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腹水の原因と肝硬変の調査
#1. コンサルテーションシリーズ 腹⽔がたまっている︕どうしよう︖ くるとん@消化器内科 twitter︓@Dr_Claude_Japan
#2. まずは腹⽔の原因を探ろう 腹⽔の原因は ①肝硬変 81%, ②悪性腫瘍 10%, ③⼼不全 3% ④結核 2%, ⑤透析患者 1%, ⑥膵疾患 1% 参考⽂献︓Runyon BA. et al.: Ann Intern Med 1992;117:215-220 上記疾患の可能性を考慮し, 既往歴,輸⾎歴,服薬歴,⽣活歴(飲酒歴など),家族歴などの 病歴を聴取する.
#3. 肝硬変の原因は︖ 慢性ウイルス性肝炎,アルコール性肝疾患,⾃⼰免疫性肝疾患 が代表的な疾患である. 2018年の成因別調査では, C型肝炎(48.2%),アルコール性(19.9%),B型肝炎(11.5%), 原因不明(6.6%),NASH(6.3%),胆汁うっ滞型(3.4%), ⾃⼰免疫性(2.7%)の順に多い. *以前と⽐較して,C型肝炎の⽐率が減少し,アルコール性やNASHの⽐ 率が増加している. 参考⽂献 肝硬変診療ガイドライン 2020年版
腹水の診断方法と検査
#4. 腹⽔の診断 初診の腹⽔患者に対しては,基本的には腹⽔穿刺を考慮する. 腹⽔穿刺(試験穿刺:1回法)の⽅法 ①体位は仰臥位を原則とする. ②超⾳波で腹⽔貯留部を確認し,介在臓器がないことを確認. ③穿刺部位の消毒,(必要に応じて局所⿇酔)を⾏う. ④腹壁に対して垂直に穿刺針(23Gカテラン針など)を先進させ, 超⾳波で先端が腹膜内に⼊ったことを確認し吸引する.
#5. 腹⽔の診断 腹⽔は細胞数,細胞分画,⽣化学(総蛋⽩,アルブミン,糖,LDH,ア ミラーゼ)に加え,培養,細胞診も提出する. ①まずは⾨脈圧亢進(主に肝硬変)による腹⽔かどうかを判断︕ ⾎清アルブミンと腹⽔アルブミンの濃度差(SAAG)を計算する. SAAG 1.1g/dl以上で, ⾨脈圧亢進による腹⽔を疑う. *⼼不全でも1.1g/dl以上となるが,腹⽔の総蛋⽩で鑑別を⾏う. (⼼不全2.5g/dl以上,肝硬変2.5g/dl未満)
#6. 腹⽔の診断 ②特発性細菌性腹膜炎(SBP)の除外を⾏う. SBPとは,明らかな感染の原因を伴うことなく⽣じる細菌性の腹膜炎. 症状としては,発熱や腹痛が最も多いが,顕性症状がない場合もある. 重篤な続発症や致死的となる場合もあり,早期診断,治療が必要︕ 好中球250/mm3以上 腹⽔培養陽性 ⼆次性腹膜炎の否定 全てを満たすとSBPの診断 第3世代のセフェム系抗菌薬が第⼀選択 *培養結果は時間を要し,好中球の条件を満たせば治療検討 参考⽂献 肝硬変診療ガイドライン 2020年版
腹水細胞診と特異度の検討
#7. 腹⽔の診断 ③その他 腹⽔細胞診 悪性腫瘍による癌性腹膜炎を来した場合には,細胞診は67.1%で 参考⽂献︓Allen VA. et al.: Am J Oncol 2017;40:175-177 陽性となる. アデノシンデアミナーゼ(ADA) 結核性腹膜炎の特異度は94.5%との報告がある. ただし感度は58.5%であり,ADAが低くとも結核は否定出来ない. ⾎液検査でT-SPOTの測定も⾏う. 参考⽂献︓Hilebrand DJ. et al.: Hepatology 1996;24:1408-1412
#8. 腹⽔の診断のまとめ 病歴を聴取し,原因を探る. 腹⽔穿刺 細胞数,細胞分画,⽣化学 腹⽔培養 腹⽔細胞診 SAAG 1.1g/dl以上 肝硬変 ⼼不全 甲状腺機能低下症 好中球250/mm3以上で SBPを考慮し, 第3世代セフェム投与開始. SAAG 1.1g/dl未満 癌性腹膜炎 結核性腹膜炎 ネフローゼ症候群 膠原病
腹水の基本的治療法とCART
#9. 腹⽔の基本的治療 ①利尿剤 スピロノラクトンから開始する場合が多いが,単剤でのコントロール困難な 場合には,フロセミドの併⽤や⼊院でのサムスカ導⼊を検討する. アルブミン低値の場合には,⾎清アルブミン投与も併⽤する. ②⾷事療法(減塩) 軽症から中等症では有効とされている.1⽇5-7gの塩分制限. ③腹⽔穿刺 症状改善⽬的に1L以上の多量腹⽔穿刺を⾏う場合があるが, 可能であればCART(腹⽔濾過濃縮再静注法)を考慮する.
#10. 腹⽔濾過濃縮再静注法 (CART) ①腹⽔穿刺を⾏い,CART専⽤の貯留バッグに約3-6Lの腹⽔を採取. ②⼈⼯透析⽤の機械を⽤い,濾過器によって癌細胞や細菌を除去し, 濃縮器によって除⽔を⾏い有⽤な蛋⽩成分(アルブミンなど)を取り出す. ③腹⽔を約100ml/hで体内に戻す. CARTは保険診療では2週間毎に算定可能 CARTの禁忌 ・腹⽔中にエンドトキシンが検出 ・⾼度の⻩疸(T-Bil>5mg/dL) ・免疫不全
腹水に関する重要なメッセージ
#11. Take Home Message ü腹⽔の原因の8割は肝硬変であるが,悪性腫瘍の可能性も考慮. ü腹⽔穿刺を⾏おう.培養,細胞診も忘れずに提出する. ü特発性細菌性腹膜炎(SBP)の診断が付けば,早期治療 (第3世代セフェム系抗菌薬の投与)を開始する.