テキスト全文
がん患者の緩和ケア紹介の重要性とタイミング
#1. そのがん患者さん、 緩和ケア科に紹介してください 患者紹介のメリットとタイミング 珊瑚@緩和医
#2. 紹介することのメリットは何ですか? タイミングやきっかけはどんなもの? このスライドは、緩和ケア科に患者を紹介するのはいつがいいのか、 または紹介することにどんなメリットがあるのかについて 疑問を持つがん治療担当医に向けて書きました 患者紹介の具体的メリットと介入タイミングの好例を シェアするため、自験例以外も取り扱います 早期からの緩和ケア外来を持つ病院リストへのリンクを最後に載せています
#3. 紹介のタイミング例 ①苦痛症状がある時 ピリピリする痛みで眠れない(60代男性患者) 高度下肢浮腫で歩けないから緩和ケアオンリー(消化器内科医師) 抗がん剤治療開始したいが疼痛強く困難(呼吸器内科医師) 筋肉内転移で何をしても疼痛改善しない(腫瘍内科医師) 骨転移。オピオイドは使いたくない(50代女性患者) ②抗がん剤ラストラインに入った時 そろそろ治療の手がなくなると言われた(60代男性患者) ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時 緩和ケア科を受診してみたい(60代女性患者)
苦痛症状がある時の具体例と介入
#4. 緩和ケア科紹介のタイミング ①苦痛症状がある時 ②抗がん剤がラストラインに入った時 ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時
#5. 緩和ケア科紹介のタイミング ①苦痛症状がある時 ②抗がん剤がラストラインに入った時 ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時
#6. ①苦痛症状がある時:しびれの症例 ➢ 肉腫と胸膜播種 主科で抗がん剤治療中 夜間の痛みで眠れず仕事に支障が出るとして紹介 ➢ 側腹部に皮膚デルマトームに沿ってピリピリと痛む 「ピリピリする痛みで眠れない」 60代男性患者 ➢ 主訴と画像所見から「胸膜播種を原因とした体性痛と 肋間神経の神経障害性疼痛の合併」 低用量オキシコドン®をモルヒネ換算同量のタペンタ® にスイッチしたところ、ピリピリする痛みが改善。 本人の就寝時のQOLが改善して日中の眠気も消失した
抗がん剤治療のラストラインにおける紹介の必要性
#7. 「ピリピリする痛みで眠れない」 60代男性患者 ✓ がん患者さんの痛みで「ピリピリ」「ビリッ」は「神経障害性疼痛」を合併している可能性 ✓ 神経障害性疼痛は、一般的にオピオイドのみでは難治性であることが多く しばしば鎮痛補助薬の追加を必要とする 行うこと 薬剤調整 → 神経障害性疼痛に効きやすいオピオイドへのスイッチや鎮痛補助薬の追加 追加治療の提案 → 最新の画像検査から、脊柱管内への伸展の有無、腫瘍存在の近隣神経への接触の有無などを判断し、 放射線治療、骨セメント、神経ブロックなどの適応に関して検討して提案
#8. ①苦痛症状がある時:浮腫の症例 ➢ 未治療胃がん 患者は40代 歩行困難で全身状態PS4 主治医は抗がん剤治療を開始困難と判断 「高度下肢浮腫で歩けないから ➢ 画像所見では、 PS4, 緩和ケアオンリー」 「腹部腫瘍塊による下大静脈圧排による還流障害が 原因の浮腫、下大静脈内に血栓もしくは腫瘍栓なし」 消化器内科医師 → 下大静脈ステントの適応を検討、本人の希望強く、施行 処置後下半身浮腫は著明に改善 本人のPSが改善した結果、抗がん剤を開始できた
#9. 「高度下肢浮腫で歩けないからPS4, 緩和ケアオンリー」 消化器内科医師 ✓ がん患者さんの浮腫では、「血栓」「腫瘍存在やリンパ節腫大による還流不全」の可能性 ✓ 症状緩和できれば治療が可能になるケースもあることを主治医に共有 行うこと 追加治療の提案 →最新の画像検査から、血管内ステント、局所的緩和放射線治療などの適応を評価して提案 適切な部署への紹介 →放射線治療科や、リンパ浮腫外来やリンパ浮腫認定看護師など
#10. ①苦痛症状がある時:痛みの症例 ➢ 初回治療導入予定だったが腫瘍急速増大して緊急入院 ➢ 連続した睡眠が困難な疼痛が出現して紹介 「抗がん剤治療開始したいが 疼痛が強くて治療に入れない」 呼吸器内科医師 ➢ 注射オピオイドを迅速導入 ➢ 段階的な調整行い、翌日中には疼痛が十分に緩和された 入院1週間後に治療開始 化学放射線治療の腫瘍縮小効果もあり、入院1か月後には オピオイドをほぼ使用せず過ごせるようになった 治療開始時期などの兼ね合いで 出来るだけ早く痛みを改善させたいときに紹介を
患者が緩和ケアに興味を持った時の対応
#11. ①苦痛症状がある時:痛みの症例 ➢ 緩和放射線治療後も転移巣が拡大 ➢ 高用量オピオイド+ステロイド併用下でも 疼痛スケールは中等度で推移し、紹介 「筋肉内転移の増悪で ➢ 当科介入後に複数回オピオイドスイッチ 何をしても疼痛改善しない」 腫瘍内科医師 最終的にメサペイン®を導入して疼痛は緩和された メサペイン®は緩和ケア科導入が望ましい。 複数オピオイド使用後も疼痛続くようなら紹介を
#12. ①苦痛症状がある時:痛みの症例 ➢ 治療医のオピオイド処方で疼痛自制内だったが、 患者さんのこだわりとして、できるだけオピオイドを 使用したくないとの希望があった 「骨転移痛、オピオイドは できる限り使いたくない」 50代女性患者 ➢ 併診で下記施行 鎮痛補助薬の処方、オピオイド以外の鎮痛薬の追加処方 最低限の錠数となるように長時間作動オピオイドへの変更 緩和放射線治療のセッティング オピオイドに関する不安や思い込みの解消 オピオイドを最小単位まで減量でき、満足・納得された 疼痛にコントロールがついていても 患者に薬剤調整の希望あれば紹介を
#13. 患者紹介のタイミングは、苦痛症状があるとき がん患者さんの症状緩和は、治療医の先生方がご自身でされることも多いでしょう 患者例で挙げる「しびれ」「痛み」「浮腫」などは長期持続で慢性化しやすい症状です 患者さんもしくは先生本人が困っているタイミングでぜひご紹介ください
#14. 緩和ケア科紹介のタイミング ①苦痛症状がある時 ②抗がん剤がラストラインに入った時 ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時
緩和ケアの誤解と治療の可能性
#15. ②抗がん剤がラストラインに入った時:症例 ➢ 大腸がんStageⅣ ストマ増設後 車いす生活 ロンサーフ®の治療開始のタイミングで主治医より紹介 「主治医に紹介されたから来たけど…」 「緩和ケアだと治療はできないんでしょう?」 「そろそろ治療の手がなくなると 言われた」 ➢ 以下のようにお話し、実際に行っている処置などを 具体的に伝えると、患者さんは安心したようでした 「確かに抗がん剤治療はしませんが、 緩和ケアは何もしないということではないんですよ。」 60代男性患者 「そうだったんですね。もう何にもしてもらえなくなるのかと 思ってました。今は治療を頑張ります。今の治療が効かなく なったら、その時はよろしくお願いします。」 緩和ケアになったら何もしない。 看取りのタイミングで紹介される場所。 この認識は未だに多いようです
#16. 抗がん剤ラストラインとは ✓ がんガイドラインでは、使用レジメンや治療が、エビデンスに基づいて記載されています ✓ 腫瘍が抗がん剤耐性を獲得してレジメンを変更することを繰り返し、 現時点で使える抗がん剤はこれが最後…そのような治療がラストラインと呼ばれます ✓ それまでに治療の無効中止を繰り返して、患者さんは気力も体力も低下している状態です ラストラインに入るタイミングで、 「治療がなくなったときのこともそろそろ考えよう」 と緩和ケア科に紹介。 ラストラインの治療が無効中止、 患者さんにとっての戦線離脱宣告のタイミングで、 「じゃあ緩和ケアの先生に紹介状書いておくから…」 右のパターンの全てではないですが、患者さんの声はやはり聞こえてきます 「先生に見捨てられたなぁ…」 ラストライン中の急激な体調不良により急に緩和ケア病棟に来ることになってしまい、 失意の中、しばらく立ち直ることができない方もいます
#17. 緩和ケアとの初めましてを早めに済ませる 緩和ケアの病棟で「あぁ、また会ったね、あの時お世話になったね、これからもよろしく」 と言われる方もいます 環境が変わるとき、見知った誰かがいるだけで安心されたのではないでしょうか 良いタイミングがあれば、治療医のがん治療中に一度ご紹介いただけるとありがたいです
#18. 緩和ケアになったら治療ができない? 緩和ケアに紹介されるということは、もう治療はできずにただ死を待つばかりなのですね…と おっしゃる患者さんもいます。 ✓ 「緩和ケアも治療です」 ✓ 「体力を回復させる治療ですし、抗がん剤に匹敵するくらいの延命効果もあるんですよ(ホント)」 ✓ 「いったん休憩して緩和ケアだけを行っているうちに抗がん剤が再開できる方もいます(ホント)」 はじめましての時に非常に気落ちしている方には、こんな説明をすることもあります。 ホスピス病院ではしにくい説明かもしれませんが…実際に緩和ケア病棟を自宅退院でき、また治療医へ 通院再開する方もいます 希望に沿うことばかり言うつもりはありませんが、人は希望がないと生きていけないと個人的に 考えています
緩和ケア科紹介のタイミングとその意義
#19. 緩和ケアオンリーの時期でも行う治療 オピオイド/制吐剤/ステロイド/鎮痛補助薬調整 放射線治療科によるIVRステント留置 疼痛部位への局所緩和照射 腹水穿刺 胸水穿刺・胸膜癒着術 抗菌薬投与 CVカテーテル留置、薬剤持続静注 硬膜外ブロック・神経ブロック 胃瘻/PTEG増設(頭頚部腫瘍/予後見込みのある腸閉塞例などに限られるでしょうが…) 夜だけはよく眠れるようにする(症状が強いときには間欠的鎮静法も応用します)
#20. がん治療も専門に行ってきた緩和ケア医が伝えたい ✓ 緩和ケアはがん臨床医の常識でありマインド ✓ 存在を知らない患者には早めに緩和ケアの存在を伝えたい ✓ 緩和ケアオンリーの状態になっても、希望を持ちたい人はいる ✓ その希望が抗がん剤継続や「何らかのがん治療」であることは多い ✓ 緩和ケアは延命効果があるというデータもある ✓ それを伝えてもなお、抗がん剤の戦いの一線を退く患者の落胆は大きい ✓ ぜひ緩和ケア医と早期に顔を合わせてほしい ✓ 治療途中から積極的に顔を合わせることで、「緩和ケアもがん治療だし、専門的加療が必要 になったらいつでも手伝える」というメッセージを伝えたい ✓ 「緩和ケア医とは最期まで生を輝かせる戦いを一緒にする人」という意識を患者も持てれば、 希望がついえる状況は減らせるのではないかと考えています
#21. 緩和ケア科紹介のタイミング ①苦痛症状がある時 ②抗がん剤がラストラインに入った時 ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時
患者の希望を考慮した緩和ケアの活用法
#22. ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時:症例 ➢ 子宮頸がんとリンパ節転移 主科で抗がん剤治療中 ➢ 身体機能低下まで半年はある見込みで、症状は特にない。 今後のことが色々心配で受診希望。 「緩和ケア科を受診してみたい」 60代女性患者 ➢ これから痛みが増えたりすることもあるかもしれない。 仕事は続けたいがいつまで続けられるかわからない。 ➢ 治療がなくなってからよりも先に、今、緩和ケアで何か できることはあるのか訊きたい。
#23. 「緩和ケア科を受診してみたい」60代女性患者 ➢ 緩和ケア科は今後いつでも受診可能と、まず共有 ➢ 今は体調も落ち着いているのでホスピス探しなどを今日から始める必要はありません。 しかし、とても具合が悪くなってから動いたり考え始めるのは体力的にも精神的にも大変。 この機会に終末期を自分がどのように過ごしたいかを考えてみるのはいかがでしょうかと伝えた ✓ 場所や環境をなんとなくイメージしてみる ✓ 在宅療養希望であれば、介護認定や自宅の改修などに時間 がかかることもある ✓ 訪問診療や訪問看護ステーションとも相性がある 今すぐにすべきことがあるわけではないと返されて、多少拍子抜けしたようではあったが、 「これからのこと家族で話し合ってみます」と、2か月後に再診することとなった。
#24. 紹介タイミング 患者さんが緩和ケアに興味を持った時 緩和ケアに出合うこと、それは決して「痛みを無くす」だけに限りません 「自分はこの後の人生をどう過ごしたいのかを考えてもらうための機会」です 地域の緩和ケア病棟で受けられる医療、入居できる施設、必要な手続き、利用できる制度…など どのタイミングの初診でも一通りの説明はしますし、更なる詳細な情報を求められるのなら 医療ソーシャルワーカーへの面談を促します しかし、これらたくさんの情報を覚えてもらうことが大事なのではありません これらの一般的な情報を話しながら、以下のようなことを考え、わかってもらうだけで十分です ✓ 「自分がこれから、どこでどのように過ごしたいか」 ✓ 「何かしら希望がある場合の準備にはどんなものがあるのか」 ✓ 「体調の大きな変化など 準備を進めるタイミングがきたら、どこの誰に訊けばいいのか」
早期からの緩和ケア対応病院リストの重要性
#25. 早期からの緩和ケア対応病院リスト 現在、残念ながら、緩和ケアは地域によって普及が不十分な面があるようです 紹介を希望しても断られた…、自分の病院内に緩和ケアチームや外来がない… つながるあてがない患者さんや治療医の先生方もおられるかもしれず心苦しいです 川崎市立井田病院の西 智弘先生が、都道府県ごとの施設リストをまとめてくださいました 早期からの緩和ケア外来web(一般社団法人プラスケアにより作成) https://pluscarekanwa.jimdofree.com/ 是非ご自身の地域の病院を確認してみてください このリスト病院の緩和ケア科なら 地域にある他の緩和ケア対応クリニックや病院、訪問診療医の情報も期待できます 緩和ケア科は治療医の先生方の紹介をお待ちしております
#26. 緩和ケア科紹介のタイミング ①苦痛症状がある時 ②抗がん剤がラストラインに入った時 ③患者さんが緩和ケアに興味を持った時