テキスト全文
精神科患者の診察方法についての導入
#1. そもそも精神科患者さんってどうやって診たらいいんですか!? ~ポリクリやローテでちゃんと教えてもらえなかった先生へ~ 国立精神・神経医療研究センター室長
成田瑞
#2. 精神科診察をちゃんと教えてもらったことがない先生
精神科患者さんを診る機会のある研修医/他科の先生
診断の”大外し”を防ぎたい先生
システマティックな診察の4つの観点
#3. 「4つの観点」を頭に入れたシステマティックな診察を覚える
#4. 国立国際医療研究センター国府台病院で研修医
→国立精神・神経医療研究センターでレジデント
→学位とか色々取って
→ジョンズホプキンス大学病院精神科で臨床研究
→スタンフォード大学病院精神科で臨床研究
→2021年帰国
今はPTSDを中心とした臨床と研究
ホームページで論文紹介などもしてます 成田瑞 国立精神・神経医療研究センター室長
#5. 5 研修医で精神科ローテしました!
何となくどんな診療をしてるのか分かるようになりました!
向精神薬の本を読んで勉強しました!
この病気にはこの薬を使えばいいんですね!
あれ、でも治療薬以前にどうやって診たらいいんですか?
てか、誰からも何も教えてもらってなくない?(=あなたは何も悪くないです) 医師あるある そもそも精神科診察をちゃんと教えてもらったことがない
うつ病の症例と診断基準の理解
#6. 6 25歳女性
主訴:気分の落ち込み
現病歴
年末の繁忙期で業務量が多かったが睡眠時間を削って働いていた。クリスマス前後から気分の落ち込み、不眠、食欲低下、疲れやすさが顕著になり、頻繁に「死にたい」と思うようになった。翌年1月15日に当院初診した。 事例 例えばこんな患者さん、どう考える?
#7. 7 以下の症状が2週間以上続いているようだ
抑うつ
不眠
食欲低下
易疲労感
希死念慮
うつ病の診断基準を満たすので、レクサプロ開始だ
→いつか必ず大外しします
ダメな例 まずはDSM-5に相談だ! American Psychiatric Association. 2022. Diagnostic And Statistical Manual Of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision. DSM Library. Washington, DC: American Psychiatric Association.
#8. 8 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること じゃあどうしたら良いんですか? 4つの観点を頭に入れて大外しを防ごう! McHugh P, Slavney P. The Perspectives of Psychiatry. Wolters Kluwer Health, LWW. 1998.
Margaret S. S. Chisolm. Systematic Psychiatric Evaluation: A Step-by-Step Guide to Applying The Perspectives of Psychiatry. Johns Hopkins University Press. 2012.
生活史と特質の観点からの症例分析
#9. 9 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
遭遇するライフイベントやストレスで、最初に気づく観点
むしろ飛びつきすぎないことが大事ー”どうせ繁忙期に働き過ぎてうつ病になったんでしょ”ー
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること じゃあどうしたら良いんですか? 4つの観点を頭に入れて大外しを防ごう!
#10. 10 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
パーソナリティのこと
境界性パーソナリティ障害などだけでなく「極端に不安を感じやすい人」なども拾っておく
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること じゃあどうしたら良いんですか? 4つの観点を頭に入れて大外しを防ごう!
#11. 11 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
衝動を満たすための行動
アルコール、OD、摂食障害の食べ吐きなど
疾患の観点:Has = 持っていること じゃあどうしたら良いんですか? 4つの観点を頭に入れて大外しを防ごう!
#12. 12 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること
脳の病理
認知症、統合失調症、双極性障害など じゃあどうしたら良いんですか? 4つの観点を頭に入れて大外しを防ごう!
多角的な観点での診察の重要性
#13. 13 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
年末の繁忙期の働きすぎが症状の一因なのは確かにそうみたい
ただ他の観点が抜けているとしたら問題
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること 4つの観点を引っさげて事例に戻ります 日常臨床では生活史に気を取られがち
#14. 14 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
冬場で長袖を着ていて気付かなかったが、リストカットの後が多数あった
以前にも境界性パーソナリティー障害と診断されたことがあった
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること 4つの観点を引っさげて事例に戻ります よくよく調べていくとこんな事も、、、
#15. 15 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
依存症というほどではないが、ストレスに対してアルコールを多飲していた
アルコール多飲によって抑うつと不眠が増悪していた
疾患の観点:Has = 持っていること 4つの観点を引っさげて事例に戻ります よくよく調べていくとこんな事も、、、
DSMからの脱却と情報収集の方法
#16. 16 生活史の観点:Encounters = 遭遇すること
特質の観点:Is = であること
行動の観点:Does = すること
疾患の観点:Has = 持っていること
秋ごろにはクレカで200万使ったり「眠らなくても働けるわ!」と不眠不休で働いていた。
家族に電話で話を聞いてみると、祖父が双極性障害だった。 4つの観点を引っさげて事例に戻ります よくよく調べていくとこんな事も、、、
#17. 17 我々は生活史の観点に飛びつきがち
「Aが起こったからBになったに違いない」=“意味の罠”
家族や前医など複数の情報源が役立つ
患者さんが全てを語るとは限らない
多角的な観点は治療も助けてくれる
単に診断の大外しを防ぐ以外にも、治療方針の決定に役立つ 4つの観点をバランス良く 単一のプロペラ(特に生活史の観点)に頼り過ぎると墜落する
#18. 4つの観点を頭に入れて、「とりあえずDSM」から脱却しよう
“意味の罠”には要注意
生活史以外にも多角的に情報を拾いにいこう
さらなる学びのためのリソース紹介
#19. もっと勉強したい先生向け:ジョンズホプキンス大学病院の症例集
私が監訳しました