 頻回再発やステロイド依存性も多い ü 急激な発症が多く突然の浮腫をきたす ü 高度の蛋白尿や低アルブミン血症,脂質異常症が認められ, 胸腹水の貯留をきたすこともある ü 顕微鏡的血尿を20-30%の例で合併する ü 小児の80-90%を占めるが、成人でも10-20%を占める ü 原因は不明だが、T細胞機能異常の関与が示唆されている ü 尿蛋白の選択性が高い p 病理 光顕、蛍光で明らかな異常所見なし 電顕ではびまん性の足突起消失を認める
#22.
4.主な疾患別まとめ 疾患別まとめ p ü ü ü FSGS 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS) 一次性ネフローゼ症候群の約10% 低選択性蛋白尿,顕微鏡的血尿,高血圧がみられる頻度が高い ステロイド抵抗性の臨床経過をとることが多く、予後不良な疾患である p 病理 ü 光顕: 採取された糸球体の 50%以下に認められる分節性硬化 *常にサンプリングの問題が診断の制約 ü 蛍光:免疫グロブリンの沈着を認めない場合も多いが、硬化部に IgM や C3 の沈着を認めることも少なくない ü 電顕:広範な足突起の消失、糸球体足細胞の剥離
#23.
4.主な疾患別まとめ 疾患別まとめ ü ü ü ü 膜性腎症 中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患のなかで最も頻度が高い PLA2RやTHSD7Aなどに対する自己抗体が一因 蛋白尿の増加は急速ではなく,浮腫なども目立たない 悪性腫瘍の合併が多い p 病理 ü 光顕:PAM 染色で糸球体基底膜のスパイク形成や虫食い像,PAS 染色で 糸球体係蹄のびまん性肥厚 ü 蛍光:IgG の糸球体係蹄に沿った びまん性顆粒状沈着 ü 電顕:糸球体基底膜上に小型の高電子密度沈着物が観察
#24.
5. Take Home Message Take Home Message Ø ネフローゼ症候群は尿中に蛋白が大量に漏れ出ることで低アルブミン血症、 浮腫、高脂血症などを起こす症候群であり、原因疾患の鑑別が重要である。 Ø 原因は一次性と二次性に分類され、一次性は微小変化型、巣状分節性糸球体硬化症、 膜性腎症などの糸球体疾患が主な原因である。二次性は糖尿病、SLE、 アミロイドーシスなどの全身性疾患が主な原因となる。 Ø ステロイド治療が第一選択だが、ステロイド抵抗性の場合は免疫抑制薬の使用 を検討する。原因疾患によって治療反応性が異なり、一定期間の治療後の 尿蛋白量により完全寛解・不完全寛解・無効に分類される。