#4.
第1部 ACSの基本 胸痛患者に出会ったら まず何をする?
#5.
最初にやること ― 10分以内に心電図 胸痛患者の初期対応 ✓ できるだけ早く(10分以内)に心電図
✓ 診断できなければ5〜10分ごとに再検
✓ 以前の心電図があれば必ず比較
✓ 搬送中に情報を集めておく
✓ STEMIなら再開通まで90分以内
(door-to-balloon time) なぜ急ぐ? 心電図の結果でその後の
治療方針が大きく変わる
特にST上昇の有無が重要
発症から再開通までの
総虚血時間が長いほど
心筋細胞は障害される 10分以内に心電図 → STEMIなら即カテ室へ
胸痛を見たらまず心電図 目標は door-to-balloon 90分以内
ST上昇を見たら、データを待たずに速やかに循環器とカテ室に連絡する
#6.
ACSの分類 ― まずは大きく3つ ACS=急性冠症候群 ✓ 冠動脈が詰まりかけて心臓が
危ない状態
✓ ST上昇あり → STEMI
(すぐ動きたい)
✓ ST上昇なし →
NSTEMI/不安定狭心症(まとめて NSTE-ACS と呼ぶ) ACS ST上昇 は? あり なし STEMI
(今日の主役) NSTE-ACS 今日は「ST上昇=STEMI」に集中
ST上昇のないNSTE-ACSの細かい対応は今回は割愛 まずはSTEMIを見逃さないことに絞る
#7.
心筋梗塞の基本波形
#8.
モニターと12誘導の違い
#9.
ST上昇・低下は「J点」で見る J点とST上昇の見方 ✓ J点=QRS波とSTのつなぎ目
✓ J点が基線より上 → ST上昇
✓ J点が基線より下 → ST低下
✓ 連続する2誘導以上で
1mm以上のST上昇が目安
✓ 基線=T波の終わり〜P波 J点(QRS波とST部分のつなぎ目) まずJ点を見る
ST上昇の判断は、まずJ点が基線から上下にずれていないかを見る
細かい数値は目安 連続する誘導のST上昇と経時変化をセットで見る
#10.
ST低下を見たら“対側”も見てみる reciprocal change(対側性変化) ✓ ST低下を見たら「本当に低下だけ?」と疑う
✓ ST上昇の裏返し(鏡)のことがある
✓ 例:下壁(II・III・aVF)のST上昇 ⇄ aVLのST低下 ここがコツ ST低下のほうが目立つことも低下を手がかりに本命のST上昇を探す 低下を見たら対側のST上昇を確認
STの低下だけで終わらせず、対側の誘導でST上昇が隠れていないかを見直す
#11.
第2部 責任血管とミラーイメージ “目線”を12方向に増やす ST上昇の場所から血管を読む
#12.
四肢誘導の6つの目線
#13.
胸部誘導の担当部位
#14.
冠動脈と梗塞部位の対応
#15.
責任血管・ミラー早見表 ST上昇の“場所”=詰まった血管のヒント
ST上昇の場所から責任血管が読める とくに下壁=RCAは徐脈・右室梗塞に注意
#16.
ST上昇の“ない”STEMIもある ST上昇がない=STEMIでない ではない ✓ 後壁梗塞:12誘導ではST上昇が出ない V1-3のST低下(ミラー)が手がかり ✓ 超急性期T波(hyperacute T):発症直後はST上昇より先にT波が尖って高くなる
✓ どちらも“らしくない”STEMI 知っていれば拾える “らしくないSTEMI”を知っておく
ST上昇だけを探すと見逃す 後壁のST低下や超急性期T波も知っておく
#17.
第3部 ACSの初期対応 “MONA”は見直されている 今の初期対応を知る
#18.
MONAはもう古い? 昔の合言葉「MONA」 ✓ Morphine(モルヒネ)/ Oxygen(酸素)
Nitrate(硝酸薬)/ Aspirin(アスピリン)
✓ 今はルーチンでの“MONA全部”は非推奨
✓ モルヒネは硝酸薬でも痛みが取れないときだけ 今の考え方 エビデンスに沿って
必要なものを必要なだけ
酸素はルーチンにしないなど
見直されている “ACSだからMONAを全部”ではない
合言葉で機械的に投与しない 症状緩和+アスピリンを軸に
酸素や鎮痛は必要時のみ
#19.
症状緩和 硝酸薬(ニトロ)の使い方と禁忌 胸痛をやわらげる第一選択 ✓ 死亡率は下げないが胸痛を和らげる
✓ ニトログリセリン舌下
0.3〜0.6mg
(数分で改善なければ追加)
✓ 持続静注:0.1〜0.2μg/kg/minで開始
血圧で調整 使ってはいけない場面 ・収縮期血圧 <90mmHg
(普段より30以上の低下も)
・右室梗塞の疑い
・高度徐脈(<50bpm)
・PDE5阻害薬(バイアグラ等)
服用後24時間以内 使う前に 血圧・右室梗塞・PDE5阻害薬 をチェック
効かせたいのは症状緩和 血圧を見ながら少量から 漫然と続けない
下壁STEMI+徐脈+低血圧ではニトロを使わない
#20.
酸素は SpO2 90% 未満から ― 目標は 94〜96% ルーチン投与はしない SpO2 90% 以上へのルーチン投与は推奨されない
(JCS・ESC・ACC/AHA いずれもクラス III) ただし理由は「害がある」ではなく 「利益がない」。
万例規模の試験で死亡は変わらなかった SpO2 90% 未満で開始する(クラス I) 投与するなら 目標 94〜96%。100% を目指さない(IOTA 2018) アクション 90% 以上なら酸素は不要
病院前は 94% 未満 が基準
(救急隊プロトコル)
院内 90% と数字が違う点に注意
COPD など II 型呼吸不全のリスクがあれば 88〜92% JCS 急性冠症候群GL(2018年改訂版)/2023 ESC ACS/2025 ACC/AHA ACS/Stub 2015 Circ・Hofmann 2017 NEJM・Stewart 2021 BMJ・Chu 2018 Lancet
#21.
アスピリンと抗血小板薬(DAPT)― 2 剤目は「いつ」が肝心 アスピリンは早期に ACS を強く疑えば アスピリン 162〜324 mg を噛み砕く 経口投与できないなら 胃管・坐剤 で 維持量は 81〜162 mg/日 2 剤目は「いつ」 STEMI
カテ前にプラスグレル 20 mg
NSTE-ACS
冠動脈病変を確認してから投与する。
造影前のルーチン前投与は推奨されない
負荷 20 mg → 維持 3.75 mg 「早いほど良い」 アスピリン P2Y12 阻害薬の前投与は ACCOAST 試験で虚血イベントが減らず大出血がほぼ 2 倍(HR 1.90)
ATLANTIC試験 でも 31 分の先行投与に利益なし。プラスグレルは PCI 適用例のみが適応 JCS 2020 フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法/2023 ESC ACS/2025 ACC/AHA ACS/Montalescot 2013・2014 NEJM
#22.
考える この心電図をどう読む? 救急隊記録の12誘導(HR 45 意識清明) ? 考えてみようどこに異常がある? 何を疑う? 緊急度は?
#23.
答え 下壁STEMI+徐脈(RCAを疑う) 心電図所見 ✓ II・III・aVFのST上昇
(III≥II)=下壁梗塞
✓ I・aVLの
reciprocal ST低下
✓ 徐脈(洞徐脈〜房室ブロック)
✓ RCA領域の虚血 → RCA近位部の閉塞 合併に注意
下壁STEMIは右室梗塞・房室
ブロックを合併しやすく バイタルが
崩れやすい 四肢誘導 赤=ST上昇(II III aVF) 青=reciprocal ST低下(I aVL)
#24.
第4部 実践編:徐脈+下壁STEMI “あと10分で来院” チームでどう動く?
#25.
症例 ― 救急隊からの連絡 連絡の内容 ✓ 60代男性、冷汗を伴う胸痛
✓ 救急隊の12誘導で II・III・aVF のST上昇
✓ 徐脈(HR 45前後)、意識は清明
✓ 血圧はやや低め、あと約10分で来院 最初の判断 下壁STEMIを強く疑う
確定を待たず受け入れとカテ
の段取りを同時に連絡する
徐脈と低血圧は注意すべき
バイタルサイン この10分で何を準備する?
鑑別・連絡・急変対応を 来院前にチームで組み立てておく
#26.
押さえておきたい鑑別① 大動脈解離 なぜ重要か ✓ 上行〜基部の解離がRCAに波及し下壁STEMI様に
✓ 見逃して抗血栓薬・抗凝固を入れると危険
✓ チェック:血圧左右差・背部痛・縦隔拡大・AR雑音
✓ 迷走神経反射・高K血症なども鑑別に(徐脈) 確認する検査 心エコー
(フラップ・AR・心嚢液)
胸部X線(縦隔拡大)
血行動態が許せば造影CT 抗血栓薬の前に“一度は大動脈解離を考える”
即カテ・即抗血栓の前に、治療が真逆になる疾患を一度思い出す
血圧左右差と背部痛を確認し、疑えばエコー・造影CTで除外してから進む
#27.
押さえておきたい鑑別② 右室梗塞と徐脈の対応 下壁STEMIに合併しやすい ✓ 下壁STEMIの30〜50%に右室梗塞を合併
✓ II・III・aVFで III≧II ならより疑う
✓ 前負荷依存で低血圧・徐脈になりやすい 対応の原則 ニトロは禁忌
(血圧が落ちる)
輸液で前負荷を保つ
徐脈は信号機の「3段階」
で緊急度を判断し
アトロピン→経皮ペーシング 徐脈には“経皮ペーシング”を早めに準備
アトロピンで反応が乏しければ経皮ペーシングのパッドを先に貼る
血圧低下時はニトロを使わず輸液+ノルアドレナリン
#28.
10分で来院 ― 誰に どこまで連絡するか “確定を待たず”に動き出す連絡 ✓ 循環器/カテ室オンコール:STEMI疑いの段階で早期連絡
(door-to-balloon短縮)
✓ 上級医・救急Nsリーダー:受け入れ体制の指揮と役割分担
✓ 臨床工学技士(CE):ペーシング・ECMO(ECPR)の待機を依頼
✓ 放射線・CT:カテ室の準備 大動脈解離の除外に備え ポータブルX-p・造影CTの準備 ミニマムに“先に”共有する
「下壁STEMI疑い・徐脈・約10分後に来院」を簡潔に共有
確定を待たず関係者を動かす
#29.
アクションプラン ― 医師 × 看護師 医師の視点 ✓ 心エコーでRV・解離・心膜液を確認
✓ カテ室へ連絡、抗血栓薬は解離除外後
✓ 輸液で前負荷維持、ニトロは慎重
✓ 徐脈→アトロピン/経皮ペーシング
✓ 挿管・ECPRの段取りを宣言・共有 看護師の視点 ✓ モニター・SpO₂・血圧(左右)装着
✓ 静脈路2本・採血
(トロポニン/凝固/電解質)
✓ 除細動+ペーシングパッドを貼付
✓ 薬剤準備:アトロピン・昇圧薬・鎮静/鎮痛
✓ 挿管・ECMO物品と動線を確保
✓ 家族対応・同意・時系列の記録 役割を“口に出して”決める
誰がペーシング+除細動、誰が薬剤、誰が記録か 来院前に宣言しておくと急変時に迷わない
#30.
急変に備える ― 徐脈・気道・心停止(ECPR) 段階を踏んで先回り ✓ 徐脈・房室ブロック:アトロピン →
反応なければ経皮ペーシング(鎮痛・鎮静も)
✓ 意識悪化・気道リスク:早期に気道確保
✓ 胃管は経口で
(抗血栓薬で経鼻は鼻出血リスク)
✓ 治療抵抗性のショック・難治性VF/VT
では早期にECPR(ECMO)を考慮 挿管とECPRの注意 循環虚脱に注意
鎮静薬は少量から
最初からケタミン
昇圧薬(ノルアドレナリン)を
手元に準備
ECPRの可能性をCE・カテ室へ
事前に連絡しておく
#31.
Take Home Message 今日の要点 ✓ 胸痛は10分以内に心電図 J点でST上昇・低下を見る
✓ ST上昇の場所で責任血管を読む 下壁=RCAは徐脈・右室梗塞に注意
✓ 前胸部のST低下“単独”は後壁梗塞を疑う 超急性期T波にも注意
✓ 初期対応:ニトロ(禁忌注意)・アスピリン・必要時のみ酸素 早くカテ室へ
✓ チームは確定を待たず連絡・準備 役割を宣言し ペーシング/挿管/ECPRの宣言を 「STEMIらしくないSTEMI」を見逃さない
典型像だけに頼らず、疑ったら 比較・再検・応援
#32.
救急のオンラインコミュニティ「Qラボ」 Qラボとは ✓ 踊る救急医・三谷が運営する救急のコミュニティ
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#33.
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