テキスト全文
72歳女性の意識障害症例
#2. 症例 72歳女性 左片麻痺 当直明けの朝 救急搬送 ✓ 朝7時頃
ベッド上で動けないところを家族が発見
✓ 前日22時に就寝するまでは普段どおり
✓ 救急隊接触時 左片麻痺の疑い
けいれんや外傷はなし
✓ 既往:慢性心不全 認知症
糖尿病 高血圧 救急隊
接触時 JCS Ⅰ-3 体温 36.5℃ 血圧 134/80 脈拍 76/分 呼吸数 16/分 SpO2 室内気 96% 脳卒中らしいから CT室へ直行でよい?
当たりがつきそうなときも まずは第一印象とPrimary surveyから
意識障害の評価とABC
#3. 今日の内容 1 Dを評価する前に 意識の評価より先に 確認しておきたいこと 2 意識障害とは 意識の2つの要素 起こる仕組み 失神との違い 3 JCSとGCS つけ方のポイントと 2つの使い分け
#4. Dの評価は ABCが安定してから 酸素が取り込まれて脳に届くまで A 気道 B 呼吸 C 循環 D 意識 ✓ ABCに大きな異常があると
脳の酸素需給バランスも崩れている可能性が高い
✓ 脳に明らかな障害がなくても
低酸素で二次的に意識の異常をきたすことがある
✓ ABCに異常があれば まずはABCの安定化を優先する ABCが安定したら Dをもう一度評価する
最初の意識の評価は 低酸素の影響を受けているかもしれない
意識の要素と異常の原因
#5. 「意識」は2つの要素からなる 覚醒度 呼びかけや刺激に
対する反応 脳幹にあるARASが担う 見当識 日時や場所など
周囲の状況を把握する力 大脳皮質全体が担う どちらか一方 または両方の異常で意識障害が起こる
覚醒は ARASからの刺激が大脳皮質に届くことで保たれる
#6. 意識障害は どこの異常で起こる? 1 脳幹(ARAS)の機能不全 脳卒中や脳腫瘍など
脳幹に限局した器質的異常 2 大脳皮質の機能不全 脳全体に及ぶ器質的異常
低酸素・代謝障害・薬物など 代表的な原因 器質的異常 脳卒中 脳腫瘍 感染症(髄膜炎・脳炎など)
血管炎 水頭症 てんかん 機能的異常
薬物性 アルコール 鎮静薬 睡眠薬 抗うつ薬
抗精神病薬 麻薬 一酸化炭素 機能的異常
代謝性 体温異常 血糖異常 電解質異常 酸塩基平衡異常
肝障害 ビタミン欠乏 内分泌疾患(甲状腺機能異常など)
意識障害と失神の違い
#7. その意識障害 失神かもしれない 意識障害 低下が続く 原因が解除されるまで 一過性意識障害 ゆるやかに戻る 発作・低血糖・中毒など 失神 短時間で元に戻る 脳血流の一過性の低下 心原性失神は見逃したくない
目撃者に 持続時間・そのときの体勢・意識レベルの変化を聞く
#8. 本当に意識障害? 確かめたい3点 1 普段との比較 普段の意識レベルと比べてどうか
家族や施設の職員に聞く 2 経時的な変化 突然か ゆっくりか
すぐに普段の状態へ戻ったか 3 失語の可能性 発語がなくても
意識障害とは限らない 意識障害かどうかは 来院してから確かめる
JCSやGCSで異常があっても それが問題になるかは普段の意識レベル次第
JCSとGCSの基本概念
#9. 意識レベルは モニターに映らない ✓ 呼吸や循環には SpO2や
心電図のような客観的な指標がある
✓ 意識レベルを映すモニターは
救急外来にはない SpO2 96 HR 76 BP 134/80 意識 ? そこで使う2つのスケール JCS Japan Coma Scale 日本で作られたスケール 病院前や病棟で広く使われている GCS Glasgow Coma Scale 1974年にTeasdaleらが発表 世界で広く使われている
#10. JCS 開眼の状態で3段階 ✓ まず開眼の状態で3つに分け 会話や反応でさらに細かく評価する
✓ わかりやすく簡便な反面 評価者によってばらつきやすい
JCSの評価基準と注意点
#11. JCS 一覧 Ⅰ 刺激なしでも
覚醒している 1桁 1 意識清明とはいえない 2 見当識障害がある 3 自分の名前 生年月日が言えない Ⅱ 刺激すると
覚醒する 2桁 10 普通の呼びかけで容易に開眼 20 大きな声または体を揺さぶることにより開眼 30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼 Ⅲ 刺激をしても
覚醒しない 3桁 100 痛み刺激で払いのけるような動作をする 200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる 300 痛み刺激に全く反応しない
#12. JCS 迷いやすいところ 1 開眼が続くか 開眼の評価が
いちばん大切 開眼を15〜20秒ほど保てる Ⅰ桁 会話中は開眼するが すぐ閉じる Ⅱ桁 2 Ⅰ-2 と Ⅰ-3 質問の内容で
分ける 変わる内容を間違える
日付 場所など Ⅰ-2 変わらない内容を間違える
名前 生年月日など Ⅰ-3 3 Ⅲ-200の中身 区別したい所見が
同じ点数になる 除皮質硬直
GCSではM3 Ⅲ-200 除脳硬直
GCSではM2 Ⅲ-200
GCSの評価方法と覚え方
#13. GCS E・V・Mを別々に評価 ✓ Eは4点 Vは5点 Mは6点が満点 合計は3〜15点
✓ 開眼で大きく変わるJCSに比べ 評価者によるばらつきが少ない
#14. GCS 一覧 E 開眼
Eye opening 4 自発的に 3 呼びかけで 2 痛みで 1 反応なし V 最良言語反応
Verbal response 5 見当識が保たれる 4 混乱した会話 3 不適切な会話 2 意味のない発語 1 反応なし M 最良運動反応
Motor response 6 命令に従う 5 疼痛部位認識 4 逃避 3 異常屈曲位 2 異常伸展位 1 反応なし E+V+M の合計
3〜15点 気管挿管中のVは「T」と書く
言語の評価ができないため 1点と同じ扱いにする
#15. VとMは 体操で覚える 文章での暗記は大変
体を動かして覚える 見分けたいところ M4 逃避
肘がひらく M3 異常屈曲位
除皮質硬直 M2 異常伸展位
除脳硬直 V3 不適切な会話
Word 単語のみ V2 意味のない発語
Voice 発声のみ
患者の意識評価の実例
#16. この患者さんの JCS・GCS は? 来院時の様子 ✓ 呼びかけると目を開ける
✓ 話しかけている間は
開眼しているが 数秒で目を閉じる
✓ 名前を尋ねても「う……」
はっきりした発語はない
✓ 右手は 握る・離すの指示に応じる 見るところ E 開眼は続いている? V 言葉になっている? M 指示に従える?
#17. JCS Ⅱ-10 GCS E3V2M6(11点) 最初の評価 JCS Ⅰ-3
GCS E4V2M6(12点) 見直した評価 JCS Ⅱ-10
GCS E3V2M6(11点) 開眼は「続くかどうか」まで見る ✓ 話している間は開眼していても 数秒で目を閉じてしまう
✓ 自発的な開眼ではなく 呼びかけで開眼と
評価する(Ⅱ-10 E3)
✓ 発語は「う……」のみ(V2) 指示には応じる(M6) 救急隊接触時のJCS Ⅰ-3より下がっている
経時的に悪くなっているなら Dの評価を急ぎたい
#18. EとVの差が大きいとき 失語を考える ✓ 意識障害では EとVがそろって下がりやすい(例:E1V1M4)
✓ 失語では開眼が保たれ EとVに差が出やすい(例:E4V2M5) 言葉の指示が通らなくても 身ぶりで伝われば失語を疑う
失語を意識障害と判断すると 脳梗塞への治療介入が遅れるおそれがある
JCSとGCSの使い分け
#19. JCSとGCSの使い分け JCS その場の緊急性の判断に ✓ 短時間で評価しやすい ✓ 救急隊や病棟と共有しやすい △ 評価者によってばらつきやすい GCS 来院後の経時的な変化の評価に ✓ 評価者によるばらつきが少ない ✓ 連続した数値で比べられる ✓ 世界で広く使われている どちらも意識レベルの評価に必要
それぞれの特徴を知ったうえで 場面に合わせて使う
#20. まとめ ✓ 意識の評価より まずはABCの安定化を優先する
✓ 意識障害は 脳幹(ARAS)か大脳皮質の機能不全で起こる
✓ 本当に意識障害かを 普段・経過・失語の3点で確かめる
✓ JCSは開眼が続くかまで見る
GCSはE・V・Mを別々に評価する
✓ その場の緊急性はJCS 経時的な変化はGCSが使いやすい 次回 Dの異常 ②
切迫するDと 早めに治療に入りたい意識障害
参考文献とセミナー案内
#21. 参考文献 1 三谷雄己(著)志馬伸朗(監修). みんなの救命救急科. 中外医学社; 2022. 2 Edlow BL, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2012;71(6):531-46. 3 Traub SJ, Wijdicks EF. Emerg Med Clin North Am. 2016;34(4):777-93. 4 Shen WK, et al. Circulation. 2017;136(5):e60-e122. 5 太田富雄, ほか. 脳神経外科. 1974;2(9):623-7. 6 Teasdale G, Jennett B. Lancet. 1974;2(7872):81-4. 7 安心院康彦. 日本臨床救急医学会雑誌. 2008;21. 8 Polverino P, et al. J Clin Neurosci. 2019;67:129-33.
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