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急性冠症候群の概要と分類
#1. 急性冠症候群 〜深夜2時、胸痛で搬送、今日の循環器の待機は怖い先生~ ~そんな時でも堂々と電話をかけられるようになるために〜 Dr.Genjoh@循環器内科 @DrGenjoh
#2. Take home message ① STが上がっていない、トロポニンT陰性、は免罪符にならない。 症状、リスクスコア、循環動態、発症時間を総合的に鑑みる。 ② 緊急カテーテルをするなら全てを迅速に。 Door to balloon timeは90分。 ③ 心筋梗塞を繰り返さないことが大事。 二次予防の徹底を。
#3. 序 論 冠動脈疾患の分類 不安定狭心症(UAP) 今回はココ! 急性冠症候群 (ACS) 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI) ST上昇型心筋梗塞(STEMI) MINOCA 80 冠動脈疾患 (CAD) IOCA 慢性冠動脈疾患 (CCS) 労作性狭心症 冠攣縮性狭心症(VSA) INOCA 冠微小循環障害 (CMD) 冠微小血管 狭心症 微小血管攣縮 (MVS) 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版) 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療
急性冠症候群の診断基準と病態
#4. 序 論 ACSの疾患概念(MINOCAを除く) 発症形式 ① ② 血栓 高度狭窄 暫定診断 急性冠症候群(ACS) 持続的ST上昇(+) 初期診断 ST上昇型心筋梗塞 (STEMI) 持続的ST上昇(-) 非ST上昇型 急性冠症候群 (NSTE-ACS) トロポニン(+) [またはCK(+)] 最終診断 ST上昇型心筋梗塞 (STEMI) 動脈硬化性プラーク 完全閉塞 破綻 非ST上昇型心筋梗塞 (NSTEMI) トロポニン(-) [またはCK(-)] 不安定狭心症 (UAP) 退院までに心筋逸脱酵素の上昇を認めればNSTEMI。認めなければUAP。 これらは後付け病名であり、判明するまではNSTE-ACSとして扱う。 ①冠動脈に動脈硬化性プラークが発生 →プラークが徐々に大きくなり血管が高度狭窄 →血流がいよいよ足りなくなり心筋虚血に至る →血流は少しあるので心筋壊死しにくい (UAPに多い) ②動脈硬化性プラークを覆う膜が破綻 →プラークを被覆するために急激に血栓が発生 →血栓が冠動脈を完全閉塞して心筋虚血に至る →血流が全くないので心筋壊死しやすい (STEMI / NSTEMIに多い) 自然再灌流:自身の線溶系の働きにより、詰まった血栓が少し溶けて血流再開 している場合があり、この場合は心筋壊死量が減る事がある。不幸中の幸い。
#5. 序 論 MINOCAの疾患概念 心筋梗塞の診断 ・トロポニン(+) ・心筋虚血を疑う 症状・心電図・画像 心筋障害を生じる 他疾患の除外 ・心筋炎 ・タコつぼ症候群 ・敗血症 ・肺血栓塞栓 ・腎不全 など MINOCAの定義 閉塞性冠動脈疾患を有さない心筋梗塞 (50%以上の狭窄病変が無い) 症状も心電図もトロポニンも心筋梗塞っぽい! 冠動脈造影(CAG)だ!あれ?血管詰まってないな。 でも心筋逸脱酵素上がってるし心筋梗塞ぽいな? 心臓 MRI に、正式に病名がついたものがMINOCA。 MINOCAの診断 ・冠動脈狭窄 <50% 冠動脈造影で 狭窄病変が無い ・閉塞性冠動脈疾患を 有する心筋梗塞 (MI-CAD) (=MINOCAの逆) 心筋炎、タコつぼ症候群、敗血症、肺血栓塞栓、腎不全などでも トロポニンが上昇するためまずはこれらを除外する。(これは非MINOCA) 冠攣縮性狭心症でも発作が強い場合には心筋梗塞まで進展することがあり Ach、Ergonobin負荷試験などを行って診断する。(VSAによるMINOCA) 冠攣縮の診断 ・冠攣縮性狭心症の証明 (自然発作、誘発試験) MINOCAを生じる 他疾患の除外 (要・血管内超音波等) ・プラークの破綻、びらん ・冠微小循環障害(CMD) ・特発性冠動脈解離(SCAD) ・冠動脈塞栓症 ・非冠動脈疾患 (頻脈・貧血など) 最後に残るのが、破綻したプラークが目に見えない末梢血管を詰めたり、 末梢血管機能が落ちて血流が悪くなったり、冠動脈に動脈解離が自然発生 したり、他からの血栓で塞栓症を起こしたり、頻脈・貧血などで心筋負荷が 上がって心筋虚血が生じたり、といったその他諸々。(MINOCA) 2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療
冠動脈の解剖と疫学データ
#6. 序 論 冠動脈の解剖 大動脈 (Aorta) 右冠動脈 (RCA) seg.1~4 左冠動脈 (LCA) seg.5~15 左冠動脈主管部 (LMT=LMCA) seg.5 左前下行枝 (LAD) seg.6~10 左回旋枝 (LCX) seg.11~15 一般的な臨床的重要度: LMT >> LAD > RCA > LCX (LMT = LAD + LCX) 個人差:anomalyによっては重要度の順位が変動することはある。 とはいえ、殆どの場合においてLMTが一番重要である。
#7. 序 論 疫学 ・厚生労働省発表 2022年の人口動態統計: 急性心筋梗塞を除くその他の狭心症が原因となった死亡は32,026人である。 急性心筋梗塞による死亡は心疾患死亡のうち13.7%を占める。 ・急性心筋梗塞の急性期予後は改善されてきている: 東京都内、約3万例のAMIを集めたstudyでは ・院内全死亡率(2007年 7.5% → 2016年 6.1%) ・年齢調整院内死亡率(2007年 4.13 → 2016年 4.07%) と良好かつ、改善傾向にあった。 厚生労働省 令和4年(2022)人口動態統計 Miyachi H, et al. JACC: Asia. 2022 Nov, 2 (6) 677–688
#8. 序 論 危険因子(久山町スコア) ①性別 女性: 0p 男性: 7p ④血清LDL-C : <120 120~139 : 140~159 : : 160~ ②収縮期血圧 : ~120 120~129 : 130~139 : 140~159 : : 160~ ③糖代謝異常 なし: 0p あり: 1p 0p 1p 2p 3p 4p 0p 1p 2p 3p ⑤血清HDL-C ~60 : 0p 40~59 : 1p <40 : 2p ⑥喫煙 なし: 0p あり: 2p ①~⑥の合計ポイントを計算 健康な男性 = sBP160~ + LDL160~の女性 男性であるだけでかなりのハイリスク。 合計ポイント 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 0 <1.0% <1.0% 1.7% 3.4% 1 <1.0% <1.0% 1.9% 3.9% 2 <1.0% <1.0% 2.2% 4.5% 3 <1.0% 1.1% 2.6% 5.2% 4 <1.0% 1.3% 3.0% 6.0% 5 <1.0% 1.4% 3.4% 6.9% 6 <1.0% 1.7% 3.9% 7.9% 7 <1.0% 1.9% 4.5% 9.1% 8 1.1% 2.2% 5.2% 10.4% 9 1.3% 2.6% 6.0% 11.9% 10 1.4% 3.0% 6.9% 13.6% 11 1.7% 3.4% 7.9% 15.5% 12 1.9% 3.9% 9.1% 17.7% 13 2.2% 4.5% 10.4% 20.2% 14 2.6% 5.2% 11.9% 22.9% 15 3.0% 6.0% 13.6% 25.9% 16 3.4% 6.9% 15.5% 29.3% 17 3.9% 7.9% 17.7% 33.0% 18 4.5% 9.1% 20.2% 37.0% 19 5.2% 10.4% 22.9% 41.1% 久山町スコアによる動脈硬化性疾患発症予測モデル 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
急性冠症候群の初期対応フローチャート
#9. 診 断 ACSの初期対応フローチャート(日本 2018年) 10分以内に 完了すること。 ・簡単な問診 ・身体所見(主にvital sign) ・12誘導心電図 ・心電図モニタリング NSTE-ACS疑い STEMI ・循環器内科call ・血液検査 ・胸部X線 ・簡単な心エコー このcallをいつするかが判断の難しいところ。 症状とvitalが安定し、胸部症状がさほどでも なければリスク評価後にcall、でもよい。 ただし 症状が遷延する場合 循環器内科call ・詳細な問診 ・血液検査 ・胸部X線 ・簡単な心エコー リスク評価 TIMI、GRACE ACS 緊急 CAG(冠動脈造影) 採血結果を待つことで緊急CAGが遅れては ならない(リスク評価も、採血項目以外で 一旦評価し、重ければcallを早める) 経験が浅く自信が持てないなら、NSTEACSを疑った時点でcallすること。 虚血性心疾患らしければ 循環器内科call検討 高リスク 中等度リスク 低リスク 緊急~早期CAG 待機的CAG 外来管理可能 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#10. 診 断 ACSの初期対応フローチャート(ECS 2023年) 医療従事者 初接触 接触場所 ACSを疑う症状 + 心電図変化 PCI(カテーテル治療)不可能な医療機関 または 救急車 PCI可能な医療機関 緊急搬送 超高リスク 超高リスク ・血行動態破綻 or 心源性ショック ・治療抵抗性、反復性/持続性の胸痛 ・心筋梗塞に伴う二次性の心不全が疑われる ・致死性不整脈 または 心停止 ・機械的合併症(心破裂、心室中隔穿孔など) ・虚血性心疾患を疑う活動性の心電図変化が反復する リスク評価 治療方針 早期/病院間搬送 高リスク 高リスク ・NSTEMIが疑われる ・GRACE ACS risk score>140 ・一過性のST変化を伴う ・活動性のST変化 または T波変化 必要時病院間搬送 中リスク以下 中リスク以下 中リスク以下かつ 不安定狭心症らしくない場合 CAGを検討 待機的CAG 早期(<24hr) or 待機的CAG 緊急CAG European Heart Journal, Volume 44, Issue 38, 7 October 2023
ACSの症状と心電図所見
#11. 症 状 ACSの症状 男性 女性 症状 感度(%) 特異度(%) 感度(%) 特異度(%) 胸部圧迫感 66 36 63 41 肩の痛み 45 67 29 72 発汗 37 70 33 70 動悸 27 66 17 77 胸部不快感 66 33 69 34 上背部痛 34 64 14 78 息切れ 58 39 41 40 腕の痛み 49 69 32 72 高度の疲労感 40 54 32 52 嘔気 38 58 30 70 ふらつき 40 55 34 58 胸痛 67 37 72 36 消化不良 30 78 18 76 ・感度も特異度も高い「都合の良い」症状は存在しない。 ・胸部圧迫感、胸部不快感、胸痛 などが無ければ ACSの確率は下がるが、それでも3割以上は見逃す。 ・肩の痛み、発汗、動悸、上背部痛、腕の痛み、嘔気、 消化不良 などがあればACSの確率は上がるが それでも3-4割はACSによる症状ではない。 ・女性は男性よりも非典型的な症状の訴えが強く、 ACSの診断が遅れがちとなる。 症状のみでACSを診断することは困難だが、 常にACSを鑑別疾患として意識することが重要。 (特に女性) Holli A. et al. Journal of the American Heart Association. 2020;9:e015539
#12. 検 査 心電図 明らかなST上昇を伴うSTEMIは鑑別がしやすい。 虚血が起こっている誘導と逆側の誘導で ST低下(鏡面像:mirror image)を呈する。 陽性だと虚血域が大きく、重症度up。 大体の重症度順に Reciprocal change LMT領域 : 広域前壁中隔側壁梗塞 : aVR でST上昇 その他広域誘導 でST低下 LAD領域 : 前壁中隔梗塞(+側壁梗塞) : V1-4 でST上昇 II III aVF でST低下(出現率37%) II III aVFでST上昇を見たら V3とV4を右胸に張り替えて V3RとV4Rを取る RCA領域 : 下壁梗塞(+後壁梗塞) : II III aVF でST上昇 V1-4 でST低下(出現率72%) V4Rで1.0mm以上のST上昇が あれば右室梗塞を合併している。 LCX領域 : 側壁梗塞(+後壁梗塞) : I aVL V5-6 でST上昇 ST上昇とは? 隣接する2つ以上の誘導で V2-3誘導:40歳以上の男性の場合は2.0 mm以上のST上昇 40歳未満の男性の場合は2.5 mm以上のST上昇 女性の場合は年齢を問わず1.5 mm以上のST上昇 V2-3誘導以外では1.0 mm以上のST上昇 STレベルはJ点で計測,10 mm=1.0 mVと し て 記 録 ) 心電図の形で心筋梗塞を起こし てからの経過時間がわかる。 壊死心筋の残骸=異常Q波= デッドラインを超える前に虚血 解除したい。 T波増高 ST上昇 異常Q波 ST回復 T波陰転化 デッドライン 経過時間 ・血管支配の理屈に合わない広域のST上昇→心膜炎や心筋炎 ・V1を伴わないV2-4のST上昇→タコつぼ型心筋症の急性期 など他鑑別を忘れずに。
#13. 検 査 心電図 明らかなST上昇を伴わないNSTE-ACSの場合が難しい。 ST上昇を伴わないが、NSTEMIを疑う場合 ①「胸痛」があり、「新規に出現」した左脚ブロックがある場合 →領域は推定困難だが、心筋虚血を示唆する ②「胸痛」があり、「V1-4」のみにST低下を認める場合 →後壁梗塞の可能性を示唆する ST低下とは? J点が基線よりも1.0mm以上低下する。 J点から0.08秒後(2目盛り)までの傾きが 上行型 →虚血らしくない 水平型・下行型 →虚血らしい 大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、高血圧性心筋症、 既存の脚ブロック、時間経過後のタコつぼ型心筋症 などの既存の変化がないか前回心電図と比較する。 その他、 「胸痛」があり、「新規に出現した」 ST低下や陰性T波を伴う場合 は入院させて経過を追うべき。 心電図が動いていなくとも、「胸痛」が続いており 怪しいと感じた場合には入院させた方が無難。 心電図変化が無い=ACSでは無い は全くの誤り。 心電図変化が無く、トロポニンTも上昇せず、 心エコーでも壁運動の低下も無い、 しかし基礎疾患と症状の性状、重さ、持続時間などから ACSを疑い緊急CAGしたところ高度狭窄や 完全閉塞を認めた経験は何度もあります…。 対角枝、回旋枝(特に高位側壁枝や末梢)、右冠動脈末梢 など、影響が小さいものであることが多いものの、 NTSE-ACSには変わりありません。見逃し厳禁。
心電図検査と逸脱酵素の評価
#14. 検 査 胸部X線、逸脱酵素、心エコー、造影CT 胸部X線: ・うっ血性心不全の合併の有無を評価する。(LMTやLAD近位部のACSで合併しやすい) ・大動脈解離の有無を評価する。(稀に、大動脈解離が冠動脈まで及んでACSになる。RCAに多い。) ・胸痛や酸素化増悪の鑑別として、肺疾患や肺血栓塞栓症を考えて。 逸脱酵素: 高感度トロポニンT(1hr)→H-FABP(1-2hr)→トロポニンT(3-6hr)→CK/CK-MB(4-8hr)の順で 上昇する。早期診断及びNSTE-ACSの早期フォローの際には、トロポニンT(可能なら高感度)を用いる。 トロポニンTは心筋症、心筋炎、腎不全、心不全、肺血栓塞栓症等でも上昇する。視野狭窄に陥らないこと。 ACS後は6時間程度毎にCK上昇をフォローする。CKが最大でどこまで上がったかによって、心筋壊死 の程度がわかる。(~1000 軽症、~3000 中等症、~5000 重症、5000~ 最重症くらいの感覚) 心エコー: ACSであれば、左心室で局所の壁運動低下を伴うことが多い。万一心室中隔穿孔があれば緊急性は重大。 鑑別疾患としての心筋炎・心膜炎であれば心嚢水貯留を、タコつぼ型心筋症であれば心尖部だけの特徴的 な壁運動低下を認めることが多い。 造影CT: 大動脈解離や肺血栓塞栓症の鑑別目的に施行した造影CTで、ACSが判明することは稀にある。 腎梗塞や脾梗塞で見られるような、くさび状の造影不良域を左室心筋の一部に認める。 退院前に、201Tlや99mTcを用いた安静心臓核医学検査を行って 心筋viability(生存心筋評価)を行う。
#15. 評 価 TIMIリスクスコア: NSTE-ACSに使用 年齢≧65歳 (-) : 0 (+) : +1 危険因子≧3 (家族歴、高血圧、高コレ ステロール血症、糖尿病、 現喫煙) (-) : 0 (+) : +1 既知の冠動脈疾患 (狭窄≧50%) (-) : 0 (+) : +1 リスクスコアは 7日以内のアスピリン内 服 (-) : 0 (+) : +1 ACSであった場合の予後予測評価 であって 24時間に2回以上の狭 心症発作 (-) : 0 (+) : +1 0.5mm以上のST変化 (-) : 0 (+) : +1 心筋バイオマーカー上昇 (-) : 0 (+) : +1 ACSか否か を評価しているわけではない点に注意。 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
急性冠症候群の治療戦略と薬物療法
#16. 評 価 GRACE ACSリスクスコア: STEMI、NSTE-ACSに使用 スコア 年齢(歳) 心拍数(bpm) 収縮期血圧(mmHg) <40 0 40~49 スコア 血清Cre <0.4 2 18 0.4~0.79 5 50~59 36 0.8~1.19 8 60~69 55 1.2~1.59 11 70~79 73 1.6~1.99 14 ≧80 91 2.0~3.99 23 <70 0 ≧4.0 31 70~89 7 Class I 0 90~109 13 Class II 21 110~149 23 Class III 43 150~199 36 Class IV 64 ≧200 46 心停止 + 43 <80 63 心筋バイオマーカー上昇 + 15 80~99 58 ST変化 + 30 100~119 47 120~139 37 140~159 26 160~199 11 ≧200 0 Killip分類 死亡率(中央値 3.9 年) 100 点未満 101 ~ 120 点 121 ~ 140 点 141 点以上 2.0% 6.3% 11.8% 16.8% 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#17. 治 療 STEMIの初期治療(MONA) Morphine:塩酸モルヒネ Oxygen:酸素 ・硝酸薬使用後も胸痛が持続する場合、2~4mg静注。 ・呼吸抑制、血圧低下、嘔吐などの副作用に注意 ・下壁梗塞(II III aVF ST上昇)では特に注意。 ・心不全、またはSpO2<90%の時酸素投与。 ・SpO2>90の時、ルーチンで酸素投与する必要なし。 ACSでモルヒネ使用すると院内死亡HR 1.45に上昇する報告あり1)。 重症例=モルヒネ使用しないといけないバイアスの可能性はあるが、 モルヒネがP2Y12阻害剤(クロピドグレル、プラスグレル)の 抗血小板作用を阻害することが懸念点…。 Nitric acid medicine:硝酸薬 Aspirin:アスピリン ・胸痛発作に対してニトログリセリン5mg舌下、もしくは ニトログリセリンスプレー(1pushで十分)。 ・sBP<90mmHg, sBPが普段より>-30mmHg低下、 HR<50bpm, HR>100bpmの場合は禁忌。 ・まずはアスピリン(81mg/100mgを2錠)嚙み砕いて内服させる。 ・アスピリンアレルギーやアスピリン喘息の場合、 プラスグレル20mg > クロピドグレル300mg で代替可能。 血圧が低めな症例にルーチンで適当に硝酸薬を投与してはならない! 低血圧のためにかえって冠血流が悪くなったり、血圧維持の為に過剰補液、 昇圧薬、IABP、補助循環を要するようになる。 患者さんも辛いし、後を引き継ぐ循環器内科も大変。 1)Duarte GS, et al. Morphine in acute coronary syndrome: systematic review and meta-analysis BMJ Open 2019;9:e025232. 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#18. 治 療 Primary PCI(STEMI) ・発症12時間以内(24時間以内も可)のSTEMIに対して、 迅速にPCI(経皮的冠動脈形成術、いわゆるカテーテル治療)を行う。 →発症後時間が経過し過ぎていると、心筋壊死が完成して(R波が残存せず、異常Q波だけが残っている) しまっていて、急いで治療する意義が無い。 ・2018年の日本循環器学会ガイドラインではDES(薬剤溶出性ステント)で治療するよう定められている。 が、近年DCB(薬剤コーテットバルーン)でACSを治療しても成績が劣らない報告1)もあり、変化しつつある。 ・CREDO-Kyoto AMI レジストリーで、発症2時間以内の早期来院例では door to balloon time(病院に到着してから、血流が再開するまでに要する時間) 90分 以内を 達成した場合の長期臨床成績は有意に良好であった。(患者さんの予後改善のために、早めに循環器内科を呼びましょう!) ・上記を受けて、診療報酬 K549 経皮的冠動脈ステント留置術における 急性心筋梗塞 34,380点の 算定要件にdoor to balloon time 90分以内(症状詳記で記入必須)が加わっている。 91分を超えると、不安定狭心症 24,380点の算定になってしまう…。 心筋梗塞の治療をしているのに不安定狭心症とみなされ、手術料が10万円も安く見積もられてしまう! (循環器内科の実績を悪くしないために、早めに循環器内科を呼びましょう!) 1) Circ Cardiovasc Interv . 2022 Feb;15(2):e011325. 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
PCIと血栓溶解療法の適応
#19. 治 療 Primary PCI(STEMI) ・発症12時間以内で2時間以内にPCI出来ないSTEMI 発症24時間以内でPCIが施行出来ず、虚血域が大きいか血行動態が不安定なSTEMI に対しては血栓溶解療法が推奨される。 しかし、血栓溶解療法は相応に出血リスクも高く、かつ現在の日本では多くの場合 2時間以内の緊急PCIが出来る環境が整っており、迅速な搬送がより肝要である。 (PCIが出来ない規模の病院で大出血を起こした場合、対処出来るのか?という現実的な問題もある) ・PCIが不成功、困難、合併症発生時には緊急CABG(バイパス手術)の適応となることもあるが、 日本ではACSに対してはほとんどPCIで血行再建がなされる。(LMT病変であっても。) ・STEMIの責任血管の他にも有意虚血を示す病変がある場合(特に虚血症状が遷延している場合)、 基本的に同一入院中にすべての治療すべき病変に対してPCIを行う。 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#20. 治 療 リスク Primary PCI(NSTE-ACS) 治療戦略 即時侵襲的治療戦略 (2時間以内) 薬物治療抵抗性の持続または再発 心不全合併 血行動態不安定 致死性不整脈または心停止 機械的合併症(急性僧帽弁逆流など) 一過性のST上昇、反復性の動的ST-T変化 早期侵襲的治療戦略 (24時間以内) 心筋梗塞に合致する心筋トロポニン値の上昇及び下降 新たな心電図変化(動的ST-T変化) GRACEリスクスコア>140 後期侵襲的治療戦略 (72時間以内) 糖尿病 腎機能障害(eGFR<60) 低左心機能(<40%) 早期の梗塞後狭心症 冠血行再建の既往(PCI / CABG) GRACEリスクスコア 109~104 初期保存的治療戦略 上記の危険因子を有さず、保存的治療が妥当と考えられる場合 GRACEリスクスコア<109 高 中 低 より具体的なフローチャートが気になる場合は、2021 ACC/AHA ACS guidelineの Figure 7~10を参照。 Circulation. 2021;144:e368–e454 NSTE-ACSでも、症状、状態、心不全変化 など状態が不安定であればSTEMIと 同等の迅速性を求められる。 NSTE-ACSで緊急CAGを施行しない 場合、1時間後または2時間後にトロポニン 再検する。 1時間後再検査の場合、他の疾患で説明が つかないなら3時間後にもトロポニン再検。 陽性となればNSEMIと考えて緊急CAG。 保存的治療とした場合、侵襲度の高い CAG 1stではなく、侵襲度の低い他の虚血 検査から開始することもできる。 European Heart Journal, Volume 44, Issue 38, 7 October 2023 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
二次予防と生活習慣病管理
#21. 治 療 薬物治療 抗血栓療法: RAAS阻害薬: ・PCI時には ヘパリン点滴静注(Act ≧250sec):術中のみ ・アスピリンに加えて +プラスグレル20mg +クロピドグレル300mg のいずれか の負荷投与を行う。(DAPT) ・翌日からはアスピリン100mg +プラスグレル3.75mg のいずれか +クロピドグレル75mg β遮断薬: ・心不全兆候を有する ・EF<40% ・心不全兆候を有する ・EF<40% のいずれかでACE阻害薬を投与。 ・心不全兆候を有する ・EF<40% を満たす場合、ミネラルコルチコイド ・糖尿病 受容体拮抗薬を投与。 ・β遮断薬・ACE阻害薬 ※ACE阻害薬不耐(空咳多し)の場合、ARBで代替可能。 硝酸薬、Ca拮抗薬: のいずれかでβ遮断薬を投与。 狭窄度の強い冠攣縮性狭心症では心筋梗塞まで至ることがある。 冠攣縮性狭心症由来の心筋梗塞が疑われた場合には、 (EF>40%のACS例に対するβ遮断薬の効果に関して RCTが進行中。) ・硝酸薬 を用いる。 ・長時間作用型Ca拮抗薬 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#22. 治 療 内科治療(抗血小板薬) 日本版HBR(出血リスク) あり 血栓リスク OAC内服 あり 入院中 (~2週間) なし 低い 高い OAC+DAPT DAPT 3カ月 PCI後はしばらく抗血小板薬2剤(DAPT)が基本。 ただし出血リスクも上がるので、可能な限り早く 抗血小板薬1剤(SAPT)へ減量したい。 なし DAPT DAPT OAC + クロピドグレル or プラスグレル SAPT ACSの時点で 血栓リスクは高い SAPT SAPT 12カ月 OAC SAPT= クロピドグレル アスピリン or or プラスグレル SAPT DAPT= クロピドグレル or アスピリン + プラスグレル OAC= ワルファリン or DOAC 出血リスクと血栓リスクを天秤にかけて、 DAPT期間を決める。 心房細動、左室内血栓、深部静脈血栓症、肺塞栓、CTEPH 器械弁留置などが絡むと経口抗凝固薬(OAC)の 併用が必要となるためさらに複雑化する。 (基本はOACをDAPT/SAPTよりも優先) 出血性合併症の多さは下記のイメージ。 OAC>>>アスピリン>プラスグレル≧クロピドグレル 左記は日本循環器学会(2020年ガイドライン)出典だが アメリカ(2023AHA guideline)も ヨーロッパ(2019ECS guideline)も それぞれ違うことを言っており、統一された見解は無い。 DOAC= ダビガトラン or リバーロキサバン or アピキサバン or エドキサバン 2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
#23. •. 2022 Aug 10;51(4):1276-1290. 治 療 二次予防(生活習慣病) 糖尿病 ACS患者の生活習慣病管理の目標達成値 心不全(HFrEF)との関係から ACE阻害薬/ARB/ARNI、MRA、β遮断薬が好み 脂質 統一見解なし。ひとまず、 HbA1c<7.0%(個人背景による) 血圧 ESC 糖尿病合併心血管疾患ガイドライン2023。 <130/80mmHg LDL-C ≦55mg/dL ・ストロングスタチン ↓↓ ・エゼチミブ ↓ ・PCSK9阻害薬 ↓↓↓↓ (+・インクリシラン) ↓↓↓↓ [著者の降圧力の強さイメージ △~◎] ・ACE阻害薬/ARB/(ARNI):〇~◎ ・MRA:△~〇(種類による) ・Ca拮抗薬:△~◎(種類による) ・利尿薬(サイアザイド):△~〇 +β遮断薬:△、α遮断薬:△~〇 ただしHbA1c<6.5%の強化治療では死亡率の増加も 認められ、低血糖を起こさないように個人背景を鑑みた 目標値設定が必要。下記も参考に。 2019GL抜粋 2023マニュアル 2016高齢者 なお、ESC2023GL:血糖降下薬の心血管系への 影響は以下の通り。 心不全絶対リスク+0.4%/年の副作用。 心不全例では禁忌!! 有効性〇: SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の大部分、ピオグリタゾン 禁煙 絶対に完全禁煙 1日1本から死亡率や心疾患、各種癌リスク↑ 早期禁煙が全死亡リスクを減らす。 Int J Epidemiol . 2022 Aug 10;51(4):1276-1290. 生活習慣 有効性- 安全性〇: DPP4阻害薬、リキシセナチドとエキセナチド、インスリン、グリメピリド 節酒、肥満解消、食事療法、 運動(週3以上、30分以上) 心血管系への試験未評価: メトホルミン、SU薬 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 1回目(1本目の枝)の心筋梗塞は救命できることが多いが、 2回目(2本目の枝)は救命できないことも。繰り返さない事が大事。 European Heart Journal, Volume 44, Issue 38, 7 October 2023
続発症の管理と心臓リハビリテーション
#24. 治 療 続発症(不整脈) 上室性不整脈(心房細動・心房粗動・心房頻拍): 心室頻拍(VT) / 心室細動(Vf): ・虚血解除前、虚血解除後直後の一過性のものも多く、 虚血が解除されて時間経過すると安定することがある。 ・早期のβ遮断薬投与で予防が期待できる。 ・持続性VTやVfに対して電気的除細動を行う。 (自然停止するnon-sustained VTに対して行う必要はない。) ・難治性の持続性VTやVfの場合、KやMgの正常化、静注アミオダロン やニフェカラント投与を考慮する。どうしても抵抗性の場合には、 カテーテルアブレーションを検討する。 ・ACS発症48時間以降に発症した持続性VTやVfについては ICD(植え込み型除細動器)を検討する。 非持続性VTの場合は発症40日を待って植え込みの適応を検討する。 (それまでのあいだは着用型除細動器 WearableDCを考慮) ・心房細動や心房粗動の場合にはヘパリン点滴静注。 ・頻脈性である場合にはβ遮断薬。(ランジオロール点滴静注) ・抵抗性である場合にはアミオダロン点滴静注を検討。 ・I群抗不整脈薬の大多数・ベラパミルは陰性変力作用が強く、 特にEFの低下している症例では極力使用すべきではない。 (特にIc群は禁忌) ・血行動態が破綻していて猶予が無い・薬剤抵抗性の場合は 電気的除細動を検討。 徐脈性不整脈: 基本的に一過性であるため、急場をしのげば自然に治る。 (RCA領域のACSで多い) 急場をしのぐ目的で ・ごく一過性であれば→硫酸アトロピン静注。 ・薬物抵抗性、症候性、持続性であれば体外式ペースメーカー留置。 (時間経過で治るため、恒久的ペースメーカーは原則適応外。) 1) Circ Cardiovasc Interv . 2022 Feb;15(2):e011325. 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#25. 治 療 続発症(心不全、機械的合併症) 心不全 機械的合併症 ・肺うっ血+ →EF<40%であればACE阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体 拮抗薬を投与 →利尿薬(loop利尿薬、カルペリチド、トルバプタン)を投与 →血圧が高く、後負荷が高い場合は硝酸薬を投与 →SpO2<90%であれば酸素投与(改善に乏しければNPPVも考慮) ・左室自由壁破裂 →左心室の外壁が破裂する。文字通り「心臓が破裂」している。 急激に破裂するblow out型で66.6%、 じわじわ出血するoozing型で20.2%と高い致死率を誇る。 心タンポナーデの解除+IABP+PCPS→緊急手術。 ・心源性ショック →血圧低下例:ドパミン5~15γ 血圧維持例:ドブタミン2~15γ +ノルアドレナリン0.03~0.3γ +ミルリノン、オルプリノンの併用 →それでも維持出来なければ補助循環: IABP±PCPS(VA-ECMO)。 Impella+PCPS(いわゆるECPELLA)が話題だが、 IABP+PCPSに対する有用性は明確に示されていない。 ESC2023ではいずれもclassIIb。 ・心室中隔穿孔 →心室中隔が破裂し、急激な左室→右室シャントが起こる。 規模によって、軽症~重篤な心不全+心源性ショックまで様々。 補助循環等を用いて待機的に手術出来ると予後が良い。 致死率23.2%。 ・乳頭筋断裂 →RCA由来の後乳頭筋断裂が90%を占める。 僧帽弁の腱索が支えを失い、急激に僧帽弁閉鎖不全症が発生。 心源性ショック+著明な左心不全となる。 僧帽弁置換術を行う。致死率9%。 European Heart Journal, Volume 44, Issue 38, 7 October 2023 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#26. 治 療 心臓リハビリテーション ・早期離床を促すための 超急性期リハビリテーション ・安静に伴う起立性低血圧、血栓形成予防のための 急性期リハビリテーション ・予後、身体活動度、追加治療の必要性の評価のための 急性期負荷運動試験 ・二次予防を継続するための 外来リハビリテーション を順次行う。 日本循環器学会 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
#27. Take home message ① STが上がっていない、トロポニンT陰性、は免罪符にならない。 症状、リスクスコア、循環動態、発症時間を総合的に鑑みる。 ② 緊急カテーテルをするなら全てを迅速に。 Door to balloon timeは90分。 ③ 心筋梗塞を繰り返さないことが大事。 二次予防の徹底を。