テキスト全文
統合失調症の基本的理解とイメージ
#1. 精神科以外で 統合失調症の患者 さんと出会ったとき Dr.fax@精神科専門医
#2. 統合失調症ってどんなイメージ? 幻覚、妄想が ある病気 普通に 話していいの? 対応は精神科に 任せるしかない ポリクリ以来 診たことない
#3. 統合失調症ってどんなイメージ? • うつ病はプライマリ領域でも治療されるようになっているが、 統合失調症は精神科以外で治療される機会はめったにない • 実際の患者さんと出会うことがないまま、イメージだけで対応 が難しいと感じている方もいるのでは • あるいは、以前出会った患者さんのイメージが強く残り、 統合失調症患者全体に対する苦手意識がある人もいるのでは
身体疾患を持つ統合失調症患者への対応
#4. 統合失調症の患者さんと出会うとき 高血圧、糖尿病ですね 治療が必要です 統合失調症で精神科 に通院しています 統合失調症で 精神科に通院歴が あるみたいです 精神科は 見てくれないんですか 幻覚、妄想が あるのか 普通に話して 大丈夫? どう対応したら いいんだ
#5. 統合失調症の患者さんと出会うとき • 統合失調症の患者さんも当然身体疾患に罹患する (肺炎、糖尿病、高血圧、骨折、癌、等々) → 自ら受診することもあれば、精神科病院からの転院依頼もある • 初発のエピソードでは器質因の除外目的に身体科を受診する こともある(特に精神科単科病院では検査体制が脆弱な施設があり、 当直帯に相談があった際には先に身体科での検査を勧めることもある) どの科の医師も統合失調症の患者さんと出会う可能性はある その時に極端に身構えずに対応できるためのポイントを押さえよう
#6. このスライドで分かる事 初期研修医や精神科以外の医師が知っておくと役立つ、 • 統合失調症の患者さんが身体科を受診した際の対応 • 検査で気を付けること(水中毒、イレウス、骨折) • 身体科に入院した際の管理において注意するべきこと
統合失調症の症状と診断基準の理解
#7. このスライドで分かる事 初期研修医や精神科以外の医師が知っておくと役立つ、 • 統合失調症の患者さんが身体科を受診した際の対応 • 検査で気を付けること(水中毒、イレウス、骨折) • 身体科に入院した際の管理において注意するべきこと まずは統合失調症の基本事項をおさえた上で 実際に診察する際に気を付けるポイントを学ぼう
#8. 統合失調症の症状、診断について • 典型的な症例における主な症状は 幻覚(特に幻聴)、妄想 • その他、思考の異常、自我障害や 陰性症状と呼ばれる感情鈍麻、 意欲・思考力の低下など多彩 • 全ての症状を伴うとは限らず、 現れる症状の数、程度において 個人差が大きい +急性期と維持期でも差が大きい 現れた症状の数、程度、持続期間 で統合失調症、統合失調症様障害、 短期精神病性障害など診断名が 変わる(DSM-5) 本来は診断基準に照らし合わせ、 厳密に病名を付けるべきだが、 現実的には何らかの幻覚、妄想が 一度でも見られると統合失調症の 診断がつけられていることが多い →診断名だけではその人の状態や 症状が分かりづらい
#9. 除外診断(主なもの) • 脳炎 ヘルペス脳炎、抗NMDA受容体脳炎など (特に後者は若年女性の初発例は注意) • 脳腫瘍 • てんかん • 甲状腺機能異常 • 薬剤性:ステロイド、抗パーキンソン薬など • アルコール性、薬物中毒(違法薬物) 初発はもちろん、 既に統合失調症の診断が ついている場合も、 身体疾患による精神症状 には注意 特に救急外来ではその時の 精神症状によっては問診、 診察が難しいこともある ため、身体疾患を見落とさ ないように!
#10. 統合失調症の薬物療法 抗精神病薬 ドパミン仮説に基づき、脳内のドパミン受容体に結合し、 ドパミンの放出を抑える → 幻覚、妄想などの陽性症状に効果 セロトニン仮説、 グルタミン酸仮説 などもある 定型抗精神病薬(第一世代) ドパミンを抑えるのが主 → 錐体外路症状(EPS)が出やすい 非定型抗精神病薬(第二世代) ドパミンだけでなくセロトニンにも作用 → EPS が(比較的)出にくい 副作用の観点から現在の統合失調症の第一選択薬は非定型抗精神病薬
抗精神病薬の種類とその作用
#11. 非定型抗精神病薬の分類 • SDA(Serotonin Dopamine Antagonist) セロトニン、ドパミンに作用 → しっかりとした抗精神病作用、 (非定型の中では)EPS出やすい • MARTA(Multi-Acting Receptor Targeting Antipsychotics) 様々な受容体に作用 → 幅広い効果、他の薬にはない副作用(糖尿病など) • DPA(Dopamine Partial Agonist) ドパミンを完全には抑えない → 副作用が(比較的)少ない
#12. 抗精神病薬分類 抗精神病薬 定型 ハロペリドール クロルプロマジン など 非定型 SDA MARTA リスペリドン パリペリドン ブロナンセリン ペロスピロン ルラシドン オランザピン クエチアピン アセナピン クロザピン DPA アリピプラゾール ブレクスピプラゾール
#13. 統合失調症の患者さん 統合失調症で通院してます 別に病気じゃない 電磁波攻撃を受けています 薬で安定してます 政府の仕事があるから帰る 止めてください 全部診断は統合失調症 病名だけではどのような対応が良いかは分からない → 出会った患者さん個人の状態に応じて対応する必要がある
統合失調症患者とのコミュニケーションのポイント
#14. 統合失調症の患者さん • 少量の薬を飲んでいれば全く症状がない状態を維持している患者さん → 殊更に気を遣い過ぎる必要はない • 安定はしてるが、幻覚妄想は常に存在している患者さん → 説明に対する理解をしっかり確認(時にはキーパーソンにも説明が必要) • 強固な妄想から治療への理解が得られない患者さん(例「癌なので手術が必要で す」→「神に祈れば溶けて治る」)→ 意思決定をどのようにするか慎重な判断が 必要(キーパーソン、精神科主治医含めた複数人で協議) • 同じ患者さんでも精神症状に波がある場合もあり、落ち着いている時は普通に 話せるが、興奮している時には工夫が必要な時もある (当科的には色々な考え方があるが)重症度と考えておくと分かりやすい
#15. 精神症状の特性 私たちから見れば、幻聴や妄想=症状だが、患者さん本人の中では 症状というよりは実際に起きている「体験」である 実際に他の人に耳元でしゃべり続けてもらいながら、何かに集中 しようとする(目の前の人と会話、テレビを見るなど)と難しい ことが分かる → 程度や質の差はあれど、患者さんが日常的に 「体験」しているのはこれに近い(と思われる) このような体験をしている患者さんに対しては コミュニケーション上の工夫(気遣い)が必要
#16. コミュニケーション上のポイント① • 視線を合わせる、患者さんが視線を合わせてくれているか → 視線が合っていない時は他の事(幻聴)意識が向いており、こちらの話に 集中できていない可能性もある • 笑顔 → 猜疑心が強い患者さんにとって少しでも安心感を届けられるように • はっきり、簡潔に → 集中力が低下しやすいため、冗長な説明は理解しづらいことがある 当たり前の事ではあるが、自身が忙しい、疲れている時には 難しくなることもあるため、注意
抗精神病薬の副作用と注意点
#17. コミュニケーション上のポイント② • 妄想に対して:基本的に否定はNG → 妄想は修正不可能であるため、こちらが否定しても考えは修正されず、 「否定された」という感情だけが残り本人は傷ついたり、怒りを覚えたり することが多い(だからといってむやみに肯定する必要はない、傾聴が基本) • 身体科での治療上必要なことは本人にしっかり伝える → 病状が重い患者さんでも、身体科の医師から言われたことは割と素直に 聞き入れることが少なくない
#18. このスライドで分かる事 初期研修医や精神科以外の医師が知っておくと役立つ、 • 統合失調症の患者さんが身体科を受診した際の対応 • 検査で気を付けること(水中毒、イレウス、骨折) • 身体科に入院した際の管理において注意するべきこと 特に長期の経過の統合失調症の患者さんが受診した際に 気を付けるべき疾患を押さえ、検査を行おう
#19. 抗精神病薬の副作用 • 悪性症候群 • 錐体外路症状(EPS):パーキンソニズム、アカシジア、ジス トニア、ジスキネジア • 過鎮静 • 高プロラクチン血症 • 低血圧、便秘、口渇、悪心、排尿困難、射精障害、etc... 抗精神病薬は統合失調症に対して必須ともいえる治療薬だが、 様々な副作用があるため内服量が多い、治療期間が長い方には注意
入院中の統合失調症患者の管理方法
#20. 副作用を踏まえ検査で注意すること • 口渇から多飲水 → 水中毒:低Na血症 意識障害を来たしてもおかしくない程の低値でも普通に話せることも • 抗コリン作用 → 麻痺性イレウス 激しい腹痛が起きてもおかしくない程の状態でも自覚症状がないことも • 痛みに強いことが多い(抗精神病薬の影響か統合失調症の特徴か不明だが) 大腿骨頸部骨折があっても歩くことができることも 特に、長期に抗精神病薬を内服している患者さんは訴えが弱くても、 重大な身体疾患がある可能性があるので、しっかり診察、検査しよう
#21. このスライドで分かる事 初期研修医や精神科以外の医師が知っておくと役立つ、 • 統合失調症の患者さんが身体科を受診した際の対応 • 検査で気を付けること(水中毒、イレウス、骨折) • 身体科に入院した際の管理において注意するべきこと 自身の科で入院管理が必要な際、 精神科薬に関する基本指針を押さえよう
#22. 入院中の管理で気を付けること • 基本的な原則:身体的な理由で問題なければ精神科の薬は触らない 何らかの理由があって現在の処方に落ち着いていることが多いため、変更 することで精神症状の悪化リスクがある • ただし、身体面の管理は安心という点では薬を整理するチャンス でもあるため、精神科とも相談しながら変更も検討 • デポ剤、LAI(Long Acting Injection)と呼ばれる、2週間~1ヶ月に 1回の注射製剤が使用されている場合は実施を忘れずに (最悪1週間程度のずれは許容範囲内と思われる)
仮想症例から学ぶ統合失調症患者の対応
#23. 仮想症例① • 統合失調症で精神科クリニック通院中の患者 • 事故で骨折、手術目的に入院 • 抗精神病薬アリピプラゾール(エビリファイ®)24 mg のみで安定 • 意思疎通も問題なく、目立った幻覚妄想は認めない → 内服継続し(多くの場合手術当日はskipも可能)、 無事手術を終え精神症状の増悪もなく退院 抗精神病薬の内服はしているが、目立った幻覚妄想もなく、 良好なコミュニケーションが可能な症例(特に最近の若年の患者さんに多い) → 気を遣い過ぎず通常通りの診察、治療を行えば問題ないことがほとんど
#24. 仮想症例② • 統合失調症で精神科病院で長期入院中の患者 • 特に症状はないが、腹部膨満が見られ受診 • 腹部CTで著明な腸管拡張像が見られ入院 抗パーキンソン薬 副作用止めで使われるが、 抗コリン作用で 麻痺性イレウスを助長 • 内服薬:ハロペリドール 6 mg、ビペリデン(アキネトン® )3 mg バルプロ酸ナトリウム 800 mg、フルニトラゼパム 2 mg • 麻痺性イレウスの再発防止のため、精神科相談の上、ハロペリドールを アセナピン(シクレスト® )20 mg へ変更、ビペリデンを中止 → 精神症状の増悪なく経過、イレウスの改善を確認し、元の病院へ帰院 精神症状の増悪リスクはあるが、精神科と協力して薬の整理ができることも
#25. Take Home Message • 病名で身構えずにしっかりコミュニケーションを取ろう • 病名は同じでも人によって病状は全然違うことが多い • 長期に多量の抗精神病薬を内服している患者さんは、 訴えが少なくてもイレウス、骨折などが隠れている可能性がある • 薬は基本は触らない方が無難だが、長期・多剤の患者さんにとって は整理するチャンスでもあるため、精神科と連携して調整も検討